携帯オーディオはキャラで売る時代へ、touchが変えた個性派への流れ
●iPod touch の発売で流れが変わった
iPodのコンセプトは「ポケットに1000曲」。それは05年9月、アップルのスティーブ・ジョブズCEOがジーンズのポケットから初代のiPod nano(初代nano)取り出して見せたときにほぼ完成した。この年、初代nanoは年末にかけてまさに爆発的な勢いで売り上げを伸ばした。しかしピークもこのあたり。以後、携帯オーディオ市場全体は右肩下がりで推移し、前年割れ水準になることも珍しくなくなっていた。需要が一巡してしまったことと、製品の中に「新しい何か」が見つからなくなったからだ。
07年初頭は、台数こそ序盤でなんとか持ちこたえていたものの、販売金額ではずっと前年割れの状態。メーカー各社は徐々に「先の見えない価格競争」に巻き込まれつつあった。ところが10月、多少の遅れはあったものの、前評判の高かったtouchが発売されるやいなや、市場の顔つきは大きく変化した。
台数こそ依然前年割れのレベルが続いているものの、販売金額が前年を上回るまで急速に回復。もちろん、火をつけたのはtouchだ。しかし理由は、どうやらそれだけでもなさそうだ。たった16GBのメモリしかないのに5万円弱という価格はいかにも高価。「touchは最初の勢いはすごかったが……」とある量販店の従業員は語る。「iPod classic(classic)はHDDタイプとはいえ10倍の160Bという広大なエリアがある。それで価格は4万円強。その差は歴然」。この店ではtouchの当初の勢いは現在影を潜めているという。
とはいえ、比較対象の両モデルの価格はいずれも4万円超。携帯オーディオとしては「高額モデル」にあたる。現在、日本の携帯オーディオ市場の税抜き平均単価は1万5000円前後。そのはるか上で「どちらがいいか」を争っているにすぎない。気に入れば多少値が張っても購入する、という昨今のユーザー心理をうまくついた作戦にも思える。
「BCNランキング」で実際の売れ筋をみると、一番は9月発売の第3世代nanoの8GBモデル。発売以降ずっとトップを走ってきた。次が4GBモデルだが、最近では8GBモデルを抜く週もちらほら出始めている。一方直近では、年末のギフトシーズンを目前にして、iPodシリーズでは最安の第3世代iPod shuffle(第3世代shuffle)が急激に伸びている。11月最終週(11月26日-12月2日)はshuffleが久々のトップをとった。4位にclassicの80GBモデル、8位にはtouchの8GBモデルがしっかりランクインしている。
国内勢は、トップ10に入っているのはソニーのみ。4GBのメモリタイプでノイズキャンセリング機能を搭載したNW-S716Fが5位につけたのが最高位だ。以下2GBでダイレクトレコーディング対応のNW-S615F、などいずれもいわゆるSシリーズがランクインした。9位と10位はいずれもスティックタイプのEシリーズだ。
●キャラが立っていることが人気の条件
touchやclassicの投入で、これまで2万円のレベルに張り付いていたアップル製品の平均単価も一気に2万3000円程度にまで上がってきた。この影響は全体にも波及し、1万7000円弱で推移していた全体の平均単価を1万9000円台にまで押し上げた。国内メーカーはシャープを筆頭に平均単価は1万5000円を下回る水準だが、唯一ソニーだけが、アップルと同じような動きをしている。1万7000円とアップルに比べればまだ低い水準だが、11月に入っで平均単価が大きく伸びている。
「キャラが立っている」という意味では、アップルのtouchにあたるモデルは、ソニー初のワンセグモデルNW-A900シリーズではいだろうか。これまで携帯オーディオでワンセグといえば、東芝gigabeatのお家芸だったが、ソニーは手の中に納まるような非常に小さなモデルでワンセグ化を実現した。16GBでノイズキャンセリング機能も持つNW-A919は、BCNが12月6日に集計した市場推定価格(以下同)4万2500円。同じスペックでメモリが8GBのNW-A918は同3万4000円。918は販売台数シェア1.4%でランキング14位。919も同率で14位だ。
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画面を指で叩いて引きずって操作する無線LAN端末でもあるtouchのキャラクターは強烈だ。しかしそれ以外にも、とにかく大容量のclassic、小さくて安いshuffleと、iPodの中でもそれぞれのキャラは明確。好調なソニーも、ワンセグ、ノイズキャンセル、大口径イヤホンとこれまでにない役者を用意してきた。そのほか、SDカードとノイズキャンセラの松下、1万円以下と手軽でモニタつきの東芝Uシリーズなど、それぞれの性格が明確になってきた。「どれも同じように見えてどれを買っていいか分からない」という声をいまだによく聞く携帯オーディオ製品だが、個性が目立つ製品も増え、選びやすくなっている。
トップ10外だが、グリーンハウスの「GH-KANA-D」は1GBながら市場推定価格4100円の激安製品。iriverの「Mplayer」はまさにキャラクターそのもののミッキーマウスの頭の形をした携帯オーディオ。市場推定価格はブラックモデルで9800円、シェア0.4%で同率30位だ。一言二言で製品の特徴をズバリ言い表せるモデルが、これからの主流になってきそうだ。
●アップル、ソニーを追うメーカーは年末商戦で現れるか?
市場全体の傾向もみておこう。9月の新製品でshuffle以外全モデルの動画対応に踏み切ったアップルの影響が大きく、動画対応モデルの割合は一気にジャンプアップした。以前は2割程度だった対応率が、ピークで72.4%までも上昇。直近の11月最終週でも62.0%と過半数超えを果たした。
一方、記憶容量の傾向をみると、急激に下げ続けているのが1GB未満のモデル。06年8月時点では、35%を超え数の上ではトップだった。それがこの1年あまりで急降下し、直近では6.0%しかない状態だ。入れ替わりで1GBモデルが24.7%でトップ。次いで4GBと8GB。2GBも徐々にシェアを上げていたが、8月最終週を境にシェアを落とした。再生時間では、主流だった10-20時間未満が急激に減少し20-50時間の製品が7割を超えてるまでに拡大した。一方50時間超のモデルはこのところ減少傾向だ。
メーカーシェアは相変わらずアップルがダントツ。11月最終週では6割を狙う高位置につけている。またしばらく20%の壁をなかなか越えられなかったソニーだが、ここに来てシェアが上向いており3割を狙うところまで来ている。その他のメーカーはまだ10%未満のエリアに閉じ込められたような動きだ。しばらくなかなか3番手が浮上できない状況が続いている。2社だけではいかにも寂しい。2強を脅かすような強力な製品を繰り出すメーカーの登場を期待したい。(BCN・道越一郎)
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