<インタビュー・時の人>Mobile In Style 代表取締役/CEO 下 浩子

特集

2012/05/16 10:46

 タブレット端末の黎明期にあって、普及のためにメーカーが取り組まなければならないこととは何か。一般的にはハードの機能強化ということになるのだろうが、Mobile In Styleの考えは違う。7インチのタブレット「eden TAB」を、3万円を切る低価格で発売。「コンテンツサービスがポイント」として、将来は端末を無料で配布することを視野に入れる。果たしてビジネスとして成立するのか。下浩子代表取締役に話を聞いた。

◎プロフィール
下 浩子(しも ひろこ)
1996年4月、米オレゴン州ポートランドで「PublicSchool MoshiMoshi」プロジェクトチームを結成。99年12月、女性向けコミュニティサイトを運営するOnna.comを設立する。03年5月、三井物産に入社して「LinkShare」プロジェクトチームに参画。05年4月、LinkShare Japanに転籍。11年5月、キングソフトに入社し、新規事業開発室長に就任。12年1月、Mobile In Styleを設立。

将来はタブレット端末を無料配布
普及のポイントはコンテンツ



Q. タブレット端末「eden TAB」の販売状況は。

A.
 非常に順調だ。2月25日にオンラインで発売し、約1か月でカラーが黒と白のモデルが完売した。3月10日に開始した家電量販店経由での販売も幸先のいいスタートで、大変申し訳ないことなのだが、品薄状態が続いている。販売が順調なのは、他社の製品と比べて価格が安いから。ユーザーが気軽なタブレット端末を求めているのだと改めて実感した。 


Q. いまは価格を設定しているが、いずれ無料でユーザーに配布することを計画していると聞いている。ビジネスとして成り立つのか。

A.
 今は無理だが、もともと端末を無料にすることを前提にビジネスモデルをつくっている。当社は、端末をあくまでもプラットフォームとして捉え、ユーザーへのコンテンツサービスを重視している。コンテンツに掲載する広告を募るビジネスモデルなので、広告出稿が増えれば無料で配布できるようになる。

Q. 実際のところ、広告主は思惑通りに集まっているのか。

A.
 まずは10社を確保してから「eden TAB」を発売した。この倍、つまり20社程度が集まれば、広告料で採算分岐点を越えるので、端末を無料で提供することができる。無料にしても、もちろん販路である家電量販店がきちんと利益を得られる仕組みにしている。

Q. 端末を無料で配布しようと考えた理由は。

A.
 一番の理由は、タブレット端末市場の活性化にある。タブレット端末市場は伸びてはいるが、スマートフォンと比べるとまだまだ。タブレット端末の活用イメージが消費者に十分に浸透していないからだ。タブレット端末とスマートフォンとの違いは画面にある。携帯して外出先で情報を収集したり、自宅で使ったりする際にも便利だ。そこで、ユーザーが外出先でも自宅でも役に立つコンテンツ、あるいは利用しやすいコンテンツを、あらかじめ端末側に搭載しておくのがいいのではないかと考えた。また、広告主にとっては、ターゲットを絞り込んだほうが、広告効果が高くなる。ユーザーと広告主の両方にメリットのあるビジネスを手がける。

Q. ターゲットを絞り込んだ端末にするのか。

A.
 現在のコンテンツでは、まだターゲットを絞り込んでいない。一定量の広告主が集まった時点で、それぞれのユーザー属性に適したコンテンツを提供する端末を複数揃えて、無料で配布していく。

Q. 売上目標については?

A.
 2012年は、販売台数が5万台、売り上げは12億円を見込んでいる。これを、2015年には販売台数で40万台、売り上げで100億円までに引き上げたい。

・Turning Point

 Onna.comを設立した際、最新の技術を日本に広めようと、シリコンバレーのベンチャー企業が提供するサービスを女性向けコミュニティサイトに積極的に取り入れた。しかし、「最新技術だからユーザーが受け入れてくれるとは限らない」という現実に直面。さらには、技術を提供するベンチャー企業の経営が厳しくなって、Onna.com自体も苦境に陥る。倒産寸前のところで、サービスの価値を認めてくれた企業に売却することができた。

 この経験があるからこそ、「今はユーザーの目線からビジネスを手がけることができる」という自信に溢れている。


※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年5月14日付 vol.1431より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは