<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第38回 石川県立金沢北陵高等学校
昨年11月11日に開催された第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で、石川県立金沢北陵高校が2年連続優勝という快挙を果たし、この実績によりBCN ITジュニア賞2007も受賞した。今回の優勝メンバーは1年生2人。いわば最年少のITジュニアたちに優勝の感想と今後の抱負について話してもらった。
プロコン優勝、そしてITジュニア賞受賞
昨年11月11日に開催された第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で、石川県立金沢北陵高校が2年連続優勝という快挙を果たし、この実績によりBCN ITジュニア賞2007も受賞した。今回の優勝メンバーは1年生2人。いわば最年少のITジュニアたちに優勝の感想と今後の抱負について話してもらった。(小林茂樹●取材/文)
●予選は1位で通過 決勝戦でも堂々と
第27回大会から対戦型のプログラムとなった高校生プロコン。そのテーマ「ターゲットサーチ2」は、見えない標的に自陣からボールを投げて、命中させる精度を競う前回の「ターゲットサーチ」が進化したもの。1ターンごとに、相手に投げるか、自陣の標的を移動させるかを選択しながら、より早く相手のターゲットに命中させたチームが勝ちというルールだ。
参加17校、28チームの中から8チームで争われる決勝戦に予選トップで進出したのは、金沢北陵高校コンピュータ部の大家英明さんと紙谷星吾さんのチーム。ともに総合学科の1年生だ。
実はこの金沢北陵高校からは、2チームが予選に参加している。いずれも1年生チームだ。その予選最終順位は1位と2位。予選を通過できるのは1校につき1チームという大会規定があるため、予選2位であっても決勝戦に進出できない。レベルの高い競争は、すでに校内で、それも1年生同士で始まっていたのである。
まず優勝の感想だが、紙谷さんは「予選を通過する自信はあまりなかったが、優勝することができてうれしい。今後はさらに勉強してソフトをつくっていきたい」と謙虚に語り、大家さんは「予選はなんとか通ると思ったが、決勝戦では他の高校が強くて、正直なところ勝てるかどうか不安だった。勝つことができてびっくりしている」と話してくれた。
準備段階では、主に大家さんがプログラムを組み、紙谷さんがエラー処理にあたるという役割分担でその完成度を高めていった。よどみなく話す大家さんとやや寡黙な紙谷さんというコンビだが、2人のチームワークは抜群のようで、プライベートでも一緒に遊びに行く仲だそうだ。
●プログラミング経験はわずか半年足らず!?
ところで、高校1年生で全国大会優勝と聞けば、誰もが「幼い頃からコンピュータに親しんでいたのだろう」と、早熟なパソコン少年の姿を想像するに違いない。
ところが、コンピュータとのかかわりについて2人に聞いてみると、「小学生の頃からパソコンには趣味程度でさわっていたが、ネットを見る程度。専門的に使うようになったのは高校に入ってから」というのは大家さん。そして紙谷さんは「中学生になってからネットを検索したり、ホームページをつくるようになったが、高校に入るまでプログラムという言葉すら知らなかった」そうだ。
現在は、公立の小中学校でも授業のなかでパソコンの利用は当たり前になっている。つまり彼らの中学生時代までのコンピュータとのかかわり方は、他の普通の生徒とさして変わらないのである。
プログラミングに取り組んでわずか半年で結果を出したことについて、大家さんは「頑張りましたから」とさらりと言ってのけたが、指導教員の水野亮先生によると「入学した4月からずっと、ほぼ缶詰状態で取り組んだ」という。短期間のうちに集中して、プログラムのレベルや対戦スキルの腕を上げたことは確かなようだ。
コンピュータ部の活動では、各人のつくったプログラムを対戦させることで勝負勘を養っている。そして「ターゲットサーチ2」では、必ずしも最も優秀なプログラムが優勝するとは限らず、ゲームの組み立てや駆け引きが勝敗の行方を大きく左右するという。この点を踏まえて大会に臨んだことが、金沢北陵の勝因だったといえるだろう。
紙谷さんも大家さんも、専門的な勉強をしたい、将来工業系の仕事に就きたいという気持ちで、金沢北陵高校を選んだ。ただ「中学生時代には、将来の夢はなかった」(大家さん)と振り返る。
おそらくそれは、漠然とした志向はあっても、明確に目標を定めるまでには至らなかったということなのだろう。ごく普通の中学生の姿ともいえる。
ところが、高校に入って「将来はプログラマになりたい」(大家さん)、「情報関係の仕事に就きたい」(紙谷さん)と、将来の目標が具体化してきたのである。
今年の大会出場について尋ねると、意外なことに「プロコンはこれから入ってくる新1年生に託すことになると思う」とのこと。2年生に進級すると、将来に向けた資格取得などに時間を割かなければならないからだ。
「プログラミングも好きだけど歌も好き。将来の夢は歌えるプログラマ」と語る大家さんと、「趣味はブログで、ゲームのプログラムもつくってみたいが、まだちょっと難しい」と話してくれた紙谷さん。まさに、これからが楽しみなITジュニアの新星たちだ。
●個性伸ばすきめ細かな教育を 石川祐次校長
金沢市北部に位置する金沢北陵高校の前身は金沢松陵工業高校。平成7年に総合学科の単位制高校に衣替えし、現校名となった。工業高校の伝統を受け継ぎながらも、生産技術、国際ビジネスなど5つの系列を設置し、多様な進路志望を実現するため2年次以降は選択科目がカリキュラムの半分以上を占める。
同校のモットーは「好きなことならより頑張れる」。石川校長は「教職員は子どもたちの個性を伸ばすため、生徒を支援することに徹している」と語る。
金沢北陵高校には、進学志望の生徒もいれば就職志望の生徒もいる。それぞれの希望を実現するため、キャリアガイダンスをはじめとするさまざまな指導が、ほぼマン・ツー・マンできめ細かく行なわれている。
総合学科に転換してからは女子生徒が増加し、また近隣の中学からの入学者が大部分を占めるようになったそうだ。地域に密着し、インターンシップなどで地元企業との連携を強める一方、各種の検定試験や資格の取得にも力を入れている。
「学ぶことの楽しさや達成感を得ることで、しっかりとした将来の目標が生まれてくる。そのためには挫折させないことも大切だと考えている。今回のプロコンでの優勝は、取り組んだ生徒にとって大きな自信になったと思う」と石川校長は話してくれた。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第38回 石川県立金沢北陵高等学校は、週刊BCN 2007年3月5日発行 vol.1177に掲載した記事を転載したものです。
プロコン優勝、そしてITジュニア賞受賞
1年生コンビが大活躍!
昨年11月11日に開催された第27回全国高校生プログラミングコンテスト(高校生プロコン)で、石川県立金沢北陵高校が2年連続優勝という快挙を果たし、この実績によりBCN ITジュニア賞2007も受賞した。今回の優勝メンバーは1年生2人。いわば最年少のITジュニアたちに優勝の感想と今後の抱負について話してもらった。(小林茂樹●取材/文)
●予選は1位で通過 決勝戦でも堂々と
第27回大会から対戦型のプログラムとなった高校生プロコン。そのテーマ「ターゲットサーチ2」は、見えない標的に自陣からボールを投げて、命中させる精度を競う前回の「ターゲットサーチ」が進化したもの。1ターンごとに、相手に投げるか、自陣の標的を移動させるかを選択しながら、より早く相手のターゲットに命中させたチームが勝ちというルールだ。
参加17校、28チームの中から8チームで争われる決勝戦に予選トップで進出したのは、金沢北陵高校コンピュータ部の大家英明さんと紙谷星吾さんのチーム。ともに総合学科の1年生だ。
実はこの金沢北陵高校からは、2チームが予選に参加している。いずれも1年生チームだ。その予選最終順位は1位と2位。予選を通過できるのは1校につき1チームという大会規定があるため、予選2位であっても決勝戦に進出できない。レベルの高い競争は、すでに校内で、それも1年生同士で始まっていたのである。
まず優勝の感想だが、紙谷さんは「予選を通過する自信はあまりなかったが、優勝することができてうれしい。今後はさらに勉強してソフトをつくっていきたい」と謙虚に語り、大家さんは「予選はなんとか通ると思ったが、決勝戦では他の高校が強くて、正直なところ勝てるかどうか不安だった。勝つことができてびっくりしている」と話してくれた。
準備段階では、主に大家さんがプログラムを組み、紙谷さんがエラー処理にあたるという役割分担でその完成度を高めていった。よどみなく話す大家さんとやや寡黙な紙谷さんというコンビだが、2人のチームワークは抜群のようで、プライベートでも一緒に遊びに行く仲だそうだ。
●プログラミング経験はわずか半年足らず!?
ところで、高校1年生で全国大会優勝と聞けば、誰もが「幼い頃からコンピュータに親しんでいたのだろう」と、早熟なパソコン少年の姿を想像するに違いない。
ところが、コンピュータとのかかわりについて2人に聞いてみると、「小学生の頃からパソコンには趣味程度でさわっていたが、ネットを見る程度。専門的に使うようになったのは高校に入ってから」というのは大家さん。そして紙谷さんは「中学生になってからネットを検索したり、ホームページをつくるようになったが、高校に入るまでプログラムという言葉すら知らなかった」そうだ。
現在は、公立の小中学校でも授業のなかでパソコンの利用は当たり前になっている。つまり彼らの中学生時代までのコンピュータとのかかわり方は、他の普通の生徒とさして変わらないのである。
プログラミングに取り組んでわずか半年で結果を出したことについて、大家さんは「頑張りましたから」とさらりと言ってのけたが、指導教員の水野亮先生によると「入学した4月からずっと、ほぼ缶詰状態で取り組んだ」という。短期間のうちに集中して、プログラムのレベルや対戦スキルの腕を上げたことは確かなようだ。
コンピュータ部の活動では、各人のつくったプログラムを対戦させることで勝負勘を養っている。そして「ターゲットサーチ2」では、必ずしも最も優秀なプログラムが優勝するとは限らず、ゲームの組み立てや駆け引きが勝敗の行方を大きく左右するという。この点を踏まえて大会に臨んだことが、金沢北陵の勝因だったといえるだろう。
紙谷さんも大家さんも、専門的な勉強をしたい、将来工業系の仕事に就きたいという気持ちで、金沢北陵高校を選んだ。ただ「中学生時代には、将来の夢はなかった」(大家さん)と振り返る。
おそらくそれは、漠然とした志向はあっても、明確に目標を定めるまでには至らなかったということなのだろう。ごく普通の中学生の姿ともいえる。
ところが、高校に入って「将来はプログラマになりたい」(大家さん)、「情報関係の仕事に就きたい」(紙谷さん)と、将来の目標が具体化してきたのである。
今年の大会出場について尋ねると、意外なことに「プロコンはこれから入ってくる新1年生に託すことになると思う」とのこと。2年生に進級すると、将来に向けた資格取得などに時間を割かなければならないからだ。
「プログラミングも好きだけど歌も好き。将来の夢は歌えるプログラマ」と語る大家さんと、「趣味はブログで、ゲームのプログラムもつくってみたいが、まだちょっと難しい」と話してくれた紙谷さん。まさに、これからが楽しみなITジュニアの新星たちだ。
●個性伸ばすきめ細かな教育を 石川祐次校長
金沢市北部に位置する金沢北陵高校の前身は金沢松陵工業高校。平成7年に総合学科の単位制高校に衣替えし、現校名となった。工業高校の伝統を受け継ぎながらも、生産技術、国際ビジネスなど5つの系列を設置し、多様な進路志望を実現するため2年次以降は選択科目がカリキュラムの半分以上を占める。
同校のモットーは「好きなことならより頑張れる」。石川校長は「教職員は子どもたちの個性を伸ばすため、生徒を支援することに徹している」と語る。
金沢北陵高校には、進学志望の生徒もいれば就職志望の生徒もいる。それぞれの希望を実現するため、キャリアガイダンスをはじめとするさまざまな指導が、ほぼマン・ツー・マンできめ細かく行なわれている。
総合学科に転換してからは女子生徒が増加し、また近隣の中学からの入学者が大部分を占めるようになったそうだ。地域に密着し、インターンシップなどで地元企業との連携を強める一方、各種の検定試験や資格の取得にも力を入れている。
「学ぶことの楽しさや達成感を得ることで、しっかりとした将来の目標が生まれてくる。そのためには挫折させないことも大切だと考えている。今回のプロコンでの優勝は、取り組んだ生徒にとって大きな自信になったと思う」と石川校長は話してくれた。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第38回 石川県立金沢北陵高等学校は、週刊BCN 2007年3月5日発行 vol.1177に掲載した記事を転載したものです。