<インタビュー・時の人>コルグ 代表取締役社長 加藤世紀

特集

2012/04/24 10:57

 シンセサイザーや電子ピアノなど、デジタル楽器メーカーのコルグが、DTM(デスクトップミュージック)関連製品でトップを走っている。家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によれば、DTM関連製品の販売台数シェアで今年3月に21.9%を獲得。前年同月比では、251.5%という驚異的な成長だ。強さの秘密はどこにあるのか。加藤世紀社長に、これまでの取り組みと今後の戦略を聞いた。

◎プロフィール
加藤 世紀(かとう せいき)
1957年3月28日生まれ。80年1月、コルグに入社。国内販売に従事した後、音響効果制作のサウンドボックスに出向。本社に戻ってからは、営業部や秘書室、商品企画室を経て、88年11月、コルグUSAの副社長に就任。89年10月、コルグUSA社長に就任する。93年6月、コルグ代表取締役社長に就任。その後、代表取締役副社長、取締役副社長として技術・開発担当、コルグイタリープロジェクトリーダーなどを兼務。03年10月、再び代表取締役社長に就任し、現在に至る。

DTM関連製品が好調
楽器を手軽に楽しむ環境をつくる



Q. USB MIDIキーボード「microKEY」シリーズを中心に、DTM製品が順調に伸びている。要因は。

A.
 パソコンで気軽に音楽を制作する人が増えているからだ。当社のDTMは、小型でシンプル。今は類似製品が出ているが、発売当初は他社製品と一線を画していたと自負している。「楽器」は楽しい器と書く。好調な販売は、楽器に慣れ親しんで、気軽に楽しんでもらいたいという考えが受け入れられたということだ。DTMのすそ野の広がりを実感している。 


Q. 家電量販店という新たな販路の開拓も功を奏したのではないか。

A.
 昨年、専門チームを設置して家電量販店を販路として構築した。電子ピアノをはじめ、楽器の販売には店員のスキルが必要になるので受け入れられないケースがあるが、当社のDTMを扱う家電量販店は、「気軽に販売できる商材」と評価してくれている。

Q. 楽器専門店など、これまでの販路はどのような状況か。

A.
 楽器専門店はアナログ楽器が主で、昔ながらの方法で接客している店が多く、デジタル系の楽器はなかなか売れない。DTMの販売は、楽器専門店よりも家電量販店に重きを置いている。

Q. 家電量販店のほうが適しているということか。

A.
 お客様が来店しやすいというのが最も大きい。また、店員にいろいろなことを聞けるということもある。楽器専門店のなかにはお客様に馴染みの友達感覚で声をかける店もあって、DTMで初めて楽器に触れる人には抵抗感があるのではないか。

Q. DTM関連では、今後、どのような製品を発売していくのか。

A.
 製品の機能を押しつけるのではなく、ユーザーに「これで満足」と思っていただくことが重要。操作をもっとシンプルにするなど、さらにハードルを低くする。もちろんシンセサイザーやキーボードなどにも力を入れていくが、DTMに関しては、「手軽に楽しめる」をキーワードにしながら、「何でもあり」で製品開発に臨む。DTMでは知名度が低かった当社が、新しいマインドで製品を開発したことで市民権を得て、社内のモチベーションも高まっている。

Q. 2012年は、どのような年になりそうか。

A.
 当社のモットーは、「ファジー」だ。あまりガツガツせずに、それでいて積極的に、これまでにないものを柔軟なアイデアで製品化していく。今後は、製品開発のスピードも速めていく。さらに、グローバルを視野に入れて、どの地域でも通用するような製品を開発する一方で、地域に適した製品のローカライズも進めていく。

・Turning Point

 大学は水産系。4年生の就職活動の時期に、先輩から「エビの養殖をやらないか」と誘われ、二つ返事で承諾した。しかし、卒業研究で考えが変わる。奄美大島で、魚を捕ってホルマリン漬けにして標本をつくる日々が4~5か月間続いた。釣りが趣味で、魚と触れあうのが大好きなはずなのに、なぜか苦痛。「仕事にするとダメなのか……」と気づいて、エビの養殖を断念した。

 コルグの創業者である父親から勧められた楽器問屋を経て、コルグに入社。「それまでまったく興味がなかった楽器を商売にしていることを、今も不思議に思っている」と笑う。


※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年4月23日・30日付 vol.1429より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは