フォン、伊藤忠など3社と資本業務提携、日本での普及に拍車

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2007/03/30 20:35

 「相互利用」という視点で、画期的な無線LANサービスを展開する英FON WIRELESS(フォン、マーティン・バルサフスキーCEO)は3月29日、3月に実施した第三者割当増資を、日本の伊藤忠商事(小林栄三社長)、エキサイト(山村幸広社長)、DG インキュベーション(六彌太恭行社長)などが引き受けたと発表した。

 「相互利用」という視点で、画期的な無線LANサービスを展開する英FON WIRELESS(フォン、マーティン・バルサフスキーCEO)は3月29日、3月に実施した第三者割当増資を、日本の伊藤忠商事(小林栄三社長)、エキサイト(山村幸広社長)、DG インキュベーション(六彌太恭行社長)などが引き受けたと発表した。

 今回の増資でフォンは、米Google、スイスのIndex Ventures、米Sequoia Capitalの3社からの出資も受けており、総額は1000万ユーロに達したという。出資比率や各社の出資額などは上場企業でないため公開しない。また、伊藤忠商事、エキサイト、DG インキュベーションの3社は日本法人のフォン・ジャパン(アントニオ・フエンテス・アヤラ社長)と業務提携を結び、共同で無線LANサービス「FON」の普及とサービス拡充に取り組む。07年で7万5000アクセスポイントを目指す。

●会員同士で無線LANアクセスポイントを共有するサービス「FON」

 「FON」とは、利用者が自宅などの無線アクセスポイント(AP)を他人に無料開放するとともに、他人が開放するAPを無料で利用できる、相互利用型のサービス。

 05年11月にスペインで誕生し、その後瞬く間に世界中に普及。07年3月現在、150か国でサービス展開しており、「FON」会員数は約34万人に達した。日本では06年12月5日にサービスを開始。3月26日までの約4か月で約1万8000人の会員と、約9500か所のAPを獲得した。

 フォンの首脳陣は、日本での急成長ぶりに驚きを隠せない。29日に来日したバルサフスキーCEOは「(国別のAP数ランキングで)サービス開始当初の日本は20位だった。ところが3月では3位まで押しあがった」と、日本市場で予想以上の大きな反響に目を見張る。


 「FON」を利用するには「LaFonera(ラ・フォネラ)」と呼ばれる専用の無線ルーターが必要。ラ・フォネラをブロードバンドインターネットに接続し、専用サイトで会員登録する。発行されたIDとパスワードを使えば、自宅だけではなく、外出先でもFON APが利用できる。しかし、ユニークなのはここから。自分のAPを他の会員に開放すれば、自らも他の無料解放APがタダで利用できるという「相互利用」の仕組みだ。


 このように、自宅に専用ルーターを設置してAPを無料開放し、また他人のAPを無料で利用できる「Linus(ライナス)」会員と呼ばれるものが、フォンの最も象徴的な会員制度だ。日本では現在、「ライナス」会員のみ募集している。そのほかの会員種別として、自宅にルーターを設置し、有料開放する一方、他人のAPも有料で利用する「Bill(ビル)」、APを開放せず、他人のAPを有料で利用する「Aliens(エイリアン)」がある。

 ラ・フォネラは、通常の無線LAN APとして自宅内でも利用できる。しかし、他ユーザーからのアクセスが集中すると「持ち主もアクセスしにくくなることがある」(フォン・ジャパン 藤本潤一CEO)というデメリットもある。受信可能範囲は半径50mほどだが、「駅前などアクセスが集中しやすいエリアに住むユーザーは、ネットを利用する時、他ユーザーへの『開放レベル』を下げて使っている」(同)といい、他のユーザーの利用をある程度コントロールすることも可能だ。

●日本の「FON」がさらに使いやすいサービスに生まれ変わる!?

 「FON」を広めていくためには、大きく2つの課題がある。1つはISPやキャリアなどに「FON」のサービス形態を認めてもらうことだ。現在、日本のISPの利用規約には、事業者に無断で通信回線やインターネット接続アカウントを他人に提供してはいけない、という契約条項があるものが多い。そのため、「FON」を利用しようとするユーザーは、自身が契約しているISPが「FON」を利用することを承諾しているかどうか、確認する必要がある。このISPとの提携を伊藤忠がバックアップしていく。

 一方、対応機器の拡充も重要な課題だ。特にバルサフスキーCEOはモバイル機器に注目している。「任天堂やソニーなどのゲーム機や、ノートPCなどにFONのAPにアクセスできるソフトをあらかじめインストールしてもらえれば、機器を購入したユーザーは簡単にFONを楽しめる」と話し、これらのハード機器メーカーとのパートナーシップも伊藤忠が支援していく。

 また、伊藤忠の宇宙・情報・マルチメディアカンパニー 情報産業ビジネス部でプロジェクトマネージャーを勤める瓜生裕明氏は「ユーザーが設置したAPだけではなく、ここにいけばFONを使えるといったランドマーク的なエリアも必要。例えばカフェや、コンビニなどにもAPを設置していく」と、利用エリアの拡大にも努めていく。


 対してエキサイトはコンテンツ面でのサポートを進めている。エンタテインメント事業部 取締役 事業部長である坂本孝治氏は「エキサイトの展開するカフェをFON接続可能エリアにするなど、普及活動を進めてきた。またFONと連携して、『BB.excite』のIDで、日本だけではなく世界中のFON APを有料で利用できるサービスなども展開している」と話し、FONと提携するISP側にも充分メリットがあることをアピール。今後は、FONユーザー向けのコミュニティサービスを充実させていく。


●夏には「エイリアン」が来日!? 目が離せない今後の展開

 「FON」サービスの今後の展開について、藤本CEOは「これまでAP数獲得のため、『ライナス』会員に限って募集してきた。しかし東京を中心にAP数は順調に拡大している。夏ぐらいにはラ・フォネラを設置していないユーザーも有料でFON APを利用できる『エイリアン』会員の募集をスタートしたい」とコメントした。なお、自分のAPを有料で開放する「ビル」会員は「電機通信事業法の問題もあり、日本でのサービスは考えていない」(千川原智康Chairman)という。


 専用ルーターの「ラ・フォネラ」は現在、九十九電機(鈴木淳一代表取締役)とエキサイトの運営するブロードバンドプロバイダ「BB.excite」、ソニースタイル・ジャパン(佐藤一雅代表取締役)が運営するオンライン通販サイト「ソニースタイル」で1980円で販売している。また2月にはノジマ(三枝達実社長)とも販売提携を結んだ。「リテール展開は今後も進めていく。家電店にこだわらず、例えばコンビニなどで販売してもいいと思っている」と藤本CEOはリテール展開に積極的な姿勢を見せた。

 またこの「ラ・フォネラ」について「1980円で販売しているが、利益は出ていない状態。ルーターの販売でも利益を出していきたい」(バルサフスキーCEO)とし、将来的には高機能の「ラ・フォネラ」の開発・提供を検討しているようだ。このほか、「日本でのAP数は07年末までに7万5000以上に、10年には全世界で100万か所のAP設置を目標としている。これは達成可能な数字だと思っている」とバルサフスキーCEOは自信を見せた。