<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第28回 函館工業高等専門学校
函館高専は、プロコン草創期から参加してきた常連校である。学生の自主性を重んじる校風を誇りとし、出場チームも学生の自主申告に任せ、学校はそれをサポートするという役回りに徹している。どちらかといえば競技部門で優秀な成績を収めてきたが、今回は自由部門で「構内ナビゲーション」いう地味なテーマを選んだ。ありふれたデバイスを使ってはいたものの、完成度の高い作品に仕立て上げ、久々に注目を集めた。
日常に即したテーマを選択
函館高専は、プロコン草創期から参加してきた常連校である。学生の自主性を重んじる校風を誇りとし、出場チームも学生の自主申告に任せ、学校はそれをサポートするという役回りに徹している。どちらかといえば競技部門で優秀な成績を収めてきたが、今回は自由部門で「構内ナビゲーション」いう地味なテーマを選んだ。ありふれたデバイスを使ってはいたものの、完成度の高い作品に仕立て上げ、久々に注目を集めた。(佐々木潔●取材/文)
●学生の自主性を尊重しつつ、日常生活からヒントを提供
函館高専にはロボコンをターゲットにしたクラブはあるが、プログラミングを研鑽するクラブは存在しない。したがって、プロコンへの出場はコンテスト部会に所属する・橋直樹先生(競技部門の指導教員)が説明会を開き、年度ごとに出場者を募るという形式をとっている。この説明会に集まった学生のなかから、出場したいというメンバーが現れ、どんなことをやりたいのか自己申告をした段階で、出場部門が決定する。プロコンについては、学校側から出場を促して選抜チームを決めるといったことは一切しないそうだ。
今回の大会に出場した自由部門のチームは、5年生3人、3年生1人、1年生1人。テーマは構内ナビゲーションシステムの構築で、リーダーの佐々木勇人さんと工藤明さんが4年生の時に課題実験の授業で取り組んだハードウェア絡みのテーマの延長線上に結実したものだ。もとより、プロコンに出場しようと思って始めた研究ではなかったが、指導教員の國分進教授(学科主任)の「人前で発表してみたらどう?」の一言で、エントリーする覚悟が決まったらしい。
國分先生は、プロコンの草創期に長野高専の堀内先生たちとともに長らく実行委員を務め、第5回大会を函館で開いたときの中核メンバー。学生の自主性優先という立場を堅持し、「学生たちは誰も私を当てにしていませんから」と笑い飛ばす。その一方で、研究室では学生との談笑がほとんど趣味にまで昇華しているらしく、その何気ない会話のなかから学生たちがヒントを得るような話題を惜しみなく提供する。今回のテーマも、國分先生が人間ドックに入ったときに病院の中で迷子になるところだったという体験談を聞き、それなら構内ナビをつくってみようと学生たちが応じたのがきっかけだったそうだ。
●動く「案内板」で人を導くスケジュールも学生が管理
函館高専の今大会のエントリー作品は、「人Navigation─構内ナビゲーションシステム─」。佐々木さんの説明によれば、「学校や病院や駅など、初めて訪れた人には分かりにくい構内を、案内板に代わって道案内する」システムだ。外の世界ならGPSによって位置情報を取得できるが、電波の届かない構内では、それに代わる仕組みが必要になる。彼らはそれを赤外線の発信器(ビーコン)と、受光部を接続したノートPCによって解決しようとした。
すなわち、ビーコンに固有のIDを与えて天井に設置し、受光部を設けたPCがその下を通過すると、赤外線の受信がトリガーとなって案内メッセージがディスプレイに表示されるというものである。もちろん、PCには各ビーコンIDと建物内の位置関係が入力されているため、これによって現在位置を特定し、建物内の地図や経路情報といっしょに案内メッセージが現れるというわけだ。したがって、ビーコンの設置場所は必ず構内通路の分岐点の手前に設置されることになる。ビーコン側のハードとプログラムは工藤さんが、受信部とナビゲータのプログラムは佐々木さんが担当した。
しかし、これをプロコン会場のブースで実際に設置するわけにはいかない。そこで、彼らは3Dで構内を再現してその有効性を表現するためのシミュレータをつくることにし、この部分を桜田大輔さんが構成した。自由部門には情報工学科の後輩で3年生の桂川裕幸さんと1年生の岩井教起さんも参加した。プロコン出場のためのサポート全般を担当させ、併せて経験を積ませるため、5年生が誘い入れたのである。函館高専を訪れたのは本選の10日前だったが、この時点でシステム自体は完成・稼働し、あとは3Dシミュレータを洗練させ、ユーザーインターフェースをよりわかりやすくする工程が残されていた。その後、桜田さんの奮闘によって本選では見事な仕上がりを見せていた。
