<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第25回 鹿児島工業高等専門学校
鹿児島工業高等専門学校(鹿児島高専)は2006年の「全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト」に自由と競技の2部門で参加、自由部門で敢闘賞を受賞した。ロボコンに力を入れている同校にあって、今大会での健闘は今後への大きな励みになりそうだ。自由部門で5年生のアイデアをサポートした3人の1年生たちは「自分たちが4?5年生になる頃には優勝したい」と闘志を燃やす。
自主性に富む同好会で切磋琢磨
鹿児島工業高等専門学校(鹿児島高専)は2006年の「全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト」に自由と競技の2部門で参加、自由部門で敢闘賞を受賞した。ロボコンに力を入れている同校にあって、今大会での健闘は今後への大きな励みになりそうだ。自由部門で5年生のアイデアをサポートした3人の1年生たちは「自分たちが4?5年生になる頃には優勝したい」と闘志を燃やす。(日高俊明●取材/文)
●日頃の活動の成果をプロコンでアピール
さる10月8日、10高専20チームが参加して開かれた高専ロボコン2006九州沖縄地区大会で、決勝は鹿児島高専同士の戦いになった。それくらい同校はロボコンに強い。
これに比べるとプロコンは、課題・自由部門に早い段階から参加しているものの、これまでは地味な存在だった。同校には「電子情報システム研究会」という同好会が地道な活動をしている。
「せっかくの活動の成果をアピールする手段がない。そこでプロコンにその場を求め、積極的に取り組んだ」(指導教員の豊平隆之情報工学科助教授)。その努力が今回の敢闘賞につながった。
同好会のメンバーは20人強。特徴のひとつは自主運営で、使用するパソコンのほとんどは学生の自前である。活動は放課後。部室がないので空いているパソコン室を借り、夕方5時から6時30分くらいまで活動する。寮生が多く、寮に戻らなければならないので遅くまで活動するわけにもいかない。
そんな制約がありながらも週3日ほどの活動を続け、プロコンで健闘できるのは自主性があればこそ。プロコンのメリットについて豊平助教授はこう語る。
「日頃、まとまったシステムをつくることは少ないので、プロコンに向けてそうしたシステムに取り組むことは学生にとって勉強になる。また他校のシステムを知ることで視野も開ける」
もともと同好会は「楽しく、技術を向上させるのがコンセプト。使い方が限定される学校の授業に満足できない学生たちに、パソコンはもっといろんなことができることを教えたい」(情報工学科5年生で同好会会長の竹原秀一郎さん)という性格を持つが、プロコンによってその性格がより鮮明になっている。
●教え合うのが面白い 数年後には優勝するぞ!
敢闘賞を受賞した自由部門の作品「Can you follow me?─ついてこれるか?─」のアイデアは、情報工学科5年生の岡山直樹さんが友人と車2台に分乗してドライブをした際、後続車が前の車にうまく追走できなかった経験に基づいている。
「遅れずについていこうとするあまり、信号無視など危険運転になったりする。そこでGPSでデータを取り、その位置座標をサーバーにアップして同じGPS上に表示してやれば、お互いの車の位置がカーナビでつかめる」(岡山さん)というわけだ。
卒業研究にGoogleマップの応用を考えていたことが伏線にあることから、同マップでも使われ、Webアプリケーション開発手法として注目される「Ajax」をふんだんに使っている。
一方、競技部門。同好会の紅一点で参加した情報工学科4年生の廣田未央さんは「みんな、パソコンに向かって集中しているので視野が狭くなりがち。(視野を広げるべく雰囲気を)盛り上げる役を果たすのは自分しかいないと思っている」と、別の角度からの貢献に精を出す。
残念ながら競技部門は今回入賞を逃したが、参加したもう2人のメンバーの士気は高い。「同じパソコンなのに、アイデア次第で遊びにも仕事にも使えることを教えられ、とても面白い」(情報工学科4年生の隈元律智さん)、「小さい頃からゲームが好きで、つくる側になれればいいなと思っていた。同級生や先輩にプログラミングの分からないところを聞いたり、教えたりするのが楽しい」(同3年生の岡山幸樹さん)。
むろん、自由部門で5年生の岡山さんをサポートして敢闘賞を勝ち取った3人の1年生のボルテージは、低かろうはずがない。
「プロコンでの他校のプログラムは、とても勉強になった。これからはもっと知識を増やし、上級生になったらリーダーとして優勝できるように頑張りたい」(情報工学科1年生の迫田啓史さん)、「プログラムをもっと広く深く勉強したい。プログラムの構成もしっかりできるようになりたい」(同松元裕哉さん)、「夢は、いい意味でのハッカー。将来、自作のパソコン上で自作のOSを動かしてみたい」(電子制御工学科1年生の坂下雄祐さん)。
鹿児島高専が高専プロコンの強豪校になる日も、そう遠くはなさそうである。
●薩摩藩伝統の「郷中教育」にならう 前田 滋校長
幕末、植民地化を進める西欧列強に対処するべく、薩摩藩は製鉄、造船、紡績などの工場を開設して日本の近代化の先鞭をつけた。集成館事業と呼ばれたこの殖産興業の様子は現在、錦江湾を臨む尚古集成館に見ることができる。
こうした歴史を持つ土地柄だけに鹿児島高専の起業スピリッツは高く、「機械系と電気系の卒業生の8.2%は経営者になっている。鹿児島大学の機械・電子系出身の経営者が全体の2.4%なのに比べると、本校は3倍以上。他の高専と比較しても高いと思う」と前田滋校長は胸を張る。
鹿児島高専は本科の学生1000人のうち6割が寮住まい。寮には1年生から5年生までいるので、横のつながりだけではない、縦の社会を経験できるメリットがある。
その最たるものが薩摩藩伝統の「郷中(ごじゅう)教育」。子供同士で教えあう方法で、試験が近づくと寮では上級生が下級生に勉強を教える。「6年ほど前から採り入れているが、この縦の教育は非常に有効であり好評」という。
同校は今年の高専ロボコン九州沖縄地区大会で2年連続優勝し、全国大会に駒を進めるなどロボコンに強い。それに比べるとプロコンは力不足の感もあるが、「ロボコンに刺激されて、プロコンの活動も活発になってきた。郷中教育の精神を生かして、いずれは強豪校に育ってくれると思う」と、前田校長の期待は大きい。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第25回 鹿児島工業高等専門学校は、週刊BCN 2006年11月20日発行 vol.1163に掲載した記事を転載したものです。
自主性に富む同好会で切磋琢磨
今大会は自由部門で敢闘賞
鹿児島工業高等専門学校(鹿児島高専)は2006年の「全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト」に自由と競技の2部門で参加、自由部門で敢闘賞を受賞した。ロボコンに力を入れている同校にあって、今大会での健闘は今後への大きな励みになりそうだ。自由部門で5年生のアイデアをサポートした3人の1年生たちは「自分たちが4?5年生になる頃には優勝したい」と闘志を燃やす。(日高俊明●取材/文)
●日頃の活動の成果をプロコンでアピール
さる10月8日、10高専20チームが参加して開かれた高専ロボコン2006九州沖縄地区大会で、決勝は鹿児島高専同士の戦いになった。それくらい同校はロボコンに強い。
これに比べるとプロコンは、課題・自由部門に早い段階から参加しているものの、これまでは地味な存在だった。同校には「電子情報システム研究会」という同好会が地道な活動をしている。
「せっかくの活動の成果をアピールする手段がない。そこでプロコンにその場を求め、積極的に取り組んだ」(指導教員の豊平隆之情報工学科助教授)。その努力が今回の敢闘賞につながった。
同好会のメンバーは20人強。特徴のひとつは自主運営で、使用するパソコンのほとんどは学生の自前である。活動は放課後。部室がないので空いているパソコン室を借り、夕方5時から6時30分くらいまで活動する。寮生が多く、寮に戻らなければならないので遅くまで活動するわけにもいかない。
そんな制約がありながらも週3日ほどの活動を続け、プロコンで健闘できるのは自主性があればこそ。プロコンのメリットについて豊平助教授はこう語る。
「日頃、まとまったシステムをつくることは少ないので、プロコンに向けてそうしたシステムに取り組むことは学生にとって勉強になる。また他校のシステムを知ることで視野も開ける」
もともと同好会は「楽しく、技術を向上させるのがコンセプト。使い方が限定される学校の授業に満足できない学生たちに、パソコンはもっといろんなことができることを教えたい」(情報工学科5年生で同好会会長の竹原秀一郎さん)という性格を持つが、プロコンによってその性格がより鮮明になっている。
●教え合うのが面白い 数年後には優勝するぞ!
