<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第39回 鳥羽商船高等専門学校

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2007/03/14 17:50

 鳥羽商船高専は、第12回大会以降の5年間で最優秀賞2回、優秀賞1回、審査員特別賞2回を受賞しているプロコン界きっての強豪校。第17回大会でも5チームが学内エントリー。本選には自由・課題・競技の各部門に1チームずつを送り、課題部門の「SNAP×SNAP」チームが審査員特別賞を勝ち取った。プロコンにエントリーするのは1学年40名の制御情報工学科の学生たち。5学年合わせても200名ちょっとの小世帯なのに、なぜ常連の強豪校なのか、その秘密に迫ってみた。

KJ法でアイデアを煮詰める
SNAP×SNAPで審査員特別賞


 鳥羽商船高専は、第12回大会以降の5年間で最優秀賞2回、優秀賞1回、審査員特別賞2回を受賞しているプロコン界きっての強豪校。第17回大会でも5チームが学内エントリー。本選には自由・課題・競技の各部門に1チームずつを送り、課題部門の「SNAP×SNAP」チームが審査員特別賞を勝ち取った。プロコンにエントリーするのは1学年40名の制御情報工学科の学生たち。5学年合わせても200名ちょっとの小世帯なのに、なぜ常連の強豪校なのか、その秘密に迫ってみた。(佐々木潔●取材/文)

●「出てみたい」学生を募り、みんなでアイデアを詰める

 鳥羽商船では授業やホームルームを通してプロコン参加者を募っている。1─2年生を受け持つ教師が、先輩の作品を見せたり全国大会の様子を伝えるなど、せっせと「種蒔き」をしていることから、3年生になると自分たちも出場して当然という雰囲気が生まれるらしい。今回は課題・自由部門各4チームがエントリー。学内選考で選ばれた3チームが予選審査を受け、課題・自由・競技の各1チームが本選に進んだ。

 一風変わっているのは、まず「出てみたい人」を募り、出場希望者によるアイデア出しを先行させ、いけそうなテーマを絞り込んだうえで、どのテーマに参加するかを学生に選ばせるというやり方をとっていることだ。審査員特別賞受賞の「SNAP×SNAP」チームを指導した江崎修央講師によれば、最初のハードルは「出てみたいか、出たくないか」だけ。これなら、テーマが決まらないからといって出場をためらう必要はないし、みんなでアイデアを出し合うから自然に盛り上がる。最後に、自分がやりたいテーマやできそうな分担にしたがって、自ずと参加するチームが決まる。

 一方で、アイデア出しには時間をかける。先生は口を出さないが、アイデアをテーマに昇華させる方法としてKJ法(データをカードに記述し、カードをグループごとにまとめて、アイデアを形にしていく方法)の考え方を指導し、企画のシナリオを学生に煮詰めさせる。「アイデアを出せと言っても、未経験者はそうそう閃くものではないから、アイデアを出し合って詰めていく作業に時間をかけます。この過程で、テーマを実現させるために必要な技術情報を与え、勉強させることもあります」と、江崎先生は状況を語る。

 学内選考は、プロコン予選書類の提出期限をにらんで5月下旬に実施する。今回は他学科の先生の協力を得て5人の審査員によって行われた。審査の公正を期すため、それぞれの指導教員は審査には加わらなかったそうである。

●携帯でオリエンテーリング 全員が「来年も出場したい」

 SNAP×SNAPは携帯電話を利用したオリエンテーリングゲームで、チームは全員が制御情報工学科の3年生。

 写真を撮って遊ぶというアイデアを出したのは山崎清也さんで、唯一のプロコン経験者(第16回大会競技部門)。フジテレビの「SMAP×SMAP」をもじった作品の名付け親は木下裕貴さん。春休みにアイデアを考え、4月からKJ法を使って煮詰め、5月中旬に企画書をまとめた。

 この作品は、携帯電話からログインして「問題画像」を取得し、その画像に類似した写真を撮影して送ると、採点されて得点が表示されるというもの。問題形式は動植物・乗り物・キャラクターを撮影する「もの探し」と、地元や旅先から指定された場所や建物などを撮影する「場所探し」の2種類で、仲間で集まって遊ぶ「大会モード」や、問題を投稿するモードも備えている。場所探しではユーザー登録時、もしくは旅先で入力した郵便番号を元に問題が送られてくるところに特徴があり、一人でも、仲間を集めてでも遊べる。

 システム構成は携帯電話とWebサーバー(一部メールサーバー)だけ。Webサーバにはログイン情報や新規登録を扱うDB、問題画像の選択や問題投稿を扱う問題DB、フォトスペース(展示室)を扱う回答一覧DBなどが収められ、監視・採点・返信機能を取り扱うプログラムが格納されている。携帯電話なので開発言語は当然JavaとJSP。DBにはオープンソースのMySQLが使われている。4年生で初めて学習するJavaを、未経験のメンバーは自習で身につけプログラムを組み上げた。

 山崎さんが監視・採点・返信プログラムを書き、西野陽平さんがその動作や表示機能を実装し、野村美賢さんが大会モードとそのDBを、木下さんが回答一覧DBとフォトスペース機能を、土井根礼音さんがユーザー情報DBと問題DBを分担して、夏休みが終わる頃には動作にこぎ着けた。実際に子供たちに携帯電話を持たせて遊ばせ、そこそこの手応えを得ていたようだ。

 自分たちの作品のレベルがどれほどか見当がつかなかったが、結果は審査員特別賞。ふつうのチームなら満願で燃え尽きるところだが、さらに欲が出てきたらしく、何と全員が「このチームで来年も出場したい!」と熱望している。

 すでに2年生からエントリーがあり、卒研絡みで5年生のエントリーも予想されるので、来年度の学内選考は熾烈になりそうだ。恐るべし、鳥羽商船。

●教育効果を認めコンテストを奨励 山田 猛敏校長

 鳥羽商船高専のルーツは明治15年(1882年)の鳥羽商船分黌にさかのぼる。勝海舟や坂本龍馬のファンにはおなじみの「長崎海軍伝習所」、つまり江戸幕府の海軍士官養成所に学んだ第一期生の近藤真琴(鳥羽藩士)が蘭学塾「攻玉塾」を開き、出身地の鳥羽に攻玉社分校鳥羽商船黌を設置したのが始まりだ。その後、昭和14年に官立鳥羽商船学校(戦後は国立鳥羽商船高等学校)となり、昭和42年に高専として再スタートした。この近藤真琴と鳥羽商船黌については、直木賞作家・豊田穣の『夜明けの潮』に詳しい。

 他校の電子情報工学科に該当する制御情報工学科が設けられたのは昭和63年。山田校長によると、小世帯にもかかわらずプロコン強豪校として名を馳せているのは、「熱心な先生に恵まれているから」。「好きなことに打ち込み、達成感を得ることには、授業や卒研とは別の教育効果がある」という理由から、同校ではコンテスト出場を奨励し、プロコン以外にも「衛星設計コンテスト」で2年連続アイデア大賞を受賞している。

 同校ではコミュニケーション能力とリーダーシップの養成に力を入れており、卒業生に対する社会からの評価は「ひじょうに誠実でまじめ」。卒業生の8割強が就職を選択。就職先は海運・エンジニアリング・ソフトウェア関連が多く、県内・東海・首都圏の3地域に集中している。

BCN ITジュニア賞
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今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
BCN ITジュニア賞2007表彰式の模様


※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第39回 鳥羽商船高等専門学校は、週刊BCN 2007年3月12日発行 vol.1178に掲載した記事を転載したものです。