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1万1900円の録音革命──32bitフロートレコーダー「H1essential」をZOOMが3月に発売【道越一郎のカットエッジ】

新製品

2024/02/04 18:30

 音響機器メーカーのZOOMがついにやってくれた。3月上旬に32bitフロート録音に対応するハンディーレコーダーを1万1900円で発売する(税込みZOOM STORE価格、以下同)。驚きの安さだ。32bitフロート録音は、事実上、録音レベルの調整なしに、クリアな音声の収録を可能にする技術。録音時に、レベルオーバーで音が割れたり、レベル不足でノイズまみれになったりする失敗から解放される。録音機器に革命をもたらした技術として、大いに注目を集めている。

32bitフロート録音対応のハンディーレコーダー「H1essential」。
ZOOMが3月に発売する

 モデル名は「H1essential」。現在同社が販売している小型ハンディ―レコーダーH1nの流れを汲む製品だ。本体にXYタイプの本格ステレオマイクを内蔵し、単体で録音が可能。誰もが32bitフロート録音の恩恵に浴することができる。これまで、32bitフロート録音に対応するレコーダーで、最も安いモデルは同社の「F2」だった。ピンマイクをつないで使用する超小型タイプでモノラル専用。片手で持って気軽にステレオ録音できるモデルではなかった。価格も1万9000円。ちょっと32bitフロート録音を体験してみたいと思っても、やや躊躇するスペックと価格だった。

 H1essentialの他、32bitフロート録音に対応するハンディーレコーダーの新製品は、2つのXLR/TRSコンボジャックでプロ用の外部マイクが接続でき、内蔵XYステレオマイクと合わせて4チャンネル録音ができる「H4essential(2万4900円)」、さらに4つのXLR/TRSコンボジャックと交換可能なXYステレオマイクカプセルを搭載し、6チャンネル録音に対応する「H6essential(3万4900円)」の計3モデル。同社ハンディーレコーダーの看板ともいえるHシリーズに、32bitフロート録音に対応する新ラインアップが一気に加わる。いずれの価格も従来の24bit録音モデルより若干上がっているものの、32bitフロート録音対応モデルとしては破格だ。
 
ZOOMが3月に発売する32bitフロート録音に対応するハンディーレコーダー
「H4essential」(左)と「H6essential」

 同社はこれまで、32bitフロート録音対応のレコーダーを数多くリリースしてきた。ロケなどで使用することを想定したフィールドレコーダーシリーズの「F2」「F2-BT」「F3」「F6」「F8n Pro」を始め、マイク一体型の「M2 MicTrak」「M3 MicTrak」「M4 MicTrak」、さらに楽曲収録などを想定したマルチトラックレコーダー「R4 MultiTrak」なども販売している。他社の32bitフロート録音対応のレコーダーは、業務機器では米・Sound Devicesの「MixPre」シリーズ(10II、6II、3II)が有名だが、ハリウッド御用達の機材でとても高価だ。民生用ではティアックの音声機器ブランドTASCAMの「Portacapture」シリーズの2モデル(X8、X6)や豪・RODEのワイヤレスマイク「Wireless PRO」、中国・DJIのワイヤレスマイク「DJI Mic2」などが販売されている。しかし、まだまだ選択肢は少ない。手ごろな価格で製品ラインアップを数多く揃えるZOOMは、32bitフロート録音機器のリーディングカンパニーといえるだろう。
 
ZOOM以外の主要32bitフロート録音対応レコーダー。
米・Sound Devices「MixPre 10II」(左上)、
TASCAM「Portacapture X8」(右上)、
豪・RODE「Wireless PRO」(左下)、
中国・DJI「DJI Mic2」

 ところで、32bitフロート録音で一つ、注意しなければならないポイントがある。マイクだ。32bitフロート録音では、音の大きさの許容範囲ともいえるダイナミックレンジが極端に広い。人間に聞こえるどんな大きな音も、どんな小さな音もクリアに録音できる。しかし、それはレコーダーの機能に限った話。実はマイク自体にもダイナミックレンジが存在する。これは、32bitフロート録音対応のレコーダーよりもかなり狭い。つまりマイクのダイナミックレンジの幅で、そのまま録音できるのが32bitフロート録音、と考えたほうがより実態に近い。マイクの許容範囲を超えた大きな音であれば、当然音は割れてしまうし、マイク自体が発生するノイズより小さな音も、ノイズにまみれてクリアに収録することはできない。

 例えば、マイクに入る音の大きさの上限を示すのに「最大入力音圧(dB SPL)」という単位が使われる。数値が大きいほど大きな音を音割れなく集音することができる。新製品のH1essentialに搭載されたマイクは、120 dB SPL。ある程度の音量には耐えるが、大音量が流れるロックバンドのライブなどを収録すると音割れが生じる可能性が高い。一方、H4essentialの内蔵マイクは130 dB SPL、H6essentialに搭載されるマイクカプセルは135 dB SPLだ。数値が上がれば大音量に耐性が上がっていき音割れのリスクが小さくなっていく。それでも巨大な音が予測される場面では、150 dB SPL程度の、より最大入力音圧の高い外付けのマイクを接続して録音することが必要になる。

 3月の発売を前に、期待の大きさを反映してか、すでにシステムファイブや島村楽器など複数のオンラインショップで予約販売を開始しているH1essential。音声収録のプロ、ミュージシャンや動画クリエーターの録音用途から、普通の人の普段使いまでと、幅広く活躍しそうだ。これにより、録音革命の民主化が一気に進展することになるだろう。(BCN・道越一郎)