<インタビュー・時の人>Evernote 日本ジェネラル・マネージャー 井上 健

特集

2012/08/27 12:48

 「ノートブック」にテキストや画像を保存していくオンラインストレージサービス「Evernote」。現在、世界で3400万~3500万人の会員を抱える。日本の会員はその10%程度で、現在はパソコンのパワーユーザーなど、比較的ITリテラシーが高い利用者が多い。2012年5月には、多くのベンチャー企業での業務を経験した井上健氏が日本法人のジェネラル・マネージャーに就任。会員のすそ野を広げ、会社を成長へと導こうとしている。(取材・文/佐相彰彦)

◎プロフィール
井上 健(いのうえ けん)
 住友銀行に入行後、米国に留学し、NECへの出向で米シリコンバレー戦略部門の立ち上げに参画。事業開発、ベンチャー提携などに従事する。帰国後にネットエイジに入社し、執行役員に就任。2008年、モバイルベンチャーである頓智ドットの設立直後に参画し、サービスの立ち上げ、資本提携、事業開発、海外展開などに携わる。12年5月、Evernoteの日本法人のジェネラル・マネージャーに就任、現在に至る。

「記憶を記録する」で会員獲得 法人向けビジネスにも着手



Q. 日本でのビジネスはどのような状況か。

A.
 「Evernote」の会員数は、世界で3400万~3500万人に達しており、その約10%が日本語サイトを経由する会員だ。2010年3月の日本向けサービス開始からまだ2年半だが、会員数は順調に推移している。 


Q. 「Evernote」の強みはどこにあるのか。

A.
 他社が提供しているオンラインストレージサービスは、ユーザーの多くがパソコン、スマートフォンやタブレット端末など、スマートデバイスのデータ保存に利用していて、ファイルを蓄積する目的で使われているものが多い。「Evernote」は、オンラインメモツールとして、ユーザーの日常生活のできごとを写真や音声、ウェブページも含めて記録して蓄積する。「記憶を記録する」という点が強みだ。

Q. 「記憶を記録する」メリットは?

A.
 「そういえば、あのときは……」などと、思い出すことができる。ユーザーにとっては、年月がたてばたつほど価値が出るデータになることがメリットだ。

Q. 事業の拡大に向けて、どこに力を入れていくのか。

A.
 引き続き会員を増やすことに力を入れていく。今の日本の会員は、ITリテラシーの高い人が多い。しかし本来「Evernote」は、誰でも使えることをコンセプトに据えているサービス。もっと多くの人に使ってもらいたいと考えている。そのために積極的に進めているのが、ほかのウェブサービスとの連携で、開発者向けにAPIを公開している。こうした活動で、できるだけ多くの人が「Evernote」に触れる環境を整えていく。

Q. 一般消費者を中心に会員を増やすのか。

A.
 まだブランドの認知度が足りないので、まずは一般市場での広がりを期待している。また、企業内個人にも使ってもらうために、今年秋をめどに法人向けサービスの提供を予定している。「Evernote」は、オンラインを通じてホワイトボードに社員がアイデアを書き込んでいくような感覚で使える。セキュリティの強化やサポート体制などを整備してサービス開始へと進めていく。また、SIerやディストリビュータとパートナーシップを組むなど販売体制を整えることも模索したい。

Q. 当面の目標は?

A.
 会員数を1000万人に伸ばすことだ。具体的な達成時期は定めていないが、2年間で今の会員数になったこと、これから会員数のすそ野を広げる活動に取り組むことを念頭に置いて、できるだけ早い時期に達成したい。1000万人を達成することができれば、有料サービスの充実を図るなど、売り上げを確保するための策を講じることができると確信している。会員数を増やして黒字化を実現する。

・Turning Point

 銀行に勤務していた頃、研修で米国に留学。NECに出向するかたちで米シリコンバレーで戦略部門の立ち上げに参画し、「シリコンバレーのパワーに圧倒された」という。「自分自身で切り開いていくプロの生き方を目の当たりにした」。サラリーマンの立場で仕事をしていた自分には甘えがあったと思い知らされた。これがターニングポイントになって、ネット・インキュベータのネットエイジに転じた。

 その後、複数のベンチャー企業を渡り歩いてEvernoteにたどり着く。今は社員が数人でも、将来の成長を描いて充実した日々を送る。


※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年8月27日付 vol.1445より転載したものです。
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