<家電激戦区を歩く>ネットショップ(1) プレーヤーの増加で競争激化 家電量販店が取り組みを強化
家電・デジタル機器市場の成熟で、家電量販店が苦戦を強いられているなかで、インターネットを通じて商品を販売するネットショップが、順調にビジネスを伸ばしている。プレーヤーが多く、競争は激化しているが、店舗運営のコストがかからないネットショップ専業者は低価格を武器にユーザーを獲得。家電量販店も、この広大な市場への取り組みを本格化し、ネット事業の拡大を図っている。(取材・文/佐相彰彦)
経済産業省によれば、2011年度(2012年3月期)のコンシューマ向け電子商取引(EC)市場は、前年度から8.6%増の約8兆5000億円だった。ほとんどの業種で前年度に比べて市場規模が拡大し、とくに小売業のうち、医薬化粧品、衣類・アクセサリ、食料品は、前年度比20%以上の伸びを示した。家電製品の販売も堅調で、家具・家庭用品、自動車・パーツなどと合わせた市場は、1兆2460億円(2.0%増)という結果だった。
EC市場が拡大するなかで、実店舗をもつ家電量販店も、ネットショップに力を入れている。量販店のなかで、ネットショップの売上規模が最も大きいといわれているのが上新電機だ。2000年に、それまでのインターネット通販サイトを大幅にリニューアルしてオープンした「Joshin web」の売り上げは、現在500億円以上に達している。
実店舗と合わせて業界売上No.1のヤマダ電機は、昨年6月、ポイントカード会員の家電購入やコミュニケーションの場として「ヤマダ電機マルチSNS」を開設。統合型プラットフォームとして、家電・デジタル機器の販売サイト「ヤマダ電機WEB.COM」をはじめ、スマートフォン向けゲームアプリサイト「ヤマダゲーム」や会員によるレビューサイト「ピーチクパーク」、ショッピングモール「ヤマダモール」などを連携。サイトを強化することによって、ネット事業で売上1000億円を目指している。
エディオンは、「エディオンネットショップ」で、将来は売上高100億円規模にする戦略を発表。店舗同様のサービスを廃止して価格戦略に特化することや、非家電商品の拡大、ネット限定商品の開発などを打ち出している。今年度(14年3月期)の売上高は、前年度の2倍にあたる60億円を見込んでいる。
ビックカメラとコジマは、実店舗でコラボレーションを進めているほか、ネットショップの連携や統合を検討。現段階では模索中で、近く具現化することを視野に入れている。
パソコン専門店は、BTO(受注生産方式)によるパソコンを武器にユーザーを獲得している。「ドスパラ通販サイト」を提供するサードウェーブ、「パソコン工房通販ショップ」「フェイス通販ショップ」を展開するユニットコムなどは、自社ブランドのパソコンや専門店以外ではなかなか手に入らないパーツなどで、売上規模の拡大を目指している。ピーシーデポコーポレーションやソフマップは、限られたスペースの店舗とは異なって、ネットショップでパソコンや組み立て用パソコンパーツを豊富に揃えることでユーザーの増加に取り組んでいる。
実店舗をもたないネットショップ専業者は、低価格をコンセプトにユーザーを増やしている。ムラウチドットコムは、2005年にムラウチから独立してネットショップに専念。店舗運営コストを削減することで、激安価格での販売を実現した。ノジマは、「PCボンバー」を展開するアベルネットを子会社化して激安家電市場に参入。PCボンバーは、神奈川県を中心にブランド力のあるノジマの傘下に収まることで、ユーザーからの信頼を高めた。
量販店のネットショップも専業者も、自ら運営するサイトだけでなく、アマゾンジャパンや楽天、ヤフーなどのプラットフォーム事業者のショッピングモールに出店し、消費者と接触する機会を増やしている。
モールを運営するこうした事業者は、出店者のテナント料で収益を得るだけでなく、例えばアマゾンジャパンは自社でも在庫を確保して、豊富な品揃えと激安店に負けない価格、また徹底的な顧客管理で他のネットショップを脅かす存在になっている。
