<PND・カーナビ>課題はポスト地デジ需要 メリットや使い方提案がカギ
昨年9月までのエコカー補助金制度を追い風に伸びた自動車販売を受け、好調だった昨年のカーナビ市場。今年は「地上デジタル放送対応」がけん引のキーワードとして期待されている。しかし、これは一時的な需要喚起に過ぎない。PND(パーソナル・ナビゲーション・デバイス)を含めたカーナビ市場の成長には何が必要なのか、大手メーカー各社の取り組みから探った。
パイオニア販売・営業統括部マーケティング部の福田俊一部長によると、「2010年度のカーナビ市場は、11年2月時点で概ね前年比110%だった」という。これは、昨年9月までのエコカー補助金制度が、自動車の販売を押し上げたことが大きな要因。クルマの買い替えや新規購入は、カーナビ購入の大きな決め手になる。補助金制度の終了に伴い、カーナビ市場も下期は減少したが、通期では上期の伸びが吸収した。BCNランキングデータによる「PND・カーナビ」の販売実績も、10月までは台数・金額ともに前年比1.5~2倍前後の高い伸びを示し、11月以降は前年並みに戻って推移した。
今年は、本来は4~5月に発売する各社の新製品で春の商戦が立ち上がるはずだったが、3月11日の東日本大震災の影響で各社が新製品の発売を延期。新製品が店頭に並ばず、PNDを中心とした家電量販店のカーナビコーナーの品揃えはひっ迫状態だった。BCNランキングの4~5月のPND・カーナビは、台数・金額ともに前年比3~4割減となった。
それでも6~7月には、各社の新製品がほぼ出揃う。パナソニックは、三洋電機の完全子会社化に伴って、トップシェアを誇る三洋のPND「Gorilla」を吸収。「パナソニック・ゴリラ」シリーズとしてブランドを残しながら、カー用品店と家電量販店で型番を分けて6月から販売を開始した。これまでの自社ブランドは、昨年10月発売のPND「旅ナビ」の8~9割を家電量販店で販売。据え置き型のAVナビ「ストラーダ」は約9割をカー用品店で販売する。「ゴリラ」の新製品は、ワンセグを含め、全機種が地デジに対応。「カーナビの地デジ対応需要に期待する」(オートモーティブシステムズ社国内市販ビジネスユニットマーケティンググループマーケティングチームの川原正明参事)という。
ソニーは、PND「nav-u」シリーズで、ワンセグ対応の4.8型PND新製品「NV-U77V」を5月に発売。3.5型のコンパクトタイプでワンセグ非搭載の「NV-U37」は6月25日に発売する。「NV-U37」は、「NV-U35」の後継機で、一方通行や細い道も表示する自転車用ナビ機能を搭載していることが特徴だ。別売のクレードルで自転車に取り付けられるなど、クルマ以外でも利用できる。新製品「NV-U37」は、新たに国土地理院発行2万5000分の1地形図による代表的な32か所の登山エリア地図を収録した。
パイオニアは、新開発のアルゴリズムで自車位置測位の精度向上を図ったPND「カロッツェリア エアーナビ」と、AVナビ「カロッツェリア サイバーナビ」を5月下旬に発売した。「サイバーナビ」は、「AR(拡張現実)スカウターモード」を搭載したことが最大の特徴。ARという最新技術のインパクトのほか、安全運転のための機能を豊富に備えた最上位モデルの魅力を訴求する。
各社の新製品は、ある意味では、今年のデジタル機器の大きなトレンドでもある「地上デジタル放送対応」の需要に応えたものだ。しかし、パイオニア販売の福田部長は「カーナビの地デジ対応率は今年度は60%まで上昇するとみているが、それでも結果的に4割ほどは対応しない可能性が高い」とするなど、地デジ対応は進めながらも、市場活性化のキーワードを別の場所に求めていく動きが始まっている。
パナソニックの川原参事は、「カーナビユーザーは、ドライブ好きのマニアが多い。市場活性化のためには、ユーザーのすそ野を拡大していく必要がある」として、今後は、「新しい使い方の提案や、簡単な操作性、購入しやすい価格設定などで購買層の拡大を目指す」という考えを示した。同社は昨年10月、目的地に着いたあとも便利に使うことをコンセプトに、新しい使い方を提案するPND「旅ナビ」を発売。「販売は好調で、手応えを感じている」という。
ソニーマーケティング・パーソナルデバイスMK課の伊集院正宗マーケティングマネジャーも、「クルマ以外で使う用途を提案していくことが、ユーザーのすそ野拡大につながる」と強調する。従来モデル「NV-U35」は、「6割のユーザーがクルマ以外で利用している」という。新製品の「NV-U37」は、カーナビや自転車ナビなどの機能に加え、登山口まではカーナビとして使用し、登山ではGPSとして使うことを提案する。店頭では、活用シーンの動画を流してアピールし、ユーザーを掘り起こしていく。
市場には、普及が進むスマートフォンやタブレット端末(スレート)の存在が、PND・カーナビの需要を脅かすという見方もある。しかし、スマートフォンは、カーナビとして長時間使用するには画面が小さく、10インチ前後のタブレット端末では逆に大きすぎて、運転の邪魔になる。また、これらの端末は、GPSの起動によってバッテリ駆動時間が短くなってしまうというデメリットもある。個人情報が入った端末を、ナビとして他の人と共有することに抵抗を感じる人もいるだろう。
クルマの中だけで使用する据え置き型のカーナビと自由に持ち歩くことができるPNDでは、必要とされる機能や利用シーンが微妙に異なる。それぞれのメリットや使い方を分かりやすく提案することが、新たなユーザーを掘り起こすカギになりそうだ。(田沢理恵)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2011年6月20日付 vol.1387より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは
例年から1~2か月遅れでスタートした2011年の商戦
パイオニア販売・営業統括部マーケティング部の福田俊一部長によると、「2010年度のカーナビ市場は、11年2月時点で概ね前年比110%だった」という。これは、昨年9月までのエコカー補助金制度が、自動車の販売を押し上げたことが大きな要因。クルマの買い替えや新規購入は、カーナビ購入の大きな決め手になる。補助金制度の終了に伴い、カーナビ市場も下期は減少したが、通期では上期の伸びが吸収した。BCNランキングデータによる「PND・カーナビ」の販売実績も、10月までは台数・金額ともに前年比1.5~2倍前後の高い伸びを示し、11月以降は前年並みに戻って推移した。
今年は、本来は4~5月に発売する各社の新製品で春の商戦が立ち上がるはずだったが、3月11日の東日本大震災の影響で各社が新製品の発売を延期。新製品が店頭に並ばず、PNDを中心とした家電量販店のカーナビコーナーの品揃えはひっ迫状態だった。BCNランキングの4~5月のPND・カーナビは、台数・金額ともに前年比3~4割減となった。
それでも6~7月には、各社の新製品がほぼ出揃う。パナソニックは、三洋電機の完全子会社化に伴って、トップシェアを誇る三洋のPND「Gorilla」を吸収。「パナソニック・ゴリラ」シリーズとしてブランドを残しながら、カー用品店と家電量販店で型番を分けて6月から販売を開始した。これまでの自社ブランドは、昨年10月発売のPND「旅ナビ」の8~9割を家電量販店で販売。据え置き型のAVナビ「ストラーダ」は約9割をカー用品店で販売する。「ゴリラ」の新製品は、ワンセグを含め、全機種が地デジに対応。「カーナビの地デジ対応需要に期待する」(オートモーティブシステムズ社国内市販ビジネスユニットマーケティンググループマーケティングチームの川原正明参事)という。
ソニーは、PND「nav-u」シリーズで、ワンセグ対応の4.8型PND新製品「NV-U77V」を5月に発売。3.5型のコンパクトタイプでワンセグ非搭載の「NV-U37」は6月25日に発売する。「NV-U37」は、「NV-U35」の後継機で、一方通行や細い道も表示する自転車用ナビ機能を搭載していることが特徴だ。別売のクレードルで自転車に取り付けられるなど、クルマ以外でも利用できる。新製品「NV-U37」は、新たに国土地理院発行2万5000分の1地形図による代表的な32か所の登山エリア地図を収録した。
6月25日発売のソニーの「NV-U37」。新たにアウトドア地図を搭載した
パイオニアは、新開発のアルゴリズムで自車位置測位の精度向上を図ったPND「カロッツェリア エアーナビ」と、AVナビ「カロッツェリア サイバーナビ」を5月下旬に発売した。「サイバーナビ」は、「AR(拡張現実)スカウターモード」を搭載したことが最大の特徴。ARという最新技術のインパクトのほか、安全運転のための機能を豊富に備えた最上位モデルの魅力を訴求する。
パイオニアは、「ARスカウターモード」を備えたAVナビ「カロッツェリア サイバーナビ」を発売。モニタには専用車載カメラで撮影したフロントガラス越しの映像を表示する
ソニー、パナソニックはクルマ以外の利用を積極提案
各社の新製品は、ある意味では、今年のデジタル機器の大きなトレンドでもある「地上デジタル放送対応」の需要に応えたものだ。しかし、パイオニア販売の福田部長は「カーナビの地デジ対応率は今年度は60%まで上昇するとみているが、それでも結果的に4割ほどは対応しない可能性が高い」とするなど、地デジ対応は進めながらも、市場活性化のキーワードを別の場所に求めていく動きが始まっている。
パナソニックの川原参事は、「カーナビユーザーは、ドライブ好きのマニアが多い。市場活性化のためには、ユーザーのすそ野を拡大していく必要がある」として、今後は、「新しい使い方の提案や、簡単な操作性、購入しやすい価格設定などで購買層の拡大を目指す」という考えを示した。同社は昨年10月、目的地に着いたあとも便利に使うことをコンセプトに、新しい使い方を提案するPND「旅ナビ」を発売。「販売は好調で、手応えを感じている」という。
パナソニックの「旅ナビ」
ソニーマーケティング・パーソナルデバイスMK課の伊集院正宗マーケティングマネジャーも、「クルマ以外で使う用途を提案していくことが、ユーザーのすそ野拡大につながる」と強調する。従来モデル「NV-U35」は、「6割のユーザーがクルマ以外で利用している」という。新製品の「NV-U37」は、カーナビや自転車ナビなどの機能に加え、登山口まではカーナビとして使用し、登山ではGPSとして使うことを提案する。店頭では、活用シーンの動画を流してアピールし、ユーザーを掘り起こしていく。
市場には、普及が進むスマートフォンやタブレット端末(スレート)の存在が、PND・カーナビの需要を脅かすという見方もある。しかし、スマートフォンは、カーナビとして長時間使用するには画面が小さく、10インチ前後のタブレット端末では逆に大きすぎて、運転の邪魔になる。また、これらの端末は、GPSの起動によってバッテリ駆動時間が短くなってしまうというデメリットもある。個人情報が入った端末を、ナビとして他の人と共有することに抵抗を感じる人もいるだろう。
クルマの中だけで使用する据え置き型のカーナビと自由に持ち歩くことができるPNDでは、必要とされる機能や利用シーンが微妙に異なる。それぞれのメリットや使い方を分かりやすく提案することが、新たなユーザーを掘り起こすカギになりそうだ。(田沢理恵)
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2011年6月20日付 vol.1387より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは