何がスゴイGR3? 高級コンパクトデジカメの進化を夏の下町撮影で確かめた

レビュー

2009/08/21 20:30

 05年の登場以来、その軽快さと抜群の描写性能、そして所有欲を高いレベルで満たす高級な質感で熱狂的なファンを獲得してきたリコーの「GR Digitalシリーズ」。その三代目が8月5日発売の「GR Digital III」(以下、GR3)だ。従来のデザインや特性はそのままに、レンズや画像処理エンジン、CCDといった基本性能をブラッシュアップ。スナップカメラとして極めて正常な進化を遂げた。今回はこのGR3を、真夏の下町へと連れだし、スナップカメラとしての魅力、可能性を探ってみることにした。

リコー「GR DIGITAL III」


「持つ喜び」「撮る喜び」をしっかり味わえるカメラ、それがGR Digital



 GRシリーズの初代「GR Digital」は、抜群の描写能力と「持つ喜び」を感じさせるシックな質感、高い操作性などで、熱狂的なファンを獲得。同時に「高級コンデジ」というニッチな市場をあらためて切り拓いた。813万画素の1/1.8型CCDに28mm(35mmフィルム換算、以下同)・F2.4のGRレンズを組み合わせ、多彩なカスタマイズ性や直感的な操作性能で、多くのユーザーが「撮る喜び」を実感したことだろう。

 07年にはSDHC対応、有効1001万画素の1/1.75型原色CCD、デジタル水準器を搭載した「GR Digital II」(以下、GR2)が登場。初代の高い完成度をさらに深く追求したことで従来以上に多くの中-上級ユーザーを獲得。また、GRシリーズ独自の魅力は流行に敏感な若者たちも新たなファン層として獲得、その存在をより確かなものとした。

2年の月日を経て登場したGR3では何が変わったのか



 そしてGR2から2年越しで発表されたGR3。初代から変わることのないスナップカメラとしての思想をしっかり受け継ぎ、28mm・F1.9の新GRレンズ、新たに設計した暗所に強い有効1000万画素の1/1.7型CCD、新型画像エンジン「GR ENGINE III」といった新コンポーネントを備えて登場してきた。

 特に28mm・F1.9というレンズは現存するコンデジの中でトップクラスの明るさを誇るレンズであり、撮影の幅を大きく広げてくれる。また、新設計のCCDは、画素数を敢えて据え置き、高感度化を追求することでトータルな画質向上を目指すというリコーならではの思想に基づく進化を遂げている。これにより、ノイズの少ないなめらかな画像を、ISO200時で従来機のISO100と同等の画質で実現している。同時にダイナミックレンジも拡大されており、従来機と比べて白飛びが少なくなっているという。

さらに向上した操作性とカスタマイズ性



 また、GR Digitalと言えば、直感的な操作性と多彩なカスタマイズ性も忘れてはならない大切な要素だ。もちろんGR3でもその点は変わらず、基本的な操作はGR2と同じだ。初代やGR2から移行した場合でも、ほぼマニュアルなしで使いこなすことができるだろう。

マイセッティングが3つに増えたモードダイヤル

 大きな進化を実感するのはカスタマイズ性の部分。特に撮影設定を登録しておき、撮影時にダイヤル操作で適宜呼び出せるマイセッティングは、従来の2つから3つへと増え、さらに使いやすくなった。さらにメニュー画面内の「マイセッティングBOX」を使えば、最大6つまでの撮影設定が保存可能。また、ボタンにAFモードやISO感度変更、露出補正、AF/AEロックといった任意の機能を割り振れるファンクションボタンも従来の1つから2つへと増え、利便性が大きく向上している。

背面のファンクションボタンが2つに増加

 目に見えない使い勝手も進化している。GR3では、プレAFにより、シャッターボタンを半押ししなくても、被写体の動きに応じてフォーカス駆動を調整することで合焦時間を短縮。使ってみると確かに小気味よく動作し、暗所でも合焦に迷うことがなかった。また、シャッターボタンを一気に押し込むことで、設定した距離(1m/2.5m/5m/∞)にピントを固定する「フルプレススナップ」機能も注目だ。AF駆動を行わないので一瞬のシャッターチャンスを逃さない、スナップカメラを追求するGR3ならではの機能だ。
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シーン1:スナップカメラならではのカット



 さて、GR Digitalの新型ということでついつい興が乗りすぎてしまい、スペック面を長々と書きすぎてしまった。そろそろ街へ出てスナップを楽しんでみることにしよう。まずは都バスに乗っての散歩中に運良く遭遇した深川祭での神輿シーン。

プログラムAE・F4・1/320・ISO125・Ev±0

 バスを降りた目の前でとっさに撮影したカット。サッと取り出してすぐに撮影が行えるGR3だから撮れた写真だと言える。

プログラムAE・F5.6・1/640・ISO64・Ev-0.3
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シーン2:意外と大きいデジタル水準器の効果