現在の家電・デジタル機器のネット市場は、実店舗をもつ家電量販店とパソコン専門店のネットショップ、ネットショップ専業者が、激しい競争を繰り広げている状況。そして専業者のほとんどは、商品を展示する実店舗のようなコストがかからない点で、パソコンやデジタル機器・白物家電だけでなく、理美容品や自転車など、取扱い商品のバリエーションを広げて、ネットショップの売り上げの拡大を目指している。
家電量販店のコンサルティングを手がけるクロスの得平司代表取締役は、「メーカーの直販サイトを含めると、ネットショップは、メーカー、店舗をもつパソコン専門店と家電量販店、ショッピングモール事業者、低価格を追求した激安店があり、競争が激しくなっている」と説明する。競争の火つけ役は激安店だが、「激安店が販売している商品のなかには仕入先が不明なものもあって、消費者は不安を抱きながら購入している側面があった。家電量販店の本格参入は、そのブランド力で、ネットショップで購入する商品の信頼を高める効果がある」としている。
実際に、家電量販店のネット事業は2ケタ成長のところが多い。ネットショップの世界でも勢力を伸ばしていけば、健全な競争になるのではないか」と捉えている。店舗をもっていることを強みに、「ネットから店舗への来店などにつなげるO2O(オンライン・トゥー・オフライン)戦略によって、専業者がまねのできない価値を提供することが必要」と訴える。
今後は、ウェブサイトやスマートフォンなどのデジタルと実店舗に無数の顧客接点を設けて、デジタルとリアルを融合しながら顧客満足を実現する「オムニチャネル」が重要になってくるという。「顧客情報をはじめとするビッグデータを駆使すれば、新たなビジネスチャンスを創造できるだろう」という。
また、「他社では売っていない商品がポイント」と、ネット事業の拡大にはPB(プライベートブランド)の充実が不可欠だとして、「自社ならではの影響力のある商品・サービスを提供していかなければならない」と示唆した。
→ネットショップ(2)に続く(2013年9月25日掲載)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年9月9日付 vol.1496より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは
[画像をクリックすると拡大表示します]
ネットに力を入れ始めた家電量販店
経済産業省によれば、2011年度(2012年3月期)のコンシューマ向け電子商取引(EC)市場は、前年度から8.6%増の約8兆5000億円だった。ほとんどの業種で前年度に比べて市場規模が拡大し、とくに小売業のうち、医薬化粧品、衣類・アクセサリ、食料品は、前年度比20%以上の伸びを示した。家電製品の販売も堅調で、家具・家庭用品、自動車・パーツなどと合わせた市場は、1兆2460億円(2.0%増)という結果だった。
EC市場が拡大するなかで、実店舗をもつ家電量販店も、ネットショップに力を入れている。量販店のなかで、ネットショップの売上規模が最も大きいといわれているのが上新電機だ。2000年に、それまでのインターネット通販サイトを大幅にリニューアルしてオープンした「Joshin web」の売り上げは、現在500億円以上に達している。
実店舗と合わせて業界売上No.1のヤマダ電機は、昨年6月、ポイントカード会員の家電購入やコミュニケーションの場として「ヤマダ電機マルチSNS」を開設。統合型プラットフォームとして、家電・デジタル機器の販売サイト「ヤマダ電機WEB.COM」をはじめ、スマートフォン向けゲームアプリサイト「ヤマダゲーム」や会員によるレビューサイト「ピーチクパーク」、ショッピングモール「ヤマダモール」などを連携。サイトを強化することによって、ネット事業で売上1000億円を目指している。
エディオンは、「エディオンネットショップ」で、将来は売上高100億円規模にする戦略を発表。店舗同様のサービスを廃止して価格戦略に特化することや、非家電商品の拡大、ネット限定商品の開発などを打ち出している。今年度(14年3月期)の売上高は、前年度の2倍にあたる60億円を見込んでいる。
ビックカメラとコジマは、実店舗でコラボレーションを進めているほか、ネットショップの連携や統合を検討。現段階では模索中で、近く具現化することを視野に入れている。
パソコン専門店は、BTO(受注生産方式)によるパソコンを武器にユーザーを獲得している。「ドスパラ通販サイト」を提供するサードウェーブ、「パソコン工房通販ショップ」「フェイス通販ショップ」を展開するユニットコムなどは、自社ブランドのパソコンや専門店以外ではなかなか手に入らないパーツなどで、売上規模の拡大を目指している。ピーシーデポコーポレーションやソフマップは、限られたスペースの店舗とは異なって、ネットショップでパソコンや組み立て用パソコンパーツを豊富に揃えることでユーザーの増加に取り組んでいる。
価格重視のネットショップ専業者
実店舗をもたないネットショップ専業者は、低価格をコンセプトにユーザーを増やしている。ムラウチドットコムは、2005年にムラウチから独立してネットショップに専念。店舗運営コストを削減することで、激安価格での販売を実現した。ノジマは、「PCボンバー」を展開するアベルネットを子会社化して激安家電市場に参入。PCボンバーは、神奈川県を中心にブランド力のあるノジマの傘下に収まることで、ユーザーからの信頼を高めた。
量販店のネットショップも専業者も、自ら運営するサイトだけでなく、アマゾンジャパンや楽天、ヤフーなどのプラットフォーム事業者のショッピングモールに出店し、消費者と接触する機会を増やしている。
モールを運営するこうした事業者は、出店者のテナント料で収益を得るだけでなく、例えばアマゾンジャパンは自社でも在庫を確保して、豊富な品揃えと激安店に負けない価格、また徹底的な顧客管理で他のネットショップを脅かす存在になっている。
現在の家電・デジタル機器のネット市場は、実店舗をもつ家電量販店とパソコン専門店のネットショップ、ネットショップ専業者が、激しい競争を繰り広げている状況。そして専業者のほとんどは、商品を展示する実店舗のようなコストがかからない点で、パソコンやデジタル機器・白物家電だけでなく、理美容品や自転車など、取扱い商品のバリエーションを広げて、ネットショップの売り上げの拡大を目指している。
価格以外の価値を提供 家電量販店の取り組みに期待 ――クロス 得平司代表取締役
家電量販店のコンサルティングを手がけるクロスの得平司代表取締役は、「メーカーの直販サイトを含めると、ネットショップは、メーカー、店舗をもつパソコン専門店と家電量販店、ショッピングモール事業者、低価格を追求した激安店があり、競争が激しくなっている」と説明する。競争の火つけ役は激安店だが、「激安店が販売している商品のなかには仕入先が不明なものもあって、消費者は不安を抱きながら購入している側面があった。家電量販店の本格参入は、そのブランド力で、ネットショップで購入する商品の信頼を高める効果がある」としている。
実際に、家電量販店のネット事業は2ケタ成長のところが多い。ネットショップの世界でも勢力を伸ばしていけば、健全な競争になるのではないか」と捉えている。店舗をもっていることを強みに、「ネットから店舗への来店などにつなげるO2O(オンライン・トゥー・オフライン)戦略によって、専業者がまねのできない価値を提供することが必要」と訴える。
今後は、ウェブサイトやスマートフォンなどのデジタルと実店舗に無数の顧客接点を設けて、デジタルとリアルを融合しながら顧客満足を実現する「オムニチャネル」が重要になってくるという。「顧客情報をはじめとするビッグデータを駆使すれば、新たなビジネスチャンスを創造できるだろう」という。
また、「他社では売っていない商品がポイント」と、ネット事業の拡大にはPB(プライベートブランド)の充実が不可欠だとして、「自社ならではの影響力のある商品・サービスを提供していかなければならない」と示唆した。
→ネットショップ(2)に続く(2013年9月25日掲載)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年9月9日付 vol.1496より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは