<タブレット端末>冬商戦向け新製品が相次いで登場 新しい販売モデルの構築に挑戦
PCやスマートフォンなどの端末メーカーが、秋冬商戦に向けてタブレット端末を相次いで発売している。アップルが「iPad」「iPad 2」でつくった市場に、他社が満を持して製品を投入しはじめている段階だ。各社の拡販策や狙いはさまざまだが、総じていえるのは、PCやスマートフォンとは異なる販売モデルを構築しようとしていること。タブレット端末が、今後のクライアント関連事業のカギになる可能性さえある。各社の思惑と施策を追った。
BCNランキングによれば、家電量販店でタブレット端末を販売するメーカーは、今年1月時点では9社。これが、8月には25社にまでふくれ上がった。この状況は、昨年末にスマートフォンのラインアップが一気に増えた状況と、どことなく似ている。誰もが持つ携帯電話の延長線上にあるスマートフォンと、普及の爆発力は異なるとはいえ、この先タブレット端末の利用者が増加するのは間違いないだろう。端末メーカーは、新規ユーザーの掘り起こしに躍起の状況だ。
ソニーは、「Sony Tablet」として、やや丸みを帯びた持ちやすいボディの「S」シリーズ、折りたためる「P」シリーズと、デザインコンセプトの異なる2タイプのモデルを発表し、「S」シリーズのWi-Fiモデルを9月17日に発売した。ソニーの古海英之・VAIO&Mobile事業本部副本部長VPは、発表会で、「ハードとアプリ、ネットワークサービスが充実して、初めて利用者はタブレット端末のよさを実感できる。それを当社が実現した」と、利用者が満足するアプリやサービスとの連動が重要であることを説いた。またソニーマーケティングの松原昭博執行役員は、「昨年の国内タブレット端末市場は85万台で、今年は200万台に達する見通しだ。来年には、320万台まで増えるだろう」と予測したうえで、「拡大する市場で、Android搭載タブレットでシェアNo.1を目指す」方針を示した。
シャープは、自社の直販限定で販売していた「GALAPAGOS EB-W51GJ/EB-WX1GJ」の生産・販売中止を決定したものの、他方で国内初となるAndroid 3.2搭載タブレット「GALAPAGOS(A01SH)」を、イー・モバイル取扱店とイー・モバイルショップで8月28日に発売した。画面サイズ10インチ前後が多いタブレット端末のなかで、7インチを採用し、差異化につなげる。シャープの大畠昌巳・執行役員通信システム事業本部長は、「日本人に最適なのが7インチと判断し、そこにこだわった」としている。キャリアのイー・アクセスは、「携帯端末でNo.1のシャープさんとブロードバンドサービスでNo.1の当社とで、新しい端末を出すことになった」(千本倖生会長)とアピールしながら、新たなタブレットサイズの普及を目指す。
レノボ・ジャパンは、「IdeaPad」シリーズのタブレット端末「IdeaPad Tablet K1」を投入。カラーがホワイトのモデルを9月2日、レッドを9月9日に発売している。コンシューマ事業を担当する大岩憲三常務執行役員は、「タブレット端末に対するユーザーニーズは増えていく。ニーズを吸い上げて、いかに当社の製品が適しているかを消費者に伝えることがカギ」とした。
他メーカーからも、新製品が続々と登場し、店頭に並ぶ製品がどんどん増えているタブレット端末だが、メーカーにとってタブレット端末を売るメリットとは何か。
レノボ・ジャパンの大岩常務は、「家電量販店さんが携帯電話の売場で販売してくれるなど、スマートフォンと同じように売ってくれる」ことを挙げる。タブレット端末の特徴の一つとして、スマートフォンと同様にタッチパネル式の採用、またOSでAndroidを搭載している点がある。「スマートフォン売場の担当者にトレーニングを実施するなど、家電量販店さんとPC販売とは異なったパートナーシップを組むことができる」としている。加えて、今後は3Gモデルを発売するなど、これまで縁のなかったキャリアとのパートナーシップ構築も模索している。
「アプリやコンテンツ、サービスを提供するとき、消費者に新しいクライアント端末の用途を提案できる。OSはAndroidだが、当社の端末でしか利用できないアプリを開発することで差異化につなげる」と話すのは、ソニーの古海副本部長。アプリやコンテンツの例としては、ゲーム、映画、音楽などを挙げる。また、「他社に真似できないアプリやサービスを提供し、そして他社とは一線を画した端末で、キャリアとのアライアンスも強化していきたい」と語った。
これまで携帯電話やスマートフォンの販売が中心だったメーカーにとっては、キャリアとのパートナーシップをさらに強固にできるというメリットがある。シャープは、直販限定モデルの生産・販売は中止したものの、今後はキャリア経由での販売を中心に家電量販店との関係を強化する。「家電量販店でのタブレット端末の販売は、当社の端末独自でのコーナー設置や、PC売場の近くでの販売など、携帯電話やスマートフォンとは異なるかたちでの販売が展開できる」(シャープの新井優司ネットワークサービス事業推進本部副本部長)としている。
スマートフォンに似たフォルムで、PCのような機能と存在感をもつタブレット端末。消費者にとっては選択肢が広がっているわけだが、メーカーにとってもPCやスマートフォンとは異なった販売モデルが構築できる可能性がある。PCを売っていたメーカーは、スマートフォンのような売り方や提案を行い、一方でスマートフォンを中心に売っていたメーカーは、キャリアとの関係を深めながら、家電量販店との関係を深めて新しい売り方や提案に取り組むことができる。メーカーにとってタブレット端末は、新しい販売モデルの構築という点でも、「新しい端末」に位置づけられる。(佐相彰彦)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2011年9月26日付 vol.1400より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは
参入メーカーが激増 タブレット端末市場
BCNランキングによれば、家電量販店でタブレット端末を販売するメーカーは、今年1月時点では9社。これが、8月には25社にまでふくれ上がった。この状況は、昨年末にスマートフォンのラインアップが一気に増えた状況と、どことなく似ている。誰もが持つ携帯電話の延長線上にあるスマートフォンと、普及の爆発力は異なるとはいえ、この先タブレット端末の利用者が増加するのは間違いないだろう。端末メーカーは、新規ユーザーの掘り起こしに躍起の状況だ。
ソニーは、「Sony Tablet」として、やや丸みを帯びた持ちやすいボディの「S」シリーズ、折りたためる「P」シリーズと、デザインコンセプトの異なる2タイプのモデルを発表し、「S」シリーズのWi-Fiモデルを9月17日に発売した。ソニーの古海英之・VAIO&Mobile事業本部副本部長VPは、発表会で、「ハードとアプリ、ネットワークサービスが充実して、初めて利用者はタブレット端末のよさを実感できる。それを当社が実現した」と、利用者が満足するアプリやサービスとの連動が重要であることを説いた。またソニーマーケティングの松原昭博執行役員は、「昨年の国内タブレット端末市場は85万台で、今年は200万台に達する見通しだ。来年には、320万台まで増えるだろう」と予測したうえで、「拡大する市場で、Android搭載タブレットでシェアNo.1を目指す」方針を示した。
ソニーの製品発表会のフォトセッション。写真中央がソニーの古海英之副本部長、左隣がソニーマーケティングの松原昭博執行役員。発表会にはNTTドコモの板倉仁嗣・プロダクト部第一商品企画担当部長(右から二人目)も駆けつけた
シャープは、自社の直販限定で販売していた「GALAPAGOS EB-W51GJ/EB-WX1GJ」の生産・販売中止を決定したものの、他方で国内初となるAndroid 3.2搭載タブレット「GALAPAGOS(A01SH)」を、イー・モバイル取扱店とイー・モバイルショップで8月28日に発売した。画面サイズ10インチ前後が多いタブレット端末のなかで、7インチを採用し、差異化につなげる。シャープの大畠昌巳・執行役員通信システム事業本部長は、「日本人に最適なのが7インチと判断し、そこにこだわった」としている。キャリアのイー・アクセスは、「携帯端末でNo.1のシャープさんとブロードバンドサービスでNo.1の当社とで、新しい端末を出すことになった」(千本倖生会長)とアピールしながら、新たなタブレットサイズの普及を目指す。
レノボ・ジャパンは、「IdeaPad」シリーズのタブレット端末「IdeaPad Tablet K1」を投入。カラーがホワイトのモデルを9月2日、レッドを9月9日に発売している。コンシューマ事業を担当する大岩憲三常務執行役員は、「タブレット端末に対するユーザーニーズは増えていく。ニーズを吸い上げて、いかに当社の製品が適しているかを消費者に伝えることがカギ」とした。
レノボ・ジャパンの大岩憲三常務執行役員は、「IdeaPad」によって「店頭販売のビジネスモデルを強くする」との考えを示す
新しい売り方や提案に取り組める「新しい端末」
他メーカーからも、新製品が続々と登場し、店頭に並ぶ製品がどんどん増えているタブレット端末だが、メーカーにとってタブレット端末を売るメリットとは何か。
レノボ・ジャパンの大岩常務は、「家電量販店さんが携帯電話の売場で販売してくれるなど、スマートフォンと同じように売ってくれる」ことを挙げる。タブレット端末の特徴の一つとして、スマートフォンと同様にタッチパネル式の採用、またOSでAndroidを搭載している点がある。「スマートフォン売場の担当者にトレーニングを実施するなど、家電量販店さんとPC販売とは異なったパートナーシップを組むことができる」としている。加えて、今後は3Gモデルを発売するなど、これまで縁のなかったキャリアとのパートナーシップ構築も模索している。
「アプリやコンテンツ、サービスを提供するとき、消費者に新しいクライアント端末の用途を提案できる。OSはAndroidだが、当社の端末でしか利用できないアプリを開発することで差異化につなげる」と話すのは、ソニーの古海副本部長。アプリやコンテンツの例としては、ゲーム、映画、音楽などを挙げる。また、「他社に真似できないアプリやサービスを提供し、そして他社とは一線を画した端末で、キャリアとのアライアンスも強化していきたい」と語った。
これまで携帯電話やスマートフォンの販売が中心だったメーカーにとっては、キャリアとのパートナーシップをさらに強固にできるというメリットがある。シャープは、直販限定モデルの生産・販売は中止したものの、今後はキャリア経由での販売を中心に家電量販店との関係を強化する。「家電量販店でのタブレット端末の販売は、当社の端末独自でのコーナー設置や、PC売場の近くでの販売など、携帯電話やスマートフォンとは異なるかたちでの販売が展開できる」(シャープの新井優司ネットワークサービス事業推進本部副本部長)としている。
スマートフォンに似たフォルムで、PCのような機能と存在感をもつタブレット端末。消費者にとっては選択肢が広がっているわけだが、メーカーにとってもPCやスマートフォンとは異なった販売モデルが構築できる可能性がある。PCを売っていたメーカーは、スマートフォンのような売り方や提案を行い、一方でスマートフォンを中心に売っていたメーカーは、キャリアとの関係を深めながら、家電量販店との関係を深めて新しい売り方や提案に取り組むことができる。メーカーにとってタブレット端末は、新しい販売モデルの構築という点でも、「新しい端末」に位置づけられる。(佐相彰彦)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2011年9月26日付 vol.1400より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは