停滞続くインクジェットプリンタ、3社3様の新製品で巻き返しなるか

特集

2015/09/03 13:12

 キヤノン、エプソン、ブラザーと、インクジェットプリンタ上位3社の2015年新製品が出そろった。今年は例年にも増して3社それぞれが特色のある製品を打ち出している。市場は販売台数の伸び悩みが続き、販売金額は17か月連続で前年割れ。平均単価もジリ下げの状況でさえないが、新製品効果で市場を活性化できるだろうか。

特色のある今年の新作インクジェット

 PIXUS(ピクサス)ブランドでシェアトップのキヤノンは、プレミアムモデルのMG7730を筆頭にMG6930、MG5730、MG3630に加え、MG7730をベースに女性向けのカラーリングを施したMG7730Fの5機種13モデルを9月3日に発売した。新製品ではプリントをしない層を最重要ターゲットに据え販売を強化。スマホからのプリントの強化やインテリアになじむデザインを採用するなどで、プリンタの利便性向上とプリント価値の再認識を促す。特にスマホからのプリント比率が上がっていることを背景に、専用アプリ「Canon Print Inkjet」をリニューアルし使いやすさを向上させた。 
 


スマホ連携を重視するキヤノンの新ピクサス(MG7730)

 シェア2位のエプソンは、一般向けのカラリオシリーズでEP-10VA、EP-978A3、EP808A、PF-81の4機種6モデルを9月から順次発売発売、写真愛好家向けのプロセレクションシリーズでSC-PX7VIIを10月に発売する。目玉機種はカラリオシリーズでありながら、プロセレクションシリーズの出力に迫る写真画質を追求したEP-10VA。インクの配色をシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色と新たにグレーとレッドを加えた6色とし、モノクロ写真の出力を向上させたほか、赤をより鮮やかで自然に出力することを実現した。年賀状印刷に特化したPF-81では、9インチの大型液晶画面を備え、原寸大の年賀状イメージを表示しながら編集を可能にするなど、PCレスでの使い勝手を向上させた。 
 


カラリオシリーズで写真出力にこだわったEP-10VA

 最後発ながら、徐々にシェアを上げてきているのが3位のブラザーだ。PRIVIO(プリビオ)ブランドでベーシックシリーズのDCP-J963N、DCP-J762N、DCP-J562N、MFC-J880N、ネオシリーズでDCP-J4225N、MFC-J4725Nの6機種8モデルを9月下旬から順次発売する。上位2社が6色インク中心で製品展開しているのに対し、4色インクを採用しているため、印刷コストの安さを売りにしている。「インク節約モード」も備え、印刷内容によっては通常より半分のインク量でカラー印刷できる工夫も施した。 
 


ファックス機能を搭載したMFC-J880N

市場は足踏み、値下げで売り上げ維持する構図、インク構成比は7割

 現在までのメーカー別販売動向を見ると、キヤノンとエプソンの2社で販売台数シェア8割前後を占める寡占状態が続いている。8月のシェアではキヤノンが45.2%とトップで、エプソンが37.3%と続いている。この2社に割って入ろうとしているのが、最後発のブラザーで、シェアは10.8%だ。年間シェア15%が目標としているが、2桁シェアが安定的に確保できるようになってきており、年末商戦の結果しだいでは、目標に手が届きそうだ。
 


 

 税別平均単価をみると最も安いのがキヤノン。8月時点で9800円だった。エプソンが13100円、ブラザーが15400円。価格とシェアが反比例している状態で、一般向けモデルを中心に展開するキヤノンが安く、写真愛好家向けプロセレクションシリーズを擁するエプソンがやや高め、FAX機能付きモデルの構成比が過半数を占めるブラザーがもっとも高いという構造になっている。 

 インクジェットプリンタ市場をみる上で欠かせないのはインクの存在だ。プリンタ本体とインクの販売金額を合計して一つの市場としてみると、8月では実に69.1%とほぼ7割がインクの売り上げで占めている。メーカー別では、本体の販売台数が多いキヤノンが68.1ともっともインクの販売金額構成比が高い。エプソンは67.2%とやや小さい。ブラザーは56.9%で、早く本体の販売を積み上げてインクの売り上げにつなげたいところだ。 
 


 

 インクジェットプリンタ市場の現状は、機能の進化に行き詰まり感があり、デフレ状態が続いてきた。販売台数は前年を下回る場面が多く、市場は停滞気味。値下げで販売台数の落ち込みをカバーした結果、販売金額は17か月連続で前年を割れている。多くのデジタル家電で平均単価が上昇している中、インクジェットプリンタは単価下落が続いている。新規購入や買い換えを促す要素が乏しかったのがその一因だった。停滞している市場をどこまで市場を活性化できるかは、今回、上位3社がとった戦略の成否にかかっている。(BCN・道越一郎)