<家電激戦区を歩く>ネットショップ(3) 専門店のネットショップ 差異化戦略はさまざま
パソコン・関連機器に特化している専門店のネットショップと、巨大なショッピングモールをもち、さらに自ら豊富な品揃えを誇るショップを運営して市場をリードするアマゾンジャパン。共通しているのは、価格だけではない価値をお客様に提供しようとしていることだ。激安店といわれるネットショップのなかにも、ブランド力を高めることでお客様からの信頼を集めている例がある。(取材・文/佐相彰彦)
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【パソコン専門店】
パソコン専門店が運営するネットショップの強みは、商品の専門性が高いこと。家電量販店のネットショップや、幅広い商品を扱うネット専業者で扱っていないパソコン・関連製品を揃えることで、独自の客層を確保している。また、その店ならではのオリジナル商品でブランド力を高め、ファンをつくっている。
専門店のなかで、グループ会社の連携による相乗効果を狙っているのがユニットコムだ。初級者向けBTO(受注生産方式)パソコンを主力商品に据えた「パソコン工房通販ショップ」、組み立てパソコン用パーツなどを販売する「フェイス通販ショップ」を展開。最近、上級者向けBTOパソコンとパーツを販売する「TWOTOPのネットショップ」をパソコン工房通販ネットショップと統合した。パソコン工房通販ネットショップ内に「Tuned by TWO TOP」というプレミアムブランドを立ち上げ、クリエイターなどに向けてBTOパソコンを提供している。今年中には、パソコン工房通販ネットショップとフェイス通販ショップのシステムを一本化することも計画しているという。
フェイス通販ショップは、これまでパーツが売り上げの6割を占めていたが、いまはゲームユーザー向けのBTOパソコンの販売に力を入れている。担当するFT-Eコマース課の宮森秀樹課長は、「ロールプレイングゲームの『FF(ファイナルファンタジー)』をパソコンで楽しむ人が増えているので、主力商品をゲーム用BTOパソコンに切り替えた。とくにコアなゲームユーザーを獲得している」という。ここで販売しているパソコンは、50万~100万円という非常に高価なモデルが多いが、「ゲームユーザーはパソコンの価格にこだわらない人が多い」とのことで、販売は好調だ。また、BTOでの提供なので、お客様からの相談が多い。そこで、「お客様の問い合わせに24時間の電話サポートで対応している」と、ネットショップに接客の要素を取り入れてお客様を獲得。実店舗のノウハウをネットショップに生かすことで、激しい競争のなかで生き残っていく。
【ショッピングモール】
ネットショップの世界で圧倒的な存在感をもつのが、大手のショッピングモールだ。楽天の「楽天市場」やアマゾンジャパンの「Amazon.co.jp(アマゾンマーケットプレイス)」、ヤフーの「ヤフーショッピング」などがある。ネットショップの多くは、これら大手のショッピングモールに出店したほうが顧客との接点の拡大につながると考えている。そこで、家電量販店やパソコン専門店の多くは、自社サイトでの展開に加えてショッピングモールに出店している。さらにAmazon.co.jpは、自ら巨大ネットショップを運営し、確固たるポジションを確立している。
Amazon.co.jpの商品数は5000万点を超える。この数字は、例えば楽天の「1億点以上」に比べると見劣りするが、商品の重複がない数字なので、実際には楽天を超えるレベルだと思われる。デジタル機器や家電を中心に4部門を統括するハードライン事業本部の星健一統括事業本部長は、「お客様が求める商品をすべて揃えるようにしている。この品揃えと価格などのバリュー、利便性の向上に向けて取り組んでいるのが、Amazon.co.jpだ」とアピールする。
品揃えに関しては、バイヤーが展示会などを訪れ、常に最新の商品を取り扱うようにしているほか、「お客様からの声を最大限に反映する」(星統括事業本部長)と、要望があった商品に関しては、常時メーカーと仕入れ交渉を進めているという。また、オートメーション化などで流通コストを削減し、低価格を実現。利便性については、お客様の購入履歴やサイト回遊のデータを自動分析して、一人ひとりのお客様に最適な商品をお勧めしている。
さらにサービスを向上するために、商品カテゴリ(ストア)ごとに人員を配置。そのうちの4部門を統括する星統括事業本部長が「ときにはストアの枠を越え、季節をテーマにしたストアを設置するなど、お客様が購入しやすい環境を常に整えている」と語るように、お客様を満足させるためのサイトのブラッシュアップに人と資金を注ぎ込んでいる。
ネットショップとショッピングモールという二つの顔をもつAmazon.co.jpは、他社からみれば脅威に映る。しかし、星統括事業本部長は、「アマゾンマーケットプレイスに出店している家電量販店とは共存関係を維持していきたい」と、棲み分けを図る考えを示している。
【ネットショップ専業者】
常に他社より低価格での販売に力を入れている激安ネットショップでは、人的リソースを中心とした徹底的なコスト削減で価格を下げるやり方をとっているのが一般的だ。激安店の多くはネットショップの専業者。例えば、ムラウチドットコムでは、実店舗をもつムラウチ電気から独立し、ネットビジネスに特化することで低価格を実現した。実店舗の「ムラウチ」といえば、八王子市を中心とする東京・多摩地区でお客様からの信頼を獲得している老舗。そのブランド力に低価格を加えることで、お客様を増やしている。
「PCボンバー」を運営するアベルネットは、昨年11月にノジマの傘下に収まって再スタートを切った。子会社になる前は、数多くある激安店の一つに過ぎなかったが、ノジマのブランド力によって、お客様からの信頼が高まりつつある。今後、ノジマのネットショップ「ノジマオンライン」との連携などで、ビジネスが広がる可能性は十分にある。
ネットショップのほとんどは、基本的にメーカーやディストリビュータなどから商品を仕入れているが、なかには非正規ルートで仕入れて極端に安く販売している店が存在する。低価格競争について、多くの家電量販店は「どこで仕入れているかわからないネットショップが、健全な競争を乱している」と声を上げる。健全なネットショップが成長することによって、保証を含む家電・デジタル機器の信頼性が保たれることに期待したい。
■家電激戦区「ネットショップ」を歩いて
ネットショップを取り上げるにあたって、家電量販店、パソコン専門店、ネットショップ専業者の多くに取材を申し込んだが、ほとんどが「現段階で取材対応は難しい」との答えだった。「システムを強化している」「ネットビジネスの方向性を詰めている」など、理由はさまざまだが、一つだけいえるのは、実店舗の有無にかかわらず、どのネットショップも拡大を見据えて新しい取り組みを進める時期に差しかかっているということだ。今後、ネットショップがどのように成長していくのか。継続して取材する。
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年9月23日付 vol.1498より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは
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【パソコン専門店】
専門性の高い商品を売る ネット販売に接客の要素
パソコン専門店が運営するネットショップの強みは、商品の専門性が高いこと。家電量販店のネットショップや、幅広い商品を扱うネット専業者で扱っていないパソコン・関連製品を揃えることで、独自の客層を確保している。また、その店ならではのオリジナル商品でブランド力を高め、ファンをつくっている。
専門店のなかで、グループ会社の連携による相乗効果を狙っているのがユニットコムだ。初級者向けBTO(受注生産方式)パソコンを主力商品に据えた「パソコン工房通販ショップ」、組み立てパソコン用パーツなどを販売する「フェイス通販ショップ」を展開。最近、上級者向けBTOパソコンとパーツを販売する「TWOTOPのネットショップ」をパソコン工房通販ネットショップと統合した。パソコン工房通販ネットショップ内に「Tuned by TWO TOP」というプレミアムブランドを立ち上げ、クリエイターなどに向けてBTOパソコンを提供している。今年中には、パソコン工房通販ネットショップとフェイス通販ショップのシステムを一本化することも計画しているという。
フェイス通販ショップは、これまでパーツが売り上げの6割を占めていたが、いまはゲームユーザー向けのBTOパソコンの販売に力を入れている。担当するFT-Eコマース課の宮森秀樹課長は、「ロールプレイングゲームの『FF(ファイナルファンタジー)』をパソコンで楽しむ人が増えているので、主力商品をゲーム用BTOパソコンに切り替えた。とくにコアなゲームユーザーを獲得している」という。ここで販売しているパソコンは、50万~100万円という非常に高価なモデルが多いが、「ゲームユーザーはパソコンの価格にこだわらない人が多い」とのことで、販売は好調だ。また、BTOでの提供なので、お客様からの相談が多い。そこで、「お客様の問い合わせに24時間の電話サポートで対応している」と、ネットショップに接客の要素を取り入れてお客様を獲得。実店舗のノウハウをネットショップに生かすことで、激しい競争のなかで生き残っていく。
パソコン専門店のネットショップはファンを確保
【ショッピングモール】
ケタ違いの出店数と品揃えで勝負 お客様のニーズにすべて応える
ネットショップの世界で圧倒的な存在感をもつのが、大手のショッピングモールだ。楽天の「楽天市場」やアマゾンジャパンの「Amazon.co.jp(アマゾンマーケットプレイス)」、ヤフーの「ヤフーショッピング」などがある。ネットショップの多くは、これら大手のショッピングモールに出店したほうが顧客との接点の拡大につながると考えている。そこで、家電量販店やパソコン専門店の多くは、自社サイトでの展開に加えてショッピングモールに出店している。さらにAmazon.co.jpは、自ら巨大ネットショップを運営し、確固たるポジションを確立している。
Amazon.co.jpの商品数は5000万点を超える。この数字は、例えば楽天の「1億点以上」に比べると見劣りするが、商品の重複がない数字なので、実際には楽天を超えるレベルだと思われる。デジタル機器や家電を中心に4部門を統括するハードライン事業本部の星健一統括事業本部長は、「お客様が求める商品をすべて揃えるようにしている。この品揃えと価格などのバリュー、利便性の向上に向けて取り組んでいるのが、Amazon.co.jpだ」とアピールする。
品揃えに関しては、バイヤーが展示会などを訪れ、常に最新の商品を取り扱うようにしているほか、「お客様からの声を最大限に反映する」(星統括事業本部長)と、要望があった商品に関しては、常時メーカーと仕入れ交渉を進めているという。また、オートメーション化などで流通コストを削減し、低価格を実現。利便性については、お客様の購入履歴やサイト回遊のデータを自動分析して、一人ひとりのお客様に最適な商品をお勧めしている。
さらにサービスを向上するために、商品カテゴリ(ストア)ごとに人員を配置。そのうちの4部門を統括する星統括事業本部長が「ときにはストアの枠を越え、季節をテーマにしたストアを設置するなど、お客様が購入しやすい環境を常に整えている」と語るように、お客様を満足させるためのサイトのブラッシュアップに人と資金を注ぎ込んでいる。
ネットショップとショッピングモールという二つの顔をもつAmazon.co.jpは、他社からみれば脅威に映る。しかし、星統括事業本部長は、「アマゾンマーケットプレイスに出店している家電量販店とは共存関係を維持していきたい」と、棲み分けを図る考えを示している。
豊富な品揃えでさまざまな年齢層が利用するショッピングモール
【ネットショップ専業者】
低価格でいかにアピールするか 正規ルートの健全な流通を
常に他社より低価格での販売に力を入れている激安ネットショップでは、人的リソースを中心とした徹底的なコスト削減で価格を下げるやり方をとっているのが一般的だ。激安店の多くはネットショップの専業者。例えば、ムラウチドットコムでは、実店舗をもつムラウチ電気から独立し、ネットビジネスに特化することで低価格を実現した。実店舗の「ムラウチ」といえば、八王子市を中心とする東京・多摩地区でお客様からの信頼を獲得している老舗。そのブランド力に低価格を加えることで、お客様を増やしている。
「PCボンバー」を運営するアベルネットは、昨年11月にノジマの傘下に収まって再スタートを切った。子会社になる前は、数多くある激安店の一つに過ぎなかったが、ノジマのブランド力によって、お客様からの信頼が高まりつつある。今後、ノジマのネットショップ「ノジマオンライン」との連携などで、ビジネスが広がる可能性は十分にある。
ネットショップのほとんどは、基本的にメーカーやディストリビュータなどから商品を仕入れているが、なかには非正規ルートで仕入れて極端に安く販売している店が存在する。低価格競争について、多くの家電量販店は「どこで仕入れているかわからないネットショップが、健全な競争を乱している」と声を上げる。健全なネットショップが成長することによって、保証を含む家電・デジタル機器の信頼性が保たれることに期待したい。
セールを頻繁に実施している激安店
■家電激戦区「ネットショップ」を歩いて
ネットショップを取り上げるにあたって、家電量販店、パソコン専門店、ネットショップ専業者の多くに取材を申し込んだが、ほとんどが「現段階で取材対応は難しい」との答えだった。「システムを強化している」「ネットビジネスの方向性を詰めている」など、理由はさまざまだが、一つだけいえるのは、実店舗の有無にかかわらず、どのネットショップも拡大を見据えて新しい取り組みを進める時期に差しかかっているということだ。今後、ネットショップがどのように成長していくのか。継続して取材する。
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年9月23日付 vol.1498より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは