<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第33回 久留米工業高等専門学校
昨年10月に開催された第17回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)の競技部門では、久留米工業高等専門学校が前年に引き続いて見事に2連覇を果たし、文部科学大臣賞を受賞した。ディフェンディングチャンピオンとしてプレッシャーに負けず、強さを十二分に発揮した競技部門参加メンバーの3人に、優勝の感想とプログラミングにかける思いを聞いた。
競技部門で2連覇果たす
昨年10月に開催された第17回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)の競技部門では、久留米工業高等専門学校が前年に引き続いて見事に2連覇を果たし、文部科学大臣賞を受賞した。ディフェンディングチャンピオンとしてプレッシャーに負けず、強さを十二分に発揮した競技部門参加メンバーの3人に、優勝の感想とプログラミングにかける思いを聞いた。(小林茂樹●取材/文)
●強豪校の伝統を守り、連続して覇者となる
プロコン強豪校としての立場にすっかり定着した久留米高専(プロコン同好会)だが、競技部門の成績を見直すと改めてそのすごさを実感させられる。
2003年の14回大会では3位、04年の15回大会では準優勝、そして05年、06年と2年連続して優勝(文部科学大臣賞受賞)と、着実にステップアップし、その地位を守ってきた。
06年の競技部門優勝メンバーは、制御情報工学科5年生の川野祐矢さん、同2年生の櫨畑智公さん、同2年生の城崎亮さんの3人。 過去2回、競技部門のメンバーとして準優勝、優勝を経験してきた川野さんがリーダーとなってプログラムを組み、下級生の櫨畑さんと城崎さんがそれをフォロー、サポートするという役割を担った。実績を積んだ先輩に後輩2人がついていくという形だが、2年生の2人も、話し合いのなかで積極的にアイデアを出したり作戦を考えるなど、チームワークは抜群だったようだ。
「これまでが準優勝、優勝ときましたから、今回も伝統を守ることができてホッとしています。必ず勝てるという自信はありませんでしたが、いい意味でのプレッシャーを感じることができました」と川野さん。落ち着いた様子で、経験豊富なリーダーらしく感想を述べてくれた。
櫨畑さんは、1年生のときは別の部門でプロコンに参加し、競技部門が優勝したのを目の当たりにしている。それだけに「今回負けたら申しわけないし、2年生がメンバーに入ったから負けたと言われたらくやしい」という思いで取り組んだという。
そして、もう一人の2年生城崎さんは、「自分はまだまだプログラムの知識が浅いので、単純にすごいことだなと感じた」ときわめて謙虚だ。
プロコンでは例年、春にその年の競技のルールが発表され、参加者はまず、そのルールを徹底的に頭に叩き込む。そして、学生たちのプログラムのつくり込みは夏休みが山場になるのだが、彼らの場合、尻に火がついたのは夏休み明けだったという。それでも、約1か月間でプログラムの完成度を高め、優勝を勝ち取ったのだから、日頃培った地力とたぐいまれな集中力を発揮した結果といえるだろう。
●結果だけではなく、プロセスも楽しむ
彼らにとってのプログラミングの魅力とは、どんなものなのだろうか。
「パズルを組み立てていくような感じですね。完成した時はやっぱりうれしいし、楽しい」と笑顔で答えるのは川野さん。櫨畑さんは「プログラミングも、モノづくりだと思います。自分のつくりたいものを完成させるためには一生懸命勉強しますし、完成した時はもちろん、そのプロセスも楽しい」と語る。
そして城崎さんは「自分がつくりたいものをつくるためにはどうしたらいいかと、深みにはまるほど考えてしまう」と話してくれた。表現はそれぞれ異なるが、完成の喜びだけでなく、そこに至るプロセスに熱中する姿が共通して浮かび上がってくる。
そして、自分にとってのプロコンという舞台について尋ねてみると「勝ちたいという目標に向かって頑張れる場」(城崎さん)、「先輩たちのテクニックに触れられ、自分の技術を高められる場」(櫨畑さん)、「力試しの場」(川野さん)という答えが返ってきた。
指導教官である制御情報工学科の黒木祥光助教授によると、日常的なプロコン同好会の活動では、先輩が後輩にアルゴリズムのテーマを与え、それを考えることによって地力をつけているという。
このように上級生から下級生に伝承されていくものがあるからこそ、その強さを代々維持していけるのだろう。
高専プロコン以外では、大学生が出場する世界的なプログラミングコンテストICPC(出場資格は4年生以上)にも05年から参加するようになり、2年連続で国内予選を突破しアジア予選に駒を進めている。また、高校生対象のパソコン甲子園にも参加しており、06年の大会では櫨畑さんがプログラミング部門の準グランプリに輝いた。
久留米高専のプロコン同好会は、大きな世代交代の時期に差しかかっているという。川野さんをはじめとする優秀な5年生たちが卒業していくからだ。
その話題にふれると、2年生の城崎さんと櫨畑さんの顔がにわかに引き締まった。そこに、「これからは自分たちが中心になって、みんなを引っ張っていかなければならない」という決意がうかがえた。
●自由な校風が創造性を高める 前田三男校長
筑後川のほとりに建つ久留米高専。新制の高専に移管したのは昭和39年のことだが、その歴史と伝統は昭和14年創立の旧制久留米高等工業学校の時代から受け継がれている。
競技部門での優勝について、前田校長は、「中心メンバーの在籍する制御情報工学科に優秀な学生が集まったことがその大きな要因だが、大学の雰囲気に似た自由な校風もプラスに作用したのだと思う」とコメントする。
つまり、指導教官が一つひとつ細かな指示をするのではなく、学生の自主性を重んじて自由に取り組ませたことがよい発想を生み、このような結果につながったということだ。
「プロコンは頭の中で創造していく能力が基本。先輩が優秀な結果を出して、後輩も大きな刺激を受けている。プロコンだけに限らないが、こうしたものが久留米高専の新しい特徴になっていけばいいと思う」
プロコンの強豪校になり、先輩から後輩への影響という面でも、好循環が続いているようだ。
九州大学名誉教授でもある前田校長は、「高専ではいわゆるモノづくりが重視されてきたが、工業界のニーズに応えるためには、デザインや広い意味での芸術的センスをもった技術者を育成することも必要。そういった意味からも、プロコンやそれに取り組む学生に期待したい」と語っている。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第33回 久留米工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年1月22日発行 vol.1171に掲載した記事を転載したものです。
競技部門で2連覇果たす
世代交代しつつ、強さを維持
昨年10月に開催された第17回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)の競技部門では、久留米工業高等専門学校が前年に引き続いて見事に2連覇を果たし、文部科学大臣賞を受賞した。ディフェンディングチャンピオンとしてプレッシャーに負けず、強さを十二分に発揮した競技部門参加メンバーの3人に、優勝の感想とプログラミングにかける思いを聞いた。(小林茂樹●取材/文)
●強豪校の伝統を守り、連続して覇者となる
プロコン強豪校としての立場にすっかり定着した久留米高専(プロコン同好会)だが、競技部門の成績を見直すと改めてそのすごさを実感させられる。
2003年の14回大会では3位、04年の15回大会では準優勝、そして05年、06年と2年連続して優勝(文部科学大臣賞受賞)と、着実にステップアップし、その地位を守ってきた。
06年の競技部門優勝メンバーは、制御情報工学科5年生の川野祐矢さん、同2年生の櫨畑智公さん、同2年生の城崎亮さんの3人。 過去2回、競技部門のメンバーとして準優勝、優勝を経験してきた川野さんがリーダーとなってプログラムを組み、下級生の櫨畑さんと城崎さんがそれをフォロー、サポートするという役割を担った。実績を積んだ先輩に後輩2人がついていくという形だが、2年生の2人も、話し合いのなかで積極的にアイデアを出したり作戦を考えるなど、チームワークは抜群だったようだ。
「これまでが準優勝、優勝ときましたから、今回も伝統を守ることができてホッとしています。必ず勝てるという自信はありませんでしたが、いい意味でのプレッシャーを感じることができました」と川野さん。落ち着いた様子で、経験豊富なリーダーらしく感想を述べてくれた。
