ミラーレス一眼「Nikon 1」の可能性<1> 見た目を裏切る(?)使い心地のよさ
10月20日、ニコンが満を持してミラーレス一眼「Nikon 1 V1」「Nikon 1 J1」を発売した。すでに手に入れた方もいることだろう。わかりやすく“ミラーレス一眼”と表現したが、ニコンはこのカメラを「レンズ交換式アドバンストカメラ」と呼んでいる。“アドバンスト”には、“前進した”とか“高等の”“先進の”といった意味がある。
では、どこが“アドバンスト”なのか? 実際に「Nikon 1 J1」を試用してみて、その一端を垣間見たように感じた。
「Nikon 1 V1」と「Nikon 1 J1」を発表会で初めて目にしたときは、何だか「レンズが交換できるコンパクトデジカメ」のような印象だった。ところが実際に手にすると、想像していた以上に質感がよく、さらに少し使ってみると、思っていたよりもずっと撮るのが楽しいカメラであることに気づかされた。ウェブやカタログ、あるいは店頭で現物を見るのと実際に使うのとで、これほど印象が変わるカメラも珍しい。
今回試用したのは、電子ビューファインダーを搭載していない「Nikon 1 J1」。手に取ると、意外なほどコンパクトに感じる。本体側面の丸みを帯びたデザインが、ちょっとレトロでかわいらしい。
ボディ前面はフラットで、グリップとなるふくらみや、指がかりになる突起はないが、意外にホールドしやすい。背面の右手親指が当たる部分にラバーが貼られていて、これがホールドに効いているようだ。
ボディ天面も一見すると平らなのだが、よく見るとヘアライン加工を施したシャッターボタンだけが、ほんのわずか頭を出している。これならカメラを構えたまま、指先で自然にシャッターボタンが探り当てられる。すぐ隣の動画録画ボタンと押し間違うこともなく、よく考えられている。
「Nikon 1 J1」は、ホワイト、ブラック、ピンク(限定モデル)、シルバー、レッドの5色のカラーバリエーションがあるが、イチオシはホワイトモデルだ。光沢感はあるが、オフホワイトっぽい色合いの白で、愛着がもてる。レンズキャップやストラップも同色というのがいい。一部で不評を買っている「1」のロゴも、ホワイトモデルでは別に気にならない。というか、デザイン的にはこれで決まっていると思う。ホワイトモデルなのに背面は黒で、「なんだかなあ」と思っていたのだが、使ってみると、このほうが液晶モニタが見やすいことに気がついた。
欲を言えば、あともうちょっと本体の厚みを薄くできたなら、さらにスタイリッシュになったのではないだろうか。
「Nikon 1 J1」には、標準ズームレンズキットと、標準ズームレンズ+望遠ズームレンズのダブルズームキットという二つのレンズキットがある。試用したのは、「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」をセットにした標準ズームレンズキット。35mmフィルム換算で27~81mmの3倍ズームだ。カメラ本体のカラーに合わせて、標準ズームレンズと望遠ズームレンズも5色のカラーバリエーションを揃える凝りようだ。このあたりは、思わずにやりとするところでもある。
鏡胴はプラスチック製だが、マウントは金属製なので、耐久性や耐衝撃性には信頼が置けるだろう。最短撮影距離はズーム全域で20cm。望遠側にズームして最短撮影距離で撮影すれば、最大撮影倍率は35mmフィルム換算で0.57倍と、簡易マクロレンズ的な使い方もできる。
「Nikon 1」シリーズの撮像素子の大きさは約1インチ(13.2×8.8mm)で、これはコンパクトデジカメとマイクロフォーサーズの中間くらいの大きさだ。だから当然、カメラ本体もレンズも、マイクロフォーサーズより小さく軽くできるはずと考えるのがふつうだろう。確かにカメラ本体は、例えばオリンパスPEN Lite E-PL3よりも小さくて軽い。
しかし、標準ズームレンズを比べると、実は「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」のほうが、オリンパスの「M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II R」よりも最大径が大きく、質量もわずかに重い。「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」はレンズシフト式手ブレ補正機構を内蔵しているので、もしかするとそれが最大径や質量に影響しているのかもしれないが、できればさらにあと一歩のコンパクト化を実現してほしかった。
「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」は沈胴機構を採用したレンズで、ズームリングボタンを押しながらズームリングを回すと、レンズが繰り出してきて撮影できる状態になる。このとき同時に電源もオンになる。つまり、いちいち電源スイッチを押さなくても、レンズを繰り出せば即撮影可能になるわけで、これは大変便利だ。なお、レンズを繰り出していない状態で電源スイッチをオンにすると、レンズの状態を確認するよう液晶モニタに警告が出る。
ところが、なぜか電源オフはレンズの格納とは連動していない。電源をオフにしたいときは、レンズの繰り出し・格納に関わりなく、電源スイッチを押してオフにする必要がある。操作性からいっても、これはいただけない気がする。カスタム設定でもいいので、電源オンと逆の動作、すなわちレンズを格納すると同時に電源がオフになるようにすべきだろう。
もう一つ、上位モデルの「Nikon 1 V1」は、35mmフィルム換算で27mm相当の薄型単焦点レンズ「1 NIKKOR 10mm f/2.8」が付属する薄型レンズキットがあるが、「Nikon 1 J1」には単焦点レンズのキットはない。また逆に「Nikon 1 J1」でレンズキットになっている標準ズームレンズは、「Nikon 1 V1」ではキットになっていない。
海外市場では、どちらのカメラにも薄型レンズキットと標準ズームレンズキットの両方が用意されているようで、日本だけ損をしている気分だ。コンパクトな「Nikon 1 J1」には薄型単焦点レンズが似合うし、女子カメラやお散歩カメラとしてもピッタリの組み合わせだと思うので、国内向けにも「Nikon 1 J1」薄型レンズキットをぜひ発売してほしい。
次回<2>では、「Nikon 1 J1」の使い勝手や画質などを徹底チェックする。(フリーライター・榎木秋彦)
2011年11月16日追記:後編を掲載しました。
・ミラーレス一眼「Nikon 1」の可能性<2> カメラまかせで自然な感じの一枚を撮る
では、どこが“アドバンスト”なのか? 実際に「Nikon 1 J1」を試用してみて、その一端を垣間見たように感じた。
「Nikon 1 J1」と「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」の標準ズームレンズキット
「見る」と「触る」でまるで異なる印象
「Nikon 1 V1」と「Nikon 1 J1」を発表会で初めて目にしたときは、何だか「レンズが交換できるコンパクトデジカメ」のような印象だった。ところが実際に手にすると、想像していた以上に質感がよく、さらに少し使ってみると、思っていたよりもずっと撮るのが楽しいカメラであることに気づかされた。ウェブやカタログ、あるいは店頭で現物を見るのと実際に使うのとで、これほど印象が変わるカメラも珍しい。
今回試用したのは、電子ビューファインダーを搭載していない「Nikon 1 J1」。手に取ると、意外なほどコンパクトに感じる。本体側面の丸みを帯びたデザインが、ちょっとレトロでかわいらしい。
ボディ端の丸みを帯びたデザインがやさしい感じを生んでいる
ボディ前面はフラットで、グリップとなるふくらみや、指がかりになる突起はないが、意外にホールドしやすい。背面の右手親指が当たる部分にラバーが貼られていて、これがホールドに効いているようだ。
ボディ天面も一見すると平らなのだが、よく見るとヘアライン加工を施したシャッターボタンだけが、ほんのわずか頭を出している。これならカメラを構えたまま、指先で自然にシャッターボタンが探り当てられる。すぐ隣の動画録画ボタンと押し間違うこともなく、よく考えられている。
シャッターボタンにはヘアライン加工を施し、ほんの少しだけ高さをつけている。
隣の動画撮影ボタンと押し間違えることはない
隣の動画撮影ボタンと押し間違えることはない
「Nikon 1 J1」は、ホワイト、ブラック、ピンク(限定モデル)、シルバー、レッドの5色のカラーバリエーションがあるが、イチオシはホワイトモデルだ。光沢感はあるが、オフホワイトっぽい色合いの白で、愛着がもてる。レンズキャップやストラップも同色というのがいい。一部で不評を買っている「1」のロゴも、ホワイトモデルでは別に気にならない。というか、デザイン的にはこれで決まっていると思う。ホワイトモデルなのに背面は黒で、「なんだかなあ」と思っていたのだが、使ってみると、このほうが液晶モニタが見やすいことに気がついた。
背面のボタン類はコンパクトデジカメ並みに少なくシンプル。
背面カラーは黒だが、このほうが液晶モニタが見やすい
背面カラーは黒だが、このほうが液晶モニタが見やすい
欲を言えば、あともうちょっと本体の厚みを薄くできたなら、さらにスタイリッシュになったのではないだろうか。
標準ズームはあと一歩のコンパクト化を
「Nikon 1 J1」には、標準ズームレンズキットと、標準ズームレンズ+望遠ズームレンズのダブルズームキットという二つのレンズキットがある。試用したのは、「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」をセットにした標準ズームレンズキット。35mmフィルム換算で27~81mmの3倍ズームだ。カメラ本体のカラーに合わせて、標準ズームレンズと望遠ズームレンズも5色のカラーバリエーションを揃える凝りようだ。このあたりは、思わずにやりとするところでもある。
ホワイトボディの標準ズームレンズキットには、鏡胴やレンズキャップがボディと同色の「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」が付属する
鏡胴はプラスチック製だが、マウントは金属製なので、耐久性や耐衝撃性には信頼が置けるだろう。最短撮影距離はズーム全域で20cm。望遠側にズームして最短撮影距離で撮影すれば、最大撮影倍率は35mmフィルム換算で0.57倍と、簡易マクロレンズ的な使い方もできる。
「Nikon 1」シリーズの撮像素子の大きさは約1インチ(13.2×8.8mm)で、これはコンパクトデジカメとマイクロフォーサーズの中間くらいの大きさだ。だから当然、カメラ本体もレンズも、マイクロフォーサーズより小さく軽くできるはずと考えるのがふつうだろう。確かにカメラ本体は、例えばオリンパスPEN Lite E-PL3よりも小さくて軽い。
撮像素子は13.2×8.8mmの約1インチで、レンズ交換式カメラとしてはかなり小さい。
ゴミ取り機構を備えていないのが少々気がかりだ
ゴミ取り機構を備えていないのが少々気がかりだ
しかし、標準ズームレンズを比べると、実は「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」のほうが、オリンパスの「M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II R」よりも最大径が大きく、質量もわずかに重い。「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」はレンズシフト式手ブレ補正機構を内蔵しているので、もしかするとそれが最大径や質量に影響しているのかもしれないが、できればさらにあと一歩のコンパクト化を実現してほしかった。
電源オフにならないのはちょっと変
「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」は沈胴機構を採用したレンズで、ズームリングボタンを押しながらズームリングを回すと、レンズが繰り出してきて撮影できる状態になる。このとき同時に電源もオンになる。つまり、いちいち電源スイッチを押さなくても、レンズを繰り出せば即撮影可能になるわけで、これは大変便利だ。なお、レンズを繰り出していない状態で電源スイッチをオンにすると、レンズの状態を確認するよう液晶モニタに警告が出る。
沈胴式の「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」のレンズを繰り出す
ところが、なぜか電源オフはレンズの格納とは連動していない。電源をオフにしたいときは、レンズの繰り出し・格納に関わりなく、電源スイッチを押してオフにする必要がある。操作性からいっても、これはいただけない気がする。カスタム設定でもいいので、電源オンと逆の動作、すなわちレンズを格納すると同時に電源がオフになるようにすべきだろう。
もう一つ、上位モデルの「Nikon 1 V1」は、35mmフィルム換算で27mm相当の薄型単焦点レンズ「1 NIKKOR 10mm f/2.8」が付属する薄型レンズキットがあるが、「Nikon 1 J1」には単焦点レンズのキットはない。また逆に「Nikon 1 J1」でレンズキットになっている標準ズームレンズは、「Nikon 1 V1」ではキットになっていない。
海外市場では、どちらのカメラにも薄型レンズキットと標準ズームレンズキットの両方が用意されているようで、日本だけ損をしている気分だ。コンパクトな「Nikon 1 J1」には薄型単焦点レンズが似合うし、女子カメラやお散歩カメラとしてもピッタリの組み合わせだと思うので、国内向けにも「Nikon 1 J1」薄型レンズキットをぜひ発売してほしい。
次回<2>では、「Nikon 1 J1」の使い勝手や画質などを徹底チェックする。(フリーライター・榎木秋彦)
2011年11月16日追記:後編を掲載しました。
・ミラーレス一眼「Nikon 1」の可能性<2> カメラまかせで自然な感じの一枚を撮る