【CP+2016】次のカメラについて、上級エンジニアがディスカッション
コーディネーター:
日本カメラ財団の市川泰憲氏
日本大学 芸術学部写真学科の甲田謙一 教授
パネラー:
オリンパス 映像開発本部の杉田幸彦 本部長
キヤノン ICP第二開発センターの塩見泰彦 所長
ソニー IP&SセクターDI事業本部 商品設計部門 中島健 副部門長
ニコン 映像事業部 開発統括部 山本哲也 開発統括部長
ますます高画素数化が進むデジタルカメラ
日本カメラ財団の市川泰憲氏(以下、市川) まず、ニコンの山本さん。このところカメラの高画素数化が進んでいますが、ニコンのD800、D800Eから4年、後継機のD810から2年。高画素数化を進めるにあたってどんなご苦労があったんでしょうか。
日本カメラ財団の市川泰憲氏
ニコン 映像事業部 開発統括部 山本哲也 開発統括部長
キヤノン 塩見泰彦 所長(以下、キヤノン 塩見) 想定以上に市場で受け入れられています。画素数だけ増やしても意味がありません。撮像素子だけでなく、レンズの性能も向上させなければなりません し、レンズのラインアップも広げる必要があります。フルサイズの高画素数機は、ワイド系のレンズは設計的には難しい。解像度や収差、光学補整なども合わせ て新化させていかないと高画質は得られません。
キヤノン ICP第二開発センターの塩見泰彦 所長
ソニー 中島健 副部門長(以下、ソニー 中島) 予想以上の反響に驚いています。やはり高解像度への期待が高いんだと思います。撮像素子だけでなく、今回発表したGマスターレンズのように、レン ズの解像度も高く、合わせてよい評価が得られてると思います。4200万画素という画素数は、感度とのバランスも重要です。特に、フルサイズという大判で 初の裏面照射素子を使うことで、入射光に対するフレキシビリティを高く保つことができました。
ソニー IP&SセクターDI事業本部 商品設計部門 中島健 副部門長
日本大学 甲田謙一 教授(以下、甲田) 実際に高画素機を使ってみて、やはり画素数はあったほうがいいと感じます。いろいろな使い方ができるからです。トリミングなど、画素数が多ければいろんなことができる。画質だけでなく、応用範囲が広がった気がします。
日本大学 芸術学部写真学科の甲田謙一 教授
オリンパス 杉田幸彦 本部長(以下、オリンパス 杉田) フィルムのPenは1959年にシリーズ化したカメラで、合計17機種1700万台作ったシリーズです。世界初のハーフサイズ一眼レフとしての、 ペンシリーズ最高峰、Pen Fは1963年の発売です。2009年に、デジタルのペンをシリーズ化しました。今回のPEN-Fは、とデジタルの最高峰としてリリースしました。ただ、 デザインを真似るだけでなく、デジタル時代の気持ちよく使え、使いやすいカメラを目指しています。
オリンパス 映像開発本部の杉田幸彦 本部長
オリンパス 杉田 PEN-Fの正面にあるクリエイティ ブダイヤルで、モノクロやカラーのプロファイルが選べる機能をつけました。例えばモノクロに合わせると、白黒のフィルムを使ってレンズにカラーフィルター 付けたような感覚で撮影できます。フィルムを選ぶような感覚で楽しんでもらうようにしたわけです。
市川 画素数が2000万画素にアップしましたが、今後は2000万画素になっていくんでしょうか。それから、ハイレゾショットは、使うのが難しいですね。
オリンパス 杉田 最終的なゴールではありませんが、 2000万画素はバランスの取れたポイントだと思います。高画素数にするには、撮像素子に画素を詰め込む方法と、複数回シャッターを切って万画素を稼ぐ方 法があります。当社ではハイレゾショットと言って、画素を半ピッチずらして8回シャッターを切り、5000万画素を実現します。特に物撮りなどでは、諧調 がゆたかになり高画素数の恩恵が得られます。
レトロな外観が目をひく、オリンパスPenシリーズのフラッグシップ、OLYMPUS PEN-F
キヤノン 塩見 2000万画素もあれば、A3ぐらいの 出力なら十分です。ただし、トリミングが前提ならそれでは足りない。遠くの被写体では、トリミングが一つの武器になりますからね。超高画素数カメラの用途 として、監視カメラやアーカイブなど産業用途があります。細かい情報が高速に一度に取得できますから。もちろんレンズもかなり特殊なものが求められます。 光学性能と合わせ、AFや手振れ補正も磨かなければ高画素数は生かせませんね。高画素数になれば、感度が落ちたりするという課題もあるので、両立させなが ら開発を進めたいと思っています。
オリンピックイヤーでフラッグシップモデル続々
市川 今年はオリンピックイヤーということもあり、ニコンからはD5、キヤノンからはEOS-1D X MarkIIが登場しました。D5はISO 328万という高感度になりましたが、特殊な技術を使ったのですか。
オリンピックイヤーに登場したISO 328万相当までの増感が可能なフラッグシップ D5
市川 ペンタックスのフルサイズ一眼、K1もISO 20万という高感度で登場しました。キヤノンは、コマ速で毎秒14コマという高速連写です。ミラーを動かしての14コマというのはかなり速いと思うのですが、これまでと変わった要素はあるんですか。
ペンタックスが満を持してリリースしたフルサイズ一眼、K1
同じくオリンピックイヤー登場の毎秒14コマ撮影可能なフラッグシップ EOS-1D X Mark II
ニコン 山本 コマ速が毎秒10コマを超えるとだいぶ違 います。動いているモノをいかにとらえ続けられるか。コマ速は被写体や絞りの条件で変動しますが、そこをいかにバランスよくまとめるかが大事です。例え ば、モータースポーツやスケートなどファインダーをのぞきながら撮り、生産性や歩留まりが高い状態で、バランスでコマ速を上げることも重要です。
市川 甲田先生、最近の学生さんにとってのフラグシップモデルというのはどんな位置づけなんでしょうか。
甲田 フラッグシップを狙う層と、小型で軽快なものを使う層と別れています。特に高速連写がモノを言う鉄道写真のようなジャンルではフラッグシップが好まれますね。ただ、大部分の学生にとっては、フラッグシップは大きくて重い、という印象が強いようです。
ミドルレンジの新製品も登場で賑わう市場
市川 ミドルレンジモデルはどうでしょう。キヤノンは80Dを出しました、ファインダー視野率が100%で、オールクロスの45点AFセンサーなど新しいと思いますが。
視野率約100%のファインダー搭載で動画機能も優れた EOS 80D
市川 D500はD300の発展形と言われていますが、従来のD7000あたりとは違う開発姿勢なんですか。内蔵ストロボをなくしたのは何か理由があるんでしょうか。
D300の後継でプロ並みの堅牢性を備える D500
市川 80Dでは、パワーズームアダプタやキットレンズに搭載されたナノUSMなど、動画志向が強まっているようですね。
キヤノン 塩見 80Dでは動画機能を充実させ、動画 HDRや動画クリエイティブフィルタなど進化させました。動画に向けたレンズ、パワーズームアダプタなどは、カメラだけでは実現しにくいものに対応できる ような機能を目指しました。ナノUSMは新規開発の超音波モーターです。駆動方向が光軸方向と同じなのが特徴で、静穏性にすぐれたズームやAFが動画撮影 に適しています。
市川 ソニーのα6300はAF性能がさらに優れたものになったようですが。
AF性能にさらに磨きをかけた α6300
進化を続けるコンパクトカメラ
市川 コンパクトデジカメのRX1 R IIは発売が延期されましたが、はやり、世界初の光学式可変ローパスフィルターの影響ですか。
ソニー 中島 そうではありません。製品としての完成度 を上げるために時間をいただきました。ただ、光学式可変ローパスフィルターは、モアレと偽色と解像感をボタン切り替えできる画期的な機能です。私自身、光 学デバイスでもそんなことができるんだ、とびっくりしました。コンパクトデジカメで究極の画質が達成できたと思います。
市川 プレミアムコンパクトといえば、ニコンもDLシリーズを出してきましたね。
ニコン 山本 撮像素子が1型のDLシリーズをリリース しました。撮像素子が1型のカメラはミラーレスのNikon1シリーズがありますが、今回はレンズ一体型です。一眼レフカメラのD系の高画質が撮れるとい う意味のDと、レンズのLでDLです。親しみやすいように、35mm換算の焦点距離をそのまま製品名としました。
ニコン初の1型センサ搭載のプレミアムコンパクト DL24-85 f/1.8-2.8
市川 それでは最後に、皆さんにとってのこれからのカメラについて一言いただけますか。
オリンパス 杉田 写真は、カメラの技術だけでなく、写真家やユーザー、そして撮れる場所、環境、出来事などが蓄積されて進化してきました。ですから、メーカーとして、カメラのラインアップは、単純なものではなく、多様化した専門性のあるものに進化していかなければならないと思います。
毎秒14コマの高速連写ができるEOS-1D X Mark IIで体操競技を試写(キヤノンブース)
ソニー 中島 カメラは、他の製品とは決定的に異なりま す。テレビはスイッチを入れればそれで動きますが、カメラはスイッチを入れただけでは何も起きません。被写体に向けてシャッターを切って、初めて意味が生 まれます。ですから、カメラメーカーの使命は、撮影時に制約があれば、それを外していくことだと思います。暗すぎて手持ちで撮れなければ、感度を上げ、撮 れるようにして制約を外すといったことです。また、クリエイティビティを刺激したい。たとえば、何百万もするカメラでしか実現できなかったスーパースロー 撮影ができるようになりました。プロしか撮れない映像が自分でも撮れるようになると、僕も撮ってみよう、となりますよね。こうしたユーザーとの共同作業を 大事にしていきたいと思います。
発表されたばかりのD5とD500でポートレート撮影を楽しむ来場者(ニコンブース)
甲田 デジタルカメラの時代であっても、愛でられるカメラ、触って楽しく、写して楽しめるカメラが欲しいですね。買ったら10年楽しめるカメラだったり、人に見せたくなるようなカメラだったり。そんなカメラをつくって欲しいと思います。
市川 本日は長時間ありがとうございました。