<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第42回 有明工業高等専門学校
2006年の第17回全国高等専門学校プログラミングコンテストの自由部門で審査員特別賞を受賞した有明工業高等専門学校(有明高専)。「プロコンに出てみないか」との指導教員の誘いに「よし、出てみよう」と応じたのがきっかけとなった。そして締め切り間際の応募だったにもかかわらず、特別賞受賞という成果をちゃんと出すところに、同校の実力が垣間見える。受賞した作品「NEWS─オンラインワープロシステム─」は、グループウェアとして企業でも活用できそうだ。
発想の原点は「一番欲しいもの」
2006年の第17回全国高等専門学校プログラミングコンテストの自由部門で審査員特別賞を受賞した有明工業高等専門学校(有明高専)。「プロコンに出てみないか」との指導教員の誘いに「よし、出てみよう」と応じたのがきっかけとなった。そして締め切り間際の応募だったにもかかわらず、特別賞受賞という成果をちゃんと出すところに、同校の実力が垣間見える。受賞した作品「NEWS─オンラインワープロシステム─」は、グループウェアとして企業でも活用できそうだ。(日高俊明●取材/文)
●大会に「出てみらんか」教員の一言がきっかけ
有明高専は第17回プロコンに自由部門と競技部門の2部門で参加。競技部門は1回戦敗退となったが、自由部門は「NEWS─オンラインワープロシステム─」で審査員特別賞を受賞した。
自由部門に参加したのは「コンピュータ研究部」に所属する5人の3年生である。同研究部はプロコンが始まった頃に発足したクラブで、電子情報工学科を中心に電気工学科、機械工学科などの学生15─16人で構成。広さ8畳ほどの部室にはサーバー1台、クライアントPC5台がある。
プロコンには第2回から参加しているが、電子情報工学科の犬丸順敬さんによると今回の参加の始まりはこんな感じだった。
「ある金曜日の放課後、松野(良信)先生が僕と久保田君と松岡君を呼び出して言われたんです。『プロコンに出てみらんか。3年生にはもう経験して欲しいったい。土日にしっかりアイデアを考えてきなさい。月曜日に聞くから』と」
そこで各自アイデアをひねり、最終的に「オンラインワープロシステム」のアイデアを作品化することになった。これはブラウザ上で動き、複数人で同時に編集ができるワープロ。チャット機能を持っているので相手と話をしながらグループウェア的に作業を進め、情報共有や情報の質の向上に役立つのが特徴だ。
このアイデアは犬丸さんが知り合いのネットワーク開発者に相談しているうちに、ひらめいた。
「僕はプログラムが苦手で、変なところでミスをするんですよ。そのとき、複数の仲間が同時に助けてくれるといいなと。結果は僕のプログラムソースとして提出するので、他人の癖が入らない分、先生の目をごまかせる(笑)。要するに僕が一番欲しいと思っていたもの。アイデアって、自分が貪欲になって初めて思いつくものだと思う」と犬丸さん。
アイデアの検討に入ったのは5月末の締め切りの約2週間前で、なんとか間に合わせた。
●プロコン直前に完成 計画の大事さを痛感
予選通過が分かったのは7月初め。実はこのあとが大変なのだと指導教員の松野良信助教授は次のように語る。
「5月末の予選に応募した時点で、彼らは一旦気持が切れているんですよ。予選通過が分かるのはそれから1か月後で、そこから気持ちを入れ替えなくてはいけない。指導する側としては応募書類に目を通し、ここはこうしたほうがいいんじゃないかとサジェスチョンはしますが、事細かな指示は出しませんでした」
予選通過後は必要な技術に関する文献の収集などを行い、3週間後に実際のプログラミング作業に入った。プログラムはサーバー側とデータベースを電子情報工学科の久保田寛史さん、クライアント側を同・松岡禎知さん、デザインを機械工学科の日向寺倫紀さんがそれぞれ担当した。
実は松岡さんと久保田さんは小学4年生からの友人。その辺りも連携プレーに役立ったようだ。一方、日向寺さんは「もともとパソコンが好きで中学生の頃から自分でホームページを作ったりしていました」という経験を生かして作品のデザインに取り組んだ。プログラムが完成したのはプロコンの直前だった。
プロコンではプレゼンテーションが必要で、そのためのマニュアルは不可欠。そこで犬丸さんがプレゼンテーションを、マニュアルを小出唯さんが担当した。
「プログラムの構造を知らないに等しいくらいだったので、動かしてみて、あっ、これを動かしたらこうなるんだ、と。そして部員ではない友達に見せて、この説明の仕方で分かる?と聞いたりしながら1週間くらいでマニュアルをつくりました」(小出さん) 大会当日は豪雨で電車が大幅に遅延し、最終リハーサルができないというアクシデントに見舞われたものの、特別賞受賞という栄誉に輝いた。
今回のプロコンは松岡さん以外は全員が初参加。「やはり学校によって作品に優劣がある。自分たちが開発しているプログラムについて、同じレベルで理解しておく必要がある。そうでないと、良さをきちんと説明できない」(日向寺さん)、「プロコンは地味な感じがするのでもっと人が少ないと思っていたが、いろんな人がきていたので驚いた」(小出さん)、「プレゼンの練習やマニュアル作成は作品がほとんど完成していないとできないので、きちんとした計画を立てて途中で見直しをしながら進めることが大事」(久保田さん)など、得た教訓は少なくなかったようだ。
第18回大会では今回のメンバーを核にした2チームを編成し、上位入賞を目論む。
●地域連携、学内コンペで活性 尾崎龍夫校長
有明高専では今「ABCプロジェクト」が進んでいる。「A」は有明海再生、「B」は竹(バンブー)の活用、「C」は中国との連携である。
有明海再生では数十ミクロンのマイクロバブルを含んだ空気をヘドロに吹き込み、浄化してタイラギ貝の成長を促進する。竹プロジェクトは、里山の破壊要因になっている竹をバイオ燃料として活用し地域再生を目指す。中国プロジェクトは、中国人助教授の存在が大きく、中国の大学と国際交流協定を結び、教授陣の招聘と専攻科学生の派遣に取り組む。
ABCプロジェクトの狙いは地場企業との連携や地元の活性化だ。「当校の求人は十数倍に伸びているが大手が来ない。それならこっちから押しかけて行こう。地場の技術力を高めて高専卒業生の受け皿を作っていこう、と。そこで地域共同テクノセンターを核に産学連携、民学連携に取り組んでいる。共同研究の件数では全国ベスト3に入ると思う」(尾崎校長)。
地域連携には、プロコン参加の母体であるコンピュータ研究部も活躍する。例えば地元のロータリークラブからのホームページ立ち上げ要望に応えるべく学内でコンペを行い、7チームの中から選ばれたチームが立ち上げを担当し、ロータリークラブに喜ばれた。学生も自分たちの作品が使われるので嬉しいようだ。ほかにも地域と連携した学内コンペは盛んで、有明高専の存在価値を高めている。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第42回 有明工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年4月2日発行 vol.1181に掲載した記事を転載したものです。
発想の原点は「一番欲しいもの」
同時編集WP「NEWS」で特別賞
2006年の第17回全国高等専門学校プログラミングコンテストの自由部門で審査員特別賞を受賞した有明工業高等専門学校(有明高専)。「プロコンに出てみないか」との指導教員の誘いに「よし、出てみよう」と応じたのがきっかけとなった。そして締め切り間際の応募だったにもかかわらず、特別賞受賞という成果をちゃんと出すところに、同校の実力が垣間見える。受賞した作品「NEWS─オンラインワープロシステム─」は、グループウェアとして企業でも活用できそうだ。(日高俊明●取材/文)
●大会に「出てみらんか」教員の一言がきっかけ
有明高専は第17回プロコンに自由部門と競技部門の2部門で参加。競技部門は1回戦敗退となったが、自由部門は「NEWS─オンラインワープロシステム─」で審査員特別賞を受賞した。
自由部門に参加したのは「コンピュータ研究部」に所属する5人の3年生である。同研究部はプロコンが始まった頃に発足したクラブで、電子情報工学科を中心に電気工学科、機械工学科などの学生15─16人で構成。広さ8畳ほどの部室にはサーバー1台、クライアントPC5台がある。
プロコンには第2回から参加しているが、電子情報工学科の犬丸順敬さんによると今回の参加の始まりはこんな感じだった。
「ある金曜日の放課後、松野(良信)先生が僕と久保田君と松岡君を呼び出して言われたんです。『プロコンに出てみらんか。3年生にはもう経験して欲しいったい。土日にしっかりアイデアを考えてきなさい。月曜日に聞くから』と」
そこで各自アイデアをひねり、最終的に「オンラインワープロシステム」のアイデアを作品化することになった。これはブラウザ上で動き、複数人で同時に編集ができるワープロ。チャット機能を持っているので相手と話をしながらグループウェア的に作業を進め、情報共有や情報の質の向上に役立つのが特徴だ。
このアイデアは犬丸さんが知り合いのネットワーク開発者に相談しているうちに、ひらめいた。
「僕はプログラムが苦手で、変なところでミスをするんですよ。そのとき、複数の仲間が同時に助けてくれるといいなと。結果は僕のプログラムソースとして提出するので、他人の癖が入らない分、先生の目をごまかせる(笑)。要するに僕が一番欲しいと思っていたもの。アイデアって、自分が貪欲になって初めて思いつくものだと思う」と犬丸さん。
アイデアの検討に入ったのは5月末の締め切りの約2週間前で、なんとか間に合わせた。
●プロコン直前に完成 計画の大事さを痛感
予選通過が分かったのは7月初め。実はこのあとが大変なのだと指導教員の松野良信助教授は次のように語る。
「5月末の予選に応募した時点で、彼らは一旦気持が切れているんですよ。予選通過が分かるのはそれから1か月後で、そこから気持ちを入れ替えなくてはいけない。指導する側としては応募書類に目を通し、ここはこうしたほうがいいんじゃないかとサジェスチョンはしますが、事細かな指示は出しませんでした」
予選通過後は必要な技術に関する文献の収集などを行い、3週間後に実際のプログラミング作業に入った。プログラムはサーバー側とデータベースを電子情報工学科の久保田寛史さん、クライアント側を同・松岡禎知さん、デザインを機械工学科の日向寺倫紀さんがそれぞれ担当した。
実は松岡さんと久保田さんは小学4年生からの友人。その辺りも連携プレーに役立ったようだ。一方、日向寺さんは「もともとパソコンが好きで中学生の頃から自分でホームページを作ったりしていました」という経験を生かして作品のデザインに取り組んだ。プログラムが完成したのはプロコンの直前だった。
プロコンではプレゼンテーションが必要で、そのためのマニュアルは不可欠。そこで犬丸さんがプレゼンテーションを、マニュアルを小出唯さんが担当した。
「プログラムの構造を知らないに等しいくらいだったので、動かしてみて、あっ、これを動かしたらこうなるんだ、と。そして部員ではない友達に見せて、この説明の仕方で分かる?と聞いたりしながら1週間くらいでマニュアルをつくりました」(小出さん) 大会当日は豪雨で電車が大幅に遅延し、最終リハーサルができないというアクシデントに見舞われたものの、特別賞受賞という栄誉に輝いた。
今回のプロコンは松岡さん以外は全員が初参加。「やはり学校によって作品に優劣がある。自分たちが開発しているプログラムについて、同じレベルで理解しておく必要がある。そうでないと、良さをきちんと説明できない」(日向寺さん)、「プロコンは地味な感じがするのでもっと人が少ないと思っていたが、いろんな人がきていたので驚いた」(小出さん)、「プレゼンの練習やマニュアル作成は作品がほとんど完成していないとできないので、きちんとした計画を立てて途中で見直しをしながら進めることが大事」(久保田さん)など、得た教訓は少なくなかったようだ。
第18回大会では今回のメンバーを核にした2チームを編成し、上位入賞を目論む。
●地域連携、学内コンペで活性 尾崎龍夫校長
有明高専では今「ABCプロジェクト」が進んでいる。「A」は有明海再生、「B」は竹(バンブー)の活用、「C」は中国との連携である。
有明海再生では数十ミクロンのマイクロバブルを含んだ空気をヘドロに吹き込み、浄化してタイラギ貝の成長を促進する。竹プロジェクトは、里山の破壊要因になっている竹をバイオ燃料として活用し地域再生を目指す。中国プロジェクトは、中国人助教授の存在が大きく、中国の大学と国際交流協定を結び、教授陣の招聘と専攻科学生の派遣に取り組む。
ABCプロジェクトの狙いは地場企業との連携や地元の活性化だ。「当校の求人は十数倍に伸びているが大手が来ない。それならこっちから押しかけて行こう。地場の技術力を高めて高専卒業生の受け皿を作っていこう、と。そこで地域共同テクノセンターを核に産学連携、民学連携に取り組んでいる。共同研究の件数では全国ベスト3に入ると思う」(尾崎校長)。
地域連携には、プロコン参加の母体であるコンピュータ研究部も活躍する。例えば地元のロータリークラブからのホームページ立ち上げ要望に応えるべく学内でコンペを行い、7チームの中から選ばれたチームが立ち上げを担当し、ロータリークラブに喜ばれた。学生も自分たちの作品が使われるので嬉しいようだ。ほかにも地域と連携した学内コンペは盛んで、有明高専の存在価値を高めている。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第42回 有明工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年4月2日発行 vol.1181に掲載した記事を転載したものです。