iPodの伸び悩みで携帯オーディオ市場に変化、「音」重視の日本製品が好調
この1年、販売台数の伸びでは足踏み状態が続いている携帯オーディオ市場。需要がほぼ一巡したこともあり、2月以降は前年割れで推移している。要因として大きいのは「メインプレーヤー」アップルの伸び悩み。依然として半分近い販売台数シェアを握っているアップルが日本の携帯オーディオ市場全体に及ぼす影響は大きい。しかし、日本企業各社はここをチャンスとばかり、キャッチアップを狙っており、水面下で状況が大きく変化している。「BCNランキング」で探った。
この1年、販売台数の伸びでは足踏み状態が続いている携帯オーディオ市場。需要がほぼ一巡したこともあり、2月以降は前年割れで推移している。要因として大きいのは「メインプレーヤー」アップルの伸び悩み。依然として半分近い販売台数シェアを握っているアップルが日本の携帯オーディオ市場全体に及ぼす影響は大きい。しかし、日本企業各社はここをチャンスとばかり、キャッチアップを狙っており、水面下で状況が大きく変化している。「BCNランキング」で探った。
●アップルの勢いに陰り、虎視眈々とその座を狙うのは?
アメリカでは、アップルが間もなく発売するiPhoneに話題が集中している。前評判から考えれば、今年のビッグヒット製品になるのは間違いなさそうだ。しかし、iPhoneの日本での発売は未定。こうした状況が、iPodの日本での売れ行きに、どう作用しているかは分からない。しかし、06年秋にアップルが発売したiPodシリーズの新製品は、shuffleをのぞけばマイナーチェンジにとどまったためか、販売台数を大きく押し上げるような効果はなかった。
メーカー別の販売台数シェア推移を見ると、以前は余裕で50%越えを維持していたアップルが、最近では逆に50%を天井に40%台後半で推移している状態。逆にこのところアップトレンドに入っているのがソニー。こちらは20%をボトムに30%をうかがう展開だ。5月のデータではアップルの46.4%に対しソニーが27.4%と、じりじりと追い上げている。
都内にある大手量販店の販売員によると「しばらく前なら、携帯オーディオといえばiPodを売っておけばよかった。しかし、最近では他社の製品でも、機能・デザインともほとんど差はなくなってきている。定番ということで確かにiPodの人気は高いが、女性を中心にデザイン性を評価され日本製品も人気が高まっている」という声が聞かれた。数字を見ても勢いの変化が見て取れる。
販売台数の対前年推移をメーカー別に比較すると、全体では横ばい状態が続いており、2月以降はわずかながら前年割れの水準だ。アップルもほぼ同様の動きを示している。06年の7-8月ごろはそれでも前年比で大きくプラス件で推移していたものの、その後は100%前後で推移し、直近の5月では全体が対前年比で97.7%なのに比べ、90.3%と落ち込みが拡大した。
一方伸びが目立つのがソニーだ。06年の7月こそ対前年比で103.6%と前年並みだったが、以降150-200%の間で推移。直近の5月では、207.9%とこの1年で初めて前年比2倍越えの販売台数を記録している。アップルがマイナーチェンジでしのいでいる間、ソニーは新製品攻勢で攻めあがっているという構造だ。
●高音質ヘッドホンを同梱した「音重視」の製品がベスト10入り
機種別のランキングを見てみよう。勢いが衰えてきたとはいえ、ランキングの上位陣は相変わらずiPodが独占。5月の「BCNランキング」では、1位が第2世代の「iPod nano 4GB」で、販売台数シェアは12.3%。2位が同じく第2世代の「iPod shuffle(1GB)」で、10.3%だった。以下、nanoの2GBモデル、iPodの30GBモデルと続く。一方、日本のメーカーに目を転じると、伸びが止まったiPodにキャッチアップするチャンスとばかり、各社ともiPodにはない機能を備えた製品を発売して、ユーザーの取り込みに必死だ。
特に目立つのは、「音」にこだわった製品。iPodの次に販売台数シェア4.3%で5位にランクインしたソニーの「NW-E013」(1GB)、続く3.4%で6位の「NW-E015」(2GB)はいずれも4月発売のフラッシュメモリタイプでダイレクトでUSB端子に接続できる携帯オーディオ。同梱のヘッドホンに「大口径13.5mmEXヘッドホン」を採用したのが特徴だ。
