【木村ヒデノリのTech Magic #012】 手軽に音楽を聴くことができるようになった今でも、なぜかオルゴールに惹かれてしまう人は多いのではないだろうか。奏でられる音楽の複雑さに加え、機械時計に似た精工な作りにワクワクさせられてしまう。旧式でも大型のオルゴールは、曲を変えられたりバイオリンと合奏してくれたりと、古くから演奏を自動化したいというニーズはあったようだ。
最近ではオルゴール音色の音楽をスマホやスマートスピーカーで再生するのが一般的だろうが、含まれている周波数帯が違うため物理的に奏でる方式にも根強いニーズがある。しかし、小型のオルゴールは何曲も奏でることができず曲ごとに購入する必要があったり、大型のものは曲が変えられても家庭に置くには現実的ではなかった。今回、紹介する「Muro Box」はIoT技術と組み合わせることで双方のいいとこ取りをしている画期的な製品だ。
アプリから自分の好きな曲を選択するだけで再生でき、好きな曲を作曲することも可能。またスマホとの連携でアラームとしても使えるため、目覚ましや特別な日のサプライズ音楽、就寝用としても使える。アコースティックで1/f揺らぎを感じられるリッチな演奏をアプリで自由にコントロールするという新しい視点のオルゴールを紹介したいと思う。
なぜこれが問題かというと、振動から生まれる倍音(音を鳴らすとそれに共鳴して鳴り出すいくつかの高音のこと)などの成分は音質においてもっとも重要だからだ。倍音はわずかしか感知できない、もしくは可聴領域の外にあるにも関わらず、人間が「良い音」と認識することに非常に大きな影響を与えている。
オーディオシステムの一部は倍音を少なからず表現できるものの、非常に微細な振動のため、収録や再生に難があり完全再現には至っていない。つまり、生楽器の自動演奏は、倍音を発生させるという点において、高品質なオーディオを再生することよりも優位性があるわけだ。こうしたことから、アコースティックなオルゴールをIoT化し、アプリで演奏させるという発想はかなり有意義だと言えるのではないだろうか。
これに対しMuro Boxはアプリで設定したタイミングでシリンダーのツメが飛び出し弾いてくれる機構を採用している。これによってある程度の範囲で自由に作曲することができる。使える音はピアノでいう白鍵のみだが、低いドから次のド、その次のド、その上のラまで2オクターブ半以上の音域を網羅している。
通常のオルゴールが2オクターブ程度なのに対してこの音域はかなり広い。だがその範囲以上は使えないため制限があると感じる人も音楽をやっている人には多いのではないだろうか。しかし作曲する上では、実のところ制限があったほうがやりやすいことも多い。
昔の携帯電話の着信音を想像してもらうとイメージしやすいと思うが、使える音と範囲が決まっていることでなんとなく手探りでも自分の好みの曲を作れてしまうということもある。そういった意味ではこの”限定された範囲”も良い方向にはたらくのではないだろうか。
偶然だが、今流行している「あつまれ動物の森」の島のメロディも同じく白鍵しか使えず、音域も1オクターブ程度なので、素人でも逆に作曲しやすいという風になっている。同じようなイメージを持っていただければわかりやすいかと思う。
作曲はどうしてもハードルが高いという方にも使いやすいのがダウンロード機能だ。世界最大のオルゴールコミュニティ「Music Box Maniacs」と提携しているので、3万以上のオルゴールメロディを無料で楽しむことができる。
レビュー時もすぐにアプリからさまざまな曲が聴ける手軽さはとても便利に感じた。また、個人的にはスマホやネットワークとの接続が完了した効果音まで、オルゴールを使って鳴らす仕様はウィットが効いていて好みだった。
IoTガジェットで気になる、アプリと連携させた時のタイムラグなどもなく、実用的な印象を受けた。オフィシャルサイトでは朝の目覚めや仕事中のBGM、マタニティでの活用法が例として紹介されていたが、個人的には自分の作品をYouTubeなどで発表するのにも適しているなと感じた。
筆者は高校、大学と作曲を専攻してきたが、昨今の音楽業界の事情を考えてもソフトウェアで作曲してサブスクリプションで発表するのは正直割に合わない。逆にMuro Boxのような限られた音域の中で作曲するのは終着点が見えやすく、継続的に発表していけるし、オルゴールという音色の一般的な魅力からもプロにも需要があるのではないかと感じた。
現状は前述したとおり白鍵のみの対応だが、将来的には半音階も含めたプロ向けの発売も予定しているそうだ。また、今回レビューに使わせてもらったものよりも日本で発売されるタイプは音質も向上しているらしい。プロ向けの機種にはぜひバッテリー内蔵など選択肢を持たせてもらえたら筆者としてはうれしい限りだ。アコースティックな音楽を聴くことが少なくなってきた時世だからこそ、実機ならではの1/f揺らぎを伴う音楽をぜひ試してもらいたい。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で1歳半の娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
記事と連動した動画でより詳しい内容、動画でしかお伝えできない部分を紹介しています。
最近ではオルゴール音色の音楽をスマホやスマートスピーカーで再生するのが一般的だろうが、含まれている周波数帯が違うため物理的に奏でる方式にも根強いニーズがある。しかし、小型のオルゴールは何曲も奏でることができず曲ごとに購入する必要があったり、大型のものは曲が変えられても家庭に置くには現実的ではなかった。今回、紹介する「Muro Box」はIoT技術と組み合わせることで双方のいいとこ取りをしている画期的な製品だ。
アプリから自分の好きな曲を選択するだけで再生でき、好きな曲を作曲することも可能。またスマホとの連携でアラームとしても使えるため、目覚ましや特別な日のサプライズ音楽、就寝用としても使える。アコースティックで1/f揺らぎを感じられるリッチな演奏をアプリで自由にコントロールするという新しい視点のオルゴールを紹介したいと思う。
ソフトウェアでは完全再現できない生楽器の魅力
ソフトウェアで簡単にさまざまな音色が使えるようになったからか、生楽器のIoT化は意外と見落とされているところだ。しかし、いくら高価なサンプリング素材を用いても、ソフトウェアでは楽器が振動して出す音を完全再現することはできない。なぜこれが問題かというと、振動から生まれる倍音(音を鳴らすとそれに共鳴して鳴り出すいくつかの高音のこと)などの成分は音質においてもっとも重要だからだ。倍音はわずかしか感知できない、もしくは可聴領域の外にあるにも関わらず、人間が「良い音」と認識することに非常に大きな影響を与えている。
オーディオシステムの一部は倍音を少なからず表現できるものの、非常に微細な振動のため、収録や再生に難があり完全再現には至っていない。つまり、生楽器の自動演奏は、倍音を発生させるという点において、高品質なオーディオを再生することよりも優位性があるわけだ。こうしたことから、アコースティックなオルゴールをIoT化し、アプリで演奏させるという発想はかなり有意義だと言えるのではないだろうか。
アプリ連動で広がるオルゴールの可能性
実際に何ができるのかも注目すべきところだが、まずは作曲機能を見てみたい。従来の家庭用オルゴールはシリンダーに特定のツメが付いている状態のため、基本的に1台1曲というものが多いだろう。これに対しMuro Boxはアプリで設定したタイミングでシリンダーのツメが飛び出し弾いてくれる機構を採用している。これによってある程度の範囲で自由に作曲することができる。使える音はピアノでいう白鍵のみだが、低いドから次のド、その次のド、その上のラまで2オクターブ半以上の音域を網羅している。
通常のオルゴールが2オクターブ程度なのに対してこの音域はかなり広い。だがその範囲以上は使えないため制限があると感じる人も音楽をやっている人には多いのではないだろうか。しかし作曲する上では、実のところ制限があったほうがやりやすいことも多い。
昔の携帯電話の着信音を想像してもらうとイメージしやすいと思うが、使える音と範囲が決まっていることでなんとなく手探りでも自分の好みの曲を作れてしまうということもある。そういった意味ではこの”限定された範囲”も良い方向にはたらくのではないだろうか。
偶然だが、今流行している「あつまれ動物の森」の島のメロディも同じく白鍵しか使えず、音域も1オクターブ程度なので、素人でも逆に作曲しやすいという風になっている。同じようなイメージを持っていただければわかりやすいかと思う。
作曲はどうしてもハードルが高いという方にも使いやすいのがダウンロード機能だ。世界最大のオルゴールコミュニティ「Music Box Maniacs」と提携しているので、3万以上のオルゴールメロディを無料で楽しむことができる。
レビュー時もすぐにアプリからさまざまな曲が聴ける手軽さはとても便利に感じた。また、個人的にはスマホやネットワークとの接続が完了した効果音まで、オルゴールを使って鳴らす仕様はウィットが効いていて好みだった。
サプライズにも使える秀逸なアラーム機能
アラーム機能と聞くと時間を設定するだけかと思いがちだが、Muro Boxは使うシチュエーションをよく考えて設計されている。アラーム機能には再生回数の設定も含まれており、例えばサプライズでハッピーバースデーを流したい、といった際には、「楽曲を演奏する時間」を1回に指定すれば繰り返し流れ続けるといったことがない。また、子供の就寝時に使いたい時でも、開始と同時に回数を10回程度に指定しておけば、寝付くと同時に音楽も鳴り止む、といった使い方もできる。IoTガジェットで気になる、アプリと連携させた時のタイムラグなどもなく、実用的な印象を受けた。オフィシャルサイトでは朝の目覚めや仕事中のBGM、マタニティでの活用法が例として紹介されていたが、個人的には自分の作品をYouTubeなどで発表するのにも適しているなと感じた。
筆者は高校、大学と作曲を専攻してきたが、昨今の音楽業界の事情を考えてもソフトウェアで作曲してサブスクリプションで発表するのは正直割に合わない。逆にMuro Boxのような限られた音域の中で作曲するのは終着点が見えやすく、継続的に発表していけるし、オルゴールという音色の一般的な魅力からもプロにも需要があるのではないかと感じた。
現状は前述したとおり白鍵のみの対応だが、将来的には半音階も含めたプロ向けの発売も予定しているそうだ。また、今回レビューに使わせてもらったものよりも日本で発売されるタイプは音質も向上しているらしい。プロ向けの機種にはぜひバッテリー内蔵など選択肢を持たせてもらえたら筆者としてはうれしい限りだ。アコースティックな音楽を聴くことが少なくなってきた時世だからこそ、実機ならではの1/f揺らぎを伴う音楽をぜひ試してもらいたい。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
■Profile
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で1歳半の娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
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