使えないけど大人気の超高精度シフトレバー【道越一郎のカットエッジ】
「フィジットトイ」という玩具の分野がある。しばらく前に大流行した、くるくる回すだけの「ハンドスピナー」なんかはその代表例だ。他にも、サイコロ状の立方体に、スイッチやボタン、つまみなどをいくつもくっつけた製品も、ひそかに流行った。これらのスイッチやボタンはどこにもつながっておらず、操作しても何も起こらない。押したりスライドさせたりひねったりする感触や音を楽しむだけのものだ。手に持っていじっていると気分が落ち着く、という人もいるだろう。実際にストレス解消の道具にもなり、うつ病や自閉症、ADHDのなどの治療用として使われることもあるという。
そのフィジットトイに超新星が現れた。「ウシレバー」だ。名前を聞くと焼き肉のメニューみたいだが、そうではない。富山県にある金属加工工房「ウシワーク」製のシフトレバーという意味だ。マニュアル車のシフトレバーだけを独立させたもの。ステンレス鋼を削り出して作られており、手に持つとずっしりと重い。シフトレバーとしては「偽物」でありながら、極めて「ホンモノ感」が漂うという不思議な逸品だ。もちろん何かを切り替えるような機能は皆無。何の役にも立たないわけだが、前述のように手に持っていじると面白い、落ち着くという効果をもたらす。おそらく「一生モノ」の玩具だ。残念ながらいまのところ品切れ中だが、しばらくすれば再販されるだろう。
ウシワークは、旋盤を使った金属加工、いわゆる「丸モノ加工」が得意。これまでもブロックやコマ、複雑な形状をしたコインといった玩具を手作りで製作、販売してきた。ウシレバーはラインアップの最新作だ。5速版と6速でR(リバースギア)の位置が6速の右横にあるバージョン、同じくRが1速の左にあるバージョンの3種類が現行品。いずれも精度が高く、ずっと触っていられる信頼感がある。手の中にすっぽり収まる程度の大きさながら重さが約250g。文鎮としては立派に機能しそうだ。いざという時の武器にもなるだろう。机上置いて眺めるだけでも楽しい。こうした「技術の無駄遣い」的な製品が大好きで、早速買ってしまった。1つあると、なんだか生活が豊かになった「ような気がする」。
このウシワークの薦めもあって11月5日、東京ビッグサイトで開かれていた「JIMTOF(Japan International Machine Tool Fair=日本国際工作機械見本市)2024」を訪れた。2年に一度開かれる工作機械の見本市だ。ドイツとイタリアで開かれるEMO(European Machine Tool Exhibition)、アメリカのIMTS(International Manufacturing Technology Show)、中国のCIMT(China International Machine Tool Show)と並び、JIMTOFは世界4大工作機械見本市の1つに数えられているという。それだけに、最もハードな製造現場の最先端を垣間見ることができた。中でも驚いたのは金属加工だ。CNC旋盤で自動的に金属加工を行う機械は当たり前で、最近ではAIを駆使した製品も増えているという。まさに湯水のごとく、素材に油をガンガンかけて冷却しながら、りんごの皮を剥くように、金属をやすやすと削っていく。何時間でも見ていられる光景だった。
スケールの大きさにも驚いた。プレス金型を製造するオークマのマシニングセンタ「mcr-s」は最大で2.5m×6.5mのテーブル作業面を有する。ドデカイ金属の切削加工ができるマシンだ。当たり前といえば当たり前だが、大きなものをつくるには、こうした巨大で高精度な工作機械も必要になってくるわけだ。あまりにも大きすぎて写真には収まりきらない。やや離れて撮影すると人だかりで機械の様子の全貌が良く分からない、という結果になってしまった。このオークマブースもそうだが、世界的にも高いシェアを有するヤマザキマザックやDMG森精機などのブースも大盛況。大小取り交ぜた日本の工作機械メーカーのオンパレードで、どこも黒山の人だかりだった。小規模工房で職人技を駆使して操る旋盤から大規模な生産設備まで、高い精度と品質の工具や機械が日本のモノづくりを支えているわけだ。ウシワークとJIMTOFに触れて、「ものづくりニッポン」は、まだまだ健在、というか、これから再び勢いを増すのではないか、という思いを強くした。(BCN・道越一郎)
そのフィジットトイに超新星が現れた。「ウシレバー」だ。名前を聞くと焼き肉のメニューみたいだが、そうではない。富山県にある金属加工工房「ウシワーク」製のシフトレバーという意味だ。マニュアル車のシフトレバーだけを独立させたもの。ステンレス鋼を削り出して作られており、手に持つとずっしりと重い。シフトレバーとしては「偽物」でありながら、極めて「ホンモノ感」が漂うという不思議な逸品だ。もちろん何かを切り替えるような機能は皆無。何の役にも立たないわけだが、前述のように手に持っていじると面白い、落ち着くという効果をもたらす。おそらく「一生モノ」の玩具だ。残念ながらいまのところ品切れ中だが、しばらくすれば再販されるだろう。
ウシワークは、旋盤を使った金属加工、いわゆる「丸モノ加工」が得意。これまでもブロックやコマ、複雑な形状をしたコインといった玩具を手作りで製作、販売してきた。ウシレバーはラインアップの最新作だ。5速版と6速でR(リバースギア)の位置が6速の右横にあるバージョン、同じくRが1速の左にあるバージョンの3種類が現行品。いずれも精度が高く、ずっと触っていられる信頼感がある。手の中にすっぽり収まる程度の大きさながら重さが約250g。文鎮としては立派に機能しそうだ。いざという時の武器にもなるだろう。机上置いて眺めるだけでも楽しい。こうした「技術の無駄遣い」的な製品が大好きで、早速買ってしまった。1つあると、なんだか生活が豊かになった「ような気がする」。
このウシワークの薦めもあって11月5日、東京ビッグサイトで開かれていた「JIMTOF(Japan International Machine Tool Fair=日本国際工作機械見本市)2024」を訪れた。2年に一度開かれる工作機械の見本市だ。ドイツとイタリアで開かれるEMO(European Machine Tool Exhibition)、アメリカのIMTS(International Manufacturing Technology Show)、中国のCIMT(China International Machine Tool Show)と並び、JIMTOFは世界4大工作機械見本市の1つに数えられているという。それだけに、最もハードな製造現場の最先端を垣間見ることができた。中でも驚いたのは金属加工だ。CNC旋盤で自動的に金属加工を行う機械は当たり前で、最近ではAIを駆使した製品も増えているという。まさに湯水のごとく、素材に油をガンガンかけて冷却しながら、りんごの皮を剥くように、金属をやすやすと削っていく。何時間でも見ていられる光景だった。
スケールの大きさにも驚いた。プレス金型を製造するオークマのマシニングセンタ「mcr-s」は最大で2.5m×6.5mのテーブル作業面を有する。ドデカイ金属の切削加工ができるマシンだ。当たり前といえば当たり前だが、大きなものをつくるには、こうした巨大で高精度な工作機械も必要になってくるわけだ。あまりにも大きすぎて写真には収まりきらない。やや離れて撮影すると人だかりで機械の様子の全貌が良く分からない、という結果になってしまった。このオークマブースもそうだが、世界的にも高いシェアを有するヤマザキマザックやDMG森精機などのブースも大盛況。大小取り交ぜた日本の工作機械メーカーのオンパレードで、どこも黒山の人だかりだった。小規模工房で職人技を駆使して操る旋盤から大規模な生産設備まで、高い精度と品質の工具や機械が日本のモノづくりを支えているわけだ。ウシワークとJIMTOFに触れて、「ものづくりニッポン」は、まだまだ健在、というか、これから再び勢いを増すのではないか、という思いを強くした。(BCN・道越一郎)