<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第30回 松江工業高等専門学校
松江工業高等専門学校(松江高専)は、2006年の「全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト」で自由、課題、競技の3部門に参加、自由部門で審査委員特別賞、課題部門で敢闘賞を受賞した。02年には自由部門で優秀賞、03年は自由部門で最優秀賞、04年は課題部門で最優秀賞、自由部門で優秀賞、05年の課題部門での優秀賞、自由部門での審査委員特別賞に引き続き、5年連続の受賞を達成、今や強豪校としての風格すら漂わせている。
5年連続受賞の強豪
松江工業高等専門学校(松江高専)は、2006年の「全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト」で自由、課題、競技の3部門に参加、自由部門で審査委員特別賞、課題部門で敢闘賞を受賞した。02年には自由部門で優秀賞、03年は自由部門で最優秀賞、04年は課題部門で最優秀賞、自由部門で優秀賞、05年の課題部門での優秀賞、自由部門での審査委員特別賞に引き続き、5年連続の受賞を達成、今や強豪校としての風格すら漂わせている。(倉増 裕●取材/文)
●第一関門は校内予選 突破してプロコン予選へ
強豪として知られる松江高専だが、プロコンで注目されるようになったのは02年の最優秀賞受賞がきっかけだ。それ以来、好成績を収め続けている理由を探ってみると、どうやら情報工学演習として実施している「ミニ・プロコン」にその要因があるようだ。
これはあくまでも授業の一環として行うもので、1チーム3─4名で構成、情報工学科教員が審査員となって審査を行うという、まさにプロコンのミニ版である。ミニ・プロコンは演習であり時間も限られていることから、本格的なプログラム作成とまではいかないが「アイデア発掘のトリガーとして機能している」(情報工学科・福岡久雄教授)のは確かだ。
プロコン出場を目指す校内予選は審査が厳しい。情報工学科以外の学生も参加する校内予選は毎年5月に開催、精鋭10ほどのグループがハイレベルな戦いを繰り広げる。この校内予選を勝ち抜いた、自由部門2グループと課題部門2グループがプロコンの予選審査へと進む。つまり松江高専の場合は、予選といえどもすでに歴戦のつわものたちの集まりということになる。 今回のプロコン本選での結果は、自由部門で「ボクのいなか探検記♪─心の中のふるさと─」が審査委員特別賞、課題部門で「キモチカルテ─病院における子供の意思伝達システム─」が敢闘賞を受賞、ともに「社会派の松江高専」を彷彿させるタイトルづけである。
●田舎体験をベースに、ITでの支援策を探る
審査委員特別賞の「ボクのいなか探検記♪」は、「お年寄りと子供とを結びつける方法がないかと模索していたところ、都会の子供が田舎のお年寄り宅にお世話になる『田舎体験』が実際に行われていることを知り、これをITの力で支援していこうと考えた」(電子情報システム工学専攻1年生・淺野智之さん)のが始まりだ。
ではどのように支援するのか。「子供は田舎で体験できる内容を前もって知り、お年寄りは子供の希望をあらかじめ把握していくことによって、実りのある田舎体験ができる。そこで、田舎体験に特化したソーシャルネットワークサービスを提供する」(電子制御工学科3年生・石橋希さん)というのがシステムの柱となった。
「田舎体験を推進している島根県大田市に出かけてお年寄りに話を聞きながら、必要な機能を検討し、出来上がったものを実際に見せて使っていただきながらその感想を聞く」(情報工学科4年生・小林大将さん)という松江高専ならではの地域密着型マーケットリサーチを展開。タブレットPCを利用した手書き入力などさまざまな簡易ユーザーインターフェースを実現するなど、現地のお年寄りが太鼓判を押すシステムが完成した。
「ボクのいなか探検記♪」によって、「田舎のお年寄りがタブレットPCによるコミュニケーションに積極的になる一方で、お世話になる子供は田舎の自然と生活に触れながら、携帯電話やパソコン、TVゲームから解放された生活を送る」(情報工学科5年生・来間優歌さん)というように、お互いの欠落部分を補う新たな田舎体験が実現した。
実際に使ってみると「お年寄りが情報発信の楽しみを覚えたことによって、田舎体験が終わってからの情報交流が活発化、個々の体験から地域同士のコミュニケーションに発展する」(情報工学科3年生・橋本竜也さん)など、「ボクのいなか探検記♪」はグループの予想を越えた広がりをみせている。