都内の量販店で、この同梱ヘッドホンについて話を聞くと「単体で買うと実売で5000円弱もするグレードの高いもの」で、音のよさもなかなかだという。「NW-E013」が実売で1万円前後、「NW-E015」が1万3000円前後であることを考えると、かなりヘッドホンに力を入れている製品だといえる。
●ノイズキャンセル機能も強力な武器に
いい音という意味では、ノイズキャンセル機能つきの携帯オーディオも好調だ。周辺の雑音を打ち消す音をヘッドホンに流すことでノイズを低減させる技術を採用したモデルだ。周囲の雑音が無音になるわけではないが、旅客機の中など、一定の雑音が継続するような環境では、確かに大きな効果を発揮する。この技術を採用した製品で最も有名なのはBOSEのヘッドホン「QuietComfort(クワイアットコンフォート)」シリーズだろう。4万円を超える高価なヘッドホンだが高いノイズキャンセル効果があり、根強い人気がある。
こうしたノイズキャンセル機能を携帯オーディオにドッキングさせたのが、松下が06年8月に発売した携帯オーディオ「SV-SD800N」。「騒音キラー」と命名したノイズキャンセル機能がついたモデルで、07年4月には後継の「SV-SD850N」を発売。これが5月のランキングでは早くも3.3%のシェアで7位とトップ10入りを果たした。一方ソニーも06年10月にSシリーズでノイズキャンセル機能つきの「NW-S700Fシリーズ」を発売。同じくシェア2.5%で9位にランクインしている。
そのほか、徹底的に音にこだわった携帯オーディオ「MEDIA Keg」シリーズを展開するのはケンウッド。同社は05年6月にデジタルアンプを採用し音にこだわった「HD20GA7」を発売し、「MEDIA Keg」シリーズを立ち上げた。特に06年9月に発売したフラッグシップモデルの「HD30GB9-B」は、30GBのHDDを搭載して実売5万円前後。かなり高価な部類に入るためか5月の販売台数ランキングこそ102位とふるわないものの、新たに開発したデジタルアンプを備えることなどから、音質の高さではさすがに評判がいいようだ。
●メモリタイプ主流は完全に定着、進む大容量化と長時間化
携帯オーディオ全体の傾向もかなり変化してきた。現在の主流はメモリタイプで、5月現在、販売台数全体の87.2%。さらにわずかながら増加傾向は続いている。一方、HDDタイプは押され気味だ。そんな中、容量の構造もだいぶ変化してきた。
これまでは、販売台数の3割以上を占め、最もシェアが高かったのが1GB未満のモデル。しかし、06年6月に34.6%だったシェアがこの5月には15.3%と激減した。代わって、今最も売れているのは1GB台のモデルでシェアは28%。このクラスでも平均価格が1万円を切りはじめていることが首位交代の要因だろう。続いて売れているのが2GB以上-4GB未満のクラスで21.5%。3位が4GB以上-8GB未満で17.2%。次がやっと、ずっとトップだった1GB未満のクラスだ。
連続再生時間も1年でかなり変化している。昨年であれば10時間台が65.3%でダントツだったが、この5月には30.9%に後退した。入れ替わりに伸びてきたのが20時間台。5月時点で37%を占めている。そのほかこのところ目立つのが30時間台の製品の伸びで、1年前にわずか1%だった販売台数シェアが15.8%ににまで伸びてきている。
量販店の店頭では、在庫処分の低容量携帯オーディオが、投げ売り価格で販売されているのを目にするようになってきた。とりあえず格安で「携帯オーディオ」なるものを体験してみたいなら、ねらい目かもしれない。一方、大容量化、長時間化等を反映して、それまで下落傾向が続いていた平均単価は07年1月をボトムに上昇に転じている。携帯オーディオ市場が再び熱くなる「嵐の前の静けさ」なのかもしれない。(WebBCNランキング編集長・道越一郎)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など21社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。
この1年、販売台数の伸びでは足踏み状態が続いている携帯オーディオ市場。需要がほぼ一巡したこともあり、2月以降は前年割れで推移している。要因として大きいのは「メインプレーヤー」アップルの伸び悩み。依然として半分近い販売台数シェアを握っているアップルが日本の携帯オーディオ市場全体に及ぼす影響は大きい。しかし、日本企業各社はここをチャンスとばかり、キャッチアップを狙っており、水面下で状況が大きく変化している。「BCNランキング」で探った。
●アップルの勢いに陰り、虎視眈々とその座を狙うのは?
