<家電激戦区を歩く>福岡・福岡市(3) 常連客との信頼関係を築くコミュニケーション向上がカギ
家電量販店やパソコン専門店が力を注いでいるのは、リピート率の向上だ。他地区に比べると、福岡市内の店舗は常連客との信頼関係を築くことに熱心なようだ。これに加えて、JR博多駅前周辺の店舗は、新規客獲得の体制や策も講じている。より高い商品知識を習得するための教育や、独自の修理スキルを磨くなど、お客様の信頼を獲得する活動に余念がない。(取材・文/佐相彰彦)
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<接客・サービス>
地元住民が中心客層の郊外店は、いかにお客様と信頼関係を築くかがポイントになる。その意味で、ヤマダ電機テックランド博多本店の五十川総寿店長の存在は大きい。ここで副店長として2年、店長として6年、合わせて8年働き、地元住民の信頼を集めている。近隣の競合店でも五十川店長ほどの古株はいない。五十川店長は、「お客様のなかには、『まだいたの?』『いつまでいるの?』などと冗談を言ってくる方もいる」と笑う。気軽に日常の会話を交わすスタッフがいるから、テックランド博多本店は多くのリピーターを確保しているのだ。五十川店長は、博多本店の前はテックランド北九州八幡店の店長を務め、県内で10年以上の経験をもつ。
テックランド博多本店のスタッフは約80人。これまで商品や分野ごとに専門を決めて知識を習得してきたが、「商品を横断する提案が必要になってきた。今は、各スタッフが担当するコーナーを定期的に変え、広い分野の商品知識をもつように育てている」という。お客様とのコミュニケーションが密になっただけでなく、「スタッフ間の横のつながりが強まった」という副次的な効果も出ている。
ドスパラ博多店の木村和馬店長は、東京のドスパラ新宿店でコンシェルジュを務め、ラウンダーとして都内の店舗を回った経験をもつ。昨年7月に赴任したばかりの新店長の役割は、新たな客層に対応すること。JR博多駅周辺の活性化によって、これまで法人顧客が中心だった博多店に、ファミリーなど新たなお客様が来店するようになった。木村店長は、「コンシェルジュやラウンダーというポジションで学んだのは、専門用語を使わずにわかりやすく説明するということ。パソコン上級者が来店するという専門店の敷居を低くして、一般のお客様が気軽に来店できるような環境づくりに力を注いでいる」という。
一方、法人顧客については、古くから勤務する吉澤規宏副店長を責任者に据えている。総勢6人のスタッフが、既存のお客様への対応を維持しながら、新規のお客様をリピーターとして確保する体制を整えている。
ビックカメラ天神1号館は、西鉄天神(福岡)駅のガード下に細長いレイアウトで、店内をA(デジタルカメラ・スマートフォン・タブレット端末)、B(パソコン・関連商品)、C(スポーツ用品など)の3ブロックに分けている。各ブロックのスタッフは、担当商品の知識を専門的に習得している。しかし、お客様がブロックをまたいで商品を購入するケースがあることから、幅広い商品知識をもつスタッフも置いている。こうしたスタッフの一人が、Aブロックでカメラを担当する中村篤思主任だ。中村主任は、「例えば、デジタルカメラの画像を編集したいというお客様には、パソコンの買い替えをおすすめする。さまざまな商品知識をもつことで、お客様が購入を納得してくださる」という。中村主任は、スマートフォンやタブレット端末の知識も豊富で、お客様のレベルに合わせてデジタルカメラとスマートフォンとの撮影方法の違いなどを説明している。
接客
ヤマダ電機テックランド博多本店のスタッフは、平均年齢が20代後半と若く、「ベテランとはいえない」(五十川店長)が、「小手先のトークではなく、元気一杯に、わかることは一生懸命に伝えて、わからない時は素直に謝ることができる人材が揃っている」という。また、さまざまな商品の知識を習得する教育に切り替えたことで各スタッフの説明スキルが向上し、お客様とのコミュニケーションも日に日に深まっている。
テックランド博多本店が、お客様とのコミュニケーションに力を入れているのは、近隣の他店よりも長い1998年のオープンで、すでに地元住民から高い信頼を得ているからだ。五十川店長は、「スタッフがお客様のお子さんと同年代の場合もある。スタッフが偉そうに商品知識をアピールしたり、客単価を高めるために上位機種をすすめたりするようでは、せっかくここまで培ってきたお客様の信頼を失ってしまう。それぞれのお客様にとってどれが最適な商品なのかを考え、素直な気持ちで接することが大切だ」という。このような接客で、結果として、お客様が価格で選ぶのではなく、自分のライフスタイルに合った商品を選ぶことで、客単価が上がることもあるようだ。
長い接客時間で、確実にお客様の求めるパソコンを提供しているのが、ドスパラ博多店だ。自社ブランドの「Galleria(ガレリア)」はBTOパソコン。お客様の使い方に合ったパーツと仕様に組み上げて販売する。「当店で購入したパソコンを、お客様が『今までで最高』と言ってくださるのが何よりもうれしい」と、木村店長はいう。コミュニケーションの時間が長ければお客様との距離が縮まり、リピーターとして次の来店が期待できるのだ。
サポート・サービス
「パソコンが動かなくなったが、故障なのか、寿命なのかがわからない」というパソコンユーザーは多い。こうした層に向けて的確なサポートサービスを提供しているのが、ドスパラ博多店だ。全国の店舗で提供している500円の簡易診断「ワンコイン診断」でパソコンの状態を調べてから、修理に取り組むことでお客様の信頼を得ている。メーカー製など他店で購入したパソコンの修理にも対応し、お客様から要望があれば、どんな状態のパソコンでも店舗で確実に修理する。店舗スタッフが修理を担当するので、修理後に故障した原因を細かく説明して、さらには対策も教えている。木村店長は、「多くのお客様が当店に修理を任せてくださる」と笑顔をみせる。
もちろん、修理代が新品パソコンよりも高くなる場合は、「ガレリア」を提案している。お客様は、きちんと故障の原因を把握したうえで、納得して購入するので、結果として満足度は高くなる。ドスパラ博多店は、パソコンの売上高が前年の1.5倍のペースで伸びているが、この修理対応が大きく貢献しているという。また、修理すれば直るが、中古として買い取ることができるものについては、「買取価格を元手に『ガレリア』を安く購入することも提案している」(木村店長)という。 ドスパラ博多店は、JR博多駅前のヨドバシカメラマルチメディア博多や、天神地区のベスト電器福岡本店など、大手家電量販店に比べれば、「店舗の規模や商品数、知名度では劣っている」(木村店長)のは否定できない。しかし、「サポートでは他店には絶対に負けない」というコンセプトを掲げ、これを最大の強みにして着実にお客様を増やしているのだ。
→福岡・福岡市(4)に続く(2013年2月12日掲載)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年1月28日付 vol.1466より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは
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<接客・サービス>
地元住民から信頼される存在 カテゴリ横断の商品知識を習得
地元住民が中心客層の郊外店は、いかにお客様と信頼関係を築くかがポイントになる。その意味で、ヤマダ電機テックランド博多本店の五十川総寿店長の存在は大きい。ここで副店長として2年、店長として6年、合わせて8年働き、地元住民の信頼を集めている。近隣の競合店でも五十川店長ほどの古株はいない。五十川店長は、「お客様のなかには、『まだいたの?』『いつまでいるの?』などと冗談を言ってくる方もいる」と笑う。気軽に日常の会話を交わすスタッフがいるから、テックランド博多本店は多くのリピーターを確保しているのだ。五十川店長は、博多本店の前はテックランド北九州八幡店の店長を務め、県内で10年以上の経験をもつ。
テックランド博多本店のスタッフは約80人。これまで商品や分野ごとに専門を決めて知識を習得してきたが、「商品を横断する提案が必要になってきた。今は、各スタッフが担当するコーナーを定期的に変え、広い分野の商品知識をもつように育てている」という。お客様とのコミュニケーションが密になっただけでなく、「スタッフ間の横のつながりが強まった」という副次的な効果も出ている。
ドスパラ博多店の木村和馬店長は、東京のドスパラ新宿店でコンシェルジュを務め、ラウンダーとして都内の店舗を回った経験をもつ。昨年7月に赴任したばかりの新店長の役割は、新たな客層に対応すること。JR博多駅周辺の活性化によって、これまで法人顧客が中心だった博多店に、ファミリーなど新たなお客様が来店するようになった。木村店長は、「コンシェルジュやラウンダーというポジションで学んだのは、専門用語を使わずにわかりやすく説明するということ。パソコン上級者が来店するという専門店の敷居を低くして、一般のお客様が気軽に来店できるような環境づくりに力を注いでいる」という。
一方、法人顧客については、古くから勤務する吉澤規宏副店長を責任者に据えている。総勢6人のスタッフが、既存のお客様への対応を維持しながら、新規のお客様をリピーターとして確保する体制を整えている。
ビックカメラ天神1号館は、西鉄天神(福岡)駅のガード下に細長いレイアウトで、店内をA(デジタルカメラ・スマートフォン・タブレット端末)、B(パソコン・関連商品)、C(スポーツ用品など)の3ブロックに分けている。各ブロックのスタッフは、担当商品の知識を専門的に習得している。しかし、お客様がブロックをまたいで商品を購入するケースがあることから、幅広い商品知識をもつスタッフも置いている。こうしたスタッフの一人が、Aブロックでカメラを担当する中村篤思主任だ。中村主任は、「例えば、デジタルカメラの画像を編集したいというお客様には、パソコンの買い替えをおすすめする。さまざまな商品知識をもつことで、お客様が購入を納得してくださる」という。中村主任は、スマートフォンやタブレット端末の知識も豊富で、お客様のレベルに合わせてデジタルカメラとスマートフォンとの撮影方法の違いなどを説明している。
接客
元気で素直な姿勢が好評 長い接客時間で最適な一台を提案
ヤマダ電機テックランド博多本店のスタッフは、平均年齢が20代後半と若く、「ベテランとはいえない」(五十川店長)が、「小手先のトークではなく、元気一杯に、わかることは一生懸命に伝えて、わからない時は素直に謝ることができる人材が揃っている」という。また、さまざまな商品の知識を習得する教育に切り替えたことで各スタッフの説明スキルが向上し、お客様とのコミュニケーションも日に日に深まっている。
テックランド博多本店には中高齢者や会社員のお客様が多い
テックランド博多本店が、お客様とのコミュニケーションに力を入れているのは、近隣の他店よりも長い1998年のオープンで、すでに地元住民から高い信頼を得ているからだ。五十川店長は、「スタッフがお客様のお子さんと同年代の場合もある。スタッフが偉そうに商品知識をアピールしたり、客単価を高めるために上位機種をすすめたりするようでは、せっかくここまで培ってきたお客様の信頼を失ってしまう。それぞれのお客様にとってどれが最適な商品なのかを考え、素直な気持ちで接することが大切だ」という。このような接客で、結果として、お客様が価格で選ぶのではなく、自分のライフスタイルに合った商品を選ぶことで、客単価が上がることもあるようだ。
長い接客時間で、確実にお客様の求めるパソコンを提供しているのが、ドスパラ博多店だ。自社ブランドの「Galleria(ガレリア)」はBTOパソコン。お客様の使い方に合ったパーツと仕様に組み上げて販売する。「当店で購入したパソコンを、お客様が『今までで最高』と言ってくださるのが何よりもうれしい」と、木村店長はいう。コミュニケーションの時間が長ければお客様との距離が縮まり、リピーターとして次の来店が期待できるのだ。
お客様に最適なモデルを組むためにBTOパソコン「ガレリア」の接客時間は長くなる
サポート・サービス
他店で購入したパソコンも修理 買い取りで新規購入を提案
「パソコンが動かなくなったが、故障なのか、寿命なのかがわからない」というパソコンユーザーは多い。こうした層に向けて的確なサポートサービスを提供しているのが、ドスパラ博多店だ。全国の店舗で提供している500円の簡易診断「ワンコイン診断」でパソコンの状態を調べてから、修理に取り組むことでお客様の信頼を得ている。メーカー製など他店で購入したパソコンの修理にも対応し、お客様から要望があれば、どんな状態のパソコンでも店舗で確実に修理する。店舗スタッフが修理を担当するので、修理後に故障した原因を細かく説明して、さらには対策も教えている。木村店長は、「多くのお客様が当店に修理を任せてくださる」と笑顔をみせる。
他店で購入したパソコンの修理・買取りに対応することがドスパラ博多店のパソコン販売増につながっている
もちろん、修理代が新品パソコンよりも高くなる場合は、「ガレリア」を提案している。お客様は、きちんと故障の原因を把握したうえで、納得して購入するので、結果として満足度は高くなる。ドスパラ博多店は、パソコンの売上高が前年の1.5倍のペースで伸びているが、この修理対応が大きく貢献しているという。また、修理すれば直るが、中古として買い取ることができるものについては、「買取価格を元手に『ガレリア』を安く購入することも提案している」(木村店長)という。 ドスパラ博多店は、JR博多駅前のヨドバシカメラマルチメディア博多や、天神地区のベスト電器福岡本店など、大手家電量販店に比べれば、「店舗の規模や商品数、知名度では劣っている」(木村店長)のは否定できない。しかし、「サポートでは他店には絶対に負けない」というコンセプトを掲げ、これを最大の強みにして着実にお客様を増やしているのだ。
→福岡・福岡市(4)に続く(2013年2月12日掲載)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2013年1月28日付 vol.1466より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは