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1万1900円の録音革命を試す──2月28日発売の最新32bitフロートレコーダー「H1essential」ファーストインプレッション【道越一郎のカットエッジ】

レビュー

2024/03/03 18:30

 音響機器メーカーのZOOMは2月28日、32bitフロート録音対応のハンディーレコーダー「H1essential(H1e)」を発売した。税込みZOOM STORE価格(以下同)は1万1900円。発表直後に予約し発売日に早速入手することができたので、24ビットリニア録音の前作、H1nと比較しながらファーストインプレッションをお届けする。

 落雷時の大音量から衣擦れの極めて小さな音まで、録音時に入力レベルを調整することなく、クリアに録音することができる32bitフロート録音。入力レベルが大きすぎて音が割れたり、小さすぎてノイズに埋もれて目的の音がきれいに録れない、というトラブルから解放される。H1eは、32bitフロート録音に対応するハンディレコーダーの新ラインアップである、essentialシリーズのエントリーモデル。このほか、4チャンネル録音対応の「H4essential(2万4900円)」、6チャンネル録音対応の「H6essential(3万4900円)」もリリースされた。
 
24bitリニア録音の前作「H1n」(左)と、
32bitフロート録音の新作H1essential(H1e)

 H1eの外観は、前作H1nのテイストを踏襲しつつ、やや小ぶりで角ばったデザインに変わった。ボティ上部にあるXYタイプのステレオマイクを備えるのは同様。しかしH1eからはマイクガードがなくなり、シンプルな構造に変わった。また、H1nではレベル調整ダイヤルがマイク直下に配置されていたが、レベル調整が不要なH1eでは消えた。32bitフロート録音でも基本レベルを設定できるレコーダーが多い中、録音時のレベル調整ができないようにした点には賛否があるかもしれない。一方、ボディ中央のRECボタンを押せば、すぐ録音がスタートするインターフェイスは前作と同じだ。STOP、PLAY/PAUSE、REW、FFの各ボタンをRECボタンの周囲に配置。より直感的に操作できるようになった。画面下にある4つのボタンでモード切り替えなどを行う操作も新旧モデルともほぼ同じだ。
 
H1eのスイッチ類。ラバースイッチを採用し、
録音時に本体から出るノイズを抑えられるようになった

 H1eでは操作ボタンとして新たにラバースイッチを採用。録音時にボディから発生するノイズを抑える構造に変更した。前作H1nでは、ボリューム調整ボタンに若干の遊びがあり、録音中、ボディに振動を加えるとカチャカチャとノイズが入る欠点があった。ボリュームボタンの上からマスキングテープを貼ってノイズの発生を抑えていたが、もうその必要はなくなった。H1nではボディ下部にスピーカーが配置されていたが、H1eのボディ下部には「32bit Float」のシールが貼られ、最大の特徴をアピール。スピーカーは背面に移動させた。そのほか、H1e背面のデザインでは、本体固定用の三脚穴が、やや前寄りに移動。カメラに取り付けて録音する際、より邪魔になりにくくなった。H1eのボディの大きさはほぼH1nと同じであるため、本体を保護する格納ケースや、マイクに被せるモフモフ、ウインドジャマーも流用可能だ。
 
H1eの録音中の画面。
レベルメーターではなく、波形が出るのが分かりやすい

 本体ディスプレイは、H1nのモノクロ液晶から、H1eでは二回りほど小さいモノクロ有機ELに変更された。白と黒のコントラストがより鮮明になり、薄暗い場所では見やすくなった。一方で、明るい屋外では前作H1nの方が見やすい。H1nのレベルメーター表示から、H1eでは波形表示に変更され、よりわかりやすくなった。単4電池2本で動作するが、省電力化によってH1eは前作H1nと同様の電池もちを実現。アルカリ乾電池の持続時間はいずれも約10時間だ。さらにH1eではUSB-C端子を備え、大容量のUSBモバイルバッテリーや充電器をつないで駆動することも可能。バッテリー切れを気にせず使用することもできる。マイク端子は3.5mmステレオミニジャックで、2.5Vのプラグインパワーに対応。バイノーラル録音用イヤホン一体型コンデンサーマイク、ローランドの「CS-10EM」も問題なく動作した。異次元のリアルな音が録れるバイノーラル録音が、32bitフロートで手軽にできるようになったわけだ。
 
ローランドのバイノーラルマイク「CS-10EM」(改)をH1eに接続。
問題なく動作した

 H1nでは本体側面の消去ボタンを押しながら電源スイッチを入れることで設定メニューに入ったが、H1eでは本体側面にメニューボタンが新設され、より分かりやすくなった。低音成分をカットするローカットフィルタ―は、H1nでは80Hz/120Hz/160Hzの3モードだったが、H1eでは80Hz/160Hz/240Hzに変更。より高めの低音成分をカットできるようになった。H1eの音質はH1nに極めて近く、マイクのセッティングさえしっかりしておけば、プロ並みの録音が可能だ。その他32bitフロート録音で必須の、収録後のレベル調整だが、H1e単体でノーマライズ処理とWAVファイル(24bit/16bit)の書き出しにも対応。ほぼ録って出しに近い形で、収録後すぐに音声ファイルを利用できるのは便利だ。
 
H1nとほぼ同じ大きさのH1eなので、
ケースやモフモフも流用できる

 H1eの初回ロットは売り切れ店続出で、現在入手は難しいかもしれない。次回入荷は3月末以降になりそうだ。一方、ZOOM新製品の常だが、3月1日現在でアメリカの通販サイトB&Hには在庫がある。価格は99.99米ドル、送料が最低でも14.01米ドルと、合計114米ドル。日本円でおよそ1万7000円強。かなり割高になってしまうが、どうしてもすぐに欲しい場合は選択肢に入るだろう。これまで私が運用していた32bitフロート録音のミニマムセットは、ZOOMのフィールドレコーダー「F3」に、本体のXLRコネクタに直付けできる、XY/ABマイクCEntranceの「PivotMic PM1」をつけたものだった。片手で持てるコンパクトな形状に収まってはいたが、やはりごつい。重量はマイクと本体で約330gと、ちょっとした重さも気になった。一方、H1eは92g。3分の1以下で軽量だ。鞄に一つ入れておいて、必要な時にさっと取り出して録音できるという機動性にも優れている。録音することに興味があるのなら、H1eは持っていて損のない1台だ。(BCN・道越一郎)
 
左は音が大きすぎてバリバリとひずんでしまった録音波形。
通常の録音方法では、波形の切れた部分を後から修復することはできない。
しかし、32bitフロート録音であれば、右のようにひずみのない音に後から戻すことができる