 浅草寺へと伸びる仲見世通りで、GR3を頭上にかざして撮影。ほとんど液晶を見ることができないため本体に搭載する水準器のみを頼りにシャッターを切ったが、なかなかキレイに水平を保つことができた。

プログラムAE・F5・1/500・ISO400・Ev-0.3

シーン3:こんな効果も? ダイナミックレンジダブルショット機能



 浅草寺本堂に続く宝蔵門。明暗差の大きいシーンで、白とびや黒つぶれを防ぐ機能である「ダイナミックレンジダブルショット」機能を試した。露出の異なる2枚の画像を連続撮影し、カメラ内で合成することで、見た目の印象に近い写真が撮れるのだという。

ダイナミックレンジダブルショット使用
プログラムAE・F2.5・1/330・ISO64・Ev-0.3

ダイナミックダブルレンジショット未使用
プログラムAE・F4・1/400・ISO64・Ev-0.3

 あきらかにダイナミックレンジダブルショット機能を用いた場合の方が、明暗差が少ない。使いこなせばかなり面白い機能だが、2回の撮影を行うという特性上、三脚などを用いてカメラを動かさないように注意する必要がある。

 余談だが、「1回のレリーズで2枚の画像を撮影する」ということで、残像効果のような幻想的な写真を撮ることもできる。被写体や状況によっては面白いカットが得られるかもしれない。

プログラムAE・F2.5・1/310・ISO64・Ev-0.3
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シーン4:本格的なマニュアルモードを備えるGR Digital IIIならではの長時間露光



 マニュアルモードを備えるGR3だけに、長時間露光による夜景撮影にも挑戦してみた。?

マニュアル・F5・6.0・ISO64・Ev±0
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 隅田川に架かる名橋の一つ、永代橋をスローシャッターで撮影。絞りF5、シャッタースピード6秒のマニュアルモードでの撮影だ。

マニュアル・F4.5・15.0・ISO64・Ev±0
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 こちらは永代橋の欄干から下流の佃島方面へ向けてF4.5、シャッタースピード15秒での一枚。長時間露光によるノイズも比較的抑えられており、クリアなカットを得ることができた。

 あらかじめマイセッティングに夜景用のセッティングを登録しておいたおかげで、暗闇の中でも慌てることなく、ワンタッチに近い手軽さで撮影を始められるのが嬉しい。この辺りはさすがGR3といったところ、操作性の高さが光る。

シーン5:高感度撮影時のノイズレベルは十分な許容内



 高感度に強くなったと言われるGR3。そこで、浅草寺本堂でISO400とISO800で高感度撮影を行ってみた。

プログラムAE・F1.9・1/25・ISO400・Ev-0.3
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プログラムAE・F1.9・1/50・ISO800・Ev-0.3
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 いずれもかなり暗い条件だったが、1/25から1/50と、まずまずのシャッタースピードで手ブレを抑えることができた。ノイズレベルは昨今のカメラの中では標準的。十分に実用に耐えられるレベルだ。

プログラムAE・F1.9・1/60・ISO100・Ev+0.3
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 焼きたてのピッツァと茹で上げパスタを食す。F1.9というレンズの明るさに助けられ、ISO100で手ブレなしのカットを得ることができた。こうした屋内での料理撮影では、レンズの明るさによる恩恵を特に実感できる。

プログラムAE・F2.2・1/100・ISO100・Ev+0.3
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シーン6:GRと言えばモノクロ



 GR Digitalと言えばモノクロモード。実際、多くのGR Digitalユーザーがブログなどで味のあるモノクロ写真を公開し、見る者を愉しませてくれている。

プログラムAE・F3.5・1/250・ISO64・Ev-0.3
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 単にカラー写真から彩度を削ぎ落としただけではない、階調感豊かで透明感ある写真がGR3のモノクロモードの特徴。ISO感度を思い切り上げで粒状感を出せば、フィルム調のより生々しいテイストに仕上げることもできるし、調色や彩度、シャープネス、コントラストを調整し、自分好みのモノクロモードを作り出すこともできる。

プログラムAE・F3.5・1/250・ISO64・Ev-0.3
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本能の赴くままに撮影を楽しめる唯一無二のカメラ



 GR3を散歩の共にとポケットに忍ばせ、街角スナップから夜景までさまざまなシチュエーションでの撮影を楽しんでみた今回。28mm単焦点だから、ズーミングで悩むこともなければ、コンパクトタイプゆえレンズキャップを外す必要もない。電源ボタンを押せば即撮影、という小気味よさで「写真を撮ることの楽しさ」を存分に堪能できた。気がつけば撮影枚数は300枚を越え、朝から晩まで時間の経過を忘れて下町を彷徨していた。


 本能の赴くまま、撮りたいときに撮れることがGR3の大きな魅力。時を忘れて撮影した写真のクオリティも非常に高いことは言うまでもなく、帰宅後の編集作業や鑑賞もまた楽しい。そんな写真本来の愉しみを存分に味合わせてくれるカメラがGR3だといえる。(ITジャーナリスト・市川昭彦)

※作例のリサイズおよびシャープネス調整にPhotoshop CSを使用