<家電激戦区を歩く>東京・秋葉原(1) パソコンとサブカルチャーの街 ITの集積地として世界に発信
東京・秋葉原は、家電量販店やパソコン専門店が密集する日本最大の電気街だ。近年はサブカルチャーの街としても知られ、パソコンなどのヘビーユーザーと、漫画やアニメをこよなく愛する若者が足繁く通うだけでなく、国内外からの観光客も多い。さらに、2001年に始まった再開発によってIT産業の集積地としての顔ももつようになった。家電量販店は、電気街に古くからある店に加え、駅前にヨドバシカメラが大型店舗を構えている。電気街の活性化施策などによって、今後も発展に期待がかかる街だ。(取材・文/佐相彰彦)
<街の全体像>
秋葉原駅は、JRの山手線や京浜東北線、総武線、東京地下鉄(東京メトロ)の日比谷線、つくばエクスプレスが乗り入れている。街のなかには、東京地下鉄の末広町駅、東京交通局(都営地下鉄)の岩本町駅もあり、2011年の平均乗降客は、周辺の駅を含めると1日46万人を超える。
秋葉原が家電量販市場として知られているのは、電気街の存在が大きい。電気街は、第二次世界大戦後、駿河台や小川町エリアの闇市がラジオ部品を専門に扱うようになって、その後、露店整理令によってガード下に収容されたことが始まり。また、戦前から界隈で家電卸や小売を営んでいた廣瀬無線、山際電気商会、中川無線、石丸電気、志村無線、中浦電気、ミナミ無線などが、戦後になってから中央通り沿いに店を構え、秋葉原電気街の下地がつくられた。その後、日本の高度経済成長や家電ブームなどに連れて電気街は発展していった。
1990年代に入って、主役が生活家電からパソコンに移っても、電気街は賑わった。しかしその後、ヤマダ電機やコジマ、ケーズデンキなどの大手家電量販店が郊外に出店し、パソコン市場の成熟などの影響で陰りがみえ始める。さらに、2005年にヨドバシカメラが駅前に大型店舗のマルチメディアAkibaを出店したことなどで、電気街のパソコン店やパーツ専門店などが大きなダメージを受け、ソフマップや九十九電機、ラオックスなど、大手家電量販店の傘下に収まることで生き残りを図る専門店も出てきた。
縮小した電気街の市場規模を再び押し上げる契機になったのが、駅前の都市再開発だ。05年、「東京構想2000」に盛り込まれた「秋葉原をIT産業の世界的拠点にする」というガイドラインにもとづき、IT企業の誘致を目的に「秋葉原クロスフィールド」が竣工。中核施設である秋葉原ダイビルと秋葉原UDXにITベンダーやベンチャー企業が入り、イベントスペースではIT関連の展示会などが盛んに開かれるようになった。また、JR駅併設のアトレ秋葉原ができたことで、これらのビルに入る飲食店が人の流れを吸引している。
ヨドバシカメラの出店も、この都市再開発の一環だった。オープン当初こそ、電気街の来訪者をヨドバシカメラが奪っているようにみえたが、街を訪れる人が増えたことによって、今では電気街も含めて街全体が活況を呈している。
さらに、日本のサブカルチャーとして定着したコミック・アニメ関連の店舗が集まる街として、国内だけでなく海外からもマニアが訪れる。
秋葉原には、パソコンやデジタル機器の買い物客だけでなく、サブカルチャーを求めるマニア、街の雰囲気を楽しむファミリーや海外観光客など、さまざまな層が訪れる。ITにしろサブカルチャーにしろ、「集積」を武器に活性化に突き進んでいる。現在、家電量販店やパソコン専門店で店を構えているのは、ヨドバシカメラがマルメディアAkiba、ヤマダ電機がLABI秋葉原パソコン館、エディオンが秋葉原本店とAKIBA、オノデンが本館、ラオックスが本店やASOBIT CITY、ソフマップが本館やアミューズメント館など9店舗、九十九電機がパソコン本店やTSUKUMO eX.など4店舗、ドスパラが秋葉原本店など3店舗、ユニットコムがTWO TOP秋葉原本店やパソコン工房秋葉原本店、フェイス秋葉原本店を展開している。ほかにも、組立パソコンショップを中心に小規模な店舗が軒を連ね、電気街には100店舗以上が密集している。各店舗とも、価格競争を繰り返しながら、成長するために切磋琢磨しているのだ。
