<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第35回 石川工業高等専門学校
昨年10月に開催された第17回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)では、石川工業高等専門学校(石川高専)が競技部門で準優勝、課題部門、自由部門でもそれぞれ敢闘賞と、過去最高の成績をあげた。今回は競技部門のメンバー3人に、準優勝の感想とそれに至るまでのプロセスについて聞いた。
初戦でつまずくも、決勝進出
昨年10月に開催された第17回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)では、石川工業高等専門学校(石川高専)が競技部門で準優勝、課題部門、自由部門でもそれぞれ敢闘賞と、過去最高の成績をあげた。今回は競技部門のメンバー3人に、準優勝の感想とそれに至るまでのプロセスについて聞いた。(小林茂樹●取材/文)
●作戦を練り直し、敗者復活で蘇る
今回、競技部門に出場し、準優勝に輝いたのは、電子情報工学科5年生の安田隆洋さん、同学科4年生の木下剛志さん、そして電気工学科3年生の坂口寛典さんの3人。
最上級生でリーダーを務める安田さんは、「できる準備はすべてやって臨んだため、もしかしたら優勝できるかな、という気持ちはありました。ところが本選では、思っていたよりも人間が動く部分のウエートが高く、その部分への準備が足りなかったために一回戦でボロボロに負けてしまったんです。その時点では『もうダメや』と思いましたね(笑)。そこから敗者復活して準優勝まで行けたのには、正直にいって驚きました」と語ってくれた。
4年生の木下さんは「会場に入ってから気づくことが多かったですね。プログラムにはある程度の自信を持っていたので、まさか一回戦で負けるとは思っていませんでした。初戦敗退のまま学校に帰るのはなんとか避けたいという気持ちから、それ以降はミスを最小限にするよう作戦を練り直して競技に臨みました。先生からも『このまま帰るわけにはいかない』と言われましたし…」と苦笑する。
3年生の坂口さんも「プログラム自体の強さは、まともに戦えば勝てるものだったと思います。ところが本番の場では、思っていたよりも盤面が広く感じられたりして全体がうまく把握できず、戸惑いがありました」と振り返る。
異口同音に語ってくれたのは、プログラムの優秀さには相当な自信をもっていたものの、会場の雰囲気の把握や実際の人間の動きという点でやや遅れをとってしまったということ。競技部門では、ふたを開けてみるまでわからない部分があるが、そこでいかに落ち着いてすばやい対応ができるかがひとつのカギになるようだ。
3人とも謙虚な態度で冷静に大会を振り返ってくれたが、準優勝の喜びというよりは、むしろ優勝を逃した悔しさが感じられた。
彼らの思いを代弁するかのように、指導教官である電子情報工学科の越野亮講師は「競技部門のメンバー3人は、夏休みでも毎日顔を合わせ、すべての時間をプロコンに費やしたといっていい。最後の最後まで改良を重ねた結果、プログラムそのものは、優勝してもおかしくないレベルにあったと思う」と話してくれた。
●2年連続で受賞の快挙
今回のメンバーは、それぞれ学年が異なる。いわば、先輩後輩の関係でグループを組んだわけだ。
この点について安田さんは、「2年生、3年生の時は同級生の友達と組んで自由部門に応募したのですが、同学年だけにかえって遠慮があり、誰が方向性を示すのかはっきりしない。結局、予選落ちしてしまいました」という。彼らによれば、学年が異なるほうが役割分担がしやすく、プロジェクトを進めやすいということだ。
今回の場合は、まず安田さんが方向性を定め、木下さんと2人でプログラムをつくっていった。そして坂口さんが客観的な視点から、欠けている点がないかとチェックをする役割を担った。
実はこの3人、前回の大会では課題部門(5人出場)で審査員特別賞を受賞している。それだけに「気心の知れたメンバーだからやりやすい」(木下さん)し、周囲の期待も大きかったということなのだろう。
前年度出場の課題部門から競技部門に鞍替えした理由については、「競技部門はプログラム同士の戦い」(安田さん)であるというところに集約されるようだ。
