日本は世界でもトップクラスのシニア大国だ。総務省が発表している統計によると、現在の日本の高齢者の割合は30%目前で、2060年には40%に迫るという予測が立てられている。こうした社会状況のなかで高齢者がよりよい人生を送っていくためのビジネスは重要性を高めている。
その一例が「補聴器販売」だ。あまり知られていないことだが、補聴器販売は「商品を売る」だけの仕事ではない。購入前の綿密なヒヤリングや測定は欠かせないし、長く快適に使ってもらうためには定期的なメンテナンスも必要になってくる。今回は首都圏で小型補聴器専門店「ヒヤリングストア」を運営するリードビジョンの若手社員・店長・代表取締役にインタビューを実施。補聴器販売に関わる仕事に求められる能力ややりがいについて、リアルな声を聞いた。
鳩山さんの現在の主な業務は、店舗での顧客対応だ。補聴器販売が「商品を売る」だけの仕事ではないということはすでに説明したが、顧客の要望は多岐に渡る。「『どんな種類の補聴器があるのか知りたい、試したい』『補聴器を調整してほしい』といった具体的な要望はもちろん、漠然とした聞こえの悩みをヒヤリングの中で具体化させていくといったケースも多い」とのこと。流れ作業ではなく、一人ひとりにしっかり向き合うことが求められる。
リードビジョンならではの特徴として、若手社員であっても接客以外の業務としてさまざまなプロジェクトを担当できるという点がある。鳩山さんは新卒採用のチームにも入っており、説明会の内容や採用の企画を考えるなど幅広く経験を積んでいるそうだ。教育体制も整っており、「日々の業務の悩みから今後のキャリアアップまで先輩社員と密にコミュニケーションをとることで、成長の糧にできる」と話す。
これまでの業務で苦労したことについても聞いてみた。鳩山さんは新卒時を振り返り、顧客との信頼構築をあげた。「自分より数十歳上の方がお客さま、ということがほとんど。どんな会話をすればよいのか、どうすれば信頼していただけるのか、悩むことがあった」という。解決のために鳩山さんが気をつけたのは“立ち居振る舞い”だ。できるだけ上品に誠意の伝わる姿勢や言葉遣いを身につけることに常に意識を向けた。そのかいもあって、現在では顧客に堂々と接して信頼を得られるようになってきているそうだ。
中玉利さんにとって補聴器販売はどのようなやりがいのある仕事なのか。「聞こえにくいということは非常に深刻な悩みで、家族との関係が悪化してしまったという方もいる。それが補聴器によって明るい方向に変わっていく。お客さまの人生を支えているという実感を得られることが大きなやりがいになっている」(中玉利さん)。
専門性の高い知識は欠かせないが、もっとも重要なのは「コミュニケーション能力」だ。「いかにヒヤリングをして、自分なりの仮説を立てて、どういった方法でアプローチしていけばよいのかを探っていく。それを一人ではなく、店舗全体で考えていく」と中玉利さん。顧客だけでなく、チームのパフォーマンスを高めていくための能力も求められてくる。
中玉利さんが持っている言語聴覚士の資格を生かす機会も存分にある。「言語聴覚士としての見識があれば、『どんな症状なのか』『どんなアプローチをするべきか』、お客さまのお話を聞いたときに立てられる推測のバリエーションが多くなる。ご高齢の方は聞こえだけでなく、認知機能や発話に問題を抱えていることもあり、そうしたとき気がつきやすい」とのこと。リードビジョンは補聴器販売店の中でも言語聴覚士の人数が多く、先輩からのアドバイスも得やすいそうだ。
新卒社員に対する教育体制も整っている。中玉利さんは「新卒社員には教育担当がついているので、技術的な知識だけでなく、接客についてもしっかりと学ぶことができた」と当時を振り返る。また、福利厚生は制度として手厚いだけでなく、社内に浸透しており、理解が得やすい。「子どもが急に熱を出したときなどにも休みやすい。会社全体で応援してくれる社風がある」(中玉利さん)。電子カルテや業務記録の管理はデジタル化されており、働き方にも幅がでてきているそうだ。
最先端の機器やシステムをいち早く導入しているのも、ヒヤリングストアの特徴だ。目新しいところでは、補聴器の耳型を採取する3Dスキャナー「オトスキャン」。耳穴に挿入するタイプの補聴器はユーザーの耳にぴったりとフィットさせる必要があるため、外耳道までの耳型をとる。一般的にはシリコン樹脂を耳に注入して作成していくのだが、時間がかかることに加えて、スキルが要求されるために仕上がりにバラつきがあった。これがオトスキャンを使うと、短時間で精度の高い耳型を作成できる。顧客の満足度を高めるだけでなく、業務の効率化にも一役買っているそうだ。
モノを売る仕事は個人にノルマが課されていることも多いが、清水代表取締役は「補聴器販売にそのスタイルは合わない」と語る。高齢者を相手にすることが多いゆえに数字に追われすぎると押し売りしてしまう危険があるからだ。一方で会社の経営に関する数字は社員に対してできるだけオープンにしている。「それぞれがいかに社会・会社・仲間に貢献できているかを意識することで、自然と業績が上がっていく循環が生まれる」そうだ。
清水代表取締役に新卒社員に求めることをたずねたところ、「素直さ」という回答が返ってきた。「補聴器販売に限った話ではないが、素直な人ほど成長が早い。特に若い社員はお客さまや先輩の話をしっかりと聞く姿勢が大事だと思う。失敗してもいいから実践できる、そんな環境づくりを意識しているのでどんどん挑戦してほしい」とメッセージを送った。(BCN・大蔵大輔)
その一例が「補聴器販売」だ。あまり知られていないことだが、補聴器販売は「商品を売る」だけの仕事ではない。購入前の綿密なヒヤリングや測定は欠かせないし、長く快適に使ってもらうためには定期的なメンテナンスも必要になってくる。今回は首都圏で小型補聴器専門店「ヒヤリングストア」を運営するリードビジョンの若手社員・店長・代表取締役にインタビューを実施。補聴器販売に関わる仕事に求められる能力ややりがいについて、リアルな声を聞いた。
入社4年目社員の場合:多彩かつ濃密な業務が成長の機会に
まず、話を聞いたのは入社4年目の鳩山祐一郎さん。現在はマルイシティ横浜店にアドバイザーとして勤務している。新卒でリードビジョンに入社した鳩山さんだが、大学ではスポーツ系の専攻で学んでおり、聴覚に関係する勉強をしていたわけではなかったという。「学生時代の活動の場に補聴器を装用した子どもがいたり、趣味の音楽ライブでアーティストがつけているイヤーモニターに興味をもったり、“補聴器”に関連するキーワードを耳にすることが多かった」と鳩山さん。身近なところでのきっかけが志望に結びついた。鳩山さんの現在の主な業務は、店舗での顧客対応だ。補聴器販売が「商品を売る」だけの仕事ではないということはすでに説明したが、顧客の要望は多岐に渡る。「『どんな種類の補聴器があるのか知りたい、試したい』『補聴器を調整してほしい』といった具体的な要望はもちろん、漠然とした聞こえの悩みをヒヤリングの中で具体化させていくといったケースも多い」とのこと。流れ作業ではなく、一人ひとりにしっかり向き合うことが求められる。
リードビジョンならではの特徴として、若手社員であっても接客以外の業務としてさまざまなプロジェクトを担当できるという点がある。鳩山さんは新卒採用のチームにも入っており、説明会の内容や採用の企画を考えるなど幅広く経験を積んでいるそうだ。教育体制も整っており、「日々の業務の悩みから今後のキャリアアップまで先輩社員と密にコミュニケーションをとることで、成長の糧にできる」と話す。
これまでの業務で苦労したことについても聞いてみた。鳩山さんは新卒時を振り返り、顧客との信頼構築をあげた。「自分より数十歳上の方がお客さま、ということがほとんど。どんな会話をすればよいのか、どうすれば信頼していただけるのか、悩むことがあった」という。解決のために鳩山さんが気をつけたのは“立ち居振る舞い”だ。できるだけ上品に誠意の伝わる姿勢や言葉遣いを身につけることに常に意識を向けた。そのかいもあって、現在では顧客に堂々と接して信頼を得られるようになってきているそうだ。
店長の場合:国家資格を生かせる環境で人生を支える手助け
次に話を聞いたのは新宿西口店で店長を務める中玉利杏美さん。言語聴覚士という国家資格をもち、聴覚だけでなくそれに関連する専門知識を幅広く修得しているエキスパートだ。専門学校で学び、もともと発達心理学に興味を持っていたが、家族が聴神経腫瘍を発症したことをきっかけに補聴器に関する仕事を志すようになった。中玉利さんにとって補聴器販売はどのようなやりがいのある仕事なのか。「聞こえにくいということは非常に深刻な悩みで、家族との関係が悪化してしまったという方もいる。それが補聴器によって明るい方向に変わっていく。お客さまの人生を支えているという実感を得られることが大きなやりがいになっている」(中玉利さん)。
専門性の高い知識は欠かせないが、もっとも重要なのは「コミュニケーション能力」だ。「いかにヒヤリングをして、自分なりの仮説を立てて、どういった方法でアプローチしていけばよいのかを探っていく。それを一人ではなく、店舗全体で考えていく」と中玉利さん。顧客だけでなく、チームのパフォーマンスを高めていくための能力も求められてくる。
中玉利さんが持っている言語聴覚士の資格を生かす機会も存分にある。「言語聴覚士としての見識があれば、『どんな症状なのか』『どんなアプローチをするべきか』、お客さまのお話を聞いたときに立てられる推測のバリエーションが多くなる。ご高齢の方は聞こえだけでなく、認知機能や発話に問題を抱えていることもあり、そうしたとき気がつきやすい」とのこと。リードビジョンは補聴器販売店の中でも言語聴覚士の人数が多く、先輩からのアドバイスも得やすいそうだ。
新卒社員に対する教育体制も整っている。中玉利さんは「新卒社員には教育担当がついているので、技術的な知識だけでなく、接客についてもしっかりと学ぶことができた」と当時を振り返る。また、福利厚生は制度として手厚いだけでなく、社内に浸透しており、理解が得やすい。「子どもが急に熱を出したときなどにも休みやすい。会社全体で応援してくれる社風がある」(中玉利さん)。電子カルテや業務記録の管理はデジタル化されており、働き方にも幅がでてきているそうだ。
最先端の機器やシステムをいち早く導入しているのも、ヒヤリングストアの特徴だ。目新しいところでは、補聴器の耳型を採取する3Dスキャナー「オトスキャン」。耳穴に挿入するタイプの補聴器はユーザーの耳にぴったりとフィットさせる必要があるため、外耳道までの耳型をとる。一般的にはシリコン樹脂を耳に注入して作成していくのだが、時間がかかることに加えて、スキルが要求されるために仕上がりにバラつきがあった。これがオトスキャンを使うと、短時間で精度の高い耳型を作成できる。顧客の満足度を高めるだけでなく、業務の効率化にも一役買っているそうだ。
重要なのは「売上」より「姿勢」 社員が成長しやすい環境を意識
最後にリードビジョンの清水大輔 代表取締役に、補聴器販売という仕事に求められること、そして働き方に対する考えを聞いた。補聴器業界はコロナ禍で外出が減った影響などで苦戦を強いられた。しかし、そんななかで、リードビジョンは2021年に過去最高となる収益を達成している。「私たちの使命は『日本中の60歳以上を元気にする』と掲げている。売上は重要だが、それより大切なのは『お客さまによりよい人生を送っていただく』というビジョンを常に持つこと。補聴器というのはお客さまの人生を大きくプラスに変える分岐点になるからだ。口で言うのは簡単だが、社員全員がそのビジョンを叶えるために日々考えを巡らせている。その姿勢がお客さまに支持していただけているのではないか」(清水代表取締役)。モノを売る仕事は個人にノルマが課されていることも多いが、清水代表取締役は「補聴器販売にそのスタイルは合わない」と語る。高齢者を相手にすることが多いゆえに数字に追われすぎると押し売りしてしまう危険があるからだ。一方で会社の経営に関する数字は社員に対してできるだけオープンにしている。「それぞれがいかに社会・会社・仲間に貢献できているかを意識することで、自然と業績が上がっていく循環が生まれる」そうだ。
清水代表取締役に新卒社員に求めることをたずねたところ、「素直さ」という回答が返ってきた。「補聴器販売に限った話ではないが、素直な人ほど成長が早い。特に若い社員はお客さまや先輩の話をしっかりと聞く姿勢が大事だと思う。失敗してもいいから実践できる、そんな環境づくりを意識しているのでどんどん挑戦してほしい」とメッセージを送った。(BCN・大蔵大輔)