サイコン「キャットアイ」を使って美容院まで20km 田舎暮らしは日常が冒険
【拝啓、徳島より・2】 田舎に引っ越してきて困ることの一つが交通の便が悪いこと。そして、もう一つが都会には当たり前にあるものが近くにないことです。私が住む町にも、そんな田舎特有の諸問題がちらほら。先日も美容院に行こうとして大変な目にあったのですが、自転車に搭載したサイクルコンピュータ(サイコン)で、ハードな道のりをちょっとだけ楽しむことができました。
例えば交通の便。鉄道は通っているけど1時間に1本しか来ないし、走っているのは電車ではなくディーゼルエンジンで動く汽車です。路線バスはなく、移動には車が必須。私は友人と1台の車をシェアしていますが、普通は一人1台持つのが当たり前です。
また、都会であればどこにでもあるお店がない場合も多いです。スーパーやドラッグストアなどは徒歩圏内にありますが、最寄りのユニクロまでは車で片道40分かかります。チェーンの飲食店はもちろんありません。必需品以外の買い物はインターネットに頼りきりなのです。
日々の暮らしに必要なものは町内で揃うし、美しい自然もすぐそばにある。生活の環境自体に不満は全くないのですが、ごくたまに「田舎暮らしって大変!」と思う日もあります。
すると車をシェアしている友人から、急遽、車を使わせてほしいとの連絡が。急な仕事でどうしても徳島市内に行かなければならず、汽車では間に合わないので車を使わせてほしいと言うのです。
私たちの町から徳島市内までは車で1時間ちょっと、汽車だと1時間40分もかかります。道路も線路もくねくねした山道を越えていくので、県内移動なのにめちゃくちゃ時間がかかるのです。
友人とはご近所さん同士、困った時はお互い様です。友人に車のキーを渡してから、隣町までの移動方法を考えることにしました。
美容院は隣町の駅前にあるので汽車で行けば楽ちんです。しかしその日は土曜日です。ローカル線の土曜日や休日ダイヤは想像以上に本数が少なくて大変。数字がほとんど書かれていない時刻表を眺めながら、汽車での移動はすぐに諦めました。
予約を別日に変更しようとも考えたのですが、大阪でカリスマと呼ばれた美容師さんが開いたお店は大人気です。地域に美容院が少ないこともあって、次の予約がすぐ取れるかもわかりません。
「今日、自転車で行くしかないか・・・」。そうして急遽、美容院までの自転車旅が始まったのでした。
私が住む町は海と山に囲まれているため、町外に出るためには峠越えが必要です。徳島といえば海のイメージが強いかもしれませんが、実際は山道ばかり。曲がりくねったり、激しいアップダウンがあったり、斜度が10%を超える坂道も珍しくありません。平坦な道がとても少ないんです。
トレイルランの大会も頻繁に開かれていて、大自然が満喫できるとアスリートからも大好評。そんな“玄人向き”の道を20kmも行くのは、リモートワークでなまりきった身体には正直、きつい・・・。
朝陽を浴びてキラキラ光る杉林。すぐ脇を流れる川からはサワサワと心地よい音が聞こえてきます。いつもなら心躍る景色ですが、この日ばかりは愛でる余裕なんてありません。ペダルを漕げども一向にピークの見えない坂道を、ヒーヒー言いながら上っていきました。
「美容院に行くのって、こんなに大変なことだっけ・・・?」
予約の時間を考えたら悠長に休憩もしていられません。優雅にコーヒーでも飲んでから出発しようと思っていた朝は、汗だくの大冒険に変わってしまいました。
つらい坂道。気分転換にサイコンで遊んでみよう。「ちょっと毛先を切ってもらいたいだけなのになぁ。」
ハンドルの真ん中に取り付けたサイコンを眺めながら、出るのはため息と弱音ばかり。でも漕がなきゃ前にも後ろにも進めないので、なんとかこの状況を楽しめないかと考えるようにしました。
私が使っているサイコンはキャットアイの一番ベーシックなモデルで、時刻と速度と距離が確認できるもの。速度や進んだ距離を眺めていると、自分の頑張りが可視化されていくようで、段々と楽しくなっていくから不思議です。一種のランナーズハイになっていたのかもしれません。
上り坂でグッとペダルを踏み込めば、その一瞬だけでも速度が上がる。サイコンの数字がパッと変わるのを見ているのが面白くて脚にも自然と力が入ります。
下り坂ではどれくらい速度が出るのかを検証したり、ブレーキを使わずにどれくらい進めるのかを測ったり、サイコンがあるからこそできるちょっとした遊びで気分を切り替えていきました。
いかにして楽しむ方法を探すかが、田舎暮らしのコツなのかもしれません。
そうこうするうちに、山道を抜けて平な国道に出ました。車で20分の道のりを1時間半かけて美容院に到着しました。埃まみれで汗だくの私を、嫌な顔せず迎え入れてくれた美容師さんには感謝しかりません。
もちろん来た道は帰らねばなりませんから、せっかく美容院でセットしてもらった髪をまた振り乱しながら帰宅するわけです。翌日の筋肉痛は酷かったですが、なんだかんだ楽しかったと思える旅路になりました。
いつもはのほほんと日常を過ごしていますが、時々、田舎暮らしはとてもハード。都会ではあまり出会えない類の冒険がいきなり日常の中に現れたりします。
そんな時に思うのは、どんな状況でも楽しもうとする気持ちを忘れずに持っていていたいなということ。ハードな時こそ、どこかに面白さを見つけて、その状況を丸っと楽しんでいけたらといいですよね。そんなことに気づかせてくれた自転車旅であり、キャットアイでした。(フリーライター・甲斐りかこ)
■Profile
甲斐りかこ
徳島在住のライター、イラストレーター。千葉県出身。オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどの旅を経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。地域活性化支援企業にて、行政と協力した地方創生プロジェクトの広報PR業務に従事。21年よりフリーランスとなり、全国各地の素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。
楽しいだけじゃない田舎暮らし
田舎暮らしは楽しい。でも楽しいだけじゃない。都会に比べると不便なこともたくさんあります。例えば交通の便。鉄道は通っているけど1時間に1本しか来ないし、走っているのは電車ではなくディーゼルエンジンで動く汽車です。路線バスはなく、移動には車が必須。私は友人と1台の車をシェアしていますが、普通は一人1台持つのが当たり前です。
また、都会であればどこにでもあるお店がない場合も多いです。スーパーやドラッグストアなどは徒歩圏内にありますが、最寄りのユニクロまでは車で片道40分かかります。チェーンの飲食店はもちろんありません。必需品以外の買い物はインターネットに頼りきりなのです。
日々の暮らしに必要なものは町内で揃うし、美しい自然もすぐそばにある。生活の環境自体に不満は全くないのですが、ごくたまに「田舎暮らしって大変!」と思う日もあります。
隣町に行くのに、車が使えない!