アメリカでは、アップルが間もなく発売するiPhoneに話題が集中している。前評判から考えれば、今年のビッグヒット製品になるのは間違いなさそうだ。しかし、iPhoneの日本での発売は未定。こうした状況が、iPodの日本での売れ行きに、どう作用しているかは分からない。しかし、06年秋にアップルが発売したiPodシリーズの新製品は、shuffleをのぞけばマイナーチェンジにとどまったためか、販売台数を大きく押し上げるような効果はなかった。
メーカー別の販売台数シェア推移を見ると、以前は余裕で50%越えを維持していたアップルが、最近では逆に50%を天井に40%台後半で推移している状態。逆にこのところアップトレンドに入っているのがソニー。こちらは20%をボトムに30%をうかがう展開だ。5月のデータではアップルの46.4%に対しソニーが27.4%と、じりじりと追い上げている。
都内にある大手量販店の販売員によると「しばらく前なら、携帯オーディオといえばiPodを売っておけばよかった。しかし、最近では他社の製品でも、機能・デザインともほとんど差はなくなってきている。定番ということで確かにiPodの人気は高いが、女性を中心にデザイン性を評価され日本製品も人気が高まっている」という声が聞かれた。数字を見ても勢いの変化が見て取れる。
販売台数の対前年推移をメーカー別に比較すると、全体では横ばい状態が続いており、2月以降はわずかながら前年割れの水準だ。アップルもほぼ同様の動きを示している。06年の7-8月ごろはそれでも前年比で大きくプラス件で推移していたものの、その後は100%前後で推移し、直近の5月では全体が対前年比で97.7%なのに比べ、90.3%と落ち込みが拡大した。
一方伸びが目立つのがソニーだ。06年の7月こそ対前年比で103.6%と前年並みだったが、以降150-200%の間で推移。直近の5月では、207.9%とこの1年で初めて前年比2倍越えの販売台数を記録している。アップルがマイナーチェンジでしのいでいる間、ソニーは新製品攻勢で攻めあがっているという構造だ。
●高音質ヘッドホンを同梱した「音重視」の製品がベスト10入り
機種別のランキングを見てみよう。勢いが衰えてきたとはいえ、ランキングの上位陣は相変わらずiPodが独占。5月の「BCNランキング」では、1位が第2世代の「iPod nano 4GB」で、販売台数シェアは12.3%。2位が同じく第2世代の「iPod shuffle(1GB)」で、10.3%だった。以下、nanoの2GBモデル、iPodの30GBモデルと続く。一方、日本のメーカーに目を転じると、伸びが止まったiPodにキャッチアップするチャンスとばかり、各社ともiPodにはない機能を備えた製品を発売して、ユーザーの取り込みに必死だ。
特に目立つのは、「音」にこだわった製品。iPodの次に販売台数シェア4.3%で5位にランクインしたソニーの「NW-E013」(1GB)、続く3.4%で6位の「NW-E015」(2GB)はいずれも4月発売のフラッシュメモリタイプでダイレクトでUSB端子に接続できる携帯オーディオ。同梱のヘッドホンに「大口径13.5mmEXヘッドホン」を採用したのが特徴だ。
都内の量販店で、この同梱ヘッドホンについて話を聞くと「単体で買うと実売で5000円弱もするグレードの高いもの」で、音のよさもなかなかだという。「NW-E013」が実売で1万円前後、「NW-E015」が1万3000円前後であることを考えると、かなりヘッドホンに力を入れている製品だといえる。
●ノイズキャンセル機能も強力な武器に
いい音という意味では、ノイズキャンセル機能つきの携帯オーディオも好調だ。周辺の雑音を打ち消す音をヘッドホンに流すことでノイズを低減させる技術を採用したモデルだ。周囲の雑音が無音になるわけではないが、旅客機の中など、一定の雑音が継続するような環境では、確かに大きな効果を発揮する。この技術を採用した製品で最も有名なのはBOSEのヘッドホン「QuietComfort(クワイアットコンフォート)」シリーズだろう。4万円を超える高価なヘッドホンだが高いノイズキャンセル効果があり、根強い人気がある。
こうしたノイズキャンセル機能を携帯オーディオにドッキングさせたのが、松下が06年8月に発売した携帯オーディオ「SV-SD800N」。「騒音キラー」と命名したノイズキャンセル機能がついたモデルで、07年4月には後継の「SV-SD850N」を発売。これが5月のランキングでは早くも3.3%のシェアで7位とトップ10入りを果たした。一方ソニーも06年10月にSシリーズでノイズキャンセル機能つきの「NW-S700Fシリーズ」を発売。同じくシェア2.5%で9位にランクインしている。
そのほか、徹底的に音にこだわった携帯オーディオ「MEDIA Keg」シリーズを展開するのはケンウッド。同社は05年6月にデジタルアンプを採用し音にこだわった「HD20GA7」を発売し、「MEDIA Keg」シリーズを立ち上げた。特に06年9月に発売したフラッグシップモデルの「HD30GB9-B」は、30GBのHDDを搭載して実売5万円前後。かなり高価な部類に入るためか5月の販売台数ランキングこそ102位とふるわないものの、新たに開発したデジタルアンプを備えることなどから、音質の高さではさすがに評判がいいようだ。
●メモリタイプ主流は完全に定着、進む大容量化と長時間化
携帯オーディオ全体の傾向もかなり変化してきた。現在の主流はメモリタイプで、5月現在、販売台数全体の87.2%。さらにわずかながら増加傾向は続いている。一方、HDDタイプは押され気味だ。そんな中、容量の構造もだいぶ変化してきた。
これまでは、販売台数の3割以上を占め、最もシェアが高かったのが1GB未満のモデル。しかし、06年6月に34.6%だったシェアがこの5月には15.3%と激減した。代わって、今最も売れているのは1GB台のモデルでシェアは28%。このクラスでも平均価格が1万円を切りはじめていることが首位交代の要因だろう。続いて売れているのが2GB以上-4GB未満のクラスで21.5%。3位が4GB以上-8GB未満で17.2%。次がやっと、ずっとトップだった1GB未満のクラスだ。
連続再生時間も1年でかなり変化している。昨年であれば10時間台が65.3%でダントツだったが、この5月には30.9%に後退した。入れ替わりに伸びてきたのが20時間台。5月時点で37%を占めている。そのほかこのところ目立つのが30時間台の製品の伸びで、1年前にわずか1%だった販売台数シェアが15.8%ににまで伸びてきている。
量販店の店頭では、在庫処分の低容量携帯オーディオが、投げ売り価格で販売されているのを目にするようになってきた。とりあえず格安で「携帯オーディオ」なるものを体験してみたいなら、ねらい目かもしれない。一方、大容量化、長時間化等を反映して、それまで下落傾向が続いていた平均単価は07年1月をボトムに上昇に転じている。携帯オーディオ市場が再び熱くなる「嵐の前の静けさ」なのかもしれない。(WebBCNランキング編集長・道越一郎)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など21社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。