櫨畑さんは、1年生のときは別の部門でプロコンに参加し、競技部門が優勝したのを目の当たりにしている。それだけに「今回負けたら申しわけないし、2年生がメンバーに入ったから負けたと言われたらくやしい」という思いで取り組んだという。
そして、もう一人の2年生城崎さんは、「自分はまだまだプログラムの知識が浅いので、単純にすごいことだなと感じた」ときわめて謙虚だ。
プロコンでは例年、春にその年の競技のルールが発表され、参加者はまず、そのルールを徹底的に頭に叩き込む。そして、学生たちのプログラムのつくり込みは夏休みが山場になるのだが、彼らの場合、尻に火がついたのは夏休み明けだったという。それでも、約1か月間でプログラムの完成度を高め、優勝を勝ち取ったのだから、日頃培った地力とたぐいまれな集中力を発揮した結果といえるだろう。
●結果だけではなく、プロセスも楽しむ
彼らにとってのプログラミングの魅力とは、どんなものなのだろうか。
「パズルを組み立てていくような感じですね。完成した時はやっぱりうれしいし、楽しい」と笑顔で答えるのは川野さん。櫨畑さんは「プログラミングも、モノづくりだと思います。自分のつくりたいものを完成させるためには一生懸命勉強しますし、完成した時はもちろん、そのプロセスも楽しい」と語る。
そして城崎さんは「自分がつくりたいものをつくるためにはどうしたらいいかと、深みにはまるほど考えてしまう」と話してくれた。表現はそれぞれ異なるが、完成の喜びだけでなく、そこに至るプロセスに熱中する姿が共通して浮かび上がってくる。
そして、自分にとってのプロコンという舞台について尋ねてみると「勝ちたいという目標に向かって頑張れる場」(城崎さん)、「先輩たちのテクニックに触れられ、自分の技術を高められる場」(櫨畑さん)、「力試しの場」(川野さん)という答えが返ってきた。
指導教官である制御情報工学科の黒木祥光助教授によると、日常的なプロコン同好会の活動では、先輩が後輩にアルゴリズムのテーマを与え、それを考えることによって地力をつけているという。
このように上級生から下級生に伝承されていくものがあるからこそ、その強さを代々維持していけるのだろう。
高専プロコン以外では、大学生が出場する世界的なプログラミングコンテストICPC(出場資格は4年生以上)にも05年から参加するようになり、2年連続で国内予選を突破しアジア予選に駒を進めている。また、高校生対象のパソコン甲子園にも参加しており、06年の大会では櫨畑さんがプログラミング部門の準グランプリに輝いた。
久留米高専のプロコン同好会は、大きな世代交代の時期に差しかかっているという。川野さんをはじめとする優秀な5年生たちが卒業していくからだ。
その話題にふれると、2年生の城崎さんと櫨畑さんの顔がにわかに引き締まった。そこに、「これからは自分たちが中心になって、みんなを引っ張っていかなければならない」という決意がうかがえた。
●自由な校風が創造性を高める 前田三男校長
筑後川のほとりに建つ久留米高専。新制の高専に移管したのは昭和39年のことだが、その歴史と伝統は昭和14年創立の旧制久留米高等工業学校の時代から受け継がれている。
競技部門での優勝について、前田校長は、「中心メンバーの在籍する制御情報工学科に優秀な学生が集まったことがその大きな要因だが、大学の雰囲気に似た自由な校風もプラスに作用したのだと思う」とコメントする。
つまり、指導教官が一つひとつ細かな指示をするのではなく、学生の自主性を重んじて自由に取り組ませたことがよい発想を生み、このような結果につながったということだ。
「プロコンは頭の中で創造していく能力が基本。先輩が優秀な結果を出して、後輩も大きな刺激を受けている。プロコンだけに限らないが、こうしたものが久留米高専の新しい特徴になっていけばいいと思う」
プロコンの強豪校になり、先輩から後輩への影響という面でも、好循環が続いているようだ。
九州大学名誉教授でもある前田校長は、「高専ではいわゆるモノづくりが重視されてきたが、工業界のニーズに応えるためには、デザインや広い意味での芸術的センスをもった技術者を育成することも必要。そういった意味からも、プロコンやそれに取り組む学生に期待したい」と語っている。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第33回 久留米工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年1月22日発行 vol.1171に掲載した記事を転載したものです。