一人でも多くの人に「使いやすさ」を体感してほしい、FCCLの外付けキーボード「FMV Mobile Keyboard」
富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)が2022年に発売した話題のタッチパッド付きキーボード「FMV Mobile Keyboard」が注目されている。FMVの13.3型として世界最軽量のノートPC「UH」シリーズのキーボードをそのまま切り出したデザインで、FCCLのキーボードに対するこだわりが詰まった、打ちやすさを追求した逸品だ。Bluetoothを利用したマルチペアリングにも対応し、Windows PC、Mac、iPad、iPhone/Androidスマートフォンなど、複数のデバイスを一台のキーボードから入力したいというニーズにも応える。そんなこだわりキーボードはどうやってこの世に生まれたのだろうか。
今使っているキーボードでは疲れやすかったり、周囲に打鍵音がうるさいと言われたり、打ち間違えたりといったことが多い場合、自分の使いやすいキーボードに取り替えるだけで、ストレスを大きく軽減できる。キーボードは製品によって、打ちやすさや使い勝手が思いのほか異なるのだ。
「万人に理想のキーボードはない」と語るのは、FCCLでキーボード開発を指揮するペリフェラルビジネス推進統括部の藤川英之氏。藤川氏はFCCLに一人しかいない、「匠」の技術を継承する「キーボードマイスター」の称号を持つ技術者である。
手の大きさや指の長さは人それぞれな上、キーボードはデスクトップPCとノートPCでキーの大きさや押し下げる深さが異なる。人によって使いやすいと感じる好みの幅が広いので、誰が使ってもこれが一番というものが作れない。
一方で、FMVのモノづくりでは幅広いユーザー層に使ってもらうことが共通コンセプトになっている。「FMVのキーボードを作る」ということは、誰にとっても最高のキーボードが定義できないのに、「幅広いユーザーに使いやすいと思ってもらえるキーボードを作る」という二律背反を追求することなのだ。藤川氏の役目はとても難しいものだった。
藤川氏がキーボード開発の指揮を執るようになったのは2016年。「FMV Mobile Keyboard」を企画したのは21年のことだった。
実はFCCLでは、13年に持ち運びやすい約250gのタッチパッド付きキーボード「FMV-NKB4」を発売している。コンセプトは「軽い、薄い、標準レイアウト」だ。UHシリーズに搭載しているキーボードをこれと同じコンセプトで、もう少し強く打ち出せたらおもしろいのではないか?と考えたのが企画のきっかけ。それがそのまま最終コンセプトとなった。
だが、タッチパッドにはマウスにない優位性もある。モバイル環境においてマウスを別途持ち歩かなくて済むのはもちろん、キーボードのホームポジションから指を離すことなく操作できるというメリットがある。
こうした市場背景も踏まえ、UHシリーズからそのまま切り出すと言っても、さまざまな案が検討された。サイズを少し大きくしたり、剛性を高めたり、表面加工をおしゃれなファブリックにしてみたり。あるいは、持ち運びやすく畳めるようにしたり、タッチパッドを分離可能にしてみたり。大きなタッチパッドで作業性の最大化を図るデザインも検討した。しかし、いずれもしっくりこなかった。
UHシリーズのキーボードは、軽くても押しやすくて疲れにくく、入力ミスの少なくなるものを目指してブラッシュアップが重ねられ、使い心地の良いものに仕上がっていた。
キーが軽く、奥まで押し込まなくても、「押した」と感じたら入力できている、ちょうど良い押下圧を目指す。押し始めは重く、そのあとはすっと沈み込むメリハリのあるキーの反発感を二段階で設け、メカニカルスイッチのリニア特性に近い押下感のキー荷重を開発。それを基に今度はキーボードの中のサポートパネルを調整して、押下の底付き感を低減するべく肉抜きする。
さらに使っているうちに押下不足の自覚が出てくるようになると、今度は押した感じを出すように揺り戻すといった調整を年々図っていった。
この押しやすさとキー入力の確実性を突き詰めたことが、結果的に打鍵音の静音化と軽量化につながっていった。UHシリーズは0.1g単位の軽量化ノウハウの積み重ねが強調され、すべてが軽量化最優先で開発された印象もあるが、実はキーボードについては使いやすさを追求した結果、軽量化にもつながっていたのだそうだ。
「部品の微妙なサイズにまでこだわり、キーを押したときのキーの抜け方なども研究した。穴を開けて解析しての繰り返しだった」と、藤川氏は当時を思い返して笑う。
こうして開発したUHシリーズのキーボードは、そのまま切り出しても商品として確かな魅力を提供できると自信はあったが、それでもなかなか製品化に向けた開発には踏み出せなかった。
その一番の理由が価格だ。こだわりを凝縮して作るとどうしても安価な製品にはならない。事前のリサーチでも8割以上が「高過ぎる」と反応し、売れないだろうとの意見が多かったという。
クラウドファンディングでは、未開発段階の製品でも、ユーザーの興味や関心をダイレクトに調べられる。「一定数以上のユーザーが注目し、欲しいと思うなら開発します」というスタイルで企画できるので、事前のマーケティングを兼ねてFMV Mobile Keyboard(当時、LIFEBOOOK UH Keyboard)を世に問うには良い手段だった。
「Webだけで売ってみてはどうかなど、販売形態をいろいろ考えてみたが、最終的にはクラウドファンディングでやってみようとなり、経営陣からも後押しがあった。当社はクラウドファンディングを利用したことがなく、まったく知見のないゼロからのスタートだった。それでも、ユーザーの反応が直接見られるのは魅力的で、ぜひ挑戦したいと意気込んだ」(林部氏)
折しも富士通のパソコン発売の40周年を記念する「FUJITSU PC 40th Anniversary」が社内で企画されており、FMV Mobile Keyboard (LIFEBOOK UH Keyboard)はその第一弾として、21年12月13日にクラウドファンディングサイトの「Green Funding」で支援募集を開始することになった。標準価格2万2000円、早割で最安1万6940円からという値付けだ。
反響は予想を遥かに上回った。リリース当日に700人以上のユーザーから支援を集め、支援額は1350万円超、目標額の272%を突破。同年12月24日の締めまでに、7726万4292円を集め、支援人数は4525人、目標額の1545%に達した。
クラウドファンディングページでは、富士通ノートPCの開発で培われたノウハウを紹介。改良を重ねたパンタグラフ構造に高レスポンスキーボード、2段階押下圧設定、前述のキースイッチ特性やサポートパネル、デザインの先進性やマルチペアリングの利便性など、こだわりポイントをひとつひとつ披露して、魅力の発信に務めた。
主にデザインを担当したプロダクトマネジメント本部の藤田博之氏は「この頑固なこだわりがもっと広まってほしいという思いと、キーボードにここまでこだわる意味がこの時代にあるのかという疑問は、常に持っていて葛藤している」と胸の内を語る。
過度なこだわりは独りよがりに陥る危険をはらむが、それでもこの方が良いと思うことを形にしていった。
ノートPCはデスクトップPCのフルサイズキーボードよりも横幅が狭く、テンキーを搭載しないものが多い。特に13.3型などのモバイルではほぼないといっていい。キーピッチを確保しながら、1個ずつのキーの大きさを調節し、キーの配置もガイドラインに従いながらも、少しでも使いやすくなるように調整する。
19mmのキーピッチは小さくなりがちな小指で押すキーでも等ピッチだ。キートップは従来から好評な球面シリンドリカルキーで、かすかな凹状になっており、指先が自然にキーに吸い付いてキーを二つ同時に押してしまうようなミスを起きにくくしている。
キートップのフォントには、見やすいユニバーサルフォントを採用。ローマ字入力が一般的になっていることもあり、カナ表記を排除して見た目をすっきりさせた。
また、UH Keyboardでは、右下の方向キーが少し下にずれているのが特徴だ。Shiftキーを小指で押すときに間違えて指が引っかからないようになっている。この方向キーによって湾曲するラインは社内で「エフライン」と呼んでいる。
タッチパッドはホームポジションの起点となる中心に配置し、両手の親指が無理なく届く。バータイプのクリックボタンを搭載し、手元を見ることなく指で触れた感覚だけで操作できる。Windows PCの場合は4点マルチタッチ対応だ。
なお、使用時にキーボードの奥に高さを付けて打ちやすくするチルト(足)は、検討の結果敢えて付けなかった。そのままではどうしても打ちづらいという場合、後ろに何か挟むものを用意するだけで解決できるからだ。
「当社は大手企業にありがちな、製品をブラッシュアップしているといつの間にかてんこ盛りになっているといった、引き算の苦手なところがある。そのことを意識して、ユーザーが自分で足してなんとかなるものは一旦なくしてみようと考えた」(藤川氏)
ただし、ユーザーがどうにもできないことなくすために、敢えて残した部分もある。例えば、Bluetoothによる無線接続での利用を想定しながら、無線が使えない環境はどうしてもある。そこで逃げ道としての有線接続は可能にしようということで、USBの有線接続にも対応している。このあたりも、フィロソフィーを感じる部分だ。
PCやタブレット、スマートフォンなど、Bluetoothで最大3台までのデバイスと無線接続でき、ペアリングする機器をキー操作で切り替えられる。有線での接続も含めると最大4台までつなげられる。これらは自由な組み合わせでよく、PCだけ3台でももちろん大丈夫だ。
入力モードはA、B、Cで切り替えられる。入力モードAは、Windows 11およびWindows 10、入力モードBは、MacBook Air(M1、macOS Monterey12.2)、入力モードCは、iPad Pro第3世代(iPadOS 15.0)に対応する。入力モードCでは、Bluetooth接続時にスクロール機能は使用できず、カーソルを動かすマウスとしてのみ認識される(有線接続時はタッチパッドとして使用可能)。
「この入力モードはペアリング番号ごとに保存でき、文字配列を維持したままの入力が可能だ。特にMacとつなげる場合、記号キーがキートップに表示されているそのままの文字で入力できる。半角もそのまま使え、これは他のキーボードにはあまりない特長だと思う」とコメントするのは、ペリフェラルビジネス推進統括部の船越大聖氏だ。
Androidスマートフォンとの接続については、端末によって挙動が変わるため、一律で使えるか使えないかが回答困難な状況とのことだ。Androidスマートフォンは端末ごとにAndroid OSをどう作っているか異なるため、キーボード側ではひとつひとつに対応するのが難しいのだ。
昨今は、PCの2台持ちや、WindowsとMacの両方を使っている環境が増えている上、スマートフォンの所有率はPC以上となっている。これらを1台のキーボードで、同じ配列、同じ入力の仕方で使えるのは大きな魅力と言えるだろう。
クラウドファンディングでのフィードバックなども丁寧に分析し、今まで想定していなかったようなユーザーの使い方なども発見できたという。
今後の展開については未定としながらも、ユーザーニーズを拾いながらラインアップを広げる可能性は否定せず、タッチパッドのないものやフルサイズのものなど、改めてさまざまな検討を行っているところとのことだった。
藤川氏が指摘するように、キーボードにすべての人がベストに選ぶ「正解」はない。それでも、ノートPCの浅めのストロークが好きで、軽くて疲れにくい、打ちやすいキーボードに興味のある人は検討してみてはいかがだろうか。家電量販店のキーボード売り場を訪れてみたり、FCCLのWeb MARTで取り扱っているのでチェックしたりしてみてほしい。(ライトアンドノート・諸山泰三)
おもしろいかも?で始まった開発のコンセプト
意外と知らない人もいるのだが、PCのキーボードやマウスは標準で付属するものでなくても使うことができる。それどころか、複数のPCやスマホを1台のキーボードやマウスで共有できる。キーボードを切り離せないノートPCでも使える。今使っているキーボードでは疲れやすかったり、周囲に打鍵音がうるさいと言われたり、打ち間違えたりといったことが多い場合、自分の使いやすいキーボードに取り替えるだけで、ストレスを大きく軽減できる。キーボードは製品によって、打ちやすさや使い勝手が思いのほか異なるのだ。
「万人に理想のキーボードはない」と語るのは、FCCLでキーボード開発を指揮するペリフェラルビジネス推進統括部の藤川英之氏。藤川氏はFCCLに一人しかいない、「匠」の技術を継承する「キーボードマイスター」の称号を持つ技術者である。
手の大きさや指の長さは人それぞれな上、キーボードはデスクトップPCとノートPCでキーの大きさや押し下げる深さが異なる。人によって使いやすいと感じる好みの幅が広いので、誰が使ってもこれが一番というものが作れない。
一方で、FMVのモノづくりでは幅広いユーザー層に使ってもらうことが共通コンセプトになっている。「FMVのキーボードを作る」ということは、誰にとっても最高のキーボードが定義できないのに、「幅広いユーザーに使いやすいと思ってもらえるキーボードを作る」という二律背反を追求することなのだ。藤川氏の役目はとても難しいものだった。
藤川氏がキーボード開発の指揮を執るようになったのは2016年。「FMV Mobile Keyboard」を企画したのは21年のことだった。
実はFCCLでは、13年に持ち運びやすい約250gのタッチパッド付きキーボード「FMV-NKB4」を発売している。コンセプトは「軽い、薄い、標準レイアウト」だ。UHシリーズに搭載しているキーボードをこれと同じコンセプトで、もう少し強く打ち出せたらおもしろいのではないか?と考えたのが企画のきっかけ。それがそのまま最終コンセプトとなった。
軽量性より先に、キー入力の確実性と使いやすさがあった
タッチパッドが付いたキーボード単体の製品は、PC市場にあまりない。タッチパッドはマウスを一体化できないノートPCに搭載すべく開発されたもので、マウスに比べると、どうしても精密な操作性で劣る。このため、モバイル性に優れた小型のマウスが競合になる。だが、タッチパッドにはマウスにない優位性もある。モバイル環境においてマウスを別途持ち歩かなくて済むのはもちろん、キーボードのホームポジションから指を離すことなく操作できるというメリットがある。
こうした市場背景も踏まえ、UHシリーズからそのまま切り出すと言っても、さまざまな案が検討された。サイズを少し大きくしたり、剛性を高めたり、表面加工をおしゃれなファブリックにしてみたり。あるいは、持ち運びやすく畳めるようにしたり、タッチパッドを分離可能にしてみたり。大きなタッチパッドで作業性の最大化を図るデザインも検討した。しかし、いずれもしっくりこなかった。
UHシリーズのキーボードは、軽くても押しやすくて疲れにくく、入力ミスの少なくなるものを目指してブラッシュアップが重ねられ、使い心地の良いものに仕上がっていた。
キーが軽く、奥まで押し込まなくても、「押した」と感じたら入力できている、ちょうど良い押下圧を目指す。押し始めは重く、そのあとはすっと沈み込むメリハリのあるキーの反発感を二段階で設け、メカニカルスイッチのリニア特性に近い押下感のキー荷重を開発。それを基に今度はキーボードの中のサポートパネルを調整して、押下の底付き感を低減するべく肉抜きする。
さらに使っているうちに押下不足の自覚が出てくるようになると、今度は押した感じを出すように揺り戻すといった調整を年々図っていった。
この押しやすさとキー入力の確実性を突き詰めたことが、結果的に打鍵音の静音化と軽量化につながっていった。UHシリーズは0.1g単位の軽量化ノウハウの積み重ねが強調され、すべてが軽量化最優先で開発された印象もあるが、実はキーボードについては使いやすさを追求した結果、軽量化にもつながっていたのだそうだ。
「部品の微妙なサイズにまでこだわり、キーを押したときのキーの抜け方なども研究した。穴を開けて解析しての繰り返しだった」と、藤川氏は当時を思い返して笑う。
こうして開発したUHシリーズのキーボードは、そのまま切り出しても商品として確かな魅力を提供できると自信はあったが、それでもなかなか製品化に向けた開発には踏み出せなかった。
