<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第37回 鈴鹿工業高等専門学校
鈴鹿工業高等専門学校は第17回高専プロコンに5チームがエントリーした。うち自由部門2チーム、課題部門1チーム、競技部門1チームが本選に出場し、自由部門では「ルーブ・ゴールドバーグマシン・ビルダー」チームが最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞。自由部門のもう1チーム「指揮者体験プログラム“奏(かなで)”」と、課題部門の「ふれあいスクェア」も敢闘賞を受賞するなど優秀な成績を収めた。同校では電子情報工学科における創造工学演習(4年次)をベースにプロコン出場チームを募っている。
仲良しグループが自主性を発揮
鈴鹿工業高等専門学校は第17回高専プロコンに5チームがエントリーした。うち自由部門2チーム、課題部門1チーム、競技部門1チームが本選に出場し、自由部門では「ルーブ・ゴールドバーグマシン・ビルダー」チームが最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞。自由部門のもう1チーム「指揮者体験プログラム“奏(かなで)”」と、課題部門の「ふれあいスクェア」も敢闘賞を受賞するなど優秀な成績を収めた。同校では電子情報工学科における創造工学演習(4年次)をベースにプロコン出場チームを募っている。(佐々木潔●取材/文)
●“ピタゴラスイッチ”を 仮想空間につくり上げる
ルーブ・ゴールドバーグマシン(以下RGマシン)とは、ある単純な動作目的のために、わざと手の込んだからくりを入れて、それらが次々と連鎖していく面白さを追求する仕組みのこと。ドミノを倒せばボールが転がり、そのボールがスイッチボタンを直撃して矢が発射され、風船を割る…といった一連の仕組みは、NHK教育テレビのピタゴラスイッチや「トムとジェリー」のアニメで知られる。
現実のRGマシンを作ろうとすると、体育館のようなスペースと構築物が必要となるなどさまざまな制約があるため、これをPC上で擬似的に作って楽しむシステムを開発しようとしたのがRGマシン・ビルダーである。
今回のメンバーは電子情報工学科4年生の高橋勲さん、出口祐輝さん、中川憲さん、濱崎達也さん、眞野裕也さんの5人。RGマシン・ビルダーをやろうと言い出したのは眞野さん。「ピタゴラスイッチもそうですが、自分の周りでRGマシンが流行っていたから、これを実際に作ってみたかった」。他のメンバーもこのアイデアに乗った。
鈴鹿高専では、プロコン指導教員の田添丈博講師たちが担当する創造工学演習で、学生を5人ずつのグループに分け、それぞれが取り組みたい課題をプレゼンさせる。これまでは、メンバーが決まったところでプロコン出場を持ちかけ、そのうえでテーマを決めてきたそうだが、今回のチームはすでにRGマシン・ビルダーに取り組むことを決めており、その構想やコンセプトの明確さを買って田添先生がプロコンへの出場を促した。つまり、プロコンとは何の関係もないところで企画が立てられ、製作されるはずのものだったようだ。
●構想とコンセプトが明確 役割分解も理想的だった
RGマシン・ビルダーは、マウスやキーボードを使ってRGマシンを構築する「作成機能」、作成したRGマシンを動作させる「実行機能」、作成したRGマシンをデータファイルとして保存する「保存機能」から成り、内部的にはインターフェース・描画処理部、DB、ODEライブラリ(物理計算を行うフリーのエンジンライブラリ)によって構成されている。このODE(オープン・ダイナミック・エンジン)を見つけてきたのも眞野さんだった。当初は2次元で作るつもりだったが、それではオブジェクトを多くすることができない。探し当てたODEが3D用だったことから3Dでいこうと決めた。
高橋さんが操作回りのプログラム、眞野さんがODE制御、出口さんがグラフィック、濱崎さんがメニューの設計と実装、中川さんが内部DB処理を担当し、各自が持ち寄ったソースの統合作業を中川さんが中心になって行った。プレゼンを高橋さんが担当することは当初から決まっていた。
指導教員の田添先生は「こんなに手のかからないチームは初めて」と語る。従来は、最初のデモに立ち会ってユーザーの視点から注文を出すことが多かったが、今回は「うまくいけば大きな賞をもらえるのではないか」と期待したそうだ。