淺野さんは本科3年生の時からプロコンに参加、一昨年の最優秀賞をはじめ今回で4回目というプロコンのベテラン。その経験を生かして、方向性の策定から役割分担、進捗管理に至るさまざまな分野でグループをけん引した。来年の参加は未定だが、「プロコンにはグループをけん引する存在が重要だが、このような存在が次の世代に受け継がれながら伝統を創る」という福岡教授の論を裏づけるように、すでにこのグループ内から淺野さんを引き継ぐような人材が育ちつつあるという。
福岡教授は「実際のモノ作りに携わったことのない学生にとって、プロコンは貴重な体験の場となる。モノ作りのプロセスを身をもって体験しながら、全国のさまざまな高専の学生達と交流できるプロコンの意味は大きい」と語る。プロコンにおける自身の役割については「基となるアーキテクチャを決めること」に限定、「あとは学生に一任し、余計な口出しはしない」が基本姿勢だそうだが、プロコンを熱く語るその様子には、学生をはるかに上回るエネルギーがあふれている。
●技術教育デバイスの解消を図る 荒木光彦校長
島根県の県庁所在地である松江市にある松江高専の教育目標は、「(ま)学んで(つ)創れる(え)エンジニアの育成」にある。文部科学省が進める「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」推進事業においても、平成17年度・18年度と2年連続でテーマが採択されるなど、独自の教育姿勢は全国で知られている。
同校が平成17年度に開講した公開講座「地域産業論」は、中央と地域というレベルを越えて、技術の世界展開や起業を地域教育の問題として捉えていくなど、高専が企画した連続講義としては歴史に残る内容との評価が高い。
荒木光彦校長は「地域への貢献は当然のこと」としながらも、高専の役割については「高等教育を受ける機会の乏しい地域の若者に対して、優秀な技術者になるための教育を責任を持って果たす。これが唯一最大の目的」であると強調する。島根県下企業の技術者に対する再教育についても、公開講座のほか、学校開放事業や出張授業などを積極的に手がけるなど、教育機会の創出については地域のシンボル的な役割を果たしている。プロコンやロボコン、デザコン、エコランなどの技術コンテストについては、「あくまで学生の自主性に任せる」を基本姿勢としながら、「創造性教育という面でその効果は計り知れない。できるなら全学生が参加することが望ましい」とエールを送っている。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第30回 松江工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年1月1日発行 vol.1168に掲載した記事を転載したものです。
5年連続受賞の強豪
自由部門と課題部門で花開く
松江工業高等専門学校(松江高専)は、2006年の「全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト」で自由、課題、競技の3部門に参加、自由部門で審査委員特別賞、課題部門で敢闘賞を受賞した。02年には自由部門で優秀賞、03年は自由部門で最優秀賞、04年は課題部門で最優秀賞、自由部門で優秀賞、05年の課題部門での優秀賞、自由部門での審査委員特別賞に引き続き、5年連続の受賞を達成、今や強豪校としての風格すら漂わせている。(倉増 裕●取材/文)
●第一関門は校内予選 突破してプロコン予選へ
強豪として知られる松江高専だが、プロコンで注目されるようになったのは02年の最優秀賞受賞がきっかけだ。それ以来、好成績を収め続けている理由を探ってみると、どうやら情報工学演習として実施している「ミニ・プロコン」にその要因があるようだ。
これはあくまでも授業の一環として行うもので、1チーム3─4名で構成、情報工学科教員が審査員となって審査を行うという、まさにプロコンのミニ版である。ミニ・プロコンは演習であり時間も限られていることから、本格的なプログラム作成とまではいかないが「アイデア発掘のトリガーとして機能している」(情報工学科・福岡久雄教授)のは確かだ。
プロコン出場を目指す校内予選は審査が厳しい。情報工学科以外の学生も参加する校内予選は毎年5月に開催、精鋭10ほどのグループがハイレベルな戦いを繰り広げる。この校内予選を勝ち抜いた、自由部門2グループと課題部門2グループがプロコンの予選審査へと進む。つまり松江高専の場合は、予選といえどもすでに歴戦のつわものたちの集まりということになる。 今回のプロコン本選での結果は、自由部門で「ボクのいなか探検記♪─心の中のふるさと─」が審査委員特別賞、課題部門で「キモチカルテ─病院における子供の意思伝達システム─」が敢闘賞を受賞、ともに「社会派の松江高専」を彷彿させるタイトルづけである。
●田舎体験をベースに、ITでの支援策を探る
審査委員特別賞の「ボクのいなか探検記♪」は、「お年寄りと子供とを結びつける方法がないかと模索していたところ、都会の子供が田舎のお年寄り宅にお世話になる『田舎体験』が実際に行われていることを知り、これをITの力で支援していこうと考えた」(電子情報システム工学専攻1年生・淺野智之さん)のが始まりだ。
ではどのように支援するのか。「子供は田舎で体験できる内容を前もって知り、お年寄りは子供の希望をあらかじめ把握していくことによって、実りのある田舎体験ができる。そこで、田舎体験に特化したソーシャルネットワークサービスを提供する」(電子制御工学科3年生・石橋希さん)というのがシステムの柱となった。
「田舎体験を推進している島根県大田市に出かけてお年寄りに話を聞きながら、必要な機能を検討し、出来上がったものを実際に見せて使っていただきながらその感想を聞く」(情報工学科4年生・小林大将さん)という松江高専ならではの地域密着型マーケットリサーチを展開。タブレットPCを利用した手書き入力などさまざまな簡易ユーザーインターフェースを実現するなど、現地のお年寄りが太鼓判を押すシステムが完成した。
「ボクのいなか探検記♪」によって、「田舎のお年寄りがタブレットPCによるコミュニケーションに積極的になる一方で、お世話になる子供は田舎の自然と生活に触れながら、携帯電話やパソコン、TVゲームから解放された生活を送る」(情報工学科5年生・来間優歌さん)というように、お互いの欠落部分を補う新たな田舎体験が実現した。
実際に使ってみると「お年寄りが情報発信の楽しみを覚えたことによって、田舎体験が終わってからの情報交流が活発化、個々の体験から地域同士のコミュニケーションに発展する」(情報工学科3年生・橋本竜也さん)など、「ボクのいなか探検記♪」はグループの予想を越えた広がりをみせている。
淺野さんは本科3年生の時からプロコンに参加、一昨年の最優秀賞をはじめ今回で4回目というプロコンのベテラン。その経験を生かして、方向性の策定から役割分担、進捗管理に至るさまざまな分野でグループをけん引した。来年の参加は未定だが、「プロコンにはグループをけん引する存在が重要だが、このような存在が次の世代に受け継がれながら伝統を創る」という福岡教授の論を裏づけるように、すでにこのグループ内から淺野さんを引き継ぐような人材が育ちつつあるという。
福岡教授は「実際のモノ作りに携わったことのない学生にとって、プロコンは貴重な体験の場となる。モノ作りのプロセスを身をもって体験しながら、全国のさまざまな高専の学生達と交流できるプロコンの意味は大きい」と語る。プロコンにおける自身の役割については「基となるアーキテクチャを決めること」に限定、「あとは学生に一任し、余計な口出しはしない」が基本姿勢だそうだが、プロコンを熱く語るその様子には、学生をはるかに上回るエネルギーがあふれている。
●技術教育デバイスの解消を図る 荒木光彦校長
島根県の県庁所在地である松江市にある松江高専の教育目標は、「(ま)学んで(つ)創れる(え)エンジニアの育成」にある。文部科学省が進める「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」推進事業においても、平成17年度・18年度と2年連続でテーマが採択されるなど、独自の教育姿勢は全国で知られている。
同校が平成17年度に開講した公開講座「地域産業論」は、中央と地域というレベルを越えて、技術の世界展開や起業を地域教育の問題として捉えていくなど、高専が企画した連続講義としては歴史に残る内容との評価が高い。
荒木光彦校長は「地域への貢献は当然のこと」としながらも、高専の役割については「高等教育を受ける機会の乏しい地域の若者に対して、優秀な技術者になるための教育を責任を持って果たす。これが唯一最大の目的」であると強調する。島根県下企業の技術者に対する再教育についても、公開講座のほか、学校開放事業や出張授業などを積極的に手がけるなど、教育機会の創出については地域のシンボル的な役割を果たしている。プロコンやロボコン、デザコン、エコランなどの技術コンテストについては、「あくまで学生の自主性に任せる」を基本姿勢としながら、「創造性教育という面でその効果は計り知れない。できるなら全学生が参加することが望ましい」とエールを送っている。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第30回 松江工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年1月1日発行 vol.1168に掲載した記事を転載したものです。