國分先生によれば「工程やスケジュールの管理もすべて学生任せ。5年生は高専祭などの経験から慣れているし、下級生の指導にも長けているから、私は材料費などお金の手当てをしただけ」。一方、リーダーの佐々木さんは「学校の名前を背負って出場する以上、責任を持ってプロジェクトを完成させる義務がある」と、師弟間はまさにあうんの呼吸。
ナビゲータにノートPCを使うとか、実際にビーコンを設置できないという制約もあって、惜しくも敢闘賞にとどまったが、わかりやすいコンセプトと完成度は高く評価され、ブースを訪れた審査員からはさまざまな示唆や励ましの言葉が寄せられていた。
●「コンテスト部会」で学生を支援 長谷川 淳校長
函館高専は「汝が夢を持て 大志を抱け 力強かれ」を校訓に掲げ、道南地域唯一の総合的な技術系高等教育機関として、実践的かつ専門的な知識と技術を有する創造的な人材を輩出してきた。「開学以来、規則で縛るよりも学生の自覚を促す自由な校風を誇りとし、地域に対する貢献を積み重ねている」と、長谷川淳校長は同校の特色を説明する。
学生に占める女子の割合が高いのも同校の特徴で、本科全体に占める比率は20%。なかでも物質工学科では4割近く、情報工学科でも3割近くが女子学生だ。IPA(情報処理推進機構)が主催する未踏プロジェクトのユース部門では、2003?04年と連続して在校生の作品が採択され、とくに04年には女子2名の作品が、それぞれ採択されるという快挙を成し遂げた。そのうち1件は札幌の企業で実用化に向けた研究が進められており、もう1件も特許を申請中というから、情報工学科のポテンシャルは非常に高いものがある。
函館高専には、学内の意思決定機関である運営委員会の直属部会として「コンテスト部会」が設けられている。プロコン、ロボコン、デザコンの3部門については、この部会がリーダーの先生を決めて支援体制を整えるということになっているが、学校側はエントリーしたい学生のサポート機関と位置づけ、自主性尊重の原則を堅持している。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第28回 函館工業高等専門学校は、週刊BCN 2006年12月11日発行 vol.1166に掲載した記事を転載したものです。
日常に即したテーマを選択
堅実な完成度の高い作品に
函館高専は、プロコン草創期から参加してきた常連校である。学生の自主性を重んじる校風を誇りとし、出場チームも学生の自主申告に任せ、学校はそれをサポートするという役回りに徹している。どちらかといえば競技部門で優秀な成績を収めてきたが、今回は自由部門で「構内ナビゲーション」いう地味なテーマを選んだ。ありふれたデバイスを使ってはいたものの、完成度の高い作品に仕立て上げ、久々に注目を集めた。(佐々木潔●取材/文)
●学生の自主性を尊重しつつ、日常生活からヒントを提供
函館高専にはロボコンをターゲットにしたクラブはあるが、プログラミングを研鑽するクラブは存在しない。したがって、プロコンへの出場はコンテスト部会に所属する・橋直樹先生(競技部門の指導教員)が説明会を開き、年度ごとに出場者を募るという形式をとっている。この説明会に集まった学生のなかから、出場したいというメンバーが現れ、どんなことをやりたいのか自己申告をした段階で、出場部門が決定する。プロコンについては、学校側から出場を促して選抜チームを決めるといったことは一切しないそうだ。
今回の大会に出場した自由部門のチームは、5年生3人、3年生1人、1年生1人。テーマは構内ナビゲーションシステムの構築で、リーダーの佐々木勇人さんと工藤明さんが4年生の時に課題実験の授業で取り組んだハードウェア絡みのテーマの延長線上に結実したものだ。もとより、プロコンに出場しようと思って始めた研究ではなかったが、指導教員の國分進教授(学科主任)の「人前で発表してみたらどう?」の一言で、エントリーする覚悟が決まったらしい。