その一番の理由が価格だ。こだわりを凝縮して作るとどうしても安価な製品にはならない。事前のリサーチでも8割以上が「高過ぎる」と反応し、売れないだろうとの意見が多かったという。
クラウドファンディングへの挑戦に活路
なかなか開発に踏み出せない中、「いけるのではないか」と真剣に考え、クラウドファンディングの活用を検討したのが商品企画統括部の林部圭司氏だ。クラウドファンディングでは、未開発段階の製品でも、ユーザーの興味や関心をダイレクトに調べられる。「一定数以上のユーザーが注目し、欲しいと思うなら開発します」というスタイルで企画できるので、事前のマーケティングを兼ねてFMV Mobile Keyboard(当時、LIFEBOOOK UH Keyboard)を世に問うには良い手段だった。
「Webだけで売ってみてはどうかなど、販売形態をいろいろ考えてみたが、最終的にはクラウドファンディングでやってみようとなり、経営陣からも後押しがあった。当社はクラウドファンディングを利用したことがなく、まったく知見のないゼロからのスタートだった。それでも、ユーザーの反応が直接見られるのは魅力的で、ぜひ挑戦したいと意気込んだ」(林部氏)
折しも富士通のパソコン発売の40周年を記念する「FUJITSU PC 40th Anniversary」が社内で企画されており、FMV Mobile Keyboard (LIFEBOOK UH Keyboard)はその第一弾として、21年12月13日にクラウドファンディングサイトの「Green Funding」で支援募集を開始することになった。標準価格2万2000円、早割で最安1万6940円からという値付けだ。
反響は予想を遥かに上回った。リリース当日に700人以上のユーザーから支援を集め、支援額は1350万円超、目標額の272%を突破。同年12月24日の締めまでに、7726万4292円を集め、支援人数は4525人、目標額の1545%に達した。
クラウドファンディングページでは、富士通ノートPCの開発で培われたノウハウを紹介。改良を重ねたパンタグラフ構造に高レスポンスキーボード、2段階押下圧設定、前述のキースイッチ特性やサポートパネル、デザインの先進性やマルチペアリングの利便性など、こだわりポイントをひとつひとつ披露して、魅力の発信に務めた。
主にデザインを担当したプロダクトマネジメント本部の藤田博之氏は「この頑固なこだわりがもっと広まってほしいという思いと、キーボードにここまでこだわる意味がこの時代にあるのかという疑問は、常に持っていて葛藤している」と胸の内を語る。
過度なこだわりは独りよがりに陥る危険をはらむが、それでもこの方が良いと思うことを形にしていった。
ノートPCはデスクトップPCのフルサイズキーボードよりも横幅が狭く、テンキーを搭載しないものが多い。特に13.3型などのモバイルではほぼないといっていい。キーピッチを確保しながら、1個ずつのキーの大きさを調節し、キーの配置もガイドラインに従いながらも、少しでも使いやすくなるように調整する。
19mmのキーピッチは小さくなりがちな小指で押すキーでも等ピッチだ。キートップは従来から好評な球面シリンドリカルキーで、かすかな凹状になっており、指先が自然にキーに吸い付いてキーを二つ同時に押してしまうようなミスを起きにくくしている。
キートップのフォントには、見やすいユニバーサルフォントを採用。ローマ字入力が一般的になっていることもあり、カナ表記を排除して見た目をすっきりさせた。
また、UH Keyboardでは、右下の方向キーが少し下にずれているのが特徴だ。Shiftキーを小指で押すときに間違えて指が引っかからないようになっている。この方向キーによって湾曲するラインは社内で「エフライン」と呼んでいる。
タッチパッドはホームポジションの起点となる中心に配置し、両手の親指が無理なく届く。バータイプのクリックボタンを搭載し、手元を見ることなく指で触れた感覚だけで操作できる。Windows PCの場合は4点マルチタッチ対応だ。
なお、使用時にキーボードの奥に高さを付けて打ちやすくするチルト(足)は、検討の結果敢えて付けなかった。そのままではどうしても打ちづらいという場合、後ろに何か挟むものを用意するだけで解決できるからだ。
「当社は大手企業にありがちな、製品をブラッシュアップしているといつの間にかてんこ盛りになっているといった、引き算の苦手なところがある。そのことを意識して、ユーザーが自分で足してなんとかなるものは一旦なくしてみようと考えた」(藤川氏)
ただし、ユーザーがどうにもできないことなくすために、敢えて残した部分もある。例えば、Bluetoothによる無線接続での利用を想定しながら、無線が使えない環境はどうしてもある。そこで逃げ道としての有線接続は可能にしようということで、USBの有線接続にも対応している。このあたりも、フィロソフィーを感じる部分だ。
記号キーがMacでそのまま打てるマルチペアリング
FMV Mobile Keyboardは「UHシリーズから直接切り出してきた」という触れ込みが一番の“売り”だが、UHシリーズではできない、外付けキーボードならではの機能として、もう一つの“売り”になっているのが「Bluetoothによるマルチペアリング」だ。PCやタブレット、スマートフォンなど、Bluetoothで最大3台までのデバイスと無線接続でき、ペアリングする機器をキー操作で切り替えられる。有線での接続も含めると最大4台までつなげられる。これらは自由な組み合わせでよく、PCだけ3台でももちろん大丈夫だ。
入力モードはA、B、Cで切り替えられる。入力モードAは、Windows 11およびWindows 10、入力モードBは、MacBook Air(M1、macOS Monterey12.2)、入力モードCは、iPad Pro第3世代(iPadOS 15.0)に対応する。入力モードCでは、Bluetooth接続時にスクロール機能は使用できず、カーソルを動かすマウスとしてのみ認識される(有線接続時はタッチパッドとして使用可能)。
「この入力モードはペアリング番号ごとに保存でき、文字配列を維持したままの入力が可能だ。特にMacとつなげる場合、記号キーがキートップに表示されているそのままの文字で入力できる。半角もそのまま使え、これは他のキーボードにはあまりない特長だと思う」とコメントするのは、ペリフェラルビジネス推進統括部の船越大聖氏だ。
Androidスマートフォンとの接続については、端末によって挙動が変わるため、一律で使えるか使えないかが回答困難な状況とのことだ。Androidスマートフォンは端末ごとにAndroid OSをどう作っているか異なるため、キーボード側ではひとつひとつに対応するのが難しいのだ。
昨今は、PCの2台持ちや、WindowsとMacの両方を使っている環境が増えている上、スマートフォンの所有率はPC以上となっている。これらを1台のキーボードで、同じ配列、同じ入力の仕方で使えるのは大きな魅力と言えるだろう。
キーボードの進化はまだまだ続く
FCCLがこだわり抜いて作ったFMV Mobile Keyboardが一般販売を開始して一年。その間にソフトウェアのアップデートなども重ね、完成度は高まっている。例えば、当初はペアリングしているデバイスのチェックは、「Fn」+「Ctrl」キーだったが、他のショートカットキーのコンビネーションのときに影響を与える問題が見つかって修正した。クラウドファンディングでのフィードバックなども丁寧に分析し、今まで想定していなかったようなユーザーの使い方なども発見できたという。
今後の展開については未定としながらも、ユーザーニーズを拾いながらラインアップを広げる可能性は否定せず、タッチパッドのないものやフルサイズのものなど、改めてさまざまな検討を行っているところとのことだった。
藤川氏が指摘するように、キーボードにすべての人がベストに選ぶ「正解」はない。それでも、ノートPCの浅めのストロークが好きで、軽くて疲れにくい、打ちやすいキーボードに興味のある人は検討してみてはいかがだろうか。家電量販店のキーボード売り場を訪れてみたり、FCCLのWeb MARTで取り扱っているのでチェックしたりしてみてほしい。(ライトアンドノート・諸山泰三)