敢闘賞を受賞した自由部門の作品「Can you follow me?─ついてこれるか?─」のアイデアは、情報工学科5年生の岡山直樹さんが友人と車2台に分乗してドライブをした際、後続車が前の車にうまく追走できなかった経験に基づいている。
「遅れずについていこうとするあまり、信号無視など危険運転になったりする。そこでGPSでデータを取り、その位置座標をサーバーにアップして同じGPS上に表示してやれば、お互いの車の位置がカーナビでつかめる」(岡山さん)というわけだ。
卒業研究にGoogleマップの応用を考えていたことが伏線にあることから、同マップでも使われ、Webアプリケーション開発手法として注目される「Ajax」をふんだんに使っている。
一方、競技部門。同好会の紅一点で参加した情報工学科4年生の廣田未央さんは「みんな、パソコンに向かって集中しているので視野が狭くなりがち。(視野を広げるべく雰囲気を)盛り上げる役を果たすのは自分しかいないと思っている」と、別の角度からの貢献に精を出す。
残念ながら競技部門は今回入賞を逃したが、参加したもう2人のメンバーの士気は高い。「同じパソコンなのに、アイデア次第で遊びにも仕事にも使えることを教えられ、とても面白い」(情報工学科4年生の隈元律智さん)、「小さい頃からゲームが好きで、つくる側になれればいいなと思っていた。同級生や先輩にプログラミングの分からないところを聞いたり、教えたりするのが楽しい」(同3年生の岡山幸樹さん)。
むろん、自由部門で5年生の岡山さんをサポートして敢闘賞を勝ち取った3人の1年生のボルテージは、低かろうはずがない。
「プロコンでの他校のプログラムは、とても勉強になった。これからはもっと知識を増やし、上級生になったらリーダーとして優勝できるように頑張りたい」(情報工学科1年生の迫田啓史さん)、「プログラムをもっと広く深く勉強したい。プログラムの構成もしっかりできるようになりたい」(同松元裕哉さん)、「夢は、いい意味でのハッカー。将来、自作のパソコン上で自作のOSを動かしてみたい」(電子制御工学科1年生の坂下雄祐さん)。
鹿児島高専が高専プロコンの強豪校になる日も、そう遠くはなさそうである。
●薩摩藩伝統の「郷中教育」にならう 前田 滋校長
幕末、植民地化を進める西欧列強に対処するべく、薩摩藩は製鉄、造船、紡績などの工場を開設して日本の近代化の先鞭をつけた。集成館事業と呼ばれたこの殖産興業の様子は現在、錦江湾を臨む尚古集成館に見ることができる。
こうした歴史を持つ土地柄だけに鹿児島高専の起業スピリッツは高く、「機械系と電気系の卒業生の8.2%は経営者になっている。鹿児島大学の機械・電子系出身の経営者が全体の2.4%なのに比べると、本校は3倍以上。他の高専と比較しても高いと思う」と前田滋校長は胸を張る。
鹿児島高専は本科の学生1000人のうち6割が寮住まい。寮には1年生から5年生までいるので、横のつながりだけではない、縦の社会を経験できるメリットがある。
その最たるものが薩摩藩伝統の「郷中(ごじゅう)教育」。子供同士で教えあう方法で、試験が近づくと寮では上級生が下級生に勉強を教える。「6年ほど前から採り入れているが、この縦の教育は非常に有効であり好評」という。
同校は今年の高専ロボコン九州沖縄地区大会で2年連続優勝し、全国大会に駒を進めるなどロボコンに強い。それに比べるとプロコンは力不足の感もあるが、「ロボコンに刺激されて、プロコンの活動も活発になってきた。郷中教育の精神を生かして、いずれは強豪校に育ってくれると思う」と、前田校長の期待は大きい。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第25回 鹿児島工業高等専門学校は、週刊BCN 2006年11月20日発行 vol.1163に掲載した記事を転載したものです。