<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第18回 福井工業高等専門学校

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2006/10/04 15:39

 福井工業高等専門学校(福井高専)は課題・競技の2部門に参加する。同校にはプログラミングを学ぶクラブや同好会がないため、電子情報工学科における創造工学演習を使い、科内のコンテストを経てプロコン出場チームを選んでいる。第13回大会からは、競技部門に加えて課題・自由の両部門もしくはそのどちらかに、必ず出場する実力を身につけてきた。遊び心に満ちた企画を実現させた今回の課題部門チームは、かなりの好成績が期待できる。

デバイス絡みのソフトを開発
面白さを前面に独自性を発揮する


 福井工業高等専門学校(福井高専)は課題・競技の2部門に参加する。同校にはプログラミングを学ぶクラブや同好会がないため、電子情報工学科における創造工学演習を使い、科内のコンテストを経てプロコン出場チームを選んでいる。第13回大会からは、競技部門に加えて課題・自由の両部門もしくはそのどちらかに、必ず出場する実力を身につけてきた。遊び心に満ちた企画を実現させた今回の課題部門チームは、かなりの好成績が期待できる。(佐々木潔●取材/文)

●創造工学演習の授業の科内予選でチームを選抜

 福井高専にはIT業界では著名な先輩がいる。1人はウィンドウズ用エディタの業界標準ともいえる「秀丸エディタ」開発者の斉藤秀夫氏、もう1人は携帯用ブラウザで今をときめくjig.jp(東京・新宿区)の福野泰介社長である。とくに、jig.jpの場合は、開発センターを地元鯖江市に置き、毎年のように福井高専の卒業生を採用している。そして、同校がプロコンで際立った成績を上げた第6回大会(競技部門2位)の中心メンバーが、福野氏だったのである。

 福井高専ではプロコン草創期から競技部門を中心に参加してきたが、第13回大会から課題・自由両部門で予選を突破できるようになり、それ以降は毎年2?4チームを出場させるなど、実力の向上はめざましい。過去にはクラブ活動として参加していたようだが、近年では電子情報工学科の4年生を対象に「創造工学演習」の授業を使い、科内のコンテストを経てプロコン出場チームを選ぶようになっている。



 もちろん、プロコンへの参加を目的とした演習ではなく、卒業研究に結びつくような課題を見つけ、それを形にする過程でプロコンやロボコン、地元のコンテスト(たとえば、福井ソフトウェアコンぺディション)への参加を実現させようというスタンスだ。課題・自由両部門で予選を通過できるようになったのは、こうした仕組みを採用するようになった成果だということだ。

 プロコンの指導教官は創造工学演習を担当する斉藤徹助教授。斉藤先生の狙いは、各種のコンテストだけでなく、高専祭や中学生向け体験授業(オープンキャンパス)など、いわば「納期」が定められているイベントを使い、目標を設定してプロジェクトにチャレンジする面白さや苦しさを学生に体験させ、達成感(あるいは未達成の悔しさ)を味わわせることにある。

 他校との取り組みの違いをあえてあげるならば、純粋なプログラミング勝負にこだわらず、学生の興味や関心が広がるように、ハードウェアを絡めたソフト開発に目を向け、そのうえで独自性を発揮できるように指導していること。その一例が1チップマイコンの使用で、3年次に実験を通して学んだ1チップマイコンを、プロコンにどう応用するかという点が独自のアプローチにつながっているようだ。


●センサーでシャボン玉 遊び心と学び心を追求

 今回の課題部門のテーマは「シャBON!」。入力装置に息を吹きかけることによってPCのディスプレイ上にシャボン玉を発生させるというものだ。発案者の奥田充さんによれば「子供の遊びとしてもっともポピュラーなシャボン玉を、PC上で再現させつつ、遊び心を満たすソフトにすることを狙ったもの」だ。

 福井高専独自のアプローチは、息を吹きかける入力装置に加速度センサーと小型ファンを用いたことで、息を吹きかけたときに小型ファンから発生する電圧によって、シャボン玉の大きさを決めることができるというものだ。メンバーによればシャボン玉を発生させるセンサーの選択が問題だったようで、圧力センサーや磁気センサーなどが候補にあがっては消え、最終的に加速度センサーに行き着いた。

 もうひとつ、この入力装置の値を処理し、PCに伝えるためのデバイスとして1チップマイコンのH8が使われており、この使いこなしが成否のカギを握ることになりそうだ。

 「シャBON!」では、ゲーム性を加味するためにシャボン玉を自由に飛ばすフリーモードのほかに、シューティングモードや学習モードを加え、遊び心と学び心の両立を図ろうとしている。

 ゲーム的な要素を含めたプログラミング全般を担当するのは坪田佳久さん、1チップマイコン制御を奥田さん、笹尾朋貴さん、山田章博さんが受け持ち、ゲーム用デバイスの処理を濱岸信治さんが、インターフェースを含めたデザイン絡みを土田喜幸さんが受け持つことになる。

 開発言語はC言語とC++がメイン。コンセプトと手法は明確なので、入力装置で得たデータを上手にPCに受け渡すこと、ゲームを始めとする3つのモードの完成度が高まれば、かなりの善戦が期待できそうだ。

●勝敗よりも独創の面白さを知ってほしい 駒井謙治郎校長

 福井高専が目指している技術者像は、「ものづくりに当たって、環境を意識したシステムをデザインする能力を身につけた実践的技術者」であり、そのバックボーンとして「地球的視点の技術者倫理」を掲げているところに特徴がある。

 この4月には、電気電子工学科の実習で製作したソーラーカーを地元の鯖江市に寄贈した。市は広報活動などに活用しているが、そうした活動も同校の実践教育のひとつの現れである。

 福井高専はまた、地域との連携や地域への貢献に熱心なことで知られている。昨年5月には地元の鯖江市や武生市(現・越前市)と包括的な地域連携協定を結ぶなど、広範な産学官連携・交流を展開しており、就職した本科卒業生の半数以上が県内で職を得るほどの成果をあげている。

 駒井謙治郎校長は、「地元企業への就職率の高さこそ、本校にとって最も重要な地域貢献であり、できれば県内への就職率を6割まで高めたい」と語る。

 同校はロボコンでは大賞2回の強豪校だが、プロコンではようやく常連出場校に仲間入りしたばかり。

 駒井校長は「結果としての勝敗よりも、人を驚かせたり喜ばせたりする面白さ、オリジナリティを追求してほしい。それが本校らしさというもの。結果はやっていくうちについてくる」と、学生たちや教職員を励ましている。

BCN ITジュニア賞
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BCNは、未来に向けて技術の夢を育む人たちを応援します。

今年1月27日に開催されたBCN AWARD 2006/
ITジュニア賞2006表彰式の模様


※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第18回 福井工業高等専門学校は、週刊BCN 2006年10月2日発行 vol.1156に掲載した記事を転載したものです。