【木村ヒデノリのTech Magic #107】 今回から月に1度のペースでディープな撮影機材の話題をお届けすることになった。YouTubeやプロモーションで仕事として動画を撮影することも多いなかで、積み重なったテクニックを紹介できる機会をいただけて非常に光栄だ。
初回で取り上げるのは昨年秋ごろに発表され密かに話題となっていたキヤノン純正の“VRレンズ”だ。昨今メタバースが注目されているが、VRレンズでは実際の風景を遠近感のある180°の動画として収録することができる。YouTubeもネイティブで対応しており、360°/180°いずれの動画もスマホなどで手軽に見られるようになったのも普及の足がかりとなっている。
このレンズで撮影すると、左右の視差効果で奥行きが感じられる非常にリアルな動画が撮れるのが強み。例えば、キャンプでの焚き火動画を撮ったり、風景を切り取ったりと、その場にいる臨場感を配信するのにはもってこいのレンズといえるだろう。筆者もこの部分に大きな可能性を感じ、風景や瞑想のチュートリアルなどを撮影してきた。価格こそ27万5000円と高額だが、RFマウントとして加わったVRレンズの可能性の広がりを紹介したい。
価格的なメリットもある。もちろん275,000円というのは安い金額ではないが、同様のスペックの機材が70万円近く(6000ドル程度)することを考えれば手軽だ。現在このレンズはEOS R5とR5Cの2機種にしか対応していないが、8K(片目4K)での撮影が可能。これらの機種を普段動画やスチルの撮影に使っている方も多いと思うので、実質同スペック品の半額で撮影ができるようになる。加えてキヤノンのカラーサイエンスやレンズテクノロジーを享受できることを考えると、RFマウントでVRが撮れる利点は大いにあると言えるだろう。
超広角で撮るというVR動画の制約上、屋外撮影では太陽が映り込むことが多い。このため逆光によるゴーストが発生してしまう。これを避ける意味でも太陽が低い位置にある日の出や日没などの風景は敬遠されることが多かった。それが今回のDUAL FISHEYEレンズならそうした美しい時間帯の風景を太陽の位置に関係なく撮影することができる。
実際筆者が撮影している時も、特に時間帯を気にすることがなかった。普段光学性能の高いレンズに慣れてしまっていると意外と気づかない点だが、他社製のカメラではここまで性能の高いレンズを使っていないことが多い。こうした点も業界全体が盛り上がる要素になるだろう。
さらに他社では難しかったNDフィルターが使えるのもこのレンズの利点だろう。マウント部分にゼラチンフィルターホルダーがあり、ここにフィルターを差し込むことで日中の明るい屋外でも1/60くらいのシャッタースピードを維持することができる。
フィルター無しだとシャッタースピードが高速になり被写体がブレないので、噴水や車など高速で動くものが不自然に見えてしまう。これを避けながら収録するためにはどうしてもNDフィルターが必要になるが、これまでのVRカメラでは装着が難しかった。超広角レンズは魚眼レンズのように前に飛び出しており、レンズの前に装着するタイプのフィルターが付けられないからだ。DUAL FISHEYEレンズではこれをカメラと接続するマウント側に設けることで実現しており、これもこのレンズでしか享受できないメリットだ。
ただ、現状ではH.264の圧縮形式で撮影したファイルしか純正ソフトでは認識してくれないので、RFマウントを搭載したREDでの収録ファイルや、NINJA V+で収録した8K RAWファイルはMistika VRなど普段馴染みのないソフトで変換してから使わなければならない。さらに純正ソフトウェアであるEOS VR UtilityとPremiere用プラグインはAppleのM1には対応しておらず、筆者の環境ではEOS VR UtilityでH.264形式にて正距円筒図方式(エクイレクタングラー)に書き出して使うほかなかった。
このようにまだ課題はあるDUAL FISHEYEレンズだが、いずれもソフトウェアのアップデートで対応可能なので今後に大いに期待したい。特にREDのRAW形式やProRes RAW形式で収録したものが使えるようになれば、収録後補正の自由度が大きく向上する。前方180度を全て収録するVRだけに撮ってから確認したら明るすぎるといったミスも通常より起きやすい。これらをカバーできるのがRAW形式なので、ここにはぜひ対応してほしい。また折を見てVR撮影のセットアップなども紹介していくので期待してお待ちいただきたい。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。(動画配信時期は記事掲載と前後する可能性があります)
初回で取り上げるのは昨年秋ごろに発表され密かに話題となっていたキヤノン純正の“VRレンズ”だ。昨今メタバースが注目されているが、VRレンズでは実際の風景を遠近感のある180°の動画として収録することができる。YouTubeもネイティブで対応しており、360°/180°いずれの動画もスマホなどで手軽に見られるようになったのも普及の足がかりとなっている。
このレンズで撮影すると、左右の視差効果で奥行きが感じられる非常にリアルな動画が撮れるのが強み。例えば、キャンプでの焚き火動画を撮ったり、風景を切り取ったりと、その場にいる臨場感を配信するのにはもってこいのレンズといえるだろう。筆者もこの部分に大きな可能性を感じ、風景や瞑想のチュートリアルなどを撮影してきた。価格こそ27万5000円と高額だが、RFマウントとして加わったVRレンズの可能性の広がりを紹介したい。
キヤノンのRFマウントでVRが撮れるようになった意味
キヤノンがこのレンズを出してきた意味は非常に大きい。というのも、シネマカメラで有名なREDなどキヤノン以外でもRFマウントを採用する流れが存在するからだ。これまでのVR撮影ではカメラが2台・レンズも2本というセットアップが標準だったが、今回のレンズの登場でカメラ1台持っていけば普通の撮影もVR撮影もできるようになったというのは手軽に撮れるという面からもうれしい。もちろんセンサーは2分の1になってしまうので画質的には不利なのだが、持ち出す心理的障壁が下がる効果は絶大。結局撮らなかったらないのも同じなので、いつもと同じカメラ、UIで撮れるメリットは意外と大きいのだ。価格的なメリットもある。もちろん275,000円というのは安い金額ではないが、同様のスペックの機材が70万円近く(6000ドル程度)することを考えれば手軽だ。現在このレンズはEOS R5とR5Cの2機種にしか対応していないが、8K(片目4K)での撮影が可能。これらの機種を普段動画やスチルの撮影に使っている方も多いと思うので、実質同スペック品の半額で撮影ができるようになる。加えてキヤノンのカラーサイエンスやレンズテクノロジーを享受できることを考えると、RFマウントでVRが撮れる利点は大いにあると言えるだろう。
キヤノンならではの品質、DUAL FISHEYE Lレンズが提示する可能性
もう1つ大きいのは、キャノンが長年培ってきた技術でこのVRレンズを作ったという点だ。Lレンズという最上位シリーズにラインアップされたことで、光学性能は他に類を見ないクオリティに仕上がっている。特にSWCというコーティングで逆光耐性が非常に高い点が秀逸だ。超広角で撮るというVR動画の制約上、屋外撮影では太陽が映り込むことが多い。このため逆光によるゴーストが発生してしまう。これを避ける意味でも太陽が低い位置にある日の出や日没などの風景は敬遠されることが多かった。それが今回のDUAL FISHEYEレンズならそうした美しい時間帯の風景を太陽の位置に関係なく撮影することができる。
実際筆者が撮影している時も、特に時間帯を気にすることがなかった。普段光学性能の高いレンズに慣れてしまっていると意外と気づかない点だが、他社製のカメラではここまで性能の高いレンズを使っていないことが多い。こうした点も業界全体が盛り上がる要素になるだろう。
さらに他社では難しかったNDフィルターが使えるのもこのレンズの利点だろう。マウント部分にゼラチンフィルターホルダーがあり、ここにフィルターを差し込むことで日中の明るい屋外でも1/60くらいのシャッタースピードを維持することができる。
フィルター無しだとシャッタースピードが高速になり被写体がブレないので、噴水や車など高速で動くものが不自然に見えてしまう。これを避けながら収録するためにはどうしてもNDフィルターが必要になるが、これまでのVRカメラでは装着が難しかった。超広角レンズは魚眼レンズのように前に飛び出しており、レンズの前に装着するタイプのフィルターが付けられないからだ。DUAL FISHEYEレンズではこれをカメラと接続するマウント側に設けることで実現しており、これもこのレンズでしか享受できないメリットだ。
ソフトウェアの対応など今後の広がりに期待したい
撮影後のワークフローがシンプルになったのもありがたい。これまでは撮影した動画をスティッチという工程を経て編集しなければならなかったが、プラグインをインストールすればAdobe Premiereですぐに編集作業をすることができる。ただ、現状ではH.264の圧縮形式で撮影したファイルしか純正ソフトでは認識してくれないので、RFマウントを搭載したREDでの収録ファイルや、NINJA V+で収録した8K RAWファイルはMistika VRなど普段馴染みのないソフトで変換してから使わなければならない。さらに純正ソフトウェアであるEOS VR UtilityとPremiere用プラグインはAppleのM1には対応しておらず、筆者の環境ではEOS VR UtilityでH.264形式にて正距円筒図方式(エクイレクタングラー)に書き出して使うほかなかった。
このようにまだ課題はあるDUAL FISHEYEレンズだが、いずれもソフトウェアのアップデートで対応可能なので今後に大いに期待したい。特にREDのRAW形式やProRes RAW形式で収録したものが使えるようになれば、収録後補正の自由度が大きく向上する。前方180度を全て収録するVRだけに撮ってから確認したら明るすぎるといったミスも通常より起きやすい。これらをカバーできるのがRAW形式なので、ここにはぜひ対応してほしい。また折を見てVR撮影のセットアップなども紹介していくので期待してお待ちいただきたい。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。(動画配信時期は記事掲載と前後する可能性があります)