<ITジュニアの群像 高校生ものづくりコンテスト>第52回 京都府立田辺高等学校
最近、全国のものづくり関連コンテストを賑わしているのが京都府立田辺高等学校だ。ロボットやエコカーなどグループ競技だけでなく、個人種目にも強力な人材を輩出していることが特徴で、昨年の個人種目では、若年者ものづくり競技大会の電気工事職種で2位、高校生ものづくり全国大会の電子回路組立部門で7位となった。伝統と新生の絶妙のバランスが、同校躍進の原動力となっている。
京都府下で唯一のチャレンジ
最近、全国のものづくり関連コンテストを賑わしているのが京都府立田辺高等学校だ。ロボットやエコカーなどグループ競技だけでなく、個人種目にも強力な人材を輩出していることが特徴で、昨年の個人種目では、若年者ものづくり競技大会の電気工事職種で2位、高校生ものづくり全国大会の電子回路組立部門で7位となった。伝統と新生の絶妙のバランスが、同校躍進の原動力となっている。(倉増 裕●取材/文)
●まずは「挑戦意欲ありき」生徒の自発性を重んじる
京都府立田辺高等学校は普通科と工業科の併置が特徴で、クラス数は各学年ごとにそれぞれ4クラスと拮抗している。工業科の内訳については、自動車、機械、電気、電子という従来の4科スタイルを今年から変更、自動車科と工業技術科という2科体制で新たにスタートした。大きくは2つの科に分かれるものの、生徒は2年生になると、技術探求コース、機械技術コース、電気技術コースのいずれかのコースを選択することになる。
昨年開催された「第6回高校生ものづくりコンテスト」の電子回路組立部門で全国7位に入賞した白井孝さんは当時電子科の2年生で、3年生になった今年は、さらに上を目指して再挑戦する予定だ。
白井さんがものづくりコンテストに参加したきっかけは、先生や友人に勧められたからではなく「電子回路組立部門に挑戦したい」という自らの強い意思によるものだ。同校ではさまざまなものづくりコンテストへの挑戦を大いに勧めてはいるものの、最初のきっかけは「あくまでも個人の意思を尊重する」(吉岡孝則教諭)ことが基本だ。いくら能力が高い生徒でも、本人にその気がなければ挑戦を勧めることはない。「まず強い興味があってこそ、コンテストへの挑戦が生徒を大きく成長させる」という基本姿勢は、いずれのコンテスト挑戦においても徹底している。「この興味と自主性があってこそ、生徒は最後までがんばることができ、これを支える先生もエネルギーが湧く」というものだ。
●“未経験”がハンデに 大会への再挑戦始動
さて昨年のコンテスト参加時点で、電子回路組立部門での京都府からの参加は白井さんのみだった。練習するのに部品代など必要コストが小さくないことに加えて、ハードとソフト両面で高いレベルが要求されることなどがこの部門への挑戦者が少ない理由といわれるが、ともかく白井さんは労せずして京都府代表の座を獲得、近畿大会に出場することになる。そして近畿大会では兵庫県、滋賀県の各代表との戦いとなった。
白井さんはこの近畿大会に向けて、毎日放課後約2時間の練習を1か月間続けてきた。「ハンダなどハードの処理は得意だったので、制御プログラムを作成することにポイントを置いた練習」を繰り返した。白井さんがハンダ付けをはじめとする手作業に堪能なのは、彼自身が優れた能力を持つことはもちろん、「製図もCADにすべてを頼るのではなく手書きの能力向上を重視、ハンダなどの手作業も手を抜くことなくしっかりと身につける」(吉岡教諭)という同校の基本姿勢によるものだ。白井さんも「資質があるかどうかは自分ではわかりませんが、練習を続けることによって上達してきたという実感は確かにあります」と述べている。
さてこの近畿大会では、「7セグメントのLEDでUPカウント/DOWNカウントする10進/16進数タイマーを作る」ことが課題となった。白井さんはそれまでの練習の成果を存分に発揮、兵庫・滋賀の両代表を抑えて全国大会へと出場することになった。
埼玉県で行われたものづくりコンテスト電子回路組立部門には全国10地区からの代表10人が参加し、LEDに加えてステッピングモーターを回す回路が課題となった。経験がなかった白井さんには相当なハンデとなり、健闘の末、10人中7位という結果で終了した。全国で7位という結果は誇るべきものだが、白井さんとしては決して納得できる結果ではなかったらしく、大会の直後に再挑戦を表明した。
