紙のような画面のタブレットと55万円の三つ折りスマホ、ファーウェイがリリース【道越一郎のカットエッジ】
ファーウェイは2月18日、三つ折りのスマートフォン(スマホ)「HUAWAI Mate XT」のグローバル版を、マレーシア・クアラルンプールで発表した。日本での発売は未定ながら、まずはマレーシアを筆頭に、タイ、フィリピン、インドネシア、香港、カンボジアで発売する。最大の特徴は、折りたたんで6.4インチ、一枚開いて7.9インチ、全開で10.2インチの有機ELディスプレイ。すでに中国本国では、OSに「HarmonyOS 4.2」を搭載して昨年9月に発売済み。今回のグローバル版では、より汎用性の高いOS「EMUI 14.2」を搭載した。依然としてGoogle Playはインストールできないが、工夫すればAndroidアプリがある程度利用できる。価格は3499ユーロ。日本円で約55万円だ。庶民には全く手が届かないが、同社の技術力、というか「モノづくり力」を世界に示す象徴的な製品だ。
三つ折りのスマホ
「HUAWAI Mate XT」
三つ折りともなればさぞ分厚いだろうと思いきや、折りたたんだ状態で12.8mm。広げればタブレットのように使える利便性を考えると、ギリ許容範囲だろう。全開にした状態で最薄部は3.6mmにすぎず、これなら十分に薄い。逆にこの薄さで6.4インチの1枚ディスプレイなら、薄すぎて不安になりそうだ。2つ折りの同社製「Mate X6」は最薄部の厚さは4.4mm。比較すると、Mate XTの薄さがよくわかる。三つ折り構造は、曲げに強い有機ELディスプレイならでは。しかし問題はバッテリーだ。曲げに強くするのはきわめてハードルが高い。結局、シリコンアノードタイプで1.9mm厚のリチウムイオンバッテリーを、3枚に分割して搭載することで解決した。3枚の独立したバッテリーをうまく制御するには、それなりの苦労があったことだろう。
三つ折りスマホ「HUAWAI Mate XT」を広げながら説明する、
ファーウェイのAndreas Zimmer プロダクト長
ファーウェイの製品はいくつか使ってきたが、共通して言えるのは「つくりがいい」ということだ。製品としての質感が高く、長期間の利用にも耐えるものが多い。例えば、同社の8.4インチタブレット「MediaPad M5 8.4 LTE」もそうだった。バッテリー交換などしつつ結構長期間愛用していた。しかし、32GBという、今となってはきわめて小さいストレージサイズに耐えきれず引退させた。最後の最後にはディスプレイと本体を接着する両面テープの粘着力が失われ、ディスプレイが剥がれてきたのが決定打になった。とはいえ動作スピードはまずまず。ストレージがもっと大きければ、両面テープでディスプレイを接着しなおしながら、今でも使い続けていただろう。汚くなった純正ケースは2度買い直した。なんだかんだで5年ぐらいは使ったと思う。それほど基本性能が優れていた。
左が2つ折りの同社製「Mate X6」、
右が三つ折りの「Mate XT」。より薄くなっているのがよくわかる
話を三つ折りのMate XTに戻す。値が張ることもあり、さすがに持った感じの質感は高い。ちょっとやそっとでは壊れそうにないしっかり感もある。このモデルのために特別にヒンジを開発した、というが、細かい部品までがっつりと作りこまれていて、安心感をもたらしている。全開するとそれ相応に薄いため、折れ曲がらない方向に力をかけてしまわないよう、気を遣う必要はあるだろう。さすがにディスプレイの折り目はやや凸凹してはいる。しかし、緩やかに波打っている程度なので画面の視認性はそれほど悪くない。また、山折り、谷折りと2方向に折れ曲がるディスプレイだが、破れたり切れたりしそうな不安感はなかった。極薄で革張りの表面加工も、滑りにくく高級感の醸成に一役買っている。
「HUAWAI Mate XT」に搭載されている3枚のバッテリー。
カメラ部が入っているボディーに搭載するバッテリーのみやや小さい
ただこの三つ折り、そもそもどうなのか。ガラケー時代、二つ折りでパカパカ開け閉めする製品が流行った。ノートPCのように「蓋」を閉じれば画面が保護され、ボタンが不用意に押されない。ケースいらずで無造作にポケットに入れて持ち歩ける気楽さがあった。二つ折りスマホも、画面が保護されるので安心感が高い。しかし、奇数の3画面となると、通常のスマホと同じ。結局1面だけは必ず露出する。この露出した1画面分の保護用にケースやカバーがほしくなってしまう。ただでさえぶ厚くなる折りたたみスマホが、さらに厚くなると魅力は半減だ。16対9の横長画面にすることを考えれば、いっそのこと4つ折りにしたほうが理にかなっているだろう。
報道陣やインフルエンサーに公開された
「Mate XT」には、黒山の人だかり
クアラルンプールで同日に発表された製品で、もう一つ舌を巻く技術を搭載したものがあった。タブレット端末の新製品「Mate Pad Pro 13.2”」のディスプレイだ。その名も「ペーパー・マット・ディスプレイ」。反射率わずか2%といい、まるで紙に表示されているような感覚で使用できる。ノングレアのディスプレイであってもまあ、そこそこ反射するものなのだが、まったくの別物。これ見よがしに照明を近づけても一切光を反射しない。具体的な加工技術の秘密はわからなかったが、3画面スマホを開発するのに匹敵する技術力だ。
左が「Mate Pad Pro 13.2”」のペーパー・マット・ディスプレイ。
光源を近づけても全く反射しない
三つ折りスマホも紙のようなディスプレイも、「ITの力」だけでなく、卓越した「モノづくり力」がなければ成しえない仕事だ。ファーウェイのスマホを世界市場から追い出したドナルド・トランプその人が昨年、合衆国大統領に返り咲いた。これによって、同社のスマホが世界市場に本格復帰するのは、さらに難しくなったと見る向きもある。しかし、トランプ大統領は「ディール」に応じるビジネスマン。交渉次第では世界市場に返り咲く方法もあるはずだ。いずれにせよ現状では、「モノづくり力」にあふれるビッグ・プレーヤーが一人、欠けている状態。一消費者として残念でならない。とりわけ日本のスマホ市場で、アップルと正面からガチンコ勝負する同社の姿を、もう一度見てみたい。(BCN・道越一郎)
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「HUAWAI Mate XT」
三つ折りともなればさぞ分厚いだろうと思いきや、折りたたんだ状態で12.8mm。広げればタブレットのように使える利便性を考えると、ギリ許容範囲だろう。全開にした状態で最薄部は3.6mmにすぎず、これなら十分に薄い。逆にこの薄さで6.4インチの1枚ディスプレイなら、薄すぎて不安になりそうだ。2つ折りの同社製「Mate X6」は最薄部の厚さは4.4mm。比較すると、Mate XTの薄さがよくわかる。三つ折り構造は、曲げに強い有機ELディスプレイならでは。しかし問題はバッテリーだ。曲げに強くするのはきわめてハードルが高い。結局、シリコンアノードタイプで1.9mm厚のリチウムイオンバッテリーを、3枚に分割して搭載することで解決した。3枚の独立したバッテリーをうまく制御するには、それなりの苦労があったことだろう。
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ファーウェイのAndreas Zimmer プロダクト長
ファーウェイの製品はいくつか使ってきたが、共通して言えるのは「つくりがいい」ということだ。製品としての質感が高く、長期間の利用にも耐えるものが多い。例えば、同社の8.4インチタブレット「MediaPad M5 8.4 LTE」もそうだった。バッテリー交換などしつつ結構長期間愛用していた。しかし、32GBという、今となってはきわめて小さいストレージサイズに耐えきれず引退させた。最後の最後にはディスプレイと本体を接着する両面テープの粘着力が失われ、ディスプレイが剥がれてきたのが決定打になった。とはいえ動作スピードはまずまず。ストレージがもっと大きければ、両面テープでディスプレイを接着しなおしながら、今でも使い続けていただろう。汚くなった純正ケースは2度買い直した。なんだかんだで5年ぐらいは使ったと思う。それほど基本性能が優れていた。
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右が三つ折りの「Mate XT」。より薄くなっているのがよくわかる
話を三つ折りのMate XTに戻す。値が張ることもあり、さすがに持った感じの質感は高い。ちょっとやそっとでは壊れそうにないしっかり感もある。このモデルのために特別にヒンジを開発した、というが、細かい部品までがっつりと作りこまれていて、安心感をもたらしている。全開するとそれ相応に薄いため、折れ曲がらない方向に力をかけてしまわないよう、気を遣う必要はあるだろう。さすがにディスプレイの折り目はやや凸凹してはいる。しかし、緩やかに波打っている程度なので画面の視認性はそれほど悪くない。また、山折り、谷折りと2方向に折れ曲がるディスプレイだが、破れたり切れたりしそうな不安感はなかった。極薄で革張りの表面加工も、滑りにくく高級感の醸成に一役買っている。
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カメラ部が入っているボディーに搭載するバッテリーのみやや小さい
ただこの三つ折り、そもそもどうなのか。ガラケー時代、二つ折りでパカパカ開け閉めする製品が流行った。ノートPCのように「蓋」を閉じれば画面が保護され、ボタンが不用意に押されない。ケースいらずで無造作にポケットに入れて持ち歩ける気楽さがあった。二つ折りスマホも、画面が保護されるので安心感が高い。しかし、奇数の3画面となると、通常のスマホと同じ。結局1面だけは必ず露出する。この露出した1画面分の保護用にケースやカバーがほしくなってしまう。ただでさえぶ厚くなる折りたたみスマホが、さらに厚くなると魅力は半減だ。16対9の横長画面にすることを考えれば、いっそのこと4つ折りにしたほうが理にかなっているだろう。
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「Mate XT」には、黒山の人だかり
クアラルンプールで同日に発表された製品で、もう一つ舌を巻く技術を搭載したものがあった。タブレット端末の新製品「Mate Pad Pro 13.2”」のディスプレイだ。その名も「ペーパー・マット・ディスプレイ」。反射率わずか2%といい、まるで紙に表示されているような感覚で使用できる。ノングレアのディスプレイであってもまあ、そこそこ反射するものなのだが、まったくの別物。これ見よがしに照明を近づけても一切光を反射しない。具体的な加工技術の秘密はわからなかったが、3画面スマホを開発するのに匹敵する技術力だ。
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光源を近づけても全く反射しない
三つ折りスマホも紙のようなディスプレイも、「ITの力」だけでなく、卓越した「モノづくり力」がなければ成しえない仕事だ。ファーウェイのスマホを世界市場から追い出したドナルド・トランプその人が昨年、合衆国大統領に返り咲いた。これによって、同社のスマホが世界市場に本格復帰するのは、さらに難しくなったと見る向きもある。しかし、トランプ大統領は「ディール」に応じるビジネスマン。交渉次第では世界市場に返り咲く方法もあるはずだ。いずれにせよ現状では、「モノづくり力」にあふれるビッグ・プレーヤーが一人、欠けている状態。一消費者として残念でならない。とりわけ日本のスマホ市場で、アップルと正面からガチンコ勝負する同社の姿を、もう一度見てみたい。(BCN・道越一郎)