リニアPCMレコーダーが販売台数で5割を突破、高音質録音がより身近に

特集

2011/01/28 18:10

 高音質で録音できるリニアPCMレコーダーが売れている。「BCNランキング」のICレコーダー全体の販売台数に占める比率が、2010年11月に50.7%で過半数を超え、12月は55.9%まで拡大した。録音形式としてリニアPCM(WAV)が一般化し、高音質録音が身近なものになってきた。

ソニーの「ICD-UX512」

 ICレコーダーの録音形式にはWMAやMP3などがある。高音質なリニアPCM形式は、以前は業務用の録音機器や、楽器演奏を録音するような本格的な録音機器で採用されていた。しかし最近では、ビジネスシーンで使うような一般的なICレコーダーにも、リニアPCMに対応するモデルが増えてきた。

 リニアPCMレコーダーの販売台数比率をみると、09年3月には23.1%、09年11月に30.7%、10年10月には43.1%と徐々に高い割合を占めるようになった。直近の10年12月は55.9%で、間もなく6割に届く勢いだ。


 機種のカラーバリエーションを合算したシリーズ別の売れ筋でも、トップ10中5モデルがリニアPCMに対応している。ICレコーダー全体の12月の1位は、ソニーの「ICD-UX512」で販売台数シェア9.7%だった。2GBの内蔵メモリに加え、メモリースティック マイクロ、microSD/SDHCカードに対応し、利用シーンに応じて記憶媒体を使い分けることができる。

 2位はオリンパス「VN-6200」で8.8%。初めての人にも使いやすいように大きなボタンを採用するなど、シンプルな操作性が特徴だ。3位も同じくオリンパス「V-75」で7.8%だった。1位のソニー「ICD-UX512」と同様、内蔵メモリと外部メモリを使い分けることができる。上位3モデルのうち、リニアPCMに対応するのはソニー「ICD-UX512」とオリンパス「V-75」で、ともに音質は44.1kHz/16bitだ。

ICレコーダー シリーズ別(※)販売台数シェア トップ10
順位 メーカー シリーズ 販売台数
シェア(%)
1 ソニー ICD-UX512 9.7
2 オリンパス VN-6200 8.8
3 オリンパス V-75 7.8
4 ソニー ICD-UX513F 6.0
5 オリンパス V-85 5.4
6 オリンパス DP-10 4.9
7 ソニー ICD-BX80 4.6
8 オリンパス VN-8100PC 4.3
9 三洋電機 ICR-B002RM 4.1
10 三洋電機 ICR-PS401RM 3.9
※オレンジはリニアPCM形式に対応
※カラーバリエーションは合算して集計
「BCNランキング」2010年12月 月次<最大パネル>

 確かにリニアPCM形式は、ほかの形式と比べて高音質で録音できる。しかし、オリンパスイメージングの国内営業本部営業企画部の猪狩一郎氏によれば、「きれいな音を録るには、マイクの設定やノイズ低減など、さまざま要素が関係している」という。また、三洋電機の広報担当者は「録音機器である以上、高音質は追求していくが、誰でも使いこなせるよう、操作性を高めていくことも大切だ」としている。

 リニアPCM対応モデルが増えて、高音質の録音が当たり前になりつつあるが、メーカーはどのように製品の差異化を図るのだろうか。オリンパスは「例えば、録音した日付でファイル管理ができるなど、操作性の向上や利用シーンに合わせて製品を提案していく」(猪狩氏)としている。また、ソニーマーケティングのCAVMK部門PAVMK部の富田充弘氏は「マイクやノイズカットなどの録音・再生性能を強化していく」という。

オリンパスの「VN-6200」(左)と「V-75」

 ICレコーダー市場全体は、2010年、販売台数・金額ともに好調に推移した。09年は販売金額で前年割れだったが、10年は7月を除いて前年越えを維持。これは、単価の高いリニアPCM対応モデルの比率が上昇していることが影響している。

 市場が好調な理由を、ソニーマーケティングの富田氏は「高性能なマイクやノイズカット機能など、付加価値のある製品を投入したところ、好評だった。この点が、結果的に単価下落の抑止につながったと考えている」と話す。さらに、オリンパスは「ラジオ対応モデルの人気など、利用シーンが拡大してユーザー層が広がった」(オリンパスイメージング猪狩氏)と分析している。


 テープレコーダーからICレコーダーに切り替えたばかりの初心者や、語学など習いごとの講座を録音するユーザー、自然の音や楽器演奏など、いわゆる「生録」をする上級者など、一般的なICレコーダーやリニアPCMレコーダーのユーザーはいまや多様化している。ユーザーが求める個別の用途に応じた製品を提供することに加えて、使いやすさを高めていくことが、市場の成長にとって不可欠だろう。(BCN・井上真希子)


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