國分先生は、プロコンの草創期に長野高専の堀内先生たちとともに長らく実行委員を務め、第5回大会を函館で開いたときの中核メンバー。学生の自主性優先という立場を堅持し、「学生たちは誰も私を当てにしていませんから」と笑い飛ばす。その一方で、研究室では学生との談笑がほとんど趣味にまで昇華しているらしく、その何気ない会話のなかから学生たちがヒントを得るような話題を惜しみなく提供する。今回のテーマも、國分先生が人間ドックに入ったときに病院の中で迷子になるところだったという体験談を聞き、それなら構内ナビをつくってみようと学生たちが応じたのがきっかけだったそうだ。
●動く「案内板」で人を導くスケジュールも学生が管理
函館高専の今大会のエントリー作品は、「人Navigation─構内ナビゲーションシステム─」。佐々木さんの説明によれば、「学校や病院や駅など、初めて訪れた人には分かりにくい構内を、案内板に代わって道案内する」システムだ。外の世界ならGPSによって位置情報を取得できるが、電波の届かない構内では、それに代わる仕組みが必要になる。彼らはそれを赤外線の発信器(ビーコン)と、受光部を接続したノートPCによって解決しようとした。
すなわち、ビーコンに固有のIDを与えて天井に設置し、受光部を設けたPCがその下を通過すると、赤外線の受信がトリガーとなって案内メッセージがディスプレイに表示されるというものである。もちろん、PCには各ビーコンIDと建物内の位置関係が入力されているため、これによって現在位置を特定し、建物内の地図や経路情報といっしょに案内メッセージが現れるというわけだ。したがって、ビーコンの設置場所は必ず構内通路の分岐点の手前に設置されることになる。ビーコン側のハードとプログラムは工藤さんが、受信部とナビゲータのプログラムは佐々木さんが担当した。
しかし、これをプロコン会場のブースで実際に設置するわけにはいかない。そこで、彼らは3Dで構内を再現してその有効性を表現するためのシミュレータをつくることにし、この部分を桜田大輔さんが構成した。自由部門には情報工学科の後輩で3年生の桂川裕幸さんと1年生の岩井教起さんも参加した。プロコン出場のためのサポート全般を担当させ、併せて経験を積ませるため、5年生が誘い入れたのである。函館高専を訪れたのは本選の10日前だったが、この時点でシステム自体は完成・稼働し、あとは3Dシミュレータを洗練させ、ユーザーインターフェースをよりわかりやすくする工程が残されていた。その後、桜田さんの奮闘によって本選では見事な仕上がりを見せていた。
國分先生によれば「工程やスケジュールの管理もすべて学生任せ。5年生は高専祭などの経験から慣れているし、下級生の指導にも長けているから、私は材料費などお金の手当てをしただけ」。一方、リーダーの佐々木さんは「学校の名前を背負って出場する以上、責任を持ってプロジェクトを完成させる義務がある」と、師弟間はまさにあうんの呼吸。
ナビゲータにノートPCを使うとか、実際にビーコンを設置できないという制約もあって、惜しくも敢闘賞にとどまったが、わかりやすいコンセプトと完成度は高く評価され、ブースを訪れた審査員からはさまざまな示唆や励ましの言葉が寄せられていた。
●「コンテスト部会」で学生を支援 長谷川 淳校長
函館高専は「汝が夢を持て 大志を抱け 力強かれ」を校訓に掲げ、道南地域唯一の総合的な技術系高等教育機関として、実践的かつ専門的な知識と技術を有する創造的な人材を輩出してきた。「開学以来、規則で縛るよりも学生の自覚を促す自由な校風を誇りとし、地域に対する貢献を積み重ねている」と、長谷川淳校長は同校の特色を説明する。
学生に占める女子の割合が高いのも同校の特徴で、本科全体に占める比率は20%。なかでも物質工学科では4割近く、情報工学科でも3割近くが女子学生だ。IPA(情報処理推進機構)が主催する未踏プロジェクトのユース部門では、2003?04年と連続して在校生の作品が採択され、とくに04年には女子2名の作品が、それぞれ採択されるという快挙を成し遂げた。そのうち1件は札幌の企業で実用化に向けた研究が進められており、もう1件も特許を申請中というから、情報工学科のポテンシャルは非常に高いものがある。
函館高専には、学内の意思決定機関である運営委員会の直属部会として「コンテスト部会」が設けられている。プロコン、ロボコン、デザコンの3部門については、この部会がリーダーの先生を決めて支援体制を整えるということになっているが、学校側はエントリーしたい学生のサポート機関と位置づけ、自主性尊重の原則を堅持している。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第28回 函館工業高等専門学校は、週刊BCN 2006年12月11日発行 vol.1166に掲載した記事を転載したものです。