強みは競合地域がないこと 専門性が高い街
家電量販店コンサルタントの得平司・クロス代表取締役は、「秋葉原には、街のなかでの競争はあるが、競合する地域はない」という。
まず地理的には、「例えばJR山手線で、大手家電量販店が駅前に出店している池袋、新宿、渋谷は距離的に近く、地域間で競争が繰り広げられている。一方、秋葉原は近くに競合する街がない。山手線で3駅先の有楽町にビックカメラがあるが、街の来訪者が異なるので、来店者をみる限り競合とはいえない」とする。
競合地域が存在しない一つの理由は、それぞれの店の専門性が高いことだ。パソコンや自作パソコンパーツ、音にこだわる昔からのオーディオ機器、無線通信に特化した店など、個性豊かな店舗が集まっている。得平代表取締役は、こだわる店には、若いマニアだけでなく団塊世代が訪れる傾向がある」という。したがって、「各店がより専門性を高めていけば、店のファンが増え、街を訪れる人も増えるだろう」と分析する。
また、街の健全性を高めることも、買い物客が安心して街を訪れることにつながるという。「店によっては、違法すれすれの商品が並んでいる時がある。消費者に不安を抱かせるような販売はやめてほしい」と願う。
さらに、「街の独自性をアピールするために、家電やアニメなどの博物館を開設するのも効果があるのでは」と提案する。「博物館で家電や電気街の歴史などの『文化』が味わえるようになれば、街を訪れる楽しみが増える」と訴える。世界に発信するIT産業集積地をアピールするために、自治体や関連団体の英断を期待したい。
→東京・秋葉原(2)に続く(2012年12月25日掲載予定)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年12月10日付 vol.1460より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは
<街の全体像>
アニメやゲームなどのサブカルチャーの街としても有名な秋葉原
戦後に開かれた電気街
秋葉原駅は、JRの山手線や京浜東北線、総武線、東京地下鉄(東京メトロ)の日比谷線、つくばエクスプレスが乗り入れている。街のなかには、東京地下鉄の末広町駅、東京交通局(都営地下鉄)の岩本町駅もあり、2011年の平均乗降客は、周辺の駅を含めると1日46万人を超える。
秋葉原駅乗降客数
秋葉原が家電量販市場として知られているのは、電気街の存在が大きい。電気街は、第二次世界大戦後、駿河台や小川町エリアの闇市がラジオ部品を専門に扱うようになって、その後、露店整理令によってガード下に収容されたことが始まり。また、戦前から界隈で家電卸や小売を営んでいた廣瀬無線、山際電気商会、中川無線、石丸電気、志村無線、中浦電気、ミナミ無線などが、戦後になってから中央通り沿いに店を構え、秋葉原電気街の下地がつくられた。その後、日本の高度経済成長や家電ブームなどに連れて電気街は発展していった。
1990年代に入って、主役が生活家電からパソコンに移っても、電気街は賑わった。しかしその後、ヤマダ電機やコジマ、ケーズデンキなどの大手家電量販店が郊外に出店し、パソコン市場の成熟などの影響で陰りがみえ始める。さらに、2005年にヨドバシカメラが駅前に大型店舗のマルチメディアAkibaを出店したことなどで、電気街のパソコン店やパーツ専門店などが大きなダメージを受け、ソフマップや九十九電機、ラオックスなど、大手家電量販店の傘下に収まることで生き残りを図る専門店も出てきた。
都市再開発で世界が注目
縮小した電気街の市場規模を再び押し上げる契機になったのが、駅前の都市再開発だ。05年、「東京構想2000」に盛り込まれた「秋葉原をIT産業の世界的拠点にする」というガイドラインにもとづき、IT企業の誘致を目的に「秋葉原クロスフィールド」が竣工。中核施設である秋葉原ダイビルと秋葉原UDXにITベンダーやベンチャー企業が入り、イベントスペースではIT関連の展示会などが盛んに開かれるようになった。また、JR駅併設のアトレ秋葉原ができたことで、これらのビルに入る飲食店が人の流れを吸引している。
ヨドバシカメラの出店も、この都市再開発の一環だった。オープン当初こそ、電気街の来訪者をヨドバシカメラが奪っているようにみえたが、街を訪れる人が増えたことによって、今では電気街も含めて街全体が活況を呈している。
さらに、日本のサブカルチャーとして定着したコミック・アニメ関連の店舗が集まる街として、国内だけでなく海外からもマニアが訪れる。
秋葉原には、パソコンやデジタル機器の買い物客だけでなく、サブカルチャーを求めるマニア、街の雰囲気を楽しむファミリーや海外観光客など、さまざまな層が訪れる。ITにしろサブカルチャーにしろ、「集積」を武器に活性化に突き進んでいる。現在、家電量販店やパソコン専門店で店を構えているのは、ヨドバシカメラがマルメディアAkiba、ヤマダ電機がLABI秋葉原パソコン館、エディオンが秋葉原本店とAKIBA、オノデンが本館、ラオックスが本店やASOBIT CITY、ソフマップが本館やアミューズメント館など9店舗、九十九電機がパソコン本店やTSUKUMO eX.など4店舗、ドスパラが秋葉原本店など3店舗、ユニットコムがTWO TOP秋葉原本店やパソコン工房秋葉原本店、フェイス秋葉原本店を展開している。ほかにも、組立パソコンショップを中心に小規模な店舗が軒を連ね、電気街には100店舗以上が密集している。各店舗とも、価格競争を繰り返しながら、成長するために切磋琢磨しているのだ。
強みは競合地域がないこと 専門性が高い街
――クロス 得平司代表取締役
家電量販店コンサルタントの得平司・クロス代表取締役は、「秋葉原には、街のなかでの競争はあるが、競合する地域はない」という。
まず地理的には、「例えばJR山手線で、大手家電量販店が駅前に出店している池袋、新宿、渋谷は距離的に近く、地域間で競争が繰り広げられている。一方、秋葉原は近くに競合する街がない。山手線で3駅先の有楽町にビックカメラがあるが、街の来訪者が異なるので、来店者をみる限り競合とはいえない」とする。
競合地域が存在しない一つの理由は、それぞれの店の専門性が高いことだ。パソコンや自作パソコンパーツ、音にこだわる昔からのオーディオ機器、無線通信に特化した店など、個性豊かな店舗が集まっている。得平代表取締役は、こだわる店には、若いマニアだけでなく団塊世代が訪れる傾向がある」という。したがって、「各店がより専門性を高めていけば、店のファンが増え、街を訪れる人も増えるだろう」と分析する。
また、街の健全性を高めることも、買い物客が安心して街を訪れることにつながるという。「店によっては、違法すれすれの商品が並んでいる時がある。消費者に不安を抱かせるような販売はやめてほしい」と願う。
さらに、「街の独自性をアピールするために、家電やアニメなどの博物館を開設するのも効果があるのでは」と提案する。「博物館で家電や電気街の歴史などの『文化』が味わえるようになれば、街を訪れる楽しみが増える」と訴える。世界に発信するIT産業集積地をアピールするために、自治体や関連団体の英断を期待したい。
→東京・秋葉原(2)に続く(2012年12月25日掲載予定)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年12月10日付 vol.1460より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは