<ITジュニアの群像 高校生プロコンへの道>第41回 埼玉県立熊谷工業高等学校
昨年11月に開催された第6回高校生ものづくりコンテスト全国大会で5位、第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で4位と、ともに優秀な成績を残した埼玉県立熊谷工業高校。それぞれの出場メンバーに、全国大会で上位入賞を果たした感想と今後の抱負について語ってもらった。
二つの大会で上位入賞果たす
昨年11月に開催された第6回高校生ものづくりコンテスト全国大会で5位、第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で4位と、ともに優秀な成績を残した埼玉県立熊谷工業高校。それぞれの出場メンバーに、全国大会で上位入賞を果たした感想と今後の抱負について語ってもらった。(小林茂樹●取材/文)
●実践的な技術を使い、全国5位に食い込む
過去にも、ものづくりコンテストやプロコンなどで多くの受賞歴を誇る熊谷工業高校。
昨年の高校生ものづくりコンテスト全国大会の電子回路組立部門で5位に入賞したのは、情報技術科3年生の森下慶樹さん。関東大会で3位に入賞し、埼玉県代表として全国大会に進出した。自身としては初めてのエントリーだが、地元開催のプレッシャーに負けず、好成績を残した。
この結果について感想を聞くと「全国大会には進めると思っていましたが、5位というのはちょっと微妙な順位。下位ではないのでよかったとも言えますが、もう少し上を狙えたかもしれません」と、それほど満足していない様子。実力を出し切れなかった部分もあったという。実はひそかに優勝を狙っていたようだ。
この競技は、2日間にわたって行なわれる。1日目は、7セグメントLEDの点灯回路やステッピングモーターの駆動回路を含むコンピュータの出力回路(制御対象回路)を製作し、2日目は設計仕様に基づいた入力回路とプログラムを製作する。競技時間は、1日目が1時間30分で2日目が2時間30分。ハンダづけなどハードウェアの組み立て作業とプログラミング作業の組み合わせで競い合うので、時間との戦いでもある。手際のよさとすばやい問題解決能力が求められるわけだ。
森下さんは授業での実習をベースに、2年生の終わり頃からコンテストの準備を進めてきた。その実習を指導した山本哲也教諭は、「組み込みOSであるITRONを使ってあえてチャレンジした」と説明する。つまり、より実践的な技術を利用したことに価値があるということだ。
森下さんは、ものづくりの魅力について「自分がほしいと思うものをつくれること」と語る。そういう道に進めてよかったと振り返る彼は、卒業後は工業系の大学に進学し、新しいステージでさらにその知識と技術を高めていく。
●大応援団の声援で受けた追い風とプレッシャー
高校生プロコンで全国4位となったのは、ともに情報技術科2年生で、情報技術研究部に所属する稲葉光さんと上野仁さん。主に上野さんがアルゴリズムを考え、稲葉さんがプログラムを書くという役割を担った。
今回から対戦型プログラム(ターゲットサーチ2)が採用された高校生プロコンで、熊谷工高の予選通過順位は9位。ぎりぎりでの決勝進出だった。ちょっと意地悪なようだが、その点について聞いてみると、稲葉さんは「全国大会への進出は無理だと思っていました。でも、出られたからには絶対に勝ち残らなければならないという気持ちがありました」と振り返る。上野さんも同様に「文化祭の準備と重なったこともあって、自分たちのプログラムでは本選出場はどうかなと思っていました。4位というのは微妙な順位ですが、自分としては光栄に思っています」と話してくれた。
はからずもまた「微妙」という言葉が飛び出したが、「よくやったと思う半面、少し不満」といった気持ちがあるようだ。それもそのはず、実は彼ら2人は1年生のとき、当時3年生の先輩と一緒に高校生プロコンに出場し、全国大会で準優勝していたのである。
「先輩の力は大きかったと思いますが、僕たち2人でも全国大会に行けたのでよかった」というのは稲葉さん。おそらく、達成感は前回よりも大きかったことだろう。
今回の高校生ものづくりコンテスト、高校生プロコンとも、埼玉県行田市のものつくり大学を会場にして行なわれた。埼玉県北部の熊谷市と行田市は隣り合わせの位置にあり、熊谷工高にとってはまさに地元開催。そのため、情報技術科の仲間100人以上が応援に駆けつけてくれたそうだ。なかなかできない経験だが、彼らの心の中は「勝たなければならないという闘志が湧いた」(稲葉さん)部分と「プレッシャーになってしまった」(上野さん)部分が相半ばしていたようだ。
ところで、彼らにとってプログラミングの魅力とはどんなものなのだろうか。
稲葉さんは「決められた仕様のなかで、どれだけ自分が表現できるかということ」、上野さんは「土台が決まっているものを発展させて、それを役に立つものにできること」と捉えている。2人とも自分の知識や工夫次第で、より大きな結果が得られるところに可能性を感じているようだ。
上野さんも稲葉さんも工業系大学への進学を希望している。そしてもちろん、今年のプロコンにも出場する予定だ。高校最後の年、悔いのないよう頂点を目指してほしい。
●地域に密着し、文武両道を体現 舞原 正校長
熊谷工業高校の歴史は古く、その源は大正9年設立の熊谷商業学校にさかのぼる。その後、工業科の設置、商業科との分離などを経て、工業高校となったのは昭和41年のこと。現在は、建築、土木、電気、機械、情報技術の5科が設けられ、地域に信頼された魅力ある工業高校を目指している。
学校の特色のひとつとしてあげられるのが、平成14年度から行われているインターンシップ。これは1年生全員が企業に出向いて就業体験をするもので、進学希望者を含めた学年の全員が経験するというのは、他にあまり例がないということだ。
「短期間だが、このインターンシップによって働くことに対する意識づけができる。実際の就業体験を通じて、学習面での刺激になればいい」と舞原校長は語る。
また、ものづくりコンテストやプログラミングコンテストでの生徒たちの活躍について、「本校から、ものづくりコンテストには電子回路部門を含め3名、プロコンには2名が全国大会に駒を進めたことは、頼もしく思うとともに、指導教員の熱意とそれに応えた生徒の努力の結果だと思う」と話してくれた。
平成3年にはラグビー部が全国制覇を果たすなど全国的に知名度の高い同校だが、工業高校としては進学率も高く、また就職状況も良好だ。まさに「文武両道」を体現している高校といえるだろう。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高校生プロコンへの道>第41回 埼玉県立熊谷工業高等学校は、週刊BCN 2007年3月26日発行 vol.1180に掲載した記事を転載したものです。
二つの大会で上位入賞果たす
地元開催で見事な戦いぶり
昨年11月に開催された第6回高校生ものづくりコンテスト全国大会で5位、第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で4位と、ともに優秀な成績を残した埼玉県立熊谷工業高校。それぞれの出場メンバーに、全国大会で上位入賞を果たした感想と今後の抱負について語ってもらった。(小林茂樹●取材/文)
●実践的な技術を使い、全国5位に食い込む
過去にも、ものづくりコンテストやプロコンなどで多くの受賞歴を誇る熊谷工業高校。
昨年の高校生ものづくりコンテスト全国大会の電子回路組立部門で5位に入賞したのは、情報技術科3年生の森下慶樹さん。関東大会で3位に入賞し、埼玉県代表として全国大会に進出した。自身としては初めてのエントリーだが、地元開催のプレッシャーに負けず、好成績を残した。
この結果について感想を聞くと「全国大会には進めると思っていましたが、5位というのはちょっと微妙な順位。下位ではないのでよかったとも言えますが、もう少し上を狙えたかもしれません」と、それほど満足していない様子。実力を出し切れなかった部分もあったという。実はひそかに優勝を狙っていたようだ。
この競技は、2日間にわたって行なわれる。1日目は、7セグメントLEDの点灯回路やステッピングモーターの駆動回路を含むコンピュータの出力回路(制御対象回路)を製作し、2日目は設計仕様に基づいた入力回路とプログラムを製作する。競技時間は、1日目が1時間30分で2日目が2時間30分。ハンダづけなどハードウェアの組み立て作業とプログラミング作業の組み合わせで競い合うので、時間との戦いでもある。手際のよさとすばやい問題解決能力が求められるわけだ。
森下さんは授業での実習をベースに、2年生の終わり頃からコンテストの準備を進めてきた。その実習を指導した山本哲也教諭は、「組み込みOSであるITRONを使ってあえてチャレンジした」と説明する。つまり、より実践的な技術を利用したことに価値があるということだ。
森下さんは、ものづくりの魅力について「自分がほしいと思うものをつくれること」と語る。そういう道に進めてよかったと振り返る彼は、卒業後は工業系の大学に進学し、新しいステージでさらにその知識と技術を高めていく。
●大応援団の声援で受けた追い風とプレッシャー
高校生プロコンで全国4位となったのは、ともに情報技術科2年生で、情報技術研究部に所属する稲葉光さんと上野仁さん。主に上野さんがアルゴリズムを考え、稲葉さんがプログラムを書くという役割を担った。
今回から対戦型プログラム(ターゲットサーチ2)が採用された高校生プロコンで、熊谷工高の予選通過順位は9位。ぎりぎりでの決勝進出だった。ちょっと意地悪なようだが、その点について聞いてみると、稲葉さんは「全国大会への進出は無理だと思っていました。でも、出られたからには絶対に勝ち残らなければならないという気持ちがありました」と振り返る。上野さんも同様に「文化祭の準備と重なったこともあって、自分たちのプログラムでは本選出場はどうかなと思っていました。4位というのは微妙な順位ですが、自分としては光栄に思っています」と話してくれた。
はからずもまた「微妙」という言葉が飛び出したが、「よくやったと思う半面、少し不満」といった気持ちがあるようだ。それもそのはず、実は彼ら2人は1年生のとき、当時3年生の先輩と一緒に高校生プロコンに出場し、全国大会で準優勝していたのである。
「先輩の力は大きかったと思いますが、僕たち2人でも全国大会に行けたのでよかった」というのは稲葉さん。おそらく、達成感は前回よりも大きかったことだろう。
今回の高校生ものづくりコンテスト、高校生プロコンとも、埼玉県行田市のものつくり大学を会場にして行なわれた。埼玉県北部の熊谷市と行田市は隣り合わせの位置にあり、熊谷工高にとってはまさに地元開催。そのため、情報技術科の仲間100人以上が応援に駆けつけてくれたそうだ。なかなかできない経験だが、彼らの心の中は「勝たなければならないという闘志が湧いた」(稲葉さん)部分と「プレッシャーになってしまった」(上野さん)部分が相半ばしていたようだ。
ところで、彼らにとってプログラミングの魅力とはどんなものなのだろうか。
稲葉さんは「決められた仕様のなかで、どれだけ自分が表現できるかということ」、上野さんは「土台が決まっているものを発展させて、それを役に立つものにできること」と捉えている。2人とも自分の知識や工夫次第で、より大きな結果が得られるところに可能性を感じているようだ。
上野さんも稲葉さんも工業系大学への進学を希望している。そしてもちろん、今年のプロコンにも出場する予定だ。高校最後の年、悔いのないよう頂点を目指してほしい。
●地域に密着し、文武両道を体現 舞原 正校長
熊谷工業高校の歴史は古く、その源は大正9年設立の熊谷商業学校にさかのぼる。その後、工業科の設置、商業科との分離などを経て、工業高校となったのは昭和41年のこと。現在は、建築、土木、電気、機械、情報技術の5科が設けられ、地域に信頼された魅力ある工業高校を目指している。
学校の特色のひとつとしてあげられるのが、平成14年度から行われているインターンシップ。これは1年生全員が企業に出向いて就業体験をするもので、進学希望者を含めた学年の全員が経験するというのは、他にあまり例がないということだ。
「短期間だが、このインターンシップによって働くことに対する意識づけができる。実際の就業体験を通じて、学習面での刺激になればいい」と舞原校長は語る。
また、ものづくりコンテストやプログラミングコンテストでの生徒たちの活躍について、「本校から、ものづくりコンテストには電子回路部門を含め3名、プロコンには2名が全国大会に駒を進めたことは、頼もしく思うとともに、指導教員の熱意とそれに応えた生徒の努力の結果だと思う」と話してくれた。
平成3年にはラグビー部が全国制覇を果たすなど全国的に知名度の高い同校だが、工業高校としては進学率も高く、また就職状況も良好だ。まさに「文武両道」を体現している高校といえるだろう。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高校生プロコンへの道>第41回 埼玉県立熊谷工業高等学校は、週刊BCN 2007年3月26日発行 vol.1180に掲載した記事を転載したものです。