「スペースロボットコンテスト・Real」、福島ロボットテストフィールドで開催

イベント

2021/04/07 17:35

 科学を通した人間教育・グローバル人材の育成を目指す「e-kagaku国際科学教育協会」は4月3・4日、「スペースロボットコンテスト(SRC)・Real」を福島ロボットテストフィールド(RTF)で開催した。今回で17回目を数えるSRCは、宇宙で稼働させるロボットづくりを目指す小・中・高校生などが参加するコンテスト。習熟度に合わせて四つの部門があり、「Real」部門では屋外や水中でロボットをコントロールし実戦的な課題に挑む。陸上の走行体を使った「Rover」、空中を飛ぶドローンを使った「Air」、水中に潜るドローンでデータを収集する「Water」の3カテゴリで競技を実施。与えられた課題をどれだけ達成できたか点数で競う。中学生を中心に、入門者向けカテゴリで上位の成績を収めるなどで資格を得た14人が出場した。

開会式で選手全員と審判団を集めて記念撮影

 コンテスト会場のRTFは、福島県南相馬市の復興工業団地内に位置する。世界有数のロボット研究施設だ。広さは約50ヘクタールで、東京ドームおよそ10個分。敷地内に、無人航空機用滑走路やインフラ点検用のトンネル・橋梁、水中ロボット実験エリアなどが広がる。陸・海・空のそれぞれでロボットを使った実証実験が可能だ。21の大学や研究機関、企業が入居しロボットのプロフェッショナルが日々研究を行っている。まさにその現場で、未来のロボット技術者たちがその腕を競った。
 
50ヘクタールの敷地に「陸・海・空」の実験施設を備える
福島ロボットテストフィールド

 雑草が生え小石が転がる屋外の環境で、GPSと赤外線を頼りに25m先の指定された地点まで走行体を正確に自律走行させる「Rover」カテゴリ。走行体のベースはDFRobotの「Devastator タンク型モバイルプラットフォーム」、GPSユニットは秋月電子通商の「GPS受信機キット 1PPS出力付き 『みちびき』3機受信対応」が指定されているが、それ以外は自由。一般に流通しているマイコンボードなどを組み合わせて走行体を製作する。
 
「Rover」カテゴリの走行体。ベースユニットとGPSにマイコンを搭載し自律走行ロボットを作りあげる(左)。25m先にある地点まで走行体を自律走行させる。GPSで大まかな位置を定め、最後は赤外線で位置を確定する(右)

 自律走行のためのアルゴリズムを選手自らで考案しプログラミングも行う。月面探査や被災地探索も想定した課題に6人の選手が挑んだ。優勝は、チームHUGEの神元詞結選手。安定した走行と正確な位置把握が飛び抜けて優れていた。
 
「Rover」カテゴリで優勝したチームHUGEの神元詞結選手(右)

 Ryze Technologyの小型ドローン「Tello」を使った「Air」カテゴリ。被災地で川を挟んだ向こう岸の急病人に「薬」を届け基地に帰還させるというストーリーだ。今回のコンテストで、最もリアリティのある課題だった。80gの小型ドローンだが、10g程度の荷物なら十分運ぶことができる。1人の急病人を救う薬の量を考えれば現実的な重さだ。選手は自作したジョイントを使って薬に見立てた重りをドローンに搭載。障害物を超えて10m先の指定されたエリアに重りを届け、再び障害物を超えて出発点まで戻ることができればクリアだ。
 
80gの小型ドローンに、薬に見立てた重りをぶら下げて飛ばす(左)。
選手は手前のスター地点からPCにコマンドを打ち込みながらドローンを操作する(右)

 ドローンのコントロールは、一般的なコントローラーは使わず、Wi-Fiで接続したPCで行う。言語はPythonだ。自動操縦またはリアルタイムでコマンドを打ち込みながらコントロールしなければならない。気まぐれに吹く風に悩まされながらも5人の選手が挑み、上位2人が接戦を繰り広げ、チームひとりでもワッフルの田村一梛選手が優勝した。
 
「Air」カテゴリで優勝したチームひとりでもワッフルの田村一梛選手

 水中部門の「Water」カテゴリは、深海でのデータ取得や生態系の確認、荷物の運搬などを目指し、今回初めて設定された。エントリーした選手は3人。競技では、まず水深2mの水槽に水中ドローンを沈め、水底で重りを分離して再浮上させる。この間、外部からコントロールすることはできない。ドローンに搭載した温度や圧力などのセンサーでデータを取得、最後にグラフにして解析・プレゼンするまでが競技だ。もちろん、ロボットの製作も選手自身が行う。しっかりと沈み再度浮上させるためには、浮力計算がポイントだ。
 
水没したまま浮上しない場合に備えてドローンに「命綱」をつけてプールに沈める選手も(左)。
水底で重りを切り離して浮上。この間水中の状態をセンサーで計測する(右)

 SRC全般にいえることだが、使用する筐体や部品は数千円で市販されている安価なものを使う。一部値の張る筐体は、レンタルすることも可能だ。「Water」カテゴリでは、ロボット筐体で市販のタッパーを使うことが求められ、しかも購入金額の上限が150円に設定されているのがユニークだ。電子機器の大敵「水」と戦って優勝したのは、チーム下克上の駒野生光選手。スムースな潜航・浮上ができ、取得したデータも最後のプレゼンでしっかりと披露した。このほか、ベストプレゼンテーション賞に「Water」で戦ったチームPolaris-Kの松尾和弥選手、審査員特別賞に「Rover」で戦ったチームNの佐藤心俐選手がそれぞれ選ばれた。
 
「Water」カテゴリで優勝したチーム下克上の駒野生光選手(右)

 コンテストを主催するe-kagaku国際科学教育協会の北原達正代表理事は総評で、「RTFという素晴らしい施設で実施できたこともあり、それぞれの競技で具体的なストーリーを設定した。課題はかなり難しかったと思う。しかし、しっかりとクリアする選手もいて頼もしかった。中には、1日目うまくいかず悔し涙を流しながらも2日目でしっかり挽回した選手もいた。涙を流すぐらい悔しがらなければ成長はない。一流の技術者で悔し涙を流さないものなどいないだろう。最後まであきらめずに挑んだ姿は素晴らしかった。みんな本当によく頑張った」と話した。(BCN・道越一郎)
 
コンテストの最後に総評する
e-kagaku国際科学教育協会の北原達正 代表理事