<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第22回 熱闘!第17回高専プロコン詳報
「こんなに楽しみながら競う大会だったとは…」と、開催校としてプロコン委員長を務めた茨城高専の角田校長が笑顔で語るように、今回の第17回大会は悪天候によるアクシデントにもかかわらず盛況で、ITジュニアの熱気で溢れかえった。無線ICタグを用いて優秀賞を獲得したチームが現れるなど、プロコンの世界にも先端技術の応用が着実に浸透しつつあることを示した。本連載では、最優秀校、優秀校、審査員特別賞を受賞したチームについては、順次紹介していく予定なので、今回は第17回大会の傾向と注目点を総括しつつ、将来展望を描いてみた
遊びとしての楽しさを表現
「こんなに楽しみながら競う大会だったとは…」と、開催校としてプロコン委員長を務めた茨城高専の角田校長が笑顔で語るように、今回の第17回大会は悪天候によるアクシデントにもかかわらず盛況で、ITジュニアの熱気で溢れかえった。無線ICタグを用いて優秀賞を獲得したチームが現れるなど、プロコンの世界にも先端技術の応用が着実に浸透しつつあることを示した。本連載では、最優秀校、優秀校、審査員特別賞を受賞したチームについては、順次紹介していく予定なので、今回は第17回大会の傾向と注目点を総括しつつ、将来展望を描いてみた。(佐々木潔●取材/文)
●類似作品が目立つなか、完成度が勝負を分けた
「子供心とコンピュータ」がテーマの課題部門では、PCを用いて表現する子供の「遊び」の選択に似通った傾向が見られ、長野高専と福井高専がしゃぼん玉を取り上げた。この両校は、ディスプレイ上にしゃぼん玉を発生させる入力装置にセンサーを使うところまで共通していた。長野が扱いの容易な圧力センサーを用いる一方で、タッチパネル上のしゃぼん玉を手で触って壊すと音が出るという、単純だが遊びとしての完成度の高いシステムに結びつけたのに対し、福井は加速度センサーという取り扱いの難しいデバイスにこだわったことでしゃぼん玉の入力が難しくなり、遊びとしての楽しさを損なう結果になってしまったのが惜しかった。
また遊びの選択では子供の描いた絵をPCに取り込んで絵本またはアニメにするシステムを仙台電波高専と沖縄高専の両校が出展し、徳山高専はこれを切り絵という形で展開した。
こうした類似性は自由部門でも見られ、八戸高専と福島高専がともにデータ共有システムに挑戦。八戸は学習ノートを共有しようと試み、かたや福島はクリップボードの共有という違いはあったが、学校現場においてもPCをナレッジDBとして用いる「使いこなし」の時代に入っていることを実感させられた。
●新デバイスへの挑戦がプロコンの性格を一新
また、今大会では入力装置にセンサーを使った作品が多く、前述の長野や福井のほかに米子高専が課題・自由の両部門で動き感知センサーを、さらに鈴鹿高専が3種類のセンサーをいっぺんに使うなど、センサー全盛時代を予感させた。一方で、こうしたデバイスの使いこなしが十分でなかったり、デバイスに振り回されて作品の意図が明確に伝わらないきらいを指摘する審査員も多かった。
デバイスの使いこなしでは、長野高専チームの恐竜探しが秀逸だった。長野は無線ICタグを使ったが、ICタグに備わっている受発信機能を発信と受信に切り離し、これをペアで使うことによって恐竜の骨を発見するという逆転の発想が鮮やかだった。
反対に鈴鹿の指揮体験プログラムや弓削商船高専の足踏みピアノ、さらに徳山の切り絵システムなどは、子供が喜びそうな楽しいシステムではあったが、楽しいというだけでは上位に進出できないという壁にはね返された。とくに徳山の作品はJavaで構成されているため、PCにつきもののアプリケーションのフレームがなく、とても新鮮で子供に受け入れられやすいと感じただけに惜しかった。
高専にとってプロコンは学生の自主的な活動であり、指導教員は原則として創作活動そのものには関与せず、学生たちの試行錯誤のプロセスを大切にしている。失敗も成長の糧だと考えているからだ。
しかし、取材過程では社会のニーズを感知する機会をもっと積極的に学生に与えてほしいと感じる場面が少なからずあった。社会のニーズを知る機会を与えるというサポートは、作品に手出しをすることとは違うのではないか。
校門を一歩踏み出した世界に身を置いて学生たちに考えさせることも、インターンシップと同様に高専の掲げる「実践的な技術者育成」の有力な手立てだと思うからだ。
●“Why”の疑問に答えられる提案を 審査委員長神沼靖子(前・前橋工科大学教授)
課題・自由両部門とも完成度の高いものが目立つ反面で、つくるのに精一杯で第三者の評価を得ないままに出品したと思われる作品が多く見受けられた。アイデア(企画)、設計、具体的なモノづくりの各段階で第三者の評価を得ながらつくったならば、もっといいものになったのにと惜しまれる。
また、自分たちが最初に考えたアイデアだと思っていても、世の中にはすでに先行した作品が存在することも多く、ウェブサイトで検索するなどして、自分たちの企画のどこが独創的なのかをきらんと調べたうえで、オリジナリティを磨き上げてほしいと思った。その意味で、少数ではあったが開発の方法論を作品に仕立て上げたものが見られたことは非常に良かった。プレゼンが年々上手になる一方で、ネーミングから想像したものと中身が一致しない作品もあった。なかには情報技術の専門用語を、自分たちで勝手に解釈して使っていた例もあり、ネーミングにもっと注意を払ってほしい。
最後に、プレゼンは聞いただけで作品やシステムの中身がわかるようにやっていただきたい。WhatとHow toについては説明できても、なぜこのようなものが必要で、このようにつくったのかというWhyの部分がわかりにくい。そのWhyの部分を文章化してみることで検証し、その上で煮詰めていくと素晴らしい作品に仕上げられるのではないかと感じた。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第22回 熱闘!第17回高専プロコン詳報は、週刊BCN 2006年10月30日発行 vol.1160に掲載した記事を転載したものです。
遊びとしての楽しさを表現
ひと工夫が光った上位校
「こんなに楽しみながら競う大会だったとは…」と、開催校としてプロコン委員長を務めた茨城高専の角田校長が笑顔で語るように、今回の第17回大会は悪天候によるアクシデントにもかかわらず盛況で、ITジュニアの熱気で溢れかえった。無線ICタグを用いて優秀賞を獲得したチームが現れるなど、プロコンの世界にも先端技術の応用が着実に浸透しつつあることを示した。本連載では、最優秀校、優秀校、審査員特別賞を受賞したチームについては、順次紹介していく予定なので、今回は第17回大会の傾向と注目点を総括しつつ、将来展望を描いてみた。(佐々木潔●取材/文)
●類似作品が目立つなか、完成度が勝負を分けた
「子供心とコンピュータ」がテーマの課題部門では、PCを用いて表現する子供の「遊び」の選択に似通った傾向が見られ、長野高専と福井高専がしゃぼん玉を取り上げた。この両校は、ディスプレイ上にしゃぼん玉を発生させる入力装置にセンサーを使うところまで共通していた。長野が扱いの容易な圧力センサーを用いる一方で、タッチパネル上のしゃぼん玉を手で触って壊すと音が出るという、単純だが遊びとしての完成度の高いシステムに結びつけたのに対し、福井は加速度センサーという取り扱いの難しいデバイスにこだわったことでしゃぼん玉の入力が難しくなり、遊びとしての楽しさを損なう結果になってしまったのが惜しかった。
また遊びの選択では子供の描いた絵をPCに取り込んで絵本またはアニメにするシステムを仙台電波高専と沖縄高専の両校が出展し、徳山高専はこれを切り絵という形で展開した。
こうした類似性は自由部門でも見られ、八戸高専と福島高専がともにデータ共有システムに挑戦。八戸は学習ノートを共有しようと試み、かたや福島はクリップボードの共有という違いはあったが、学校現場においてもPCをナレッジDBとして用いる「使いこなし」の時代に入っていることを実感させられた。
●新デバイスへの挑戦がプロコンの性格を一新
また、今大会では入力装置にセンサーを使った作品が多く、前述の長野や福井のほかに米子高専が課題・自由の両部門で動き感知センサーを、さらに鈴鹿高専が3種類のセンサーをいっぺんに使うなど、センサー全盛時代を予感させた。一方で、こうしたデバイスの使いこなしが十分でなかったり、デバイスに振り回されて作品の意図が明確に伝わらないきらいを指摘する審査員も多かった。
デバイスの使いこなしでは、長野高専チームの恐竜探しが秀逸だった。長野は無線ICタグを使ったが、ICタグに備わっている受発信機能を発信と受信に切り離し、これをペアで使うことによって恐竜の骨を発見するという逆転の発想が鮮やかだった。
反対に鈴鹿の指揮体験プログラムや弓削商船高専の足踏みピアノ、さらに徳山の切り絵システムなどは、子供が喜びそうな楽しいシステムではあったが、楽しいというだけでは上位に進出できないという壁にはね返された。とくに徳山の作品はJavaで構成されているため、PCにつきもののアプリケーションのフレームがなく、とても新鮮で子供に受け入れられやすいと感じただけに惜しかった。
高専にとってプロコンは学生の自主的な活動であり、指導教員は原則として創作活動そのものには関与せず、学生たちの試行錯誤のプロセスを大切にしている。失敗も成長の糧だと考えているからだ。
しかし、取材過程では社会のニーズを感知する機会をもっと積極的に学生に与えてほしいと感じる場面が少なからずあった。社会のニーズを知る機会を与えるというサポートは、作品に手出しをすることとは違うのではないか。
校門を一歩踏み出した世界に身を置いて学生たちに考えさせることも、インターンシップと同様に高専の掲げる「実践的な技術者育成」の有力な手立てだと思うからだ。
●“Why”の疑問に答えられる提案を 審査委員長神沼靖子(前・前橋工科大学教授)
課題・自由両部門とも完成度の高いものが目立つ反面で、つくるのに精一杯で第三者の評価を得ないままに出品したと思われる作品が多く見受けられた。アイデア(企画)、設計、具体的なモノづくりの各段階で第三者の評価を得ながらつくったならば、もっといいものになったのにと惜しまれる。
また、自分たちが最初に考えたアイデアだと思っていても、世の中にはすでに先行した作品が存在することも多く、ウェブサイトで検索するなどして、自分たちの企画のどこが独創的なのかをきらんと調べたうえで、オリジナリティを磨き上げてほしいと思った。その意味で、少数ではあったが開発の方法論を作品に仕立て上げたものが見られたことは非常に良かった。プレゼンが年々上手になる一方で、ネーミングから想像したものと中身が一致しない作品もあった。なかには情報技術の専門用語を、自分たちで勝手に解釈して使っていた例もあり、ネーミングにもっと注意を払ってほしい。
最後に、プレゼンは聞いただけで作品やシステムの中身がわかるようにやっていただきたい。WhatとHow toについては説明できても、なぜこのようなものが必要で、このようにつくったのかというWhyの部分がわかりにくい。そのWhyの部分を文章化してみることで検証し、その上で煮詰めていくと素晴らしい作品に仕上げられるのではないかと感じた。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第22回 熱闘!第17回高専プロコン詳報は、週刊BCN 2006年10月30日発行 vol.1160に掲載した記事を転載したものです。