グラフィックボードにもハイビジョン化の波、メーカー勢力図にも異変か?
●売れ筋はミドルクラスでハイビジョン対応
現在、グラフィックボードの売れ筋は、実売1万円台からそれ以下のミドルレンジ製品。グラフィックチップのバリエーションはnVIDIAのGeForce 8600 GTを筆頭に同7600 GSや7300 GT、ATIのRADEON 9600など変化に富むものの、カテゴリー的にこれらはすべて中級から初級向けの普及タイプだと言っていい。では、なぜ人々はこのレンジのカードを求めるか? それは、これらミドルエンドカードのスペックを読み解いていくことでハッキリする。
まずはビデオメモリ。「BCNランキング」10月のトップ10中、9機種が256MB以上のDDRメモリを搭載する。これだけの容量があれば高スペックを要求する3Dゲームやレタッチソフトなどもラクラクこなす。デュアルリンクDVI機能を利用してデュアルモニタ出力においても高解像度でのビデオ表示が可能になる。
心臓部であるチップセットに関してはnVIDIAのGeForce 8600 GTが主流になった。搭載チップセット別で売れ筋を見ると、8600 GT搭載モデルが4月の発売以後順調にシェアを伸ばし夏を境に1位を獲得。10月のシェアは18.2%だった。半年でそれまで主流だった同GeForce 7600 GSときれいに入れ替わっている。8600 GTの人気の理由は、Direct X 10に対応しWindows Vistaとの相性もいい点が大きいだろう。
そしてもう一つ忘れてはならないのが「ハイビジョン(HD)出力機能」だ。HD百花繚乱時代の現在においては、これらミドルレンジのボードでもHDTV対応汎用端子を搭載する機種が少なくない。それゆえ「PCで録画したHD映像を大型テレビで映す」といった使い方も可能となる。
___page___
従来ならばハイエンドにしか搭載されなかったこれらの機能や性能が、今ではミドルレンジの製品で手に入れることができるようになった。この「HD対応」が人気を押し上げているのは間違いないだろう。よほどのヘビーユーザーでないかぎり、そのニーズはこのレンジの製品で満たすことができる。いわば「性能と多機能性のバランスの良さからくるお買い得感」。それがミドルエンドグラフィックボードの強さの秘密だろう。
●旧マシンの「底上げ需要」と新型マシンの「ブラッシュアップ需要」に二分
もう一つ、このミドルレンジのグラフィックボードを別の角度から眺めてみると、面白い傾向があることに気付く。それが「対応バス規格から見るニーズの相違」だ。
ランキングトップ10機種の対応バス形状別に見ると、PCI Expressバス用のものとAGPバス用のもの2種類にハッキリと分かれていることがわかる。これはPCI-Expressバス用を買うユーザーが「新型マシンのブラッシュアップ」を目的にしているのに対し、AGPバス用を買い求めるユーザーが「旧型となったマシンの“底上げ”」を目的としていることを意味している。
全体の傾向では、PCI-Expressモデルが今年の春以降全体の70%を超えて推移している状況。AGPは逆に30%を割り込み、9月には20.4%と少なくなったものの、10月には22.5%と反転して若干シェアを伸ばした。
比較的新しいマシンのほぼすべてがPCI-Expressを搭載していることを考えれば、過去のレガシーインタフェースとなったAGPバス対応製品を購入することの目的は「旧態化してしまったマシンでもグラフィック機能を強化すればまだまだ使える」という目算に依るところが大きい。こうしたニーズに対してもミドルエンドのグラフィックボードは高い訴求力を持っていると言える。
●トップの玄人志向にASUSTekが僅差で迫る――08年AWARDの行方は?
一方、グラフィックボードのメーカー動向を見ると、玄人志向とASUSTekの2社がトップを争っている。今年に入って両社絡み合いながら1位争奪戦を繰り広げてきたが、ここに来て玄人志向の勢いが増し、10月では26.4%を記録。月次シェアでは差を広げつつある。
しかし、07年の年間シェアではまだ激戦だ。玄人志向は年間販売台数のナンバーワンを競う「BCN AWARD」のグラフィックボード部門で4年連続受賞を続けているナンバーワンメーカー。前回は2位と9.4%の差をつけてトップメーカーの称号を手にした。ところが今年は、10月現在の累計シェアが23.2%。2位ASUSTekが22.5%とわずか0.7%差で背後に迫っている。ここから12月にかけて玄人志向がトップの座を守りきることができるのかも注目だ。(フリージャーナリスト・市川昭彦<Aqui-Z>/BCN・道越一郎)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など24社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。