【木村ヒデノリのTech Magic #020】 天体望遠鏡というと、子供心に一度は欲しいと思ったことがあるツールなのではないだろうか。夏休みの自由研究で、天体写真を持ってくる友人を見てうらやましく思ったものだ。そんな天体観測をより身近にしてくる画期的な望遠鏡がUnistellarの「eVscope」だ。
デジタル技術と光学技術を組み合わせ、誰でも簡単に星雲の観測まで可能にしてくれる。さらにはネットワークを通じてコンピュータの分散処理の如く、各国ユーザーの観測データを集め、研究を促進させる側面も持つ。今回は所有して満足するだけでなく、研究に参加する意義も与えてくれる新しい望遠鏡を紹介したい。
また、天体を捉える際に、通常であれば本体の上についたファインダーという小さな筒を使って対象を視界に捉え、その後微調整をして観測する。これもそこそこの技術を要し、一人で観測するにはある程度の練度が必要だった。これらの手間を軽減するために自動追尾・自動導入装置を付けることも可能だが、単体で100万近い価格と、誰もが導入できるものではない。今までの天体観測はロマンの塊だったのだ。
また、センサーを用いることでスマートフォンでも画像の確認、保存が可能と、現代のスタイルにあった機能を提供している。撮影した星雲や恒星はSNSですぐにシェアできるように保存され、観測の楽しさが増す。
座標が合った段階でははっきりと天体を見ることはできない。そこで、アプリのエンハンスドビジョンボタンを押すと、短い時間(数十秒)で光を蓄積させ、独自の画像処理アルゴリズムが動き出す。結果として画像はとても鮮明で高いコントラストになり、ハイクオリティな天体観測をリアルタイムで楽しめる仕組みだ。
これにはソニーの超高感度センサーが大きく貢献しているそうで、この点も興味深い。市街地などの明るい場所でも観測できるのもメリットだ。先ほど紹介した観測写真も実は自宅のバルコニーから撮影したもの。ここまでの鮮明な撮影ができるのは驚きだった。
ただ、個人的にはきれいに見えることよりも、任意の場所に置いてスイッチを入れただけでフィールドを認識し、座標を合わせられるAFD機能(自律フィールド検出機能)に驚かされた。10秒でフィールド認識できるというのは、今までの望遠鏡からすると革命的で、頻繁に天体観測をしたくなることだろう。
アプリには観測してほしい対象のリクエストが来るようになっており、その座標の観測を世界中のユーザーがすることによって、研究が加速する仕組みになっている。まさにコンピューターの分散処理のような方法で、世界のアマチュアユーザーの集合知を役立てるという現代的なアプローチだ。天文学の分野でこうした試みがなされるのは前例がなく、ユーザー側に新しい貢献スタイルを提供する意味でも画期的といえるだろう。
重さやエンハンスドビジョンの高速化など、今後の課題がないわけではないが、従来の天体観測の常識はもはや過去のものといって差し支えのないくらい素晴らしい製品だった。セッティングも簡単なので、気候がよくなるこれからの季節、キャンプなどに持ち出して家族で楽しみたいと思う。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で1歳半の娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。
デジタル技術と光学技術を組み合わせ、誰でも簡単に星雲の観測まで可能にしてくれる。さらにはネットワークを通じてコンピュータの分散処理の如く、各国ユーザーの観測データを集め、研究を促進させる側面も持つ。今回は所有して満足するだけでなく、研究に参加する意義も与えてくれる新しい望遠鏡を紹介したい。
これまでの望遠鏡はハードルが高かった
価格が高いだけでなく、ある程度の専門技術がないと観測が難しかったのがこれまでの天体望遠鏡だ。特に遠くの天体となると見えづらく、さらに追尾も難しいなど、ハードルが高かった。そもそも天体望遠鏡には屈折式と反射式があり、それぞれに適した使い方や観測対象がある。さらにそれぞれを乗せる架台部分(三脚と望遠鏡をつなぐ部位)にも経緯台と赤道儀があり、自分の目的に応じて購入するのにも専門知識が必要だ。また、天体を捉える際に、通常であれば本体の上についたファインダーという小さな筒を使って対象を視界に捉え、その後微調整をして観測する。これもそこそこの技術を要し、一人で観測するにはある程度の練度が必要だった。これらの手間を軽減するために自動追尾・自動導入装置を付けることも可能だが、単体で100万近い価格と、誰もが導入できるものではない。今までの天体観測はロマンの塊だったのだ。
圧倒的なコストパフォーマンスで観測を身近にしてくれる望遠鏡
一方、eVscopeは今までとは全く異なるコンセプトの望遠鏡だ。仕組みは反射式に準ずるものの、スコープで直接光を見るのではなく、センサーを介して映像を見ることになる。ミラーレス一眼と同じく画像センサーを使って鏡筒で受けた光を増幅し、鮮明に観測する仕組みだ。今までは天体観測所のように鏡筒自体を大きくするしかなかったが、デジタル技術との組み合わせで「エンハンスドビジョン」と呼ばれる鮮明な観測を可能にしている。また、センサーを用いることでスマートフォンでも画像の確認、保存が可能と、現代のスタイルにあった機能を提供している。撮影した星雲や恒星はSNSですぐにシェアできるように保存され、観測の楽しさが増す。
ここまで高レベルな観測を短時間で開始できる魅力
観測を始めるまでの手軽さも特筆すべき点だ。本来は前述した高額の自動追尾・自動導入システムをつけなければ難しかった追尾や最初の座標設定が、スマートフォンからの操作で可能になる。eVscopeにはXY軸モーターが内蔵されており、スマートフォンから観測したいものを選ぶだけで自動的にその座標に移動してくれる。座標が合った段階でははっきりと天体を見ることはできない。そこで、アプリのエンハンスドビジョンボタンを押すと、短い時間(数十秒)で光を蓄積させ、独自の画像処理アルゴリズムが動き出す。結果として画像はとても鮮明で高いコントラストになり、ハイクオリティな天体観測をリアルタイムで楽しめる仕組みだ。
これにはソニーの超高感度センサーが大きく貢献しているそうで、この点も興味深い。市街地などの明るい場所でも観測できるのもメリットだ。先ほど紹介した観測写真も実は自宅のバルコニーから撮影したもの。ここまでの鮮明な撮影ができるのは驚きだった。
ただ、個人的にはきれいに見えることよりも、任意の場所に置いてスイッチを入れただけでフィールドを認識し、座標を合わせられるAFD機能(自律フィールド検出機能)に驚かされた。10秒でフィールド認識できるというのは、今までの望遠鏡からすると革命的で、頻繁に天体観測をしたくなることだろう。
科学研究にも参加できる新しいコンセプト
最後に触れたいのが天体観測をすることで実際の科学研究に貢献できるという斬新な機能だ。米国SETI研究所との協力で、eVscopeを持つ世界中の何千人ものユーザーが観測したデータを収集し、惑星の通過などの天体イベントを調査したい天文学者を支援できるのだ。アプリには観測してほしい対象のリクエストが来るようになっており、その座標の観測を世界中のユーザーがすることによって、研究が加速する仕組みになっている。まさにコンピューターの分散処理のような方法で、世界のアマチュアユーザーの集合知を役立てるという現代的なアプローチだ。天文学の分野でこうした試みがなされるのは前例がなく、ユーザー側に新しい貢献スタイルを提供する意味でも画期的といえるだろう。
重さやエンハンスドビジョンの高速化など、今後の課題がないわけではないが、従来の天体観測の常識はもはや過去のものといって差し支えのないくらい素晴らしい製品だった。セッティングも簡単なので、気候がよくなるこれからの季節、キャンプなどに持ち出して家族で楽しみたいと思う。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で1歳半の娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。