<ITジュニアの群像 IPA未踏ユースへの挑戦>第36回 IPA未踏ユースへの挑戦
ITエンジニアを目指す若き逸材の登竜門といえば、IPA(独立行政法人・情報処理推進機構)の公募事業の一つである「未踏ソフトウェア創造事業ユース部門」がよく知られている。2002年に設立された未踏ユースでは、大学院生や大学生に混じって高専生が毎年1?2名採択に名を連ねるようになったが、06年度は初めて高校生からの応募案件が採択された。この快挙を成し遂げたのが、立教池袋高等学校3年生の新藤愛大(よしひろ)さんである。
立教池袋高校 新藤愛大さん
ITエンジニアを目指す若き逸材の登竜門といえば、IPA(独立行政法人・情報処理推進機構)の公募事業の一つである「未踏ソフトウェア創造事業ユース部門」がよく知られている。2002年に設立された未踏ユースでは、大学院生や大学生に混じって高専生が毎年1?2名採択に名を連ねるようになったが、06年度は初めて高校生からの応募案件が採択された。この快挙を成し遂げたのが、立教池袋高等学校3年生の新藤愛大(よしひろ)さんである。(佐々木潔●取材/文)
●「三度の飯よりFlash」開発環境も自力でつくる
未踏ユースは、独創的なソフトウェア技術や事業アイデアを公募し、優れた案件に対して国が予算(1件当り約200─300万円)を与えて、その開発を支援する制度。いわば、ソフトウェア技術者にとっての芥川賞のようなものだ。
新藤さんのテーマは「Spark Project」で採択金額は215万円だった。Spark Projectとは、アドビ社のメディアフォーマット「Flash」によるインタラクティブコンテンツ作成を手助けするクラスライブラリ(開発支援ツール)を開発するもので、今回の未踏ユースではSpark Projectの一環として、「Xelf」というゲーム開発用フレームワークを提案している。
新藤さんがパソコンに触れたのは立教池袋中学校に入学し、数理研究同好会に所属したのがきっかけ。半年後の9月にはプログラムに関心を持つようになり、次第にFlashに取りつかれた。Flashはプラグインがあれば、OSやブラウザを問わず閲覧でき、動作が軽いことなどからゲーム関係者には人気のあるソフト。
「Webに公開されるゲームを眺めているうちに、Flashに興味を持ちました。だけど、Flashによるコンテンツの開発には、Action Scriptというスクリプト言語を使わなければなりません。この敷居が高いことからクラスライブラリの開発や公開が行われていなく、自分でつくらなければならない状況でした。それならば、自分でやってみようかと考え、少しずつFlashについての研究を重ねてきました」
ゲームの開発環境としては、ほかにもDirectXやOpenGLなどがあるが、新藤さんによればこれらのメディアフォーマットにおいても、ゲームの構造やロジックについて考えられたライブラリは少なく、Flashの開発支援ツールを自分でつくってしまうのが早道だと考えたそうである。ちなみに、新藤さんは自らブログを開いており、そのサブタイトルも「三度の飯よりFlash」という惚れ込みようだ。
●クラブの大先輩に憧れ、未踏ユース挑戦を決意
クラブの顧問は内田芳宏先生。多方面にわたる生徒の活動でてんやわんやの毎日だが、やんちゃな生徒でもどっしりと受け止める包容力豊かな指導者とお見受けした。
この内田先生が、1年生だった新藤さんたち3名の部員を引き連れて、あるイベントに参加した。その時、IPAのブースで近藤秀和さん(数理研究同好会のOB)を訪ねたことが、新藤さんの未踏ユース挑戦につながっていく。近藤さんは当時、早稲田大学理工学部の大学院生で、04年度のIPAスーパークリエーター。トヨタ自動車がカーナビ用に採用した多機能ブラウザ「ルナスケープ」の開発者だ。この出会いで刺激を受けた新藤さんは、いずれ自分も近藤氏のような存在になりたいと密かに決意したようだ。
内田先生はこう語る。「他のメンバーが中3から高1にかけてやることを、新藤君はすでに中学1年生で取り組んでいました。この年代の生徒はゲームをつくりたいと考えるものなのに、彼はゲームよりもその開発環境のような実用的なソフトに関心があった。そんな非凡さがあったので近藤さんに会わせました。部活の先輩でもあり、自分の将来を描く助けになったのでしょう」。
未踏ユース採択案件の開発期間はこの3月末まで。2月末には成果報告をしなければならないので、今が最後の追い込みだ。
さぞ、プレッシャーがあったかと思われるが、新藤さんにとっては、予算の立て方や報告書の作成など、プロジェクト管理のほうが大変だったらしく、この半年間の感想は、「大人の世界がちょっとだけ見えたような気がします」。
物静かな高校生だが、開発提案書の文章は論理的かつ明快で、プロの技術者でもなかなか書けないだろうというハイレベル。自分の取り組むテーマとなすべき事柄が、すぐそこに明確に見えているから、こうした文章が書けるのだろう。 この4月から彼は東京工科大学メディア学部に進学する。情報工学と美術が好きなクリエーターが、どんな大樹に育つか目が離せない。
●歴史誇る数理研究同好会 多角的な活動を展開
立教池袋中学校の数理研究同好会には35年を超える歴史があり、幾多の人材を輩出している。2000年に立教池袋高校が設立されたことによって、名実ともに中高一貫のクラブ活動ができるようになった。06年度の会員数は38名。
基礎学力をつけるために中学校で学ぶ課程を中学2年生で終わらせ、中3からは自分たちで研究課題を見つけ、さまざまな分野に羽を広げていく。クラブの顧問の内田芳宏先生によれば、「研究課題に数理がかかわれば内容に制限はなく、数学・物理学、コンピュータ、工学、ロボット製作など、あらゆる分野の自主研究を認めている」そうだ。
エントリーするコンテストも多岐にわたり、株式ポートフォリオを競う「日経STOCKリーグポートフォリオ」、会津大学主催の「パソコン甲子園」、読売新聞社主催の「日本学生科学賞」、そして「全国高等学校IT・簿記選手権」には毎年のように選手を送り出し、優秀な成績を収めている。
もちろん、文化祭への参加はクラブ活動の重要なイベントで、理系クラブが共同で作品を展示するほか、年度末には1年間の活動報告を200ページ超の部誌にまとめ上げている。
部員にとって最大の楽しみは毎年夏に行われる合宿だ。経験豊富な高校生が活動を通じて中学生を指導するほか、IT業界や大学などで活躍するOBも合流し、和気あいあいとした雰囲気のもとで後輩たちをリードする。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 IPA未踏ユースへの挑戦>第36回 IPA未踏ユースへの挑戦は、週刊BCN 2007年2月19日発行 vol.1175に掲載した記事を転載したものです。
立教池袋高校 新藤愛大さん
初の高校生案件採択の快挙!
ITエンジニアを目指す若き逸材の登竜門といえば、IPA(独立行政法人・情報処理推進機構)の公募事業の一つである「未踏ソフトウェア創造事業ユース部門」がよく知られている。2002年に設立された未踏ユースでは、大学院生や大学生に混じって高専生が毎年1?2名採択に名を連ねるようになったが、06年度は初めて高校生からの応募案件が採択された。この快挙を成し遂げたのが、立教池袋高等学校3年生の新藤愛大(よしひろ)さんである。(佐々木潔●取材/文)
●「三度の飯よりFlash」開発環境も自力でつくる
未踏ユースは、独創的なソフトウェア技術や事業アイデアを公募し、優れた案件に対して国が予算(1件当り約200─300万円)を与えて、その開発を支援する制度。いわば、ソフトウェア技術者にとっての芥川賞のようなものだ。
新藤さんのテーマは「Spark Project」で採択金額は215万円だった。Spark Projectとは、アドビ社のメディアフォーマット「Flash」によるインタラクティブコンテンツ作成を手助けするクラスライブラリ(開発支援ツール)を開発するもので、今回の未踏ユースではSpark Projectの一環として、「Xelf」というゲーム開発用フレームワークを提案している。
新藤さんがパソコンに触れたのは立教池袋中学校に入学し、数理研究同好会に所属したのがきっかけ。半年後の9月にはプログラムに関心を持つようになり、次第にFlashに取りつかれた。Flashはプラグインがあれば、OSやブラウザを問わず閲覧でき、動作が軽いことなどからゲーム関係者には人気のあるソフト。
「Webに公開されるゲームを眺めているうちに、Flashに興味を持ちました。だけど、Flashによるコンテンツの開発には、Action Scriptというスクリプト言語を使わなければなりません。この敷居が高いことからクラスライブラリの開発や公開が行われていなく、自分でつくらなければならない状況でした。それならば、自分でやってみようかと考え、少しずつFlashについての研究を重ねてきました」
ゲームの開発環境としては、ほかにもDirectXやOpenGLなどがあるが、新藤さんによればこれらのメディアフォーマットにおいても、ゲームの構造やロジックについて考えられたライブラリは少なく、Flashの開発支援ツールを自分でつくってしまうのが早道だと考えたそうである。ちなみに、新藤さんは自らブログを開いており、そのサブタイトルも「三度の飯よりFlash」という惚れ込みようだ。
●クラブの大先輩に憧れ、未踏ユース挑戦を決意
クラブの顧問は内田芳宏先生。多方面にわたる生徒の活動でてんやわんやの毎日だが、やんちゃな生徒でもどっしりと受け止める包容力豊かな指導者とお見受けした。
この内田先生が、1年生だった新藤さんたち3名の部員を引き連れて、あるイベントに参加した。その時、IPAのブースで近藤秀和さん(数理研究同好会のOB)を訪ねたことが、新藤さんの未踏ユース挑戦につながっていく。近藤さんは当時、早稲田大学理工学部の大学院生で、04年度のIPAスーパークリエーター。トヨタ自動車がカーナビ用に採用した多機能ブラウザ「ルナスケープ」の開発者だ。この出会いで刺激を受けた新藤さんは、いずれ自分も近藤氏のような存在になりたいと密かに決意したようだ。
内田先生はこう語る。「他のメンバーが中3から高1にかけてやることを、新藤君はすでに中学1年生で取り組んでいました。この年代の生徒はゲームをつくりたいと考えるものなのに、彼はゲームよりもその開発環境のような実用的なソフトに関心があった。そんな非凡さがあったので近藤さんに会わせました。部活の先輩でもあり、自分の将来を描く助けになったのでしょう」。
未踏ユース採択案件の開発期間はこの3月末まで。2月末には成果報告をしなければならないので、今が最後の追い込みだ。
さぞ、プレッシャーがあったかと思われるが、新藤さんにとっては、予算の立て方や報告書の作成など、プロジェクト管理のほうが大変だったらしく、この半年間の感想は、「大人の世界がちょっとだけ見えたような気がします」。
物静かな高校生だが、開発提案書の文章は論理的かつ明快で、プロの技術者でもなかなか書けないだろうというハイレベル。自分の取り組むテーマとなすべき事柄が、すぐそこに明確に見えているから、こうした文章が書けるのだろう。 この4月から彼は東京工科大学メディア学部に進学する。情報工学と美術が好きなクリエーターが、どんな大樹に育つか目が離せない。
●歴史誇る数理研究同好会 多角的な活動を展開
立教池袋中学校の数理研究同好会には35年を超える歴史があり、幾多の人材を輩出している。2000年に立教池袋高校が設立されたことによって、名実ともに中高一貫のクラブ活動ができるようになった。06年度の会員数は38名。
基礎学力をつけるために中学校で学ぶ課程を中学2年生で終わらせ、中3からは自分たちで研究課題を見つけ、さまざまな分野に羽を広げていく。クラブの顧問の内田芳宏先生によれば、「研究課題に数理がかかわれば内容に制限はなく、数学・物理学、コンピュータ、工学、ロボット製作など、あらゆる分野の自主研究を認めている」そうだ。
エントリーするコンテストも多岐にわたり、株式ポートフォリオを競う「日経STOCKリーグポートフォリオ」、会津大学主催の「パソコン甲子園」、読売新聞社主催の「日本学生科学賞」、そして「全国高等学校IT・簿記選手権」には毎年のように選手を送り出し、優秀な成績を収めている。
もちろん、文化祭への参加はクラブ活動の重要なイベントで、理系クラブが共同で作品を展示するほか、年度末には1年間の活動報告を200ページ超の部誌にまとめ上げている。
部員にとって最大の楽しみは毎年夏に行われる合宿だ。経験豊富な高校生が活動を通じて中学生を指導するほか、IT業界や大学などで活躍するOBも合流し、和気あいあいとした雰囲気のもとで後輩たちをリードする。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 IPA未踏ユースへの挑戦>第36回 IPA未踏ユースへの挑戦は、週刊BCN 2007年2月19日発行 vol.1175に掲載した記事を転載したものです。