ソニーのPC事業売却から考えるタブレット端末拡大のインパクト

特集

2014/02/28 19:46

 現在、店頭で販売されているノートPC、デスクトップPCは、アップルのMacを除き、ほぼすべてOSとしてWindows 8.1/8を搭載している。Windows 8は、タッチパネルに最適化した新しいユーザーインターフェース(UI)を採用。最新のWindows 8.1は、ユーザーの要望を受けて、いったん廃止したスタートボタンを復活させ、より使いやすいよう、新機能の追加や変更を行った。しかし、家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、ノートPCのタッチパネル対応率は2割程度。主流はタッチパネル非対応モデルだ。

2013年、大きく伸びたタブレット端末 ノートPC・デスクトップPCは低迷



 2012年、初めてデスクトップPCとタブレット端末(※)の年間販売台数が逆転し、13年はその差がさらに拡大した。パソコン全体(ノートPC+デスクトップPC+タブレット端末)に占めるタブレットの割合は3割を超え、かつてはパソコン全体の7~8割を占めていたノートPCの販売台数構成比は6割を切った。

※マイクロソフトのSurfaceシリーズ、AmazonのKindle FireシリーズとGoogle Playなど特定の店舗・直販サイト限定販売モデルは含まない
 

2011~13年 パソコン タイプ別販売台数構成比

 
 タブレット端末の販売台数は、11年、12年、13年と、年を追うごとに増加。対してノートPCの販売台数は、11年と12年は同程度だったが、13年は前年比81.3%と急速に減少した。デスクトップPCは年々下がり、13年は前年比68.6%にとどまった。売れ行き不振だったノートPC・デスクトップPCとは対照的に、タブレット端末は前年比173.9%と、大きく伸びた。
 

2011~13年 パソコン タイプ別販売台数指数


 実際には、アップルのiPadシリーズとGoogleブランドのAndroidタブレット端末「Nexus 7」に人気が集中。13年は、アップルと「Nexus 7」や自社オリジナルの「MeMO Pad HD7」などを販売するASUSの上位2社だけでタブレット端末の総販売台数の79.6%を占め、他のメーカーのシェアは低いレベルにとどまった。ただし、Windows 8.1リリース後、ASUSやレノボなどがWindows 8.1搭載タブレット端末を発売したことで、画面サイズ別では8インチ台(8インチ以上9インチ未満)、OS別ではWindows 8.1/8のシェアが急上昇し、14年1月にはそれぞれ1割を突破するなど、それまでのトレンドに変化が生じつつある。ようやくWindows搭載タブレット端末のラインアップが増え、今後はiOS(iPad)、Android、Windows 8という三者の争いになりそうだ。
 

2013年 タブレット・画面サイズ/OS販売台数構成比


 ノートPCでは、タッチパネル対応モデルは少数派だが、タブレット端末はタッチ操作が基本。13年の年間データでノートPCとタブレット端末を合算すると、タッチパネル対応率は54.3%と、過半数になる。タブレット端末を含めれば、パソコンでもスマートフォンと同じように、指やスタイラスペンで操作する「タッチスタイル」が普及しつつあるといえるだろう。
 

2013年 ノートPC+タブレット端末のタッチパネル対応率

 

ソニーのPC事業売却はタブレット端末拡大への危機感から?



 ソニーは、2月6日、「VAIO」のブランドで展開してきたPC事業を投資ファンドの日本産業パートナーズに売却し、ソニーとしてのPC事業は14年春モデルを最後に終息すると発表した。エレクトロニクス事業の「選択と集中」を進め、モバイル分野では、今後はスマートフォンとタブレット端末に力を入れるという。この決断は、市場では衝撃的なものとして受け止められた。
 

VAIOのロゴ


 ノートPC/デスクトップPCの全般の売れ行きが低迷した理由の一つとして、タブレット端末に比べて相対的に高い「価格」が挙げられる。ノートPCの税別平均単価は、11年が約7万5000円、12年が約7万円、13年が約8万円。月によって変動はあるものの、12年10月を底に上昇傾向にある。デスクトップPCも同様で、12年10月を底に上昇している。
 

2011年1月~2014年1月 パソコン タイプ別平均単価の推移


 一方、タブレット端末の平均単価は、11年が約4万円、12年が約3万6000円、13年が約3万3000円と、この2年間はほとんど変わっていない。同一メーカーの新旧モデルを比較すると、性能の向上や円安などの影響で値上がりしているが、全体の平均単価はむしろ下がっている。ストレージ容量やCPUなどの基本性能が異なるとはいえ、ノートPC/デスクトップPCと比べると圧倒的に安い。

 直近の14年1月の税別平均単価は、ノートPCが約8万6000円、デスクトップPCが約10万9000円、タブレット端末が約3万6000円。ただし、ノートPC全体の23.1%を占めるタッチパネル対応モデルに限ると、平均単価は約11万7000円に跳ね上がる。タッチパネル非対応モデルの平均と比べると3万円以上高く、この価格差が縮まらない限り、タッチパネル対応モデルは主流になることはできないだろう。実際には、ノートPCもタブレット端末も、メーカーやスペックによって価格帯に開きがあり、型落ちやセール品・特価品なら平均よりも安い。また、店舗間の競争が激しくなると、値下がりが進む。今春は、底値だった12年秋以来の買いどきかもしれない。

 一部でいわれているように、従来のパソコンのニーズをタブレット端末が吸収しているのかは、現時点で判断するのはまだ早いだろう。ただ、ソニーがPC事業を本体から切り離した背景には、安さや手軽さを強みにしたタブレット端末の拡大や、価格の高さから思ったほど伸びないタッチパネル対応Windows 8搭載パソコンに対する危機感があったのは確かなようだ。(BCN・嵯峨野 芙美)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベース(パソコンの場合)で、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。