カメラ市場復活のヒントはアマチュア無線に、CP+でCIPAが出色のプレゼン

イベント

2022/02/27 18:35

 2月27日、カメラや映像機器の祭典「CP+2022」が閉幕した。昨年に続き今年もオンラインのみの開催。数多く公開されたオンラインイベントの中で今年は、CP+を主催するカメラ映像機器工業会(CIPA)が実施した「CIPAデジタルカメラ・マーケットセミナー『KING OF HOBBY 奪取宣言』」が出色だった。

 CIPA調査統計作業部会の太田学 部会長が行ったこのプレゼンテーション。特に38分23秒ごろ「本人大満足のショットをものにした(写真が撮れた)時、皆様はどうされますか?」という一言から始まる一連のストーリーが圧巻。CIPAの写真に対する強烈な思いがひしひしと伝わるものだった。太田部会長は続ける。「一つご提案があります。QSLカードです」。その後、無音の時間がおよそ1分。画面には、ドローンで撮影した海辺の家屋に取り付けられた巨大なアンテナや怪しげで大きな無線機とおぼしき機械やマイクが映し出された。
 
QSLとは無線通信で使用する略語のひとつ。「QSL?」で「確かに受信したか」との問いになり、「QSL」で「確かに受信した」との返答になる。転じて、交信したことを証し互い送りあうカードのことを「QSLカード」という

 「あっけにとられた方も多いと思います」。太田部会長は沈黙を破って説明を始めた。映っていたのはアマチュア無線局のアンテナや無線機。アマチュア無線の世界では、交信したことの証しとしてQSLカードと呼ばれるカードを交換することが多い。無線局のコールサインや交信日時、通信の状態などを書き添えて互いに送りあう。デザインは自由だ。その素材として「本人大満足のショット」を使ってみてはどうか、という提案だ。

 アマチュア無線に馴染みのある人ならピンとくる話。しかし、全く馴染みのない人にとって、QSLカードといわれても何のことだかさっぱりわからないだろう。そんな心配をよそに、太田部会長はアマチュア無線の魅力を写真やカメラの魅力になぞらえ、10分以上にわたって紹介し続けた。いかに設備を工夫して通信を成立させるかという楽しみ。見知らぬ同士でもすぐに会話が盛り上がる不思議。その「沼」の広さ深さゆえに趣味の王様と称されている。プレゼンテーションのサブタイトルにある「KING OF HOBBY」とはアマチュア無線のことだ。

 アマチュア無線でやることはいったい何なのか。電波法では「金銭上の利益のためでなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によつて行う自己訓練、通信及び技術的研究の業務をいう」と定義している。アンテナや無線機、マイク、電鍵といった機器を整え通信技術の研究にいそしむ。ゆくゆくはプロを目指して……という人はほんの一握り。逆に、月面反射通信をはじめとしたプロの無線技士は決してやらないような実験にも没頭する。法律の範囲内で誰もが純然たる趣味として自由に楽しむのがアマチュア無線だ。だからこその「KING OF HOBBY」というわけだ。
 
CP+2022の主催者プログラムとして、オンラインでプレゼンテーションをするCIPA調査統計作業部会の太田学 部会長。題字は、趣味として書き方教室に通っている太田部会長が鉛筆で書いた。まだまだ基礎の基礎の段階だが「楽しくて楽しくて」と話す

 一方写真はどうだろう。アマチュア写真家はアマチュアなりのもっと自由で深い楽しみ方があるのではないか。プロの写真家を頂点とするヒエラルキーは果たして写真を趣味とする人々にとって果たして有用なのだろうか。プロにはできない写真の楽しみ方がきっとあるはずだ。CIPAは、そのヒントをアマチュア無線に求めたように聞こえた。

 CIPAは自身のWebサイト上で、新プロジェクト「『趣味』×『写真』」をスタートさせる。その第一弾がアマチュア無線。3月1日に「『アマチュア無線』×『写真』」を始める。そこで掲載するのがQSLカード。様々なバリエーションのカードを掲載する予定だ。第二弾は「科学少年・科学少女の見た風景」、第三弾は「ひとりで…ふたりで…植物園散策」として写真を公募するという。

 それぞれの趣味にはそれぞれの広がりと深みがある。そこに寄り添うのが写真だ。さまざまな趣味には写真を使う場面が必ずある。そして、写真そのものもまた趣味としての広がりと深みがある。こうした二つの趣味が混ざり合う時、より豊かな生き方が見えてくるのではないか。プレゼンテーションを聞いていて、そう思った。

 コロナ禍でCP+は受難続きだ。コロナ元年ともいえる20年は直前に開催中止を余儀なくされ、昨年はオンラインのみの開催。今年はオンラインとパシフィコ横浜のハイブリッド開催の予定だったが、直前でリアル開催の中止を決め、昨年同様オンラインのみの開催に切り替えた。しかも、プレオープンの2月22日、早朝からのサーバー障害で、オンラインセミナーの公開時刻が午後にずれ込むというおまけつきだ。仮にコロナ禍が今年で終息するとすれば、CP+は最初から最後までフルフルで大きな影響を受けた。

 カメラ市場を取り巻く環境は依然として厳しい。CIPAの見通しでは今年もカメラの出荷台数は昨年を下回る見込み。コロナ禍が落ち着いたとしても、半導体不足の影響が続くためだ。しかし、大多数のユーザーの立場から、心から写真を楽しむ、趣味として、堂々たるアマチュアとして写真を楽しむという視点に立てば、まだまだ新たな市場が広がる可能性を秘めている。そんな示唆に富む熱のこもったプレゼンテーションは一見に値する。会期終了後も、各セミナーやプレゼンテーションは、CP+2022のページからアーカイブで見ることができる。(BCN・道越一郎)