【木村ヒデノリのTech Magic #112】 先月からスタートした撮影機材特化の記事。第2回は前回のVRレンズとも関わりの深い立体音響についてお伝えしたいと思います。立体音響と聞くとすでにめんどくさそうですが、機材の進化でとても手軽になっているんです。なかでもおすすめなのがZOOM製「H3-VR」。ZOOMというと32bit Float録音ができるZOOM F3がYouTuber界隈で話題になっていますが、それよりだいぶ前に発売されたこのH3-VRもとても優秀。360度で収録した音声は後からステレオやバイノーラルに変換して使ったり、複数人でオンライン会議に参加する際のマルチマイクとしても活用したりもできます。あまり知られていないH3-VRですが、この記事で魅力が伝わればと思います。
普段内蔵マイクを使うことが多いと思いますが、困るのは複数人で参加する場合。PCが1台だとマイクが遠くなり、かなり聞こえづらくなりますがH3-VRを使うとこれを防ぐことができます。テーブルの真ん中に置いておけば話している人の方向を自動で感知、その方向の音声を出力してくれるので非常に聞き取りやすくなります。1人1台で参加している場合は気にしなくとも良い点ですが、部屋と部屋で会議をしている場合は便利ですね。
ZOOMの機器全般に言えることですが、iOSとシームレスにつながってくれるのは大きなメリットだと思います。ケーブルで接続しただけでマイクとして認識してくれるので、初心者でも大丈夫。特にH3-VRは120gとかなり軽量で、単三アルカリ乾電池2本で11時間程度使えるので、会議室にパッと持っていって短い時間でセットアップできとても便利です。iPadと組み合わせれば屋外でも手軽に使えそうですね。
もう一つ便利だと思ったのはイベントの撮影の場合。例えば、一人で何かをレポートするような場合、カメラを持っているこちらと向こうでどうしても音量差が発生してしまいます。また、しゃべる人が複数になった場合、1人の声は聞き取りやすくてももう1人の声は聞き取りづらいなどが発生する可能性もあり、撮り直しがきかない状況ではとても不安です。
こうした場合もH3-VRなら一旦360度全ての音声を収録してくれているので、音のことを気にせず撮影だけに集中できます。録った音声で気になる部分があれば、あとからマイクの方向を変更して書き出せば良いだけです。仕事だけでなく、誕生日の撮影など家族の記録を残すのにも良いかもしれませんね。
ここまで読んで、どうしてそこまで音声に気をつけなければならないのかと感じた方も多いでしょう。理由は簡単。音声品質を上げることが好印象に直結しているからです。視覚に比べて情報量の少ない聴覚ですが、視覚以上に感情に作用するという研究もあります。会議や映像資料では目に見える画質に注力しがちですが、実は音質の方が重要。相手に無意識のストレスを与えている可能性があります。逆に音質が良く心地良い、という状態を作れば無意識の好印象を誘発し交渉においてもプラスになります。私がビジネスマンこそ音質に気を配ってほしいと強く思うのはこうした理由からです。
ファイル形式がこれまでと変わらないというのも立体音響をおすすめできる点です。馴染みのあるWAVE形式(.wav)で保存されるので、専用ソフトを使わなくてもプレビューできます。知識として押さえておきたいのは少しの専門用語だけです。よく出てくるのはA-FormatとB-Format、そしてFuMaとAmbiXです。これだけ頭に入れておけばアレルギー反応が起こらないと思うので簡単に解説しておきます。まずA-FormatとB-Formatの違いは下記です。
まず前提として立体音響はアンビソニックマイクという4つのマイクが決まった角度で組み合わさっている特殊なマイクで収録するということを覚えておいてください。
・A-Format:4個のマイクそれぞれが録った音そのもののデータ
・B-Format:4つの音声が1つのファイル(4つのトラックを持つ1つの音声ファイル)に格納されたデータ
ステレオで考えると、右のマイク、左のマイク、それぞれの音声がある状態がA-Format、右の音声にR、左の音声にLと役割を振って1つのファイルに収めたのがB-Formatです。H3-VRでははじめからB-Formatで収録することができますが、A-Formatで収録したものをあとで変換することもできます。
次にFuMaとAmbiXです。これはさらに簡単で、後者が4ch以上の格納が可能な新しいフォーマット、前者は4chまでしか対応していない古いフォーマットという区分けです。立体音響は4つのマイクで収録すると書きましたが、当然4つ以上になれば音の方向性もよりはっきりします。これには4つ以上のマイクを使う必要がありますが、FuMaはこれに対応していません。今後4ch以上でよりリアルな立体音響を録りたいというニーズに合わせて新しく作られたのがAmbiXというわけです。
ここまでのことを覚えておけば、立体音響でつまずくこともないはず。H3-VRで言えば、録音時に最大レベルが-6~-12dB付近になることと、録音フォーマットをAmbiXにすることだけ気をつければ後からいかようにも編集できる録音が可能です。非常に手軽に扱える時代になったなと感慨深く思います。
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。(動画配信時期は記事掲載と前後する可能性があります)
360度収録しておけば後からの活用が自由自在
もちろんVRなどにも使える立体音響ですが、まずは一般的な活用法を紹介します。私がとても便利だと感じたのは最近のアップデートで追加された「会議モード」。これはPCやiOSデバイス(iPhone/iPad)でマイクとして認識されるモードで、H3-VRを使ってZoom会議などが可能になります。普段内蔵マイクを使うことが多いと思いますが、困るのは複数人で参加する場合。PCが1台だとマイクが遠くなり、かなり聞こえづらくなりますがH3-VRを使うとこれを防ぐことができます。テーブルの真ん中に置いておけば話している人の方向を自動で感知、その方向の音声を出力してくれるので非常に聞き取りやすくなります。1人1台で参加している場合は気にしなくとも良い点ですが、部屋と部屋で会議をしている場合は便利ですね。
ZOOMの機器全般に言えることですが、iOSとシームレスにつながってくれるのは大きなメリットだと思います。ケーブルで接続しただけでマイクとして認識してくれるので、初心者でも大丈夫。特にH3-VRは120gとかなり軽量で、単三アルカリ乾電池2本で11時間程度使えるので、会議室にパッと持っていって短い時間でセットアップできとても便利です。iPadと組み合わせれば屋外でも手軽に使えそうですね。
もう一つ便利だと思ったのはイベントの撮影の場合。例えば、一人で何かをレポートするような場合、カメラを持っているこちらと向こうでどうしても音量差が発生してしまいます。また、しゃべる人が複数になった場合、1人の声は聞き取りやすくてももう1人の声は聞き取りづらいなどが発生する可能性もあり、撮り直しがきかない状況ではとても不安です。
こうした場合もH3-VRなら一旦360度全ての音声を収録してくれているので、音のことを気にせず撮影だけに集中できます。録った音声で気になる部分があれば、あとからマイクの方向を変更して書き出せば良いだけです。仕事だけでなく、誕生日の撮影など家族の記録を残すのにも良いかもしれませんね。
ここまで読んで、どうしてそこまで音声に気をつけなければならないのかと感じた方も多いでしょう。理由は簡単。音声品質を上げることが好印象に直結しているからです。視覚に比べて情報量の少ない聴覚ですが、視覚以上に感情に作用するという研究もあります。会議や映像資料では目に見える画質に注力しがちですが、実は音質の方が重要。相手に無意識のストレスを与えている可能性があります。逆に音質が良く心地良い、という状態を作れば無意識の好印象を誘発し交渉においてもプラスになります。私がビジネスマンこそ音質に気を配ってほしいと強く思うのはこうした理由からです。
一般利用からさらに踏み込んでも面白い立体音響の魅力
ここまでは一般的な利用方法をお話ししてきましたが、H3-VRに慣れてきたらぜひ立体音響にもチャレンジしてほしいと思います。凄さを実感するためには360度カメラやVRヘッドセットが必要ですが、体験した時の感動はその手間に勝るものがあります。後述するAmbiXというフォーマットや360度動画にYouTubeが対応したことで、手軽に立体コンテンツを配信することができます。モデルルームや工場の様子など、立体で配信することで効果的にファンを増やせるものも多いので、少し手間をかけて自社で公開してみるのも良いのではないでしょうか。YouTubeならスマホでも360度コンテンツが見られるので、間口が広がるのも良い点です。ファイル形式がこれまでと変わらないというのも立体音響をおすすめできる点です。馴染みのあるWAVE形式(.wav)で保存されるので、専用ソフトを使わなくてもプレビューできます。知識として押さえておきたいのは少しの専門用語だけです。よく出てくるのはA-FormatとB-Format、そしてFuMaとAmbiXです。これだけ頭に入れておけばアレルギー反応が起こらないと思うので簡単に解説しておきます。まずA-FormatとB-Formatの違いは下記です。
まず前提として立体音響はアンビソニックマイクという4つのマイクが決まった角度で組み合わさっている特殊なマイクで収録するということを覚えておいてください。
・A-Format:4個のマイクそれぞれが録った音そのもののデータ
・B-Format:4つの音声が1つのファイル(4つのトラックを持つ1つの音声ファイル)に格納されたデータ
ステレオで考えると、右のマイク、左のマイク、それぞれの音声がある状態がA-Format、右の音声にR、左の音声にLと役割を振って1つのファイルに収めたのがB-Formatです。H3-VRでははじめからB-Formatで収録することができますが、A-Formatで収録したものをあとで変換することもできます。
次にFuMaとAmbiXです。これはさらに簡単で、後者が4ch以上の格納が可能な新しいフォーマット、前者は4chまでしか対応していない古いフォーマットという区分けです。立体音響は4つのマイクで収録すると書きましたが、当然4つ以上になれば音の方向性もよりはっきりします。これには4つ以上のマイクを使う必要がありますが、FuMaはこれに対応していません。今後4ch以上でよりリアルな立体音響を録りたいというニーズに合わせて新しく作られたのがAmbiXというわけです。
ここまでのことを覚えておけば、立体音響でつまずくこともないはず。H3-VRで言えば、録音時に最大レベルが-6~-12dB付近になることと、録音フォーマットをAmbiXにすることだけ気をつければ後からいかようにも編集できる録音が可能です。非常に手軽に扱える時代になったなと感慨深く思います。
録って普通に編集するだけで360度コンテンツが作れる時代
面倒だった360度コンテンツですが、現在は通常の動画と遜色ない手間で作ることができるようになりました。また、カメラやマイクも360度コンテンツの制作だけでなく、通常の動画や会議などにも利用できるよう工夫されています。これらを考えると、会社で導入するハードルもだいぶ下がった感があります。今後メタバースのような没入型体験が重要視されていくことを考えても、社内で360度コンテンツが作れる状況にしておくほうが良いでしょう。まずは機材を導入してみて、いろいろ試してみるのはいかがでしょうか。(ROSETTA・木村ヒデノリ)■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。(動画配信時期は記事掲載と前後する可能性があります)