<家電激戦区を歩く>大阪・大阪市(3) キーワードは「心をつかむ」 好かれる人材で固定客を確保
価格と人情を重んじるお客様が多い大阪で、家電量販店やパソコン専門店が掲げるキーワードは、お客様の「心をつかむ」こと。そのために、各店は巧みな商品説明と接客、さらにデータにもとづいた顧客対応や他店には真似できないサポートなどによって差異化を図っている。大阪は、全国の量販店のなかでも、お客様とのコミュニケーションに重きを置く人材の育成に力を入れている地域だといえる。(取材・文/佐相彰彦)
→大阪・大阪市(1)から読む
<接客・サービス>
大阪市には、全国に展開する家電量販店の旗艦店が多い。これらの店長や副店長は、大阪の土地柄を知り尽くしている。二大繁華街の一つ、キタにあるヨドバシカメラマルチメディア梅田は、今年1月中旬、濱田光太氏を副店長に抜擢した。大阪出身で、「学生の頃は、客としてよくマルチメディア梅田に通っていた」という。入社してから副店長になるまでは、白物家電関連を担当。高齢者やファミリーなど、近隣に住むお客様を中心に接客にあたった。生まれ育った大阪で、これまでの自身の経験を生かして、マネジメントの立場からマルチメディア梅田を成長へと導く。
もう一つの繁華街、ミナミに店を構えるヤマダ電機LABI1なんばの築田啓司副店長は、今の役職に就いてから約4年。これまで、堺市や和歌山など、関西の店舗を中心に経験を積んできた。「LABI1なんばには、和歌山や奈良のお客様も来店されるので、以前の経験が役に立っている」という。
浪速区日本橋の電気街、でんでんタウンにある上新電機J&Pテクノランドの川井彰店長は、昨年10月に店長に就任したばかり。ただし、4年前にも店長を務めていたので、復帰という格好だ。本社で商品の仕入れを担当した経験もあり、入社してから約25年間、すべてパソコンを中心にデジタル機器に携わってきたベテランで、関連する商品のすべての特徴が頭のなかに入っている。「知識がなければお客様に適した商品を提案できない」ということをモットーに、売れ筋商品はもちろん、他店では扱っていない商品をお客様にお勧めしている。
同じくでんでんタウンにあるパソコン工房本店は、日本橋を振り出しに、岸和田、京都、神戸、姫路などの店舗での経験をもつ中原聡店長が約5年前から率いている。「最初に日本橋に勤務したのはバブルの時期。電気街の全盛期だった。しかし5年前に戻ってきたときには、がらりと変わっていた」。それからも街は変化を続け、「最近は、アニメ色がどんどん強くなっている」という。そんな街のなかで、パソコン工房本店は、パソコン専門店をめあてに訪れるお客様の期待を裏切らない品揃えと接客で、多くのお客様を獲得している。
でんでんタウンのパソコン専門店、ドスパラなんば店の早稲本誠人副店長は、10年以上同店に勤務し、2年前に副店長に就いた。「でんでんタウンのお客様の層は変わったが、逆に考えれば、新しい層をお客様として獲得できるということ」。そう考えて、自社ブランドのパソコンで中級者向けのラインアップを強化したり、スマートフォンの取り扱いを始めたりなど、新たな客層の掘り起こしに動いている。
大阪には、値引きの文化が根づいている。お客様と店舗スタッフが交渉する姿は、日常よく見かける光景だ。そんなお客様は、まず「これ、なんぼ?」など口火を切るわけだが、実はこれは価格交渉だけを求めているのではない。お客様の多くは、スタッフとのコミュニケーションを楽しんでいるのだ。そのお客様の気持ちを汲み取って、お客様から好かれるようになり、何度も足を運んでもらえる固定客になってもらうこと。すなわち、お客様に店舗の、そしてスタッフのファンになってもらう接客がカギを握ることになる。
J&Pテクノランドでは、「すべてのスタッフが、個人の『お得意様(ファン)』を確保している」(川井店長)と自信をみせる。お得意様の数はスタッフによって異なるが、基本的には「1スタッフあたり2ケタはいる」とのことだ。ファンになってもらう手法はスタッフによってさまざま。ときには初めて来店したお客様に対して「今回は特別に」と安く販売して、次回の来店に期待する手法も使う。
マルチメディア梅田では、定評のあるPOPとデモなど楽しませるコーナーづくりを後押しするように、各スタッフによる「お客様目線のわかりやすい説明を徹底的に行う」(濱田副店長)ことによって売り上げを伸ばしている。2万㎡の売り場にあるさまざまなコーナーのスタッフは、一つのコーナーを長く担当するケースが多い。「一つの製品カテゴリに習熟したら、それに関連するコーナーに行くなど、接客の幅を広げる教育を実施している」と、スペシャリストによる的確な接客でお客様の心をつかんでいる。
LABI1なんばの築田副店長は、「高齢者への接客が大切」と考えている。それは、「いかにていねいに、しっかりと説明できるかどうかが問われる」から。高齢者のお客様は近隣に住んでいる。「暇なときにはいつでも当店にお越しいただき、スタッフを話し相手にしていただく」ことで、店のファンを確保している。
家電量販店やパソコン専門店が口を揃えていうのは、大阪では購入時の特典やアフターサービスなどを重視するお客様が多いということ。各店とも、お客様がメリットを意識するサポートやサービスの提供に心を砕いている。
マルチメディア梅田では、ポイントカード会員の獲得に力を注いでおり、会員登録数は全国の店舗のなかでも群を抜いている。具体的な1日あたりの会員登録数は明らかにしていないが、「新規で購入されたお客様のほとんどが会員になってくださる」(濱田副店長)という。お客様にとっては、会員になればポイント還元による割引が受けられるほか、希望すればメールなどで有益な情報が得られる。店舗にとっては、購入履歴をもとに、最適な商品を提案できるようになる。マルチメディア梅田では、ポイントカードによる管理によって顧客満足度を高めているのだ。
パソコン工房本店は、「他店で購入したパソコンでも受けつける修理が好調」(中原副店長)という。依頼の多くは他店で対応できなかった案件で、パソコンのスキルが高いスタッフが、どんな修理に関しても対応する。「修理したほうが本体を購入するよりも高くつく場合は、修理しないものもある。そのときは自社ブランドパソコンを提案している」という。修理をきっかけに、初めてパソコン工房に来店したお客様の多くが同社のパソコンの安さに驚くそうで、「修理に比例するように、パソコンの販売も増えている」と自信をみせる。
→大阪・大阪市(4)に続く(2013年4月8日掲載)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年3月25日付 vol.1474より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは
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<接客・サービス>
街を知り尽くす人材を幹部に 長年の経験を生かした店づくり
大阪市には、全国に展開する家電量販店の旗艦店が多い。これらの店長や副店長は、大阪の土地柄を知り尽くしている。二大繁華街の一つ、キタにあるヨドバシカメラマルチメディア梅田は、今年1月中旬、濱田光太氏を副店長に抜擢した。大阪出身で、「学生の頃は、客としてよくマルチメディア梅田に通っていた」という。入社してから副店長になるまでは、白物家電関連を担当。高齢者やファミリーなど、近隣に住むお客様を中心に接客にあたった。生まれ育った大阪で、これまでの自身の経験を生かして、マネジメントの立場からマルチメディア梅田を成長へと導く。
もう一つの繁華街、ミナミに店を構えるヤマダ電機LABI1なんばの築田啓司副店長は、今の役職に就いてから約4年。これまで、堺市や和歌山など、関西の店舗を中心に経験を積んできた。「LABI1なんばには、和歌山や奈良のお客様も来店されるので、以前の経験が役に立っている」という。
浪速区日本橋の電気街、でんでんタウンにある上新電機J&Pテクノランドの川井彰店長は、昨年10月に店長に就任したばかり。ただし、4年前にも店長を務めていたので、復帰という格好だ。本社で商品の仕入れを担当した経験もあり、入社してから約25年間、すべてパソコンを中心にデジタル機器に携わってきたベテランで、関連する商品のすべての特徴が頭のなかに入っている。「知識がなければお客様に適した商品を提案できない」ということをモットーに、売れ筋商品はもちろん、他店では扱っていない商品をお客様にお勧めしている。
同じくでんでんタウンにあるパソコン工房本店は、日本橋を振り出しに、岸和田、京都、神戸、姫路などの店舗での経験をもつ中原聡店長が約5年前から率いている。「最初に日本橋に勤務したのはバブルの時期。電気街の全盛期だった。しかし5年前に戻ってきたときには、がらりと変わっていた」。それからも街は変化を続け、「最近は、アニメ色がどんどん強くなっている」という。そんな街のなかで、パソコン工房本店は、パソコン専門店をめあてに訪れるお客様の期待を裏切らない品揃えと接客で、多くのお客様を獲得している。
でんでんタウンのパソコン専門店、ドスパラなんば店の早稲本誠人副店長は、10年以上同店に勤務し、2年前に副店長に就いた。「でんでんタウンのお客様の層は変わったが、逆に考えれば、新しい層をお客様として獲得できるということ」。そう考えて、自社ブランドのパソコンで中級者向けのラインアップを強化したり、スマートフォンの取り扱いを始めたりなど、新たな客層の掘り起こしに動いている。
【接客】お客様を「ファン」に育てる コミュニケーションがカギに
大阪には、値引きの文化が根づいている。お客様と店舗スタッフが交渉する姿は、日常よく見かける光景だ。そんなお客様は、まず「これ、なんぼ?」など口火を切るわけだが、実はこれは価格交渉だけを求めているのではない。お客様の多くは、スタッフとのコミュニケーションを楽しんでいるのだ。そのお客様の気持ちを汲み取って、お客様から好かれるようになり、何度も足を運んでもらえる固定客になってもらうこと。すなわち、お客様に店舗の、そしてスタッフのファンになってもらう接客がカギを握ることになる。
J&Pテクノランドでは、「すべてのスタッフが、個人の『お得意様(ファン)』を確保している」(川井店長)と自信をみせる。お得意様の数はスタッフによって異なるが、基本的には「1スタッフあたり2ケタはいる」とのことだ。ファンになってもらう手法はスタッフによってさまざま。ときには初めて来店したお客様に対して「今回は特別に」と安く販売して、次回の来店に期待する手法も使う。
J&Pテクノランドでは、すべてのお客様が「お得意様」
マルチメディア梅田では、定評のあるPOPとデモなど楽しませるコーナーづくりを後押しするように、各スタッフによる「お客様目線のわかりやすい説明を徹底的に行う」(濱田副店長)ことによって売り上げを伸ばしている。2万㎡の売り場にあるさまざまなコーナーのスタッフは、一つのコーナーを長く担当するケースが多い。「一つの製品カテゴリに習熟したら、それに関連するコーナーに行くなど、接客の幅を広げる教育を実施している」と、スペシャリストによる的確な接客でお客様の心をつかんでいる。
LABI1なんばの築田副店長は、「高齢者への接客が大切」と考えている。それは、「いかにていねいに、しっかりと説明できるかどうかが問われる」から。高齢者のお客様は近隣に住んでいる。「暇なときにはいつでも当店にお越しいただき、スタッフを話し相手にしていただく」ことで、店のファンを確保している。
午前中には高齢者が多いというLABI1なんば
【サポート・サービス】ポイント会員でサービスを向上 修理コーナーでトラブルを解決
家電量販店やパソコン専門店が口を揃えていうのは、大阪では購入時の特典やアフターサービスなどを重視するお客様が多いということ。各店とも、お客様がメリットを意識するサポートやサービスの提供に心を砕いている。
マルチメディア梅田では、ポイントカード会員の獲得に力を注いでおり、会員登録数は全国の店舗のなかでも群を抜いている。具体的な1日あたりの会員登録数は明らかにしていないが、「新規で購入されたお客様のほとんどが会員になってくださる」(濱田副店長)という。お客様にとっては、会員になればポイント還元による割引が受けられるほか、希望すればメールなどで有益な情報が得られる。店舗にとっては、購入履歴をもとに、最適な商品を提案できるようになる。マルチメディア梅田では、ポイントカードによる管理によって顧客満足度を高めているのだ。
マルチメディア梅田では初めて購入するお客様のほとんどがポイントカード会員になる
パソコン工房本店は、「他店で購入したパソコンでも受けつける修理が好調」(中原副店長)という。依頼の多くは他店で対応できなかった案件で、パソコンのスキルが高いスタッフが、どんな修理に関しても対応する。「修理したほうが本体を購入するよりも高くつく場合は、修理しないものもある。そのときは自社ブランドパソコンを提案している」という。修理をきっかけに、初めてパソコン工房に来店したお客様の多くが同社のパソコンの安さに驚くそうで、「修理に比例するように、パソコンの販売も増えている」と自信をみせる。
パソコン工房本店の修理は評価が高い
→大阪・大阪市(4)に続く(2013年4月8日掲載)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年3月25日付 vol.1474より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは