<ITジュニアの群像 IPA未踏ユースへの挑戦>第49回 福島高専 大澤昇平さん
ITエンジニアを目指す若き逸材の登竜門、IPA(情報処理推進機構)の2006年度未踏ユース部門に採択された福島高専4年生(採択時)の大澤昇平さんが、前回紹介した津山高専専攻科1年生(同)の井上恭輔さんと並んで、「2006年度上期スーパークリエータ」に認定された。未踏ユース部門からの認定は大学院生2名、大学生2名、そして高専生2名で、高専生は未踏ユース部門採択の2名が、そろってスーパークリエータに選ばれるという輝かしい成績を収めた。
ITエンジニアを目指す若き逸材の登竜門、IPA(情報処理推進機構)の2006年度未踏ユース部門に採択された福島高専4年生(採択時)の大澤昇平さんが、前回紹介した津山高専専攻科1年生(同)の井上恭輔さんと並んで、「2006年度上期スーパークリエータ」に認定された。未踏ユース部門からの認定は大学院生2名、大学生2名、そして高専生2名で、高専生は未踏ユース部門採択の2名が、そろってスーパークリエータに選ばれるという輝かしい成績を収めた。(佐々木潔●取材/文)
●ブックマーク検索型のnetPlant開発
大澤さんのテーマは「ブックマーク連携型検索エンジン“net Plant”の開発」というものだ。高専生の悩みの種は授業で頻繁に求められるレポートの作成。あるとき、ウェブで調べてレポートを書き上げてみると、クラスの多くのメンバーが同じサイトを参考に作成したことがわかった。それならば、同じ目的を持ってウェブをめぐるユーザーが最後にたどり着くページが同一であると仮定したうえで、検索履歴や検索結果を共有できるサービスを開発できるのではないか。そう大澤さんは閃いたそうだ。
休部同然だったプログラミング愛好会を自分が中心になって再興し、3年生のときには第7回全日本Web教材開発コンテスト「ThinkQuest@ JAPAN2004」で最優秀賞を受賞した経験を持つ大澤さんは、このとき次の目標を探しあぐねていたが、指導教員の島村浩先生(コミュニケーション情報学科講師)から、「IPAの未踏ユース部門というのがあるんだが…」と教えられ、それなら「検索サービスをテーマに挑戦したい」とさっそく応募を決意した。3年生の冬のことである。
それから3か月、4年生になろうとしていた時期に企画がまとまり、クラブの後輩にアイデアを開陳して「netPlant」と名付けてもらった。ユーザーのブックマークを検索に利用し、その検索結果もまたブックマークとして利用するという仕組みが、植物の生い茂る様を連想させることから付けられたネーミングだった。
8月には未踏ユース部門で採択が決まり、とんとん拍子で開発が進むかに見えたが、思わぬところでデッドロックに乗り上げた。Mac使いということも影響したのか、この検索エンジンをFLASHで開発したことにより、ユーザーから集まるはずのブックマークを自動的に取得する仕組みを作れなかったのだ。
●5月に会社立ち上げ 研究との両立目指す
netPlantの成否はどうやって多くのユーザーを集め、共有情報を取得できるか(落としていってもらうか)にかかっているから、これでは失敗したも同然だ。悩んだ末に、大澤さんはオープンソースのブラウザであるFire foxのプラグインとして作り直すことによって、共有情報の取得を試みることにした。Fire foxを選択したのは「オープンソースであること、ドキュメントが豊富なこと、拡張機能やカスタマイズの自由度が高いことから、これしかないと判断した」結果だった。
このときすでに10月。未踏ユースに採択されたプロジェクトは翌年2月末の完成を義務づけられているから、一から作り直すのは冒険だったが、大澤さんはFire foxで使われるXUL(MXLベースのマークアップ言語)やJavaスクリプトをひもとき、わずか1週間の間にこれでいこうと決断する。こうしてでき上がったのが、Firefoxのブックマークを共有する「swimmie」というソフトである。
netPlantの最大の特徴は、検索対象が一般ユーザーのブックマークである点で、net Plantはswimmieのデータを検索エンジンとして活用することによって、ユーザーのブックマークを検索に利用し、その検索結果もまたブックマークとして利用するという仕組みを実現させたのだった。
この検索エンジンのビジネスモデルは、ブックマークに広告を表示することによってアフィリエイト収入を得るもので、6万ユーザー(=1万クリック相当)を達成したら広告を入れる予定で準備を進めているそうだ。今年5月18日には、ビジネスパートナーを得て株式会社キュリオを設立し、CTO(最高技術責任者)に就いた。
しかし、卒業後にすぐさま会社経営に携わるわけではなく、筑波大学へのAC(アドミッションセンター)入学を目指すという。高専では電気工学科の学生だったため情報工学を身につける機会がなく、改めて情報の基礎から学び直したいというのがその理由である。今回も2人のスーパークリエータ認定者を出した筑波大学情報学類で、何を学びどんな大樹へと成長するのか、周囲の期待も高まる一方だ。
●「面白さ」から「人に役立つ」へ 未踏がソフトウェア観を深めた
未踏ユースへの挑戦と採択によって得たものは「まず人脈の広がりだった」と大澤昇平さんは振り返る。とくに、年齢の近かった津山高専の井上恭輔さんとの交友は大きな刺激になったそうだ。大澤さんは福島高専プログラミング愛好会を再興させたことからも明らかなように、優れたリーダーシップの持ち主だ。
未踏ユースの採択者が集うネット上の掲示板を立ち上げ、開発者たちの意見交換や交流を促したのも大澤さんだった。人脈の広がりは人から与えられたものではなく、自ら行動することによって得たものであった。
また、未踏ユースの経験は大澤さんのソフトウェア観を大きく変えた。
「自分が面白いと思うものを好きなように開発する」ところから始めたプログラム開発は、「人の役に立つという観点からどう具体化するか」という深まりをみせ、ついには高専在学中に、企業化にこぎ着けるところまで達している。
今回のスーパークリエータ認定に当たって、大澤さんの担当PM(プロジェクトマネジャー)だった筧捷彦早稲田大学教授は、GUIデザインや検索サービスの実現方式に加えて「ユーザー獲得のモデルづくり」と「事業化構想の実行力」をとりわけ高く評価した。
大澤さんや井上さんの活躍に刺激されて、高専生の未踏ユース挑戦がますます盛んになるようなら、ITジュニアの世界もさらに活気づくことになるだろう。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 IPA未踏ユースへの挑戦>第49回 福島高専 大澤昇平さんは、週刊BCN 2007年5月28日発行 vol.1188に掲載した記事を転載したものです。
netPlantでスーパークリエータ認定!
ITエンジニアを目指す若き逸材の登竜門、IPA(情報処理推進機構)の2006年度未踏ユース部門に採択された福島高専4年生(採択時)の大澤昇平さんが、前回紹介した津山高専専攻科1年生(同)の井上恭輔さんと並んで、「2006年度上期スーパークリエータ」に認定された。未踏ユース部門からの認定は大学院生2名、大学生2名、そして高専生2名で、高専生は未踏ユース部門採択の2名が、そろってスーパークリエータに選ばれるという輝かしい成績を収めた。(佐々木潔●取材/文)
●ブックマーク検索型のnetPlant開発
大澤さんのテーマは「ブックマーク連携型検索エンジン“net Plant”の開発」というものだ。高専生の悩みの種は授業で頻繁に求められるレポートの作成。あるとき、ウェブで調べてレポートを書き上げてみると、クラスの多くのメンバーが同じサイトを参考に作成したことがわかった。それならば、同じ目的を持ってウェブをめぐるユーザーが最後にたどり着くページが同一であると仮定したうえで、検索履歴や検索結果を共有できるサービスを開発できるのではないか。そう大澤さんは閃いたそうだ。
休部同然だったプログラミング愛好会を自分が中心になって再興し、3年生のときには第7回全日本Web教材開発コンテスト「ThinkQuest@ JAPAN2004」で最優秀賞を受賞した経験を持つ大澤さんは、このとき次の目標を探しあぐねていたが、指導教員の島村浩先生(コミュニケーション情報学科講師)から、「IPAの未踏ユース部門というのがあるんだが…」と教えられ、それなら「検索サービスをテーマに挑戦したい」とさっそく応募を決意した。3年生の冬のことである。
それから3か月、4年生になろうとしていた時期に企画がまとまり、クラブの後輩にアイデアを開陳して「netPlant」と名付けてもらった。ユーザーのブックマークを検索に利用し、その検索結果もまたブックマークとして利用するという仕組みが、植物の生い茂る様を連想させることから付けられたネーミングだった。
8月には未踏ユース部門で採択が決まり、とんとん拍子で開発が進むかに見えたが、思わぬところでデッドロックに乗り上げた。Mac使いということも影響したのか、この検索エンジンをFLASHで開発したことにより、ユーザーから集まるはずのブックマークを自動的に取得する仕組みを作れなかったのだ。
●5月に会社立ち上げ 研究との両立目指す
netPlantの成否はどうやって多くのユーザーを集め、共有情報を取得できるか(落としていってもらうか)にかかっているから、これでは失敗したも同然だ。悩んだ末に、大澤さんはオープンソースのブラウザであるFire foxのプラグインとして作り直すことによって、共有情報の取得を試みることにした。Fire foxを選択したのは「オープンソースであること、ドキュメントが豊富なこと、拡張機能やカスタマイズの自由度が高いことから、これしかないと判断した」結果だった。
このときすでに10月。未踏ユースに採択されたプロジェクトは翌年2月末の完成を義務づけられているから、一から作り直すのは冒険だったが、大澤さんはFire foxで使われるXUL(MXLベースのマークアップ言語)やJavaスクリプトをひもとき、わずか1週間の間にこれでいこうと決断する。こうしてでき上がったのが、Firefoxのブックマークを共有する「swimmie」というソフトである。
netPlantの最大の特徴は、検索対象が一般ユーザーのブックマークである点で、net Plantはswimmieのデータを検索エンジンとして活用することによって、ユーザーのブックマークを検索に利用し、その検索結果もまたブックマークとして利用するという仕組みを実現させたのだった。
この検索エンジンのビジネスモデルは、ブックマークに広告を表示することによってアフィリエイト収入を得るもので、6万ユーザー(=1万クリック相当)を達成したら広告を入れる予定で準備を進めているそうだ。今年5月18日には、ビジネスパートナーを得て株式会社キュリオを設立し、CTO(最高技術責任者)に就いた。
しかし、卒業後にすぐさま会社経営に携わるわけではなく、筑波大学へのAC(アドミッションセンター)入学を目指すという。高専では電気工学科の学生だったため情報工学を身につける機会がなく、改めて情報の基礎から学び直したいというのがその理由である。今回も2人のスーパークリエータ認定者を出した筑波大学情報学類で、何を学びどんな大樹へと成長するのか、周囲の期待も高まる一方だ。
●「面白さ」から「人に役立つ」へ 未踏がソフトウェア観を深めた
未踏ユースへの挑戦と採択によって得たものは「まず人脈の広がりだった」と大澤昇平さんは振り返る。とくに、年齢の近かった津山高専の井上恭輔さんとの交友は大きな刺激になったそうだ。大澤さんは福島高専プログラミング愛好会を再興させたことからも明らかなように、優れたリーダーシップの持ち主だ。
未踏ユースの採択者が集うネット上の掲示板を立ち上げ、開発者たちの意見交換や交流を促したのも大澤さんだった。人脈の広がりは人から与えられたものではなく、自ら行動することによって得たものであった。
また、未踏ユースの経験は大澤さんのソフトウェア観を大きく変えた。
「自分が面白いと思うものを好きなように開発する」ところから始めたプログラム開発は、「人の役に立つという観点からどう具体化するか」という深まりをみせ、ついには高専在学中に、企業化にこぎ着けるところまで達している。
今回のスーパークリエータ認定に当たって、大澤さんの担当PM(プロジェクトマネジャー)だった筧捷彦早稲田大学教授は、GUIデザインや検索サービスの実現方式に加えて「ユーザー獲得のモデルづくり」と「事業化構想の実行力」をとりわけ高く評価した。
大澤さんや井上さんの活躍に刺激されて、高専生の未踏ユース挑戦がますます盛んになるようなら、ITジュニアの世界もさらに活気づくことになるだろう。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 IPA未踏ユースへの挑戦>第49回 福島高専 大澤昇平さんは、週刊BCN 2007年5月28日発行 vol.1188に掲載した記事を転載したものです。