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映像作家は詐欺師たれ! 映画のプロから撮影・録音ノウハウを盗む「桜風凉ミーティング」中野で開催

イベント

2023/08/09 18:35

 8月6日、「第二回:桜風涼ミーティング in 中野」がケンコー・トキナー 本社セミナールームで開催された。映像制作会社の社長を務め、YouTuberとしても活躍している桜風涼(はるかぜすずし)こと渡辺健一氏を囲み、映画のプロから撮影や録音のノウハウを盗もうと全国から23名が集まった。今回は特別ゲストに「ウルトラマン」シリーズなどの撮影を手掛けたカメラマン、倉持武弘氏を招き、撮影の極意にも目と耳を傾けた。

手動フォーカス合わせの極意を
解説するカメラマンの倉持武弘氏

 映画の撮影では、フォーカスは手動で合わせることがほとんど。どこに、いつフォーカスを合わせるかは重要な映像表現のひとつだからだ。ふわっとゆっくり合うのか、キュっと素早く合うのか、どの地点からどの地点にどんなタイミングでフォーカスが移動するのか……。やり方次第で映像に意味と深みが加わる。AF(オートフォーカス)でも合わせることはできるが、単に合うだけ。表現意図に沿ったフォーカス合わせは手動でしかできない。実は、撮影の現場で、フォーカス合わせはカメラマンの仕事ではない。セカンドと呼ばれるアシスタントの役割だ。映画やドラマを撮って45年。プロ中のプロの倉持氏も、2ndとしてフォーカスを担当した時期もあった。「役者の動きを見ながらフォーカスリングを回さないと遅れてしまう。モニタ―やファインダーは見ない」と話す。プロはどうやるのか、実演してもらった。

 例えば、カメラに向かって歩いてきて、立ち止まってセリフを話すような場面。歩き始める位置、止まってセリフを話す位置はそれぞれ決まっている。最初に歩き始める位置を決め、役者を立たせて立ち位置の印(フットマーク)をつけ、カメラの撮像面からの距離をフィートで測る。さらにカメラのフォーカスを合わせ、どの位置でフォーカスが合ったかをレンズに直接印をつける。次に、立ち止まってセリフを話す場面も同様に役者を立たせフットマークをつけ、距離を測り、レンズに印をつける。歩いてくる中間地点にもフットマーク、測距、レンズに印で準備完了。
 
役者とカメラマンの動きを説明する
渡辺健一氏(左)

 実際に役者を歩かせて撮影だ。役者からフォーカスを外さずに追いかけるべく、レンズにつけた印を頼りに手の感覚だけでフォーカスリングを回していく。倉持氏は、歩いてくる役者の映像を一度もぼかすことなく、一発で撮影をやってのけた。「レンズのフォーカスリングには、距離表示が書かれているが、これはあくまでも目安。実際に距離を測って、フォーカス位置を確認する」と話す。また、2人の役者が手前と奥に立っているような場面。セリフをきっかけに手前の役者から奥の役者にフォーカスを「送って」いく。もちろんファインダーも画面も見ずに。こんな芸当も手動ならでは。AFでは無理だ。意図したような動きにはならない。決められたとおりの動きを何度も繰り返せることは役者の仕事でもある。しかし、時には位置がずれてしまうこともある。そこでもしっかり対応するのがプロだ。

 レンズには「被写界深度」というものがある。フォーカスが合って見える範囲のことだ。レンズを絞ればその深さが増し、フォーカスの合う範囲が広がっていく。倉持氏は被写界深度を利用した撮影法があるという。「被写界深度は奥に深いという性質がある。そのため、被写体が近づいてくる時には早めにフォーカスリングを回し、遠ざかっていくときには遅めに回すことで、被写界深度を利用しながらフォーカスが合った状態を維持しやすくなる」と話した。こうしたプロの仕事が積み重なって映像作品が出来上がっていく。

 一方渡辺氏は、現在制作中の「神様待って! お花が咲くから」の一部を題材に、映画製作のテクニックを披露した。小児がんをテーマにした11月公開予定の劇場映画。自身が脚本も手掛けた。映画撮影の「録音部(=映画の音声を担当するチーム)」としても活躍し、音のプロでもある渡辺氏が、映画の音の世界を解説した。例えば、脚本上は4月の場面だが、スケジュールの都合で9月に撮影したシーン。問題になったのはバックの音だ。セリフに盛大なセミの声が重なって響いている。4月の場面ではとても不自然だ。こんな時に渡辺氏は「アフレコ=(アフター・レコーディング)で処理する」と話す。セリフだけ後でスタジオで収録して差し替えるわけだ。これでセミの声は消えるが、それだけでは急に周囲の音も消え、逆に静かすぎてこれまた不自然だ。渡辺氏は「セリフに『空気』と呼ぶ場の雰囲気のノイズを足して整音し、自然な音にもっていく」と明かした。映画の「音」はとても重要な要素。作品に集中できるのも、自然な音づくりがなされているからこそだ。
 
映像作家は詐欺師たれと語る渡辺健一氏

 会場から録音に関する質問が飛んだ。「環境音を立体的に収録するにはどうすればいいのか」という問いに対して、渡辺氏は「方法は二つある」と話し始めた。「一つはゼンハイザーのAMBEO VR MICやZOOMのH3-VRのような360度収録用の機材を使う方法だ。後で自由に加工ができて便利」。しかし「これは正直言ってあまり面白くない。もう一つは、マイク2本で行うステレオ収録の工夫だ」と話す。「地面や周囲の残響によって、左右だけでなく上下の位置関係も感じることができる。例えば、前面に指向性がある、カーディオイドマイク2本を120度ぐらいの角度に広げて録ると、立体的な音が録れて面白い。カラスの鳴き声や飛行機の音が上から聞こえるようにも感じられる。やわらかい地面だと反響が少ない分、高さの効果が減る。地面からの高さに応じて、どうすれば立体に聞こえるか、工夫するのはとても面白い」と語った。

 また、動画制作のコツを問われた渡辺氏は「番組制作にあたって、若いディレクターには『文字コンテを書け』とアドバイスする」という。絵コンテは大変だが、文字のコンテなら書けるだろうということだ。「まず、映像を見た人の心にどんな言葉を浮かばせたいのか? を考える。とはいえ、自分が『美しい』とか『可愛い』とか思って映像を撮ったとしても、実はほとんど伝わらない。普段の会話ですら、相手の気持ちはわからない、自分の心も伝わらない。映像化したらなおのこと。他人のアルバムを見ても何も感じないように、自分のアルバムを他人に見せても何も感じてもらえない。好きなものを撮るだけでは、自分のアルバムを他人に見せるのと同じだ。これを避けるために、何か自分の心が動いた瞬間、何に心が動いたかを分析、言語化して、どうすれば他人に伝わるか、日々整理し準備しておく。それを組み立てて映像表現に生かしていく。文字コンテは伝わる表現のプランを立てることだ」と話した。

 さらに渡辺氏は「映像は手品でなければならない」とも。「最後に『ああ』と思わせる仕掛を用意することだ。一番簡単なのは工作動画。早回しで何か作るような作品だ。作る過程で、何かしら3回ぐらいは事件が起こる。そして最後に完成して『ああ、これができたのね』となる。映像の面白さだ」。また「映像はぶつぶつ言いながら収録する。『カメラの上にモフモフがあるねぇ』と言ったら、映像を見た人がリアクションする『間』を意図的に作る。これでテンポができていく。さらに視聴者のリアクションを予測してそれをちゃんと言ってあげる。そこで共感が生まれる。意外な新しい情報も加えることで、驚きで『ああ』となる。詐欺師と似た手法だ。映像制作者は、ある種の詐欺師にならなきゃいけない」とも話した。
 
ミーティング当日、ケンコー・トキナー本社で
同時開催されていたアウトレットセール

 映像や録音の世界に興味がある人にとっては、垂涎の情報が詰まった桜風凉ミーティング。ケンコー・トキナーが本社で行うアウトレットセールに合わせて開催するのが恒例になってきた。同社の田原栄一 チーフデモンストレーターは「集客にも売り上げにも貢献していただいている」と話す。次回のミーティングの予定はまだ決まっていないが、次のアウトレットセールは10月に開催する予定だ。(BCN・道越一郎)