それはある晴れた土曜日のこと。その日は隣町の美容院に行く予定で、朝からうきうきしながら出かける準備をしていました。すると車をシェアしている友人から、急遽、車を使わせてほしいとの連絡が。急な仕事でどうしても徳島市内に行かなければならず、汽車では間に合わないので車を使わせてほしいと言うのです。
私たちの町から徳島市内までは車で1時間ちょっと、汽車だと1時間40分もかかります。道路も線路もくねくねした山道を越えていくので、県内移動なのにめちゃくちゃ時間がかかるのです。
友人とはご近所さん同士、困った時はお互い様です。友人に車のキーを渡してから、隣町までの移動方法を考えることにしました。
美容院は隣町の駅前にあるので汽車で行けば楽ちんです。しかしその日は土曜日です。ローカル線の土曜日や休日ダイヤは想像以上に本数が少なくて大変。数字がほとんど書かれていない時刻表を眺めながら、汽車での移動はすぐに諦めました。
予約を別日に変更しようとも考えたのですが、大阪でカリスマと呼ばれた美容師さんが開いたお店は大人気です。地域に美容院が少ないこともあって、次の予約がすぐ取れるかもわかりません。
「今日、自転車で行くしかないか・・・」。そうして急遽、美容院までの自転車旅が始まったのでした。
美容院に行きたいだけなのに。山あり谷ありの田舎道
隣町までは片道20km。街乗り用のクロスバイクで出発です。私が住む町は海と山に囲まれているため、町外に出るためには峠越えが必要です。徳島といえば海のイメージが強いかもしれませんが、実際は山道ばかり。曲がりくねったり、激しいアップダウンがあったり、斜度が10%を超える坂道も珍しくありません。平坦な道がとても少ないんです。
トレイルランの大会も頻繁に開かれていて、大自然が満喫できるとアスリートからも大好評。そんな“玄人向き”の道を20kmも行くのは、リモートワークでなまりきった身体には正直、きつい・・・。
朝陽を浴びてキラキラ光る杉林。すぐ脇を流れる川からはサワサワと心地よい音が聞こえてきます。いつもなら心躍る景色ですが、この日ばかりは愛でる余裕なんてありません。ペダルを漕げども一向にピークの見えない坂道を、ヒーヒー言いながら上っていきました。
「美容院に行くのって、こんなに大変なことだっけ・・・?」
予約の時間を考えたら悠長に休憩もしていられません。優雅にコーヒーでも飲んでから出発しようと思っていた朝は、汗だくの大冒険に変わってしまいました。
つらい坂道。気分転換にサイコンで遊んでみよう。「ちょっと毛先を切ってもらいたいだけなのになぁ。」
ハンドルの真ん中に取り付けたサイコンを眺めながら、出るのはため息と弱音ばかり。でも漕がなきゃ前にも後ろにも進めないので、なんとかこの状況を楽しめないかと考えるようにしました。
私が使っているサイコンはキャットアイの一番ベーシックなモデルで、時刻と速度と距離が確認できるもの。速度や進んだ距離を眺めていると、自分の頑張りが可視化されていくようで、段々と楽しくなっていくから不思議です。一種のランナーズハイになっていたのかもしれません。
上り坂でグッとペダルを踏み込めば、その一瞬だけでも速度が上がる。サイコンの数字がパッと変わるのを見ているのが面白くて脚にも自然と力が入ります。
下り坂ではどれくらい速度が出るのかを検証したり、ブレーキを使わずにどれくらい進めるのかを測ったり、サイコンがあるからこそできるちょっとした遊びで気分を切り替えていきました。
いかにして楽しむ方法を探すかが、田舎暮らしのコツなのかもしれません。
そうこうするうちに、山道を抜けて平な国道に出ました。車で20分の道のりを1時間半かけて美容院に到着しました。埃まみれで汗だくの私を、嫌な顔せず迎え入れてくれた美容師さんには感謝しかりません。
もちろん来た道は帰らねばなりませんから、せっかく美容院でセットしてもらった髪をまた振り乱しながら帰宅するわけです。翌日の筋肉痛は酷かったですが、なんだかんだ楽しかったと思える旅路になりました。
いつもはのほほんと日常を過ごしていますが、時々、田舎暮らしはとてもハード。都会ではあまり出会えない類の冒険がいきなり日常の中に現れたりします。
そんな時に思うのは、どんな状況でも楽しもうとする気持ちを忘れずに持っていていたいなということ。ハードな時こそ、どこかに面白さを見つけて、その状況を丸っと楽しんでいけたらといいですよね。そんなことに気づかせてくれた自転車旅であり、キャットアイでした。(フリーライター・甲斐りかこ)
■Profile
甲斐りかこ
徳島在住のライター、イラストレーター。千葉県出身。オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどの旅を経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。地域活性化支援企業にて、行政と協力した地方創生プロジェクトの広報PR業務に従事。21年よりフリーランスとなり、全国各地の素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。