「出題の可能性のある課題としてステッピングモーターも明記されていたことは事実だが、私としてはDCモーターに力点を置いた。ステッピングモーターを全く経験させなかったことが悔やまれる」と、吉岡教諭も心残りの口ぶりで、今年行われる大会への再挑戦は当然の成り行きともいえる。
とはいえ、白井さん、吉岡教諭ともに、今年の再挑戦を楽観視しているわけではない。3年生へと学年が上がったが、「技術の世界は学年の上下には関係ない」(吉岡教諭)ことも事実で、「まず京都府の代表になることが先決で、その次には近畿大会が控えています。全国大会に行くのはそれほど簡単でないと自覚しています」(白井さん)と慎重だ。
ともあれ、今年の「ものづくりコンテスト」の予選は間もなく始まる。日々の習練によって、やや苦手としたソフト分野を克服、今年は準備態勢を整えて本番を待つことになる。
●人間力の育成が高等学校の役割 桶谷 良校長
「ちゃんと(きちんと)やれ」。これが桶谷良校長の生徒への励ましの言葉だ。激動する現代社会をたくましく生き抜くには力が必要だが、この力をつけるには、為すべき一つ一つを「ちゃんとやる」ことが最も近道であるとの指摘だ。つまり「自分の心をごまかすことなく、ちゃんとやることによって社会を生き抜く人間力が生まれてくる。これは偏差値では測れない力であり、人間力の養成こそが、高等学校の最大の任務だと考えている」と説明する。 そのためには、まず学校が自らを広く一般に公開する「開かれた学校」であることが前提となるという。「従来、閉鎖的な面のあった学校の実態を一般市民に公開し、忌憚のない意見に耳を傾け、この意見を参考としながらさらなる次のステップを目指す」というのが同校の方針だ。数年前から実施している公開授業についても、当初数名にすぎなかった見学者の数が今年は飛躍的に増えるなど、同校の「開かれた学校」路線は市民の間でも評価を高めている。
工業科と普通科を併置する田辺高校だが、「ものづくり」に寄せる思いは強い。「生徒はそれぞれ素晴らしい資質を持っている。この能力をどのように開花させるのかが教師の役目であり喜びでもある」とする桶谷校長にとって、ものづくりに関するさまざまなコンテストは「生徒が興味を持って取り組める格好の目標」だ。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高校生ものづくりコンテスト>第52回 京都府立田辺高等学校は、週刊BCN 2007年6月18日発行 vol.1191に掲載した記事を転載したものです。
京都府下で唯一のチャレンジ
7位に終わるも、再度挑む
最近、全国のものづくり関連コンテストを賑わしているのが京都府立田辺高等学校だ。ロボットやエコカーなどグループ競技だけでなく、個人種目にも強力な人材を輩出していることが特徴で、昨年の個人種目では、若年者ものづくり競技大会の電気工事職種で2位、高校生ものづくり全国大会の電子回路組立部門で7位となった。伝統と新生の絶妙のバランスが、同校躍進の原動力となっている。(倉増 裕●取材/文)
●まずは「挑戦意欲ありき」生徒の自発性を重んじる
京都府立田辺高等学校は普通科と工業科の併置が特徴で、クラス数は各学年ごとにそれぞれ4クラスと拮抗している。工業科の内訳については、自動車、機械、電気、電子という従来の4科スタイルを今年から変更、自動車科と工業技術科という2科体制で新たにスタートした。大きくは2つの科に分かれるものの、生徒は2年生になると、技術探求コース、機械技術コース、電気技術コースのいずれかのコースを選択することになる。
昨年開催された「第6回高校生ものづくりコンテスト」の電子回路組立部門で全国7位に入賞した白井孝さんは当時電子科の2年生で、3年生になった今年は、さらに上を目指して再挑戦する予定だ。
白井さんがものづくりコンテストに参加したきっかけは、先生や友人に勧められたからではなく「電子回路組立部門に挑戦したい」という自らの強い意思によるものだ。同校ではさまざまなものづくりコンテストへの挑戦を大いに勧めてはいるものの、最初のきっかけは「あくまでも個人の意思を尊重する」(吉岡孝則教諭)ことが基本だ。いくら能力が高い生徒でも、本人にその気がなければ挑戦を勧めることはない。「まず強い興味があってこそ、コンテストへの挑戦が生徒を大きく成長させる」という基本姿勢は、いずれのコンテスト挑戦においても徹底している。「この興味と自主性があってこそ、生徒は最後までがんばることができ、これを支える先生もエネルギーが湧く」というものだ。
●“未経験”がハンデに 大会への再挑戦始動
さて昨年のコンテスト参加時点で、電子回路組立部門での京都府からの参加は白井さんのみだった。練習するのに部品代など必要コストが小さくないことに加えて、ハードとソフト両面で高いレベルが要求されることなどがこの部門への挑戦者が少ない理由といわれるが、ともかく白井さんは労せずして京都府代表の座を獲得、近畿大会に出場することになる。そして近畿大会では兵庫県、滋賀県の各代表との戦いとなった。
白井さんはこの近畿大会に向けて、毎日放課後約2時間の練習を1か月間続けてきた。「ハンダなどハードの処理は得意だったので、制御プログラムを作成することにポイントを置いた練習」を繰り返した。白井さんがハンダ付けをはじめとする手作業に堪能なのは、彼自身が優れた能力を持つことはもちろん、「製図もCADにすべてを頼るのではなく手書きの能力向上を重視、ハンダなどの手作業も手を抜くことなくしっかりと身につける」(吉岡教諭)という同校の基本姿勢によるものだ。白井さんも「資質があるかどうかは自分ではわかりませんが、練習を続けることによって上達してきたという実感は確かにあります」と述べている。
さてこの近畿大会では、「7セグメントのLEDでUPカウント/DOWNカウントする10進/16進数タイマーを作る」ことが課題となった。白井さんはそれまでの練習の成果を存分に発揮、兵庫・滋賀の両代表を抑えて全国大会へと出場することになった。
埼玉県で行われたものづくりコンテスト電子回路組立部門には全国10地区からの代表10人が参加し、LEDに加えてステッピングモーターを回す回路が課題となった。経験がなかった白井さんには相当なハンデとなり、健闘の末、10人中7位という結果で終了した。全国で7位という結果は誇るべきものだが、白井さんとしては決して納得できる結果ではなかったらしく、大会の直後に再挑戦を表明した。
「出題の可能性のある課題としてステッピングモーターも明記されていたことは事実だが、私としてはDCモーターに力点を置いた。ステッピングモーターを全く経験させなかったことが悔やまれる」と、吉岡教諭も心残りの口ぶりで、今年行われる大会への再挑戦は当然の成り行きともいえる。
とはいえ、白井さん、吉岡教諭ともに、今年の再挑戦を楽観視しているわけではない。3年生へと学年が上がったが、「技術の世界は学年の上下には関係ない」(吉岡教諭)ことも事実で、「まず京都府の代表になることが先決で、その次には近畿大会が控えています。全国大会に行くのはそれほど簡単でないと自覚しています」(白井さん)と慎重だ。
ともあれ、今年の「ものづくりコンテスト」の予選は間もなく始まる。日々の習練によって、やや苦手としたソフト分野を克服、今年は準備態勢を整えて本番を待つことになる。
●人間力の育成が高等学校の役割 桶谷 良校長
「ちゃんと(きちんと)やれ」。これが桶谷良校長の生徒への励ましの言葉だ。激動する現代社会をたくましく生き抜くには力が必要だが、この力をつけるには、為すべき一つ一つを「ちゃんとやる」ことが最も近道であるとの指摘だ。つまり「自分の心をごまかすことなく、ちゃんとやることによって社会を生き抜く人間力が生まれてくる。これは偏差値では測れない力であり、人間力の養成こそが、高等学校の最大の任務だと考えている」と説明する。 そのためには、まず学校が自らを広く一般に公開する「開かれた学校」であることが前提となるという。「従来、閉鎖的な面のあった学校の実態を一般市民に公開し、忌憚のない意見に耳を傾け、この意見を参考としながらさらなる次のステップを目指す」というのが同校の方針だ。数年前から実施している公開授業についても、当初数名にすぎなかった見学者の数が今年は飛躍的に増えるなど、同校の「開かれた学校」路線は市民の間でも評価を高めている。
工業科と普通科を併置する田辺高校だが、「ものづくり」に寄せる思いは強い。「生徒はそれぞれ素晴らしい資質を持っている。この能力をどのように開花させるのかが教師の役目であり喜びでもある」とする桶谷校長にとって、ものづくりに関するさまざまなコンテストは「生徒が興味を持って取り組める格好の目標」だ。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高校生ものづくりコンテスト>第52回 京都府立田辺高等学校は、週刊BCN 2007年6月18日発行 vol.1191に掲載した記事を転載したものです。