それもそのはず、彼らは最終的に実装することになる機能の5─6倍ものプログラムを書き、それをぎりぎりまで絞り込んでいた。苦労したのは、ODEに関する日本語の資料がほとんどなく、翻訳しながらの作業になったことと、ゲームの開発環境であるDirectXと内部構造をつかさどるODEの座標系が異なっていて、その処理に時間がかかったことだった。
また、田添先生は知らされていなかったが、RGマシンを構築する「作成機能」が未完成で、関節(回転機能)を持つオブジェクトが動いたのは、本選のプレゼン直前のことだった。
プロコン本選の成績発表は、敢闘賞、審査員特別賞、優秀賞、最優秀賞という順で発表される。そして、優秀賞までのなかに鈴鹿高専の名前がなかったことから、一同が諦めかけた瞬間に、表彰式に集まった高専生の間から(最優秀賞は)「鈴鹿だ!」という声が上がった。全国のライバルたちがすでに、この作品の素晴らしさを認めていたのだった。
●世界で活躍する技術者を育成 中根 孝司校長
鈴鹿高専は、地元の大学2校や鈴鹿市、商工会議所と共同で「SUZUKA産学官交流会」を組織して地場産業への技術支援に取り組み、年3回のペースで一般市民を交えたフォーラムを開催するなど、地域貢献に積極的な高等教育機関である。平成16年には「燃料電池技術を核とした産学官連携ものづくり特区」の指定を受け、その人材養成の中心的役割を担っている。
近年は国際的に活躍できる実践的技術者育成に取り組む。中根校長によると「海外企業等での研修を含むCOOP WORK(大学が企業の協力によって主体的に運営・管理するタイプのインターンシップ)教育を取り入れるために、平成17年度文科省予算を得て北米のCOOP WORK教育システムの調査研究を行い、18年度にオハイオ州の日系企業に専攻科の学生を3人、1か月超の研修に送り出しました」とのこと。さらに、文科省からは18年度も予算を獲得し、COOP WORKによる国際的技術者教育のシステムづくりに邁進している。
このCOOP WORKによる技術者教育推進の中心的な存在が、専攻科長の桑原裕史教授。高専プロコン草創期から今日まで大会委員を務め、プロコン関係者でその名を知らぬものはない名物教授だ。異文化理解と英語コミュニケーション能力の向上という意欲的な試みの成果が期待される。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第37回 鈴鹿工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年2月26日発行 vol.1176に掲載した記事を転載したものです。
仲良しグループが自主性を発揮
RGマシンで自由部門最優秀賞
鈴鹿工業高等専門学校は第17回高専プロコンに5チームがエントリーした。うち自由部門2チーム、課題部門1チーム、競技部門1チームが本選に出場し、自由部門では「ルーブ・ゴールドバーグマシン・ビルダー」チームが最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞。自由部門のもう1チーム「指揮者体験プログラム“奏(かなで)”」と、課題部門の「ふれあいスクェア」も敢闘賞を受賞するなど優秀な成績を収めた。同校では電子情報工学科における創造工学演習(4年次)をベースにプロコン出場チームを募っている。(佐々木潔●取材/文)
●“ピタゴラスイッチ”を 仮想空間につくり上げる
ルーブ・ゴールドバーグマシン(以下RGマシン)とは、ある単純な動作目的のために、わざと手の込んだからくりを入れて、それらが次々と連鎖していく面白さを追求する仕組みのこと。ドミノを倒せばボールが転がり、そのボールがスイッチボタンを直撃して矢が発射され、風船を割る…といった一連の仕組みは、NHK教育テレビのピタゴラスイッチや「トムとジェリー」のアニメで知られる。
現実のRGマシンを作ろうとすると、体育館のようなスペースと構築物が必要となるなどさまざまな制約があるため、これをPC上で擬似的に作って楽しむシステムを開発しようとしたのがRGマシン・ビルダーである。
今回のメンバーは電子情報工学科4年生の高橋勲さん、出口祐輝さん、中川憲さん、濱崎達也さん、眞野裕也さんの5人。RGマシン・ビルダーをやろうと言い出したのは眞野さん。「ピタゴラスイッチもそうですが、自分の周りでRGマシンが流行っていたから、これを実際に作ってみたかった」。他のメンバーもこのアイデアに乗った。
鈴鹿高専では、プロコン指導教員の田添丈博講師たちが担当する創造工学演習で、学生を5人ずつのグループに分け、それぞれが取り組みたい課題をプレゼンさせる。これまでは、メンバーが決まったところでプロコン出場を持ちかけ、そのうえでテーマを決めてきたそうだが、今回のチームはすでにRGマシン・ビルダーに取り組むことを決めており、その構想やコンセプトの明確さを買って田添先生がプロコンへの出場を促した。つまり、プロコンとは何の関係もないところで企画が立てられ、製作されるはずのものだったようだ。
●構想とコンセプトが明確 役割分解も理想的だった
RGマシン・ビルダーは、マウスやキーボードを使ってRGマシンを構築する「作成機能」、作成したRGマシンを動作させる「実行機能」、作成したRGマシンをデータファイルとして保存する「保存機能」から成り、内部的にはインターフェース・描画処理部、DB、ODEライブラリ(物理計算を行うフリーのエンジンライブラリ)によって構成されている。このODE(オープン・ダイナミック・エンジン)を見つけてきたのも眞野さんだった。当初は2次元で作るつもりだったが、それではオブジェクトを多くすることができない。探し当てたODEが3D用だったことから3Dでいこうと決めた。
高橋さんが操作回りのプログラム、眞野さんがODE制御、出口さんがグラフィック、濱崎さんがメニューの設計と実装、中川さんが内部DB処理を担当し、各自が持ち寄ったソースの統合作業を中川さんが中心になって行った。プレゼンを高橋さんが担当することは当初から決まっていた。
指導教員の田添先生は「こんなに手のかからないチームは初めて」と語る。従来は、最初のデモに立ち会ってユーザーの視点から注文を出すことが多かったが、今回は「うまくいけば大きな賞をもらえるのではないか」と期待したそうだ。
それもそのはず、彼らは最終的に実装することになる機能の5─6倍ものプログラムを書き、それをぎりぎりまで絞り込んでいた。苦労したのは、ODEに関する日本語の資料がほとんどなく、翻訳しながらの作業になったことと、ゲームの開発環境であるDirectXと内部構造をつかさどるODEの座標系が異なっていて、その処理に時間がかかったことだった。
また、田添先生は知らされていなかったが、RGマシンを構築する「作成機能」が未完成で、関節(回転機能)を持つオブジェクトが動いたのは、本選のプレゼン直前のことだった。
プロコン本選の成績発表は、敢闘賞、審査員特別賞、優秀賞、最優秀賞という順で発表される。そして、優秀賞までのなかに鈴鹿高専の名前がなかったことから、一同が諦めかけた瞬間に、表彰式に集まった高専生の間から(最優秀賞は)「鈴鹿だ!」という声が上がった。全国のライバルたちがすでに、この作品の素晴らしさを認めていたのだった。
●世界で活躍する技術者を育成 中根 孝司校長
鈴鹿高専は、地元の大学2校や鈴鹿市、商工会議所と共同で「SUZUKA産学官交流会」を組織して地場産業への技術支援に取り組み、年3回のペースで一般市民を交えたフォーラムを開催するなど、地域貢献に積極的な高等教育機関である。平成16年には「燃料電池技術を核とした産学官連携ものづくり特区」の指定を受け、その人材養成の中心的役割を担っている。
近年は国際的に活躍できる実践的技術者育成に取り組む。中根校長によると「海外企業等での研修を含むCOOP WORK(大学が企業の協力によって主体的に運営・管理するタイプのインターンシップ)教育を取り入れるために、平成17年度文科省予算を得て北米のCOOP WORK教育システムの調査研究を行い、18年度にオハイオ州の日系企業に専攻科の学生を3人、1か月超の研修に送り出しました」とのこと。さらに、文科省からは18年度も予算を獲得し、COOP WORKによる国際的技術者教育のシステムづくりに邁進している。
このCOOP WORKによる技術者教育推進の中心的な存在が、専攻科長の桑原裕史教授。高専プロコン草創期から今日まで大会委員を務め、プロコン関係者でその名を知らぬものはない名物教授だ。異文化理解と英語コミュニケーション能力の向上という意欲的な試みの成果が期待される。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第37回 鈴鹿工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年2月26日発行 vol.1176に掲載した記事を転載したものです。