<ITジュニアの群像 高校生プロコンへの道>第44回 長野県松本工業高等学校
昨年11月に開催された第6回高校生ものづくりコンテスト全国大会で優勝、第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で3位と、ひときわ優秀な成績を収めたのが長野県松本工業高校だ。その背景には、充実したクラブ活動と顧問の先生の熱意に加えて、県内の工業系高校生を対象に14年間にわたって「ロボコンイン信州」を開いてきた“教育県”長野の真摯で地道な取り組みがあった。
ものづくり優勝でITジュニア賞
昨年11月に開催された第6回高校生ものづくりコンテスト全国大会で優勝、第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で3位と、ひときわ優秀な成績を収めたのが長野県松本工業高校だ。その背景には、充実したクラブ活動と顧問の先生の熱意に加えて、県内の工業系高校生を対象に14年間にわたって「ロボコンイン信州」を開いてきた“教育県”長野の真摯で地道な取り組みがあった。(佐々木潔●取材/文)
●ものづくりの実践から考える力を身につける
長野県では工業系高校生による「ロボコンイン信州」というコンテストが、平成5年から開かれている。キャリーロボット競技、インテリジェント・ロボット・カーレース、ロボット相撲競技、マイコンカーラリー競技の4部門で優劣を競うもので、ものづくりコンテストの優勝者である小口宏之さんも、ロボコンイン信州ではマイコンカーラリーの常連メンバーだ。
クラブ活動で文化系最大の勢力を誇るのが部員40人(昨年度)の電子工学部。部員は入部するとそれぞれがやりたい分野を決めて、ロボット相撲、キャリーロボット、ライントレースカーのどれかに属して各種コンテストへの出場を目指し、ほとんど毎日、放課後の2時間を費やして開発に励む。土曜日も隔週で終日部活に打ち込むが、以前に比べればずいぶん緩やかになったのだとか。
昨年度は3年生の前田直人さん(現・愛知工大)が、全日本ロボット相撲大会北信越大会の3?級自立型の部で優勝して全国大会に出場。ものづくりコンテストでは、その前田さんが北信越ブロック大会で優勝、現3年生の小口宏之さんが準優勝だった。
ものづくりコンテスト全国大会は、ロボット相撲大会全国大会の日程が重なったために、前田さんはロボット相撲大会にエントリーし、小口さんだけが出場したが、小口さんは2日目のプログラム課題でただ1人だけ全7問に正解し、設計力や組立技術でも高得点を積み重ねて圧勝した。この結果、BCN ITジュニア賞2007にも選ばれた。
この電子工学部を指導する赤羽治教諭(電子工業科)は、ロボコンイン信州のスタート時点からかかわってきた古参メンバーの1人。クラブ活動に当たっては、誰かに与えられた「楽しい学習」という環境よりも、自分で積極的に取り組むことによって問題解決の面白さを獲得していく「楽しむ学習」を重視しているそうだ。
「生徒の夢や自己実現を支える立場から、勝ち負けを軽視するわけにはいきませんが、本当に大切なのはなぜロボットに取り組むのか、ものづくりで何を実現したいのかという価値観であって、直面する課題とその解決法を通して、自分なりの考え方や技術に対する価値観を学んでほしい」と語る。
なお、前田さんは愛知工大に進学し、知能機械(ロボット)を究める。小口さんはものづくりに徹するために、職業能力開発総合大学校への進学を考えているそうだ。
●初参加のプロコンで3位 次世代の育成に力を注ぐ
松本工業高校には電子工学部に加えて、部員24人(昨年度)を擁する電気工学部というクラブがある。以前は、電気科と電子工業科のそれぞれが管轄するクラブという色彩が強く、活動目的も別個だったようだが、ロボコンイン信州の開始とともに部活の目標がこの大会への参加になったことから、現在ではお互いの活動を認めた合ったうえで、電気工学部もキャリーロボット、ロボット相撲、マイコンカーラリーに参加している。
部としての特徴を明確にしたいとの思いで、2年ほど前から電気工学部はソフトウェアに力を入れるようになり、電気科の牧村浩明教諭の指導のもと、昨年初めて高校生プロコンに出場した。
電気工学部がプログラミングに軸足を移すきっかけをつくったのは、電子工業科3年生の町田裕樹さん(現・金沢工大)の存在が大きい。町田さんは小学校4年生のときにPCに触れ、松本工業高校に行けばコンピュータの仕組み(特にソフトウェア)を学べると考えて入学したそうで、在学中はもっぱらマイコンカーラリーに熱中したそうだ。
1年生から習うC言語をベースに独力でJavaを学び、在学中にJavaでミュージックプレイヤーやチャットプログラムを次々に開発。その能力を買って、牧村先生が高校生プロコンへのエントリーを決めたそうだ。結果は惜しくも3位だったが、「自分としてはアルゴリズムも完璧だったので、1─2位もあり得たと思っています」と、淡々と語る。
電気工学部の課題は、大黒柱の町田さんが抜けた穴を補いつつ、ソフトウェア重視への路線転換を図ること。昨年秋に入手したヒューマノイドロボットをC言語で動かし、さらにモーションビルダーのような動きを実現させることを通して、プログラミング能力を身につけていくのが目標だ。町田さんも夏合宿には母校に駆けつけて、後輩をサポートするつもりだ。
●「錬磨創造」で人間形成を目指す 竹内義明校長
松本工業高校は今年で創立68年を迎える。送り出した卒業生は1万6千余名を数え、その多くが企業の中堅技術者として活躍してきた。現在の学科構成は機械科2クラス、電気科1クラス、電子工業科2クラス。
同校は従来、質実剛健をモットーとした教育を行ってきたが、平成17年度に校訓を新たに「錬磨創造」と定め、「自己研鑽を重ねながら人格の陶冶に努め、洞察力・創造力を発揮し、実践力に富んだ人間形成を目指す」こととした。
同校では工業系資格をできるだけ在学中に取得できるよう指導しており、電気科なら第1種・第2種電気工事士、電気主任技術者、電子工業科では初級シスアド、情報処理活用能力検定、基本情報処理技術者、第2種電気工事士などが推奨されている。
各種コンテストへの取り組みも盛んで、「ロボコンイン信州」をはじめとするコンテストに積極的に参加している。高校生ものづくりコンテストにおける優勝は長野県勢では初の快挙で、高校生プロコンは同校としては今大会が初参加であったにもかかわらず3位を獲得したのである。
なお、松本工業高校は進学率が高い(最近の卒業生の60─70%が進学)。特に電子工業科は国立大学への進学実績が高い。情報処理とコンピュータを学び、将来は進学したいという生徒が集まることで定評がある。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高校生プロコンへの道>第44回 長野県松本工業高等学校は、週刊BCN 2007年4月16日発行 vol.1183に掲載した記事を転載したものです。
ものづくり優勝でITジュニア賞
地元のロボコンで技を磨いた成果
昨年11月に開催された第6回高校生ものづくりコンテスト全国大会で優勝、第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で3位と、ひときわ優秀な成績を収めたのが長野県松本工業高校だ。その背景には、充実したクラブ活動と顧問の先生の熱意に加えて、県内の工業系高校生を対象に14年間にわたって「ロボコンイン信州」を開いてきた“教育県”長野の真摯で地道な取り組みがあった。(佐々木潔●取材/文)
●ものづくりの実践から考える力を身につける
長野県では工業系高校生による「ロボコンイン信州」というコンテストが、平成5年から開かれている。キャリーロボット競技、インテリジェント・ロボット・カーレース、ロボット相撲競技、マイコンカーラリー競技の4部門で優劣を競うもので、ものづくりコンテストの優勝者である小口宏之さんも、ロボコンイン信州ではマイコンカーラリーの常連メンバーだ。
クラブ活動で文化系最大の勢力を誇るのが部員40人(昨年度)の電子工学部。部員は入部するとそれぞれがやりたい分野を決めて、ロボット相撲、キャリーロボット、ライントレースカーのどれかに属して各種コンテストへの出場を目指し、ほとんど毎日、放課後の2時間を費やして開発に励む。土曜日も隔週で終日部活に打ち込むが、以前に比べればずいぶん緩やかになったのだとか。
昨年度は3年生の前田直人さん(現・愛知工大)が、全日本ロボット相撲大会北信越大会の3?級自立型の部で優勝して全国大会に出場。ものづくりコンテストでは、その前田さんが北信越ブロック大会で優勝、現3年生の小口宏之さんが準優勝だった。
ものづくりコンテスト全国大会は、ロボット相撲大会全国大会の日程が重なったために、前田さんはロボット相撲大会にエントリーし、小口さんだけが出場したが、小口さんは2日目のプログラム課題でただ1人だけ全7問に正解し、設計力や組立技術でも高得点を積み重ねて圧勝した。この結果、BCN ITジュニア賞2007にも選ばれた。
この電子工学部を指導する赤羽治教諭(電子工業科)は、ロボコンイン信州のスタート時点からかかわってきた古参メンバーの1人。クラブ活動に当たっては、誰かに与えられた「楽しい学習」という環境よりも、自分で積極的に取り組むことによって問題解決の面白さを獲得していく「楽しむ学習」を重視しているそうだ。
「生徒の夢や自己実現を支える立場から、勝ち負けを軽視するわけにはいきませんが、本当に大切なのはなぜロボットに取り組むのか、ものづくりで何を実現したいのかという価値観であって、直面する課題とその解決法を通して、自分なりの考え方や技術に対する価値観を学んでほしい」と語る。
なお、前田さんは愛知工大に進学し、知能機械(ロボット)を究める。小口さんはものづくりに徹するために、職業能力開発総合大学校への進学を考えているそうだ。
●初参加のプロコンで3位 次世代の育成に力を注ぐ
松本工業高校には電子工学部に加えて、部員24人(昨年度)を擁する電気工学部というクラブがある。以前は、電気科と電子工業科のそれぞれが管轄するクラブという色彩が強く、活動目的も別個だったようだが、ロボコンイン信州の開始とともに部活の目標がこの大会への参加になったことから、現在ではお互いの活動を認めた合ったうえで、電気工学部もキャリーロボット、ロボット相撲、マイコンカーラリーに参加している。
部としての特徴を明確にしたいとの思いで、2年ほど前から電気工学部はソフトウェアに力を入れるようになり、電気科の牧村浩明教諭の指導のもと、昨年初めて高校生プロコンに出場した。
電気工学部がプログラミングに軸足を移すきっかけをつくったのは、電子工業科3年生の町田裕樹さん(現・金沢工大)の存在が大きい。町田さんは小学校4年生のときにPCに触れ、松本工業高校に行けばコンピュータの仕組み(特にソフトウェア)を学べると考えて入学したそうで、在学中はもっぱらマイコンカーラリーに熱中したそうだ。
1年生から習うC言語をベースに独力でJavaを学び、在学中にJavaでミュージックプレイヤーやチャットプログラムを次々に開発。その能力を買って、牧村先生が高校生プロコンへのエントリーを決めたそうだ。結果は惜しくも3位だったが、「自分としてはアルゴリズムも完璧だったので、1─2位もあり得たと思っています」と、淡々と語る。
電気工学部の課題は、大黒柱の町田さんが抜けた穴を補いつつ、ソフトウェア重視への路線転換を図ること。昨年秋に入手したヒューマノイドロボットをC言語で動かし、さらにモーションビルダーのような動きを実現させることを通して、プログラミング能力を身につけていくのが目標だ。町田さんも夏合宿には母校に駆けつけて、後輩をサポートするつもりだ。
●「錬磨創造」で人間形成を目指す 竹内義明校長
松本工業高校は今年で創立68年を迎える。送り出した卒業生は1万6千余名を数え、その多くが企業の中堅技術者として活躍してきた。現在の学科構成は機械科2クラス、電気科1クラス、電子工業科2クラス。
同校は従来、質実剛健をモットーとした教育を行ってきたが、平成17年度に校訓を新たに「錬磨創造」と定め、「自己研鑽を重ねながら人格の陶冶に努め、洞察力・創造力を発揮し、実践力に富んだ人間形成を目指す」こととした。
同校では工業系資格をできるだけ在学中に取得できるよう指導しており、電気科なら第1種・第2種電気工事士、電気主任技術者、電子工業科では初級シスアド、情報処理活用能力検定、基本情報処理技術者、第2種電気工事士などが推奨されている。
各種コンテストへの取り組みも盛んで、「ロボコンイン信州」をはじめとするコンテストに積極的に参加している。高校生ものづくりコンテストにおける優勝は長野県勢では初の快挙で、高校生プロコンは同校としては今大会が初参加であったにもかかわらず3位を獲得したのである。
なお、松本工業高校は進学率が高い(最近の卒業生の60─70%が進学)。特に電子工業科は国立大学への進学実績が高い。情報処理とコンピュータを学び、将来は進学したいという生徒が集まることで定評がある。
|
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高校生プロコンへの道>第44回 長野県松本工業高等学校は、週刊BCN 2007年4月16日発行 vol.1183に掲載した記事を転載したものです。