課題部門や自由部門には審査員に対するプレゼンテーションや、いわゆるモノづくり、本選出場に向けての書類審査の準備など、プログラミング以外の要素も含まれる。それも面白かったと安田さんは言うが、プログラムそのものの優劣がはっきり出やすい競技部門に挑戦して、全国の高専生のなかで自分たちのレベルがどのくらいなのかを確かめたい気持ちがあったという。
安田さんは同校の専攻科への進学が決まっており、今後は後輩の指導にあたる予定。木下さんは、実務技能検定協会のディジタル技術検定の2級にトップ合格した俊英だが、次回のプロコンは競技部門のテーマ発表を待って参加を決めたいとのこと。そして坂口さんは、すでに課題部門のアイデアを温めているそうだ。
プロコン強豪校の一角として名乗りを上げた石川高専だが、出場メンバーが変わっても、その生真面目な姿勢は伝統として引き継がれていくことだろう。そして、その伝統が生き続ける限り、今後も好成績が期待できそうだ。
●プロコンも高専教育に生かす 金岡 千嘉男校長
北陸本線と七尾線の分岐点、津幡駅からしばらく歩くと、丘の上に石川高専が見えてくる。
正門の脇には、過去のプロコンで獲得した賞状や盾、それにさまざまな研究発表の成果を展示するコーナーが設けられていた。学校がプロコンをはじめとする各種コンテストに力を入れていることがうかがえる。
その点について金岡校長に聞いてみると、「大きなコンテストとしてプロコン、デザコン、ロボコンがあり、これらは勉強の成果を表現し、訓練・競争していく場といえる。そこでこのような応用的な知識や技術を、教育のなかにも生かそうと取り組みを始めている。たとえばプログラミング演習の授業に、意識的にプロコン的な要素を取り入れていきつつある」と話してくれた。
また「高専教育での主眼が『モノづくり』といっている以上、理論だけを積み上げて、それを応用すればいいというだけではいけない。つくったものをいかに役立つものに一般化することができるかというところまで教えることができれば、高専らしい教育になるのではないかと思う」と語る。
難関といわれるディジタル技術検定でも1級、2級ともトップ合格者(文部科学大臣奨励賞受賞)を輩出した石川高専。コンテストや資格試験を教育に生かす姿勢が、学校の特色づくりに一役買っている。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第35回 石川工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年2月12日発行 vol.1174に掲載した記事を転載したものです。
初戦でつまずくも、決勝進出
競技部門で準優勝果たす
昨年10月に開催された第17回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)では、石川工業高等専門学校(石川高専)が競技部門で準優勝、課題部門、自由部門でもそれぞれ敢闘賞と、過去最高の成績をあげた。今回は競技部門のメンバー3人に、準優勝の感想とそれに至るまでのプロセスについて聞いた。(小林茂樹●取材/文)
●作戦を練り直し、敗者復活で蘇る
今回、競技部門に出場し、準優勝に輝いたのは、電子情報工学科5年生の安田隆洋さん、同学科4年生の木下剛志さん、そして電気工学科3年生の坂口寛典さんの3人。
最上級生でリーダーを務める安田さんは、「できる準備はすべてやって臨んだため、もしかしたら優勝できるかな、という気持ちはありました。ところが本選では、思っていたよりも人間が動く部分のウエートが高く、その部分への準備が足りなかったために一回戦でボロボロに負けてしまったんです。その時点では『もうダメや』と思いましたね(笑)。そこから敗者復活して準優勝まで行けたのには、正直にいって驚きました」と語ってくれた。
4年生の木下さんは「会場に入ってから気づくことが多かったですね。プログラムにはある程度の自信を持っていたので、まさか一回戦で負けるとは思っていませんでした。初戦敗退のまま学校に帰るのはなんとか避けたいという気持ちから、それ以降はミスを最小限にするよう作戦を練り直して競技に臨みました。先生からも『このまま帰るわけにはいかない』と言われましたし…」と苦笑する。
3年生の坂口さんも「プログラム自体の強さは、まともに戦えば勝てるものだったと思います。ところが本番の場では、思っていたよりも盤面が広く感じられたりして全体がうまく把握できず、戸惑いがありました」と振り返る。
異口同音に語ってくれたのは、プログラムの優秀さには相当な自信をもっていたものの、会場の雰囲気の把握や実際の人間の動きという点でやや遅れをとってしまったということ。競技部門では、ふたを開けてみるまでわからない部分があるが、そこでいかに落ち着いてすばやい対応ができるかがひとつのカギになるようだ。
3人とも謙虚な態度で冷静に大会を振り返ってくれたが、準優勝の喜びというよりは、むしろ優勝を逃した悔しさが感じられた。
彼らの思いを代弁するかのように、指導教官である電子情報工学科の越野亮講師は「競技部門のメンバー3人は、夏休みでも毎日顔を合わせ、すべての時間をプロコンに費やしたといっていい。最後の最後まで改良を重ねた結果、プログラムそのものは、優勝してもおかしくないレベルにあったと思う」と話してくれた。
●2年連続で受賞の快挙
今回のメンバーは、それぞれ学年が異なる。いわば、先輩後輩の関係でグループを組んだわけだ。
この点について安田さんは、「2年生、3年生の時は同級生の友達と組んで自由部門に応募したのですが、同学年だけにかえって遠慮があり、誰が方向性を示すのかはっきりしない。結局、予選落ちしてしまいました」という。彼らによれば、学年が異なるほうが役割分担がしやすく、プロジェクトを進めやすいということだ。
今回の場合は、まず安田さんが方向性を定め、木下さんと2人でプログラムをつくっていった。そして坂口さんが客観的な視点から、欠けている点がないかとチェックをする役割を担った。
実はこの3人、前回の大会では課題部門(5人出場)で審査員特別賞を受賞している。それだけに「気心の知れたメンバーだからやりやすい」(木下さん)し、周囲の期待も大きかったということなのだろう。
前年度出場の課題部門から競技部門に鞍替えした理由については、「競技部門はプログラム同士の戦い」(安田さん)であるというところに集約されるようだ。
課題部門や自由部門には審査員に対するプレゼンテーションや、いわゆるモノづくり、本選出場に向けての書類審査の準備など、プログラミング以外の要素も含まれる。それも面白かったと安田さんは言うが、プログラムそのものの優劣がはっきり出やすい競技部門に挑戦して、全国の高専生のなかで自分たちのレベルがどのくらいなのかを確かめたい気持ちがあったという。
安田さんは同校の専攻科への進学が決まっており、今後は後輩の指導にあたる予定。木下さんは、実務技能検定協会のディジタル技術検定の2級にトップ合格した俊英だが、次回のプロコンは競技部門のテーマ発表を待って参加を決めたいとのこと。そして坂口さんは、すでに課題部門のアイデアを温めているそうだ。
プロコン強豪校の一角として名乗りを上げた石川高専だが、出場メンバーが変わっても、その生真面目な姿勢は伝統として引き継がれていくことだろう。そして、その伝統が生き続ける限り、今後も好成績が期待できそうだ。
●プロコンも高専教育に生かす 金岡 千嘉男校長
北陸本線と七尾線の分岐点、津幡駅からしばらく歩くと、丘の上に石川高専が見えてくる。
正門の脇には、過去のプロコンで獲得した賞状や盾、それにさまざまな研究発表の成果を展示するコーナーが設けられていた。学校がプロコンをはじめとする各種コンテストに力を入れていることがうかがえる。
その点について金岡校長に聞いてみると、「大きなコンテストとしてプロコン、デザコン、ロボコンがあり、これらは勉強の成果を表現し、訓練・競争していく場といえる。そこでこのような応用的な知識や技術を、教育のなかにも生かそうと取り組みを始めている。たとえばプログラミング演習の授業に、意識的にプロコン的な要素を取り入れていきつつある」と話してくれた。
また「高専教育での主眼が『モノづくり』といっている以上、理論だけを積み上げて、それを応用すればいいというだけではいけない。つくったものをいかに役立つものに一般化することができるかというところまで教えることができれば、高専らしい教育になるのではないかと思う」と語る。
難関といわれるディジタル技術検定でも1級、2級ともトップ合格者(文部科学大臣奨励賞受賞)を輩出した石川高専。コンテストや資格試験を教育に生かす姿勢が、学校の特色づくりに一役買っている。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第35回 石川工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年2月12日発行 vol.1174に掲載